企業分析アナトールの株式投資

企業分析の「正しい答え」を教えるブログではなく、「答えを探して藻掻く姿」を見せるブログ

【保存版】グレイステクノロジーの事件から学ぶべきこと by 企業分析アナトール

結論

粉飾自体を見抜くことは可能とは言い難いが、避ける事は可能ではないかと。

投資家が企業の価値を正しく判定し、それに見合った常識的な価格で買わなければ、ダブついたお金が自分や他人の人生を狂わせることもあります。粉飾を実際に行った経営陣を擁護する積りはありませんし、責任者の処罰は粛々と実施すべきと思いますが、一方で私たち投資家も価値と価格をしっかり見極めて投資するという意識を忘れない事が、自他共にこうしたトラブルを避ける事に繋がるのではないかと思います。

 

目次

 

前置き

当ブログかなり注目度の高かった記事で、「グレイステクノロジー」シリーズがあります。同社は粉飾決算を起因として2022年2月末に上場廃止が決定してます。

経緯は以下からご確認ください。

【グレイステクノロジー:バックナンバー】

もともとは読者様からグレイステクノロジー分析の依頼を受けたのですが、ちょうど同時期に同社から「不正会計の疑いあり、ただし詳細は調査中」という文書が発信されたため、その内容の推測含めて分析記事を書き、その後フォローしたシリーズです。今回の記事はその続編です。

グレイステクノロジーでは昨年から特別調査委員会が調査をしていましたが、1/27に以下のような報告書が提出されました。

この内容が論理的で物凄く分かりやすく、かつ詳細に書かれてます。

限られた期間で、そしておそらく限られたリソースでこれだけの内容をまとめあげた委員会の調査能力と努力に敬意を表します。

この資料は単なる不正の手口というだけでなく、不正に至った背景、企業の雰囲気についても詳述されており、企業分析をする投資家は勿論、取締役、執行役、監査役、経営企画、経理といった、企業全体の適切な事業運営を担う実務担当者にとっても、非常に身につまされる示唆に富む内容になってます。

経営や企業の在り方に関心のある方には一読をお勧めします。

今回は、報告書の内容と有価証券報告書の内容をすり合わせ、投資家はどうやってそのリスクを察知すべきかを考察していこうと思います。

1.パワハラ

当社においては、A 氏や営業担当役員によるパワーハラスメントを伴う強力な売上目標達成プレッシャーの下、2016 年 12 月の東証マザーズ上場以前から営業部による売上の前倒しや、これから転じた架空売上も行われていた。

・・・

A 氏は、「この世は算数でできている。」「寝ても覚めても数字を考えろ。ほかのことなんか一切考えるな。」「売ってナンボ。売れば全て OK。単純だろうよ。くだらないことぐちゃぐちゃ考えるなよ。」「自信もねえわな、いいものを納められる。そんなもんいるか、営業に。まず売って考えるんだろうよ。」(経営会議・取締役会での A 氏の発言)などというように、予算達成を極端に絶対視する経営姿勢をもち、罵倒、恫喝、人格否定を伴うパワーハラスメントで、その価値観を役職員に叩き込み、予算達成を厳命していた。A 氏に罵倒、恫喝、人格否定をされた役職員は反論することもできず、結果を出すこと以外の選択肢は与えられていなかった。当委員会のヒアリングに対し、経営会議・取締役会に出席していた役員からは、パワーハラスメントとまでは思っていなかったとか、会社である以上予算が達成できない場合に叱責されるのはやむを得ないと考えていた等の声も聞かれたが、経営会議・取締役会の録音記録に残された A 氏の罵倒、恫喝、人格否定は、明らかに社会的相当性を逸脱するものであった。

・・・

当社においては、経営会議・取締役会や営業会議の場で、営業担当役職員に対し、有無を言わずに予算を達成するよう、社会的相当性を逸脱する罵倒、恫喝、人格否定など、パワーハラスメントを伴う強力なプレッシャーがかけられていた。当社役員は、A 氏による常態化したパワーハラスメントによって感覚を麻痺させ、それが会社全体のパワーハラスメントをも常態化させていた。
実際、当委員会の役職員アンケート調査においては、会計不正が発生した原因について、パワーハラスメントを指摘する声は多かった。なお、当社の役職員は約 40 名であるが、2017 年 6 月から 2021 年 8 月までの約 4 年間で、63 名もの役職員が退職していた。そのことは、当社で常態化していたパワーハラスメントと無縁ではない。
このようなパワーハラスメントが、前述の過大な予算設定とも相まって、プレッシャーから免れようとする役職員による売上の前倒しや架空売上の要因となった。 

本件の第一因がA氏のパワハラにある事は、報告書を読んで疑う余地はないと思われます。近年コンプライアンスの観点からも注目度が高くなっているパワハラですが、歴史の古い企業には、理論よりもパワハラまがいの根性論でやってきたところもかなり多く、サラリーマンをやっている方なら、A氏の発言に似たセリフを吐く人間の一人や二人は思いつくのではないでしょうか。正直、私もこれまでの会社員人生で何人か思いつきますし、こういう人間を会社が放置するから他に負荷(しわ寄せ)が響き、不正が起こるのだろうな、と感じる事は多いです。

今回、問題が大きくなったのは、トップ自らがこのような行為を日常的に行っていた点と、それを問題だと感じない倫理観や、問題と認識してもA氏に対して意見ができない雰囲気が原因と思われますが、これは規模が小さいから影響が顕在化するのが早く、大きく出たというだけで、どんな組織でも起こり得ると思います。

これからの時代、企業は構造的にパワハラを淘汰する制度作りをもっと真剣に考えなければ、パワハラをする人間とそれを当たり前と思う人間が増えます。そうなれば後はグレイステクノロジーと同じ流れを辿ることになると思います。そういう人間の占める割合が増えた時、同社のようなトラブルが表面化することは想像に難くありません。

投資家はこのリスクを見抜けるか①

これを見抜くための注目ポイントは2つあると思います。

一つはガバナンスです。

経営者兼大株主の支配している割合がどれくらいか、そしてその役員報酬が従業員や他の役員に対してどれくらい多いか。株主として高い支配力を持ち、なおかつ役員報酬が他の役員より圧倒的に多い場合、その会社は一部の経営者によるワンマン経営である可能性が高く、パワハラの生まれやすい環境にあると言えます。

無論、ワンマン経営であるからその経営者がパワハラをするとは限りません。毅然とした倫理観に基づいた経営をするワンマン経営者もいるため、これを見ただけでは警戒する事はあっても断定する事はできません。

少なくとも今回のグレイステクノロジーの場合、そこでは見抜けないと思います。

実際に見てみましょう。

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A氏(松村氏)の保有比率は資産管理会社を含めて27.61%と多くはありますが、決して異常なレベルではありません。もっと影響力の強い経営者はいくらでもいます。

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役員報酬のところも、取締役のトータルが7千万円程度ですから、一人当たり平均1千万円強程度で、仮に松村氏に報酬が傾斜していたとしてもたかが知れてます。報酬の決め方も、同社は特に書かれていませんが、会社によっては露骨に「トップの一存で決めている」と明言している企業もあるくらいですから、少なくとも、ここからグレイステクノロジーパワハラ的雰囲気を察知する事は無理かと思われます。

もう一つの注目ポイントは従業員の勤続年数です。

報告書の中に「当社の役職員は約 40 名であるが、2017 年 6 月から 2021 年 8 月までの約 4 年間で、63 名もの役職員が退職していた。」とあります。

当たり前ですが、パワハラの横行する職場は人が辞めます。同社の規模でこれだけの入れ替わりがあれば、勤続年数にある程度影響する筈です。

直近の同社の勤続年数は6.2年です。

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グレイステクノロジーは2000年の設立ですから、20年ほど経っているのに従業員40名程度にも関わらず勤続年数が6年ほどというのは短めであると言えます。

厳密に言えば、ここの勤続年数は有価証券報告書提出会社の社員のみの話なので、例えばグループの上位に持株会社を設立した場合などは、新設された持株会社が提出会社となり、一旦社員の勤続年数がリセットされてしまいます。しかしグレイステクノロジーの場合はそうした大きな組織変更は起きていないため、勤続年数6年というのは若干短く感じられます。

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新しい人を採用して人数が増えている場合であれば、人が辞めずとも新人が増えるため短くなる事がありますが、同社の場合はこの5年ほど人員数が増えていません。

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とすれば、従業員数が変わっていないのに、この人数で従業員の勤続年数が6年というのは、ある程度辞めているのではないか、という推測は成立すると思われます。後は転職サイトとかでグレイステクノロジーの元社員などのコメントを調べれば、その危険性や社内の雰囲気について、多少なりとも知る事は可能だったのではないかと思われます。転職サイトの情報はどこまで本当かは分かりませんし、そのコメントをした人の素性も良く分からないため、鵜呑みにするのは危険ですが、勤続年数やその会社の規模などを合わせて考えれば、ある程度の雰囲気を掴むことは可能だったのではないかと思います。

 

 

 

2.成長企業としての虚栄

グレイステクノロジーを粉飾に追い詰めたのは、紛れもなくトップのパワハラを伴う苛烈な予算達成圧力によるものだったと推測されます。では一体何がトップをパワハラへと駆り立てたのか。この報告書はその理由を「成長企業としての虚栄」という言い方で説明しています。

A 氏は、なぜ、当社の状況を無視した過大な予算を設定し、パワーハラスメントや架空売上を行ってまで達成しようとしたのか。本来であれば、当調査委員会としての原因分析を行う上で、A 氏にその動機・目的を尋ねるべきであるが、A 氏が故人となっている今、それは叶わない。
予算を達成し、上場や市場変更を実現し、株価も上昇したことで、A 氏は巨額の株式売却益を得ている。しかし、A 氏はその資金を当社のテレビ CM や、架空売上の入金原資として躊躇なく使用しており、専ら個人的な経済的利得の獲得そのものだけが目的であったとは言い難い。
当委員会は、役職員らに対し、ヒアリングにおいて、A 氏の本件動機・目的は何であったと考えるか、と尋ねた。すると役職員からは、A 氏が「日本のマニュアルを変える」という強い信念をもっており、その信念を実現するためには当社が社会的に認知されることが重要であると考えており、そのため、当社の上場や東証一部への市場変更を重視していた、との意見が複数あった。確かに、A 氏がかかる信念をもって当社を創業し、上場や市場変更を目指し、その実現の為に予算達成に強くこだわっていた様子は窺える。 

しかし、本調査で明らかになった私財を投じての架空売上などは、それ自体、「日本のマニュアルを変える」という信念とは全く相容れないものである。また、A 氏は、上場後、(マニュアル制作事業との関連性の有無を問わずに)M&A の推進による業容拡大を志向するようになっていたことや、経営会議・取締役会において、以下のように、マニュアル事業へのこだわりがないことや、その品質を軽視するかのような発言を行っていた。これらの事実に照らすと、A 氏が、上場後においても、「日本のマニュアルを変える」という信念の実現を目的として、過度な予算設定や架空売上を行っていたといえるのか、大いに疑問がある。

 【2018 年 1 月 19 日】
○「8 月 22 日に一部に上がる。それを皮切りに、あっちゃこっちゃの会社を買収しまくる。異文化の人間達もどんどん増える。コントロールは絶対不可能、品質は落ちる、荒れる、全然大いに結構。そうやってどの会社も伸びてきてるじゃないですか。でもまあ、現場では品質重視だと、何やってんじゃ、っていうのは繰り返し言うけど
ね。そこで、ここにいるメンバーは悩む必要なんかどこにもない。そんなもんだって。腹括ろう。どうせ荒れるんだから。どんどんどんどん中途も採るわな。全くもってカラーが違うのも山ほど入る。言葉も合わん。いい。もう今以降は数字を明確に見据えてやっていくしかない。そこに拍車をかけるべく、(東証)一部に上がる。」
○「中身はどうであれ、売上が立って、利益が上がればいい。時と場合によっては、今はマニュアル、マニュアル、マニュアルの専門ですと言ってるけれども、そんなものに興味もない、こだわりもない。変えられるんだったらば一気に変える。変えなければならんのだったら、何のこだわりもなく変える。…だってもう嘘でも株主さんついてくれててさあ、うちの株買っててさあ、アホみたいにこだわっててさあ、死んでいく姿見てくださいなんて言えるわけもないし。(東証マザーズに)上がったときに俺決めたのよ。この先、翻訳だ、マニュアルだって、もし食えねえんだったらどうするのと。市場に対して約束したものを果たせるのかと。ものの見事に 180 度変えてもいいと思う。」 

・・・

一方で、前述のとおり、A 氏は、機関投資家との多数回にわたる面談を通じて把握した機関投資家の期待や目線に迎合して予算を設定し、経営会議・取締役会においても、度々機関投資家とのコミットメントを引き合いに出していた。以下はその一部である。

【2018 年 4 月 20 日】
○「前期もな、上期の段階で機関投資家達の顔色を見ながら、聞きたがる言葉?というのもあってさ、お前たちの言ってた数字もあってさ。確実に前期は 15 から 16(億円の売上)行きますと。」
【2018 年 7 月 20 日】
○「一向に e-manual も進まん。なんでだ(怒声)。はっきりしろよ(怒声)。もうマジ収拾つかねえんだよ。毎日のように機関投資家から言われるんだよ。何度も何度も言ったよな。何で e-manual も売らねえし、既存のマニュアルもとってこねえんだ。はっきり返答しろ」
○「もう本当にマジ 2 人であたふたしてんだよ。毎回詰められんだもんよ。四半期単位で本当にな、機関投資家に順繰り順繰り会ってんだよ。3か月おきに聞かれるんだ。マジもう収拾つかんぞ。動かないんだったら動かないなりの理由を我々はっきり把握しとかないといけないじゃん。」
【2019 年 3 月 18 日】
○「もう(伏字)が、来期、26 億の利益 9 億でレポート上がっちゃってますから。これが機関投資家の中では独り歩きしている。まぁ、これがクリアできなかったら、ちっとまずいかなぁとは思ってます。」
【2019 年 4 月 19 日】
○「ちなみに来期(2020 年 3 月期)19 億を売り上げて、7 億 5000(営業利益)、まあこれを出していこうかなあと。正直言って、明確な根拠はまだ乏しいです。が、これを打ち出さんことには機関投資家は納得しない。ミニマムの数字がこれ。まあこれを上回るべく、当然、営業努力をし、なおかつ、まあ、いいのか悪いのか、M&A もかけていく。」

【2020 年 2 月 14 日】
○「やっぱりもう 3 割割るとねぇ、機関投資家が許さん。ミニマム 3 割の売上と、ミニマム 3 割の利益。(N 氏:それはアップっていうことですか?30%アップ)。そう。ミニマム。でないと、一気に引かれてしまう。」
○「去年 1 年間が 250 件。もうすごいスピードで(機関投資家に)会ってる。特に今は北米の機関投資家時価総額 1000 億以下とは会いもしないと言われてたんだけど、こちらの様子見て。それらこれらはもう期待値が高いのよ。ここで期待を裏切る
と、もう一気に引かれる。今我々は株価と時価総額機関投資家、それを認識して、客を抑えていくことしか考えない。」

・・・

さらに、当委員会アンケートにおいても、役職員から、以下のような回答が寄せられている。 

【当委員会アンケート回答の抜粋(一部、表現の修正を行っている)】
○株主のためなら手段を問わない空気が上層部にある。「会社は株主のものです。株主に約束した数字は何があっても達成する必要があります」と言われたことがあり、株主に納得いく内容を発表するためには手段を問わない空気が上層部にはある。
○A 氏が、機関投資家とのコンセンサス(数字予測)実現のため、社員へ売上数字への強い威圧があった。

・・・

これらの点からすると、A 氏の経営目的には変遷があったものと考えられ、「当初」は、「日本のマニュアルを変える」という信念を実現するべく、自社の社会的認知度の向上を図るべく上場や市場変更を目指し、現にそれを実現してきたものの、「上場後」は、機関投資家から成長企業として評価され、A 氏自身も成長企業の経営者として評価されたことで、そのような評価を受けることそれ自体を目的化するに至ってしまっていたものと考えられる。A 氏は、「成長企業としての虚栄」を維持するために、機関投資家に当社の成長性を騙り、過大な目標にコミットし、部下に対して罵倒、恫喝、人格否定も厭わずにプレッシャーをかけ、それが営業部による売上の前倒しや、これが転じての架空売上を招くことになった。しかし、2018 年 3 月期には、A 氏が予算をさらに引き上げたことによって売上達成が到底困難な状態に陥り、「成長企業としての虚栄」を維持するため、x 事案や私財を投じての本格的な架空売上に手を染めるようになったものと考えられる 【57】。
そして、「2019 年 3 月期以降」は、架空売上によって業績を維持し、業績維持によって株価を維持して株式を売却し、株式売却益を入金原資として架空売上を行うという「自転車操業状態」に陥り、最終的にはその「自転車操業の破綻の阻止」そのものが目的化してしまっていたものと推認される【58】【59】 。
経営会議・取締役会における A 氏の以下のような発言からは、A 氏自身も、自らの機関投資家に対するコミットメントや、「成長企業としての虚栄」を維持し続けることについて、極めて強いプレッシャーを感じていたことも窺える。

【2019 年 3 月 18 日】
○「何か外面ばっかりこう作ってしまってきてるな。大企業なんですかね(笑)。中小企業としてやってた、つまり上場する前にやってたいい部分も、全然とんと見えないです。」
○「はぁ、打つ手ねえ。…だから言ってたとおり俺は株を売るわ」
【2019 年 5 月 20 日】
○「もう本当に冗談抜きで寝ても覚めても俺上場してからさあ、数字のことばっかり。もう上がるまでこんなに数字ごりごりごりごり考えたり、追いかけたりってなかったわ。めちゃくちゃしんどい。」 

・・・

【57】 私財をもって架空売上の入金原資としていたという点は、A 氏にとって、「自分の身銭を切っている」という意味で、架空売上の「正当化要因」となっていた可能性もある。この点は、数十億円もの私財を投じてテレビ CM を実施するという A 氏の行動に相通じるところがある。
【58】 前述のとおり、A 氏は専ら個人的な経済的利得の獲得そのものだけが目的であったと断じることは難しいものの、現に巨額の株式売却益を得ている事実がある以上、個人的な経済的利得の獲得が全くの目的外であったとは認められない。
【59】A 氏の動機に関して、役員は、当委員会のヒアリングに対し、次のとおり述べている。「Aの虚栄心が一番大きかったと思う。マニュアル市場を何とかしたいという気持ち、売上をこうすると投資家に伝えていること、大学と提携するとか、アメリカで事業を立ち上げるとか、これら風呂敷を広げすぎたものを『何とか実現しろ』という意識が大きくなってきてしまった。」(B 氏)、「自分が思っている数字なり、会社の立ち位置なりをすべて自分の思うように持っていくためだったと思う。」(C 氏)、「A は、機関投資家がレポートを新規に書いてくれた、ということが嬉しかったと思う。…時価総額が 100 億~200 億くらいのときに(伏字)がレポートを書いて、そのときは、A は特に喜んでいた。世界の(伏字)がレポートを書いてくれたと。」(E 氏)。

トップは機関投資家や世間から受ける、成長企業としての虚栄を維持したいがために、元の志すら放棄してでも業績をあげようと部下に対して叱咤し、それがパワハラとなっていったお話。

過去の記事の時に、概ね粉飾の全体像が見えても、なんでここまでして見栄を張りたかったのか、とどうにもA氏の考えが理解できなかったのですが、この発言の数々を読むと見えてきた気がします。

A氏にとって機関投資家や世間が、自身の上役のように感じられており、その期待を裏切ることが耐え難かったのではないかと。この心理はおそらく誰しも経験があるものではないかと思いますが、誰かから一度でも賞賛されると、次からその人のその期待を裏切ったり、叱られたりすることが恐ろしくなるものです。

まして株式上場という華やかなステージに立った状態での経営者が背負う期待は私たちが普段感じている期待とは比較にならない筈。そう考えていけばパワハラしたり私財を投じてでも虚栄を維持したくなる気持ちも理解はできます。

ここから私が問題視すべきと思うポイントは、上場企業の経営者のスタンスがどうあるべきか、という点です。「会社は株主のものです。株主に約束した数字は何があっても達成する必要があります」という発言からも伺えるように、A氏は投資家や株主を企業より上位に置き、その意向を如何なる手段を持っても達成せねばならないという考えを持っていたと推測されます。

これは賛否両論あるでしょうが、当ブログとしてはこの投資家や株主を企業より上位に置く姿勢は明らかに歪んでいると考えます。当ブログでは企業にとっての三大ステークホルダーを顧客、社員、株主と定義してます。上場企業経営者は理念に基づいたビジネスを効率的に執行することで、この三者への適切な資源配分を実施する責務があると考えます。その中で顧客、社員、株主は企業にとってのパートナーであり、特定のどれが上位にあるというものではありません。どれが欠けてもビジネスは成立しません。

「企業は株主のもの」という言葉については、株式は企業の所有権を分割したものなわけですから、言葉自体は間違ってません。また、上場企業の経営者が株主の代理人として企業運営を行いその報酬を受け取っている以上、株主に対して十分な対価を提供するのは当然の責務です。

ただ、事業理念に基づき、経営者が最善を尽くした結果が株価の下落であったり、減収減益であったのなら、その結果に紐づく損失は経営者ではなく株主が甘んじて受けるべきであり、そうしたリスクを引き受けるためにこそ株主は存在します。勿論、望んだ業績より低い業績であれば感情的になる株主も出てくるでしょうが、それは投資において十分なリスクを見込めなかった株主の自己責任です。

今回の事件のように経営者が社会倫理的に問題ある行動をし、株主の与り知らぬ所で企業価値を棄損していた場合は別として、株主が損失を被ったというだけで経営者が責められる謂れはありません。経営者に代理人として十分な資質があるか、自身の投資額はその価値に見合うかといった見極めを含めて、株主が担うべき責任です。

上場企業の経営者は自身が担うべき責任と、株主が担うべき責任をきちんと分離して考え、過度に株主に迎合してはならないと思います。株主に迎合し、理不尽な要求に無理に答えようとすれば、他のステークホルダーに対して負担を生ずることになります。

今回であれば顧客と社員の両方に影響が出て、顧客は粉飾に加担させられ、社員は酷いパワハラを受ける羽目になったわけです。

投資家はこのリスクを見抜けるか②

上場企業の経営者がどういう考えを元に経営しているのかを知るのであれば、基本的には経営方針や財務指標の特徴を掴むのが肝要かと。

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ただ、グレイステクノロジーの場合、この点はそれほど違和感はありません。

経営課題の4つ目にに株主との対話がありますが、4つある経営課題のうちの一つに過ぎず、これについては何かと後回しにされがちな株主に対してきちんと意識していることの証明ですから、むしろポジティブな印象です。

ここの記述からグレイステクノロジーが報告書の内容ほどに株主重視な体質を持っている事を推察するのは至難かと。

なお、株主重視に偏重している企業で見られる特徴は以下2つが考えられます。

  • 時価総額を経営指標にする
  • 「必要以上に」IRに力を入れる

時価総額を経営指標に据える経営者は明らかに株式市場の目を意識しています。

しかし、本来市場とは単なる業績だけでは動きません。需給や市場環境によって大きく変動する不確実性の高いものです。そんな自身ではどうしようもないものを経営指標に置いてしまうと、気まぐれな市場のご機嫌伺いのために経営者は無駄なパフォーマンスが増え、本質的な経営に集中できません。

当ブログでの経営戦略のモデル企業、キーエンス創業者の滝崎氏は、かつて時価総額日本一となった時、こう答えています。

キーエンス創業者滝崎氏へのインタビュー(1991年に株価日本一を達成して)

「株価はしょせん人気指標。知名度があがるのはありがたいですが、浮かれる事はありません。株価なんかよりこっちの方が自慢なんですよ。これ(営業利益率)なんか社員一人一人が付加価値の高い仕事をした証でしょ。こっちの方が私はうれしいですね。(中略)何年かしたら30歳で1000万円は越せる給料を出せると思います。そしてはありません。ゆくゆくは給料でも日本一にしたいと思ってるんですよ」

至言です。こういう発想の創業者だからこそ、キーエンスはあの怪物ぶりを発揮しているのではないかと。

キーエンスよりも時価総額が上の会社はSBGとかトヨタとかファーストリテイリング、或いはGAMAMとか沢山ありますけど、私は正直キーエンスのが怖いです。他の会社はどっかのタイミングで、一気に衰退する可能性はあるんじゃないかと思ってますが、キーエンスだけは衰退する未来が想像できない。隙が無さ過ぎて絶対に敵に回したくない。私にとってそういう会社です。

脱線しましたが、言いたい事は時価総額は企業が追い求めるのは経営の姿勢として合理性を欠いていますし、株主に対して過度に配慮した指標ではないかと思います。

 

「必要以上に」IRに力を入れている企業もまた、本質を外していると思います。

株主や投資家が真に求めているのは十分な企業の成長であり、自分へのレスポンスの早さや人気集めではありません。IR活動によって企業が得るメリットは、経営者やIR担当の工数やストレスといったデメリットに見合う事はまずないと思います。社外の立場から企業に対し有益なアドバイスができる投資家の存在は否定しませんが、そもそもそれは社外取締役の役割で株主の仕事ではありません。何より、横暴な意見や的外れな指摘はそれより遥かに多い筈ですから、それらをより分けた上で、ペイするほど会社にとって有益な指摘が、情報の乏しい外部の素人からもたらされるなどまず考えられません。

また、一部の投資家に対して手厚い対応をしている企業は一見印象こそ良く、株主へのウケもいいです。しかし、手厚く対応した経営者やIR担当の工数分の給与は、対応を受けていない株主の財布からも出ていくわけですから、株主への公平性を欠いた不誠実な行為であるという見方もできると思います。

合理的な考えの経営者であれば、IRに充てるリソースがあるならもっと生産性の高い仕事に振り分けるか、かかるコストをカットして株主に還元する方が妥当です。

 

これらの特徴を持つ企業は、株主偏重傾向が合理的な範囲を超えているため、今回のグレイステクノロジーのような事例が起こるリスクが高いと考えられます。

有価証券報告書を見る限りでは、グレイステクノロジーにはそうした特徴は見られませんが、それは同社がそこに記載していなかったというだけで、実態はこれです。

○株主のためなら手段を問わない空気が上層部にある。「会社は株主のものです。株主に約束した数字は何があっても達成する必要があります」と言われたことがあり、株主に納得いく内容を発表するためには手段を問わない空気が上層部にはある。

有価証券報告書内にその傾向が見れなかったとしても、経営者の株主偏重の傾向が顕著な場合、投資家はそれが本当に合理的な域にとどまっているのか、バランス感覚のある適切な域に留まっているのかを注視する必要があると思います。

 

 

 

3.財務数値

続報のタイミングで記載した通り、グレイステクノロジーの粉飾は断定こそできなくとも、2020年以前の売掛金滞留日数から兆候を読み取れるものでした。

何度も負け惜しみのようですが、もし私が初回に分析したのが2021年の財務諸表ではなく、2020年の財務諸表を分析していれば、売掛金滞留日数を手計算している私は、初回分析時に異常に気づいた筈です(震え声)

投資家はこのリスクを見抜けるか③

ならば、架空売上の懸念は売掛金滞留日数を見ればこの手の粉飾は見抜けるのか。

残念ながらそれも絶対ではないと思います。

今回の手法で最も厄介なのが単なる架空売上だけではなく、偽装入金も行われているという点です。架空売上だけであれば、売掛金滞留日数を眺めていれば異常に気付きますが、入金が行われてしまうともはやB/Sに売掛金残高すら残らないので気づけません。私が偽装入金後の2021年の財務諸表を見て異常を感じなかったように、です。

もし私が今回の粉飾手口の実行犯なら、四半期に至る前に偽装入金を済ませ、期末に売掛金残高を残しません。そうすれば基本的に投資家は勿論、監査法人の目にもほぼ止まりませんから、より完璧な形で粉飾が成立したのではないかと。

今回の事件は、粉飾の手口が杜撰だったために外部から気取られたわけです。もし架空売上からの偽装入金の流れを四半期決算を跨がず実施すれば、外部は勿論内部を知る人間でも異変に気づくのは至難ではないかと。

グレイステクノロジーは粉飾の仕方が甘かったために、私たちは粉飾を怪しむ事ができた。それはつまり本気で架空売上と偽装入金という禁じ手を用いて粉飾に取り組むサイコパスがいたなら、その兆候に外部から気づくのはまず無理、という事になります。その可能性を排除するのは不可能です。

実際、報告書の中では、会計監査人が調査を実施しているにも関わらず、経営陣の偽装によってどうにかこうにか乗り切る様子が描かれてます。

5 会計監査人に対して行った偽装工作
(1) はじめに
これまで述べてきたように、当社においては、多くの架空売上の計上がなされてきた。
未受注架空型では、売上を計上してから入金がなされるまで半年から 1 年といった長期間を要したものも含まれている。そのため、会計監査人から当社に対しては、幾度となく状況の説明や資料の提出が求められ、残高確認状による顧客への確認も行われた。
会計監査人から説明を求められた際、当社においては、経理部門が対応することになり、経理部長であった J 氏から L 氏に対して確認がなされた。説明に窮した L 氏は追い詰められ、経理部門に対して、これまで述べてきたような虚偽の説明を行っていた。
それだけでなく、L 氏は、会計監査人に対する虚偽説明や偽装工作を行った。また、会計監査人に対する虚偽説明、偽装工作は、L 氏だけではなく、A 氏、B 氏及び C 氏によっても行われた。
以下、当社が会計監査人に対して行った虚偽説明や偽装工作について説明する。

(2) 取引内容についての虚偽説明
上記のとおり、未入金の状態が続いている売上については、会計監査人から当社経理部門に状況の説明が求められることがあり経理部長であった J 氏から L 氏に対して
確認がなされることがあった。
これに対し、L 氏は、取引開始の内容や経緯、現状についての虚偽説明、後述するリース会社との立替払契約を用いた虚偽説明、顧客の担当者のメールアドレスを偽造しての虚偽説明等を行っていた。
また、当委員会が行ったデジタル・フォレンジック調査において、B 氏と L 氏、B 氏と C 氏の間で会計監査人に対して行う虚偽説明の内容をすり合わせているメールが複数発見されている。2020 年 4 月 27 日には、B 氏から L 氏及び C 氏に対し、件名を未案件リストとする電子メールが送られている。同電子メールの本文には、「未入金、未契約(立替)、未回収(確認状)は監査法人からも毎日確認されますので、少しでも早く解決できるように。リストを共有しておきます。」と記載されており、未入金となっている売掛金の一覧表(i 社、k 社、g 社、e 社等が列記されている)が添付されている。

(3) 入金についての虚偽説明(インターネットバンキングの入出金明細、立替払契約・債権流動化を用いた虚偽説明)
B 氏は、架空売上の偽装入金を当社の近隣にある銀行の支店からではなく、顧客の本店のある都市や地方まで赴き、当該地域の銀行の支店から行っていた。そのため、当社の経理部門が保有する入出金記録(インターネットバンキング)には、当該地域の銀行の支店から送金がなされた事実が記録され、それが会計監査人に対して示されていた。
B 氏は、そのことを認識しており、あえて顧客の本店のある地域の銀行の支店から送金手続を行っていたのであり、これも会計監査人に対する偽装工作の1つといえる。
また、L 氏は、リース会社との立替払契約を用いた虚偽説明も行っていた。L 氏が行っていた説明は、顧客から受注を受け、納品も完了しているが(売上を計上したことに問題はないが)、立替払契約の締結に時間を要しているために入金(リース会社から当社に対する立替金の入金)が遅れているというものである。2020 年 2 月には、B 氏からの「今、監査法人と交渉しています。監査報告書を出してもらえない状況です。未入金の状況等の進展もお願いします。」との電子メールに対し、L 氏が「進捗ありませんが、例の形で引き延ばせないでしょうか。」と返信をしている。B 氏によれば、「例の形」とは、立替払契約を用いた先延ばしの説明とのことであり、遅くともこの時点では、B氏においても、L 氏が立替払契約を用いて虚偽の説明をしていることを認識・認容して いたといえる。
2020 年 7 月には、A 氏から B 氏及び L 氏に対し、n 社、o 社、i 社、k 社(いずれも架空売上)について、債権流動化の契約(据置期間 3 年)の締結を打診しているとの虚偽の説明【39】を会計監査人に行うために、翌日までに各社との取引にかかる見積書、受注内容確認書、物品受領書(顧客の署名押印のあるもの)を用意するようにとの指示が出されている。架空売上であるこれらの会社から翌日までに真正な受注内容確認書や物品受領書を取り付けることは不可能であるから、この指示に従うには受注内容確認書等を偽造するほかない。これも入金について虚偽の説明をするための偽装工作といえる。

(4) 残高確認状の回答偽装
当社は、架空売上を計上していたため、会計監査人から残高確認状により顧客への確認が求められた際は、不正を行って発覚を回避するほかなかった。
2020 年5月には、会計監査人から当社に対し、監査報告の日までに j 社、e 社、f 社の残高確認が未回収の場合、又はリース会社との立替払契約が未締結の場合は、関連する売上を取り消す、又は貸倒引当金を計上しないと監査意見を出すことが困難との警告がなされた。これを受けた当社経理部門は、B 氏らに対し、「万一、これらの書類が揃わない場合、明日発表の決算数値を大幅下方修正することになりかねない。」との懸念を伝えている。
B 氏は、4 月の時点で、L 氏に対して顧客から残高確認状が提出されるべく動くように指示し、進捗を確認している。L 氏から B 氏に対しては、顧客の担当者から残高確認状を引き取る(顧客の担当者から残高確認状を回収して L 氏において相違なしとの回答を記入した上で、偽造した社印を押印して郵送する)、顧客の担当者に虚偽の説明をして相違なしとの回答での提出をお願いするといった対応が報告されており【40】、実際に L 氏において、かかる不正が行われた。そして、L 氏において、このような不正を行っていることは、B 氏においても認識・認容していたといえる。
2019 年 4 月には、顧客の担当者の個人印で押印された残高確認状が顧客から会計監査人に直接提出されたところ、会計監査人から当社に対して、顧客の押印を担当者の個人印ではなく、社印とするため、会計監査人から顧客に対する残高確認状の再発送を承諾するよう求められたこともあった。この要請については、A 氏から B 氏に、次の内容の電子メールが送信されており、B 氏から会計監査人に対しては、実際には c 社に対して連絡することもないまま、この指示に沿った虚偽の回答がなされている。

 (5) 受注内容確認書、受領書の偽造
前述したように、L 氏は、印鑑や電子印を偽造したり、過去に顧客から取得した受注内容確認書等の署名押印を切り取り、貼り付ける方法によって、受注内容確認書等を偽造していた。また、顧客に対し、「正式な契約ではない」等の虚偽の事実を述べて、顧客にサインさせて受注内容確認書等を詐取していた。そして、会計監査人から資料を求められた際は、これらの資料を提出して発覚を免れていた。
B 氏は、L 氏による書類の偽造を認識・認容していただけではなく、L 氏が退職した後に行われた完全架空型の架空売上においては、B 氏(及び C 氏)において、自ら受注内容確認書、受領書等の必要書類を偽造した。顧客の署名押印については、別案件で取得した真正な顧客の署名押印の写しを貼り付け、PDF ファイルにするとの方法で偽造し、社内手続を進めた。B 氏及び C 氏は、会計監査人から求められた場合にはこれらの資料を用いて発覚を免れようとしたであろうと考えられる。 
(6) 納品物の偽装
会計監査人からは、納品物の確認を求められることもあったが、B 氏は、納品物を偽造する(すり替える)ことでこれに対応した。
当委員会が行ったデジタル・フォレンジック調査では、B 氏から営業担当職員に対し、「監査法人から納品物を見たいと言われた」との電子メールが送信された事実が確認されている。同電子メールでは、営業担当職員から B 氏に対し、「ほとんど英語のままで、一部分だけを機械翻訳しただけなので、見せられるレベルではないですが、確認してください。」との返信がなされており、最終的に B 氏から営業担当職員に対し、「監査法人の納品物確認は無事に乗り切りました。」との電子メールが返送されている。
B 氏によれば、納品物は英語のマニュアルであったところ、日本語のマニュアルを機械翻訳したものを納品物であるとして会計監査人に示して虚偽の説明を行い、発覚を免れたとのことである。
その他、大口の売上案件については、会計監査人から納品物の確認を求められることがあったが、B 氏や C 氏は、ダミーのデータを準備し、これを示すことで発覚を免れていた。

(7) 顧客担当者のメールアドレスの偽造及びなりすまし
L 氏は、h 社、e 社、f 社、g 社等で顧客名義のメールアドレスを偽造している。そして、偽造したメールアドレスを用いて、顧客の担当者を装い、自らの当社のメールアドレス宛(L 氏宛)に当社との取引が進んでいるかのようなメールや顧客側の事情で手続が遅れているというような虚偽の内容のメールを送っていた。そして、L 氏は、そのメールを当社の経理部門、(架空売上発覚前は)B 氏や C 氏に転送して、架空売上の発覚を防いでいた。それだけではなく、L 氏は、当該メールを会計監査人に転送し、会計監査人をも欺いていた。L 氏による顧客担当者のなりすましは、これだけではなく、実際に顧客から送信されたメールの本文を加工して転送するといった偽装工作も行われていた。L 氏が単独で行った架空売上が B 氏に発覚してからは、B 氏においてもこの行為を容認していた。当委員会が行ったデジタル・フォレンジック調査においては、B 氏と L氏との間で会計監査人に送信する偽装メールの内容を相談している電子メールも検出されている。
L 氏が退職した後に行われた完全架空型の架空売上においては、会計監査人から求められた場合に提出できるようにするため、B 氏及び C 氏において、当社のクラウドステムであるインテリジェントフォルダに顧客名義でログインし【41】、顧客と B 氏及び C 氏との間で取引に関するやりとりがなされているかのような電子メールを偽造した(顧客名義でログインすると、顧客から送信したかのようなメールを作成することができる)。このように、B 氏及び C 氏は、L 氏による顧客担当者のなりすましを容認するにとどまらず、自ら顧客名義の電子メールを作成する等、会計監査人による確認に対応するための証拠を捏造していた。 

監査法人の方々、ご愁傷様です・・・ここまでガチで偽装、隠蔽されたらいくらプロでも見抜くのは私は無理だと思います。むしろここまでグレイステクノロジーが偽装をしなければならなかったのは、監査法人が一定のけん制機能を果たしていた証だと思います。監査法人からすれば企業は一応監査報酬を払ってくれるお客様ですからね。。そのお客様にここまでのけん制を利かせたなら、監査法人としてはある程度仕事をしたのではないかと私は思います。

どっちかというと常勤監査役のF氏は仕事してください、と思いました。。

(6) F 氏
F 氏が、当社における未受注架空型、完全架空型の架空売上に関し、架空売上が計上されていることや偽装入金がなされていることについて認識していたと思われる客観的なメール等は検出されておらず、また、F 氏が架空売上や偽装入金について当時認識していたとする供述も得られていない。
もっとも、F 氏は、常勤監査役として、会計監査人と代表取締役との経営者ディスカッションに陪席しており、その際、会計監査人側から、未入金となっている案件(実態は架空売上であるため未入金になっているものも含まれる)についての指摘や売上計上前に条件等をチェックする統制を強化すべきなどの改善提案を受けてはいるものの、会計監査人から指摘された未入金となっている当該売上が実態は架空であり、それが A氏の指示のもと、その後、B 氏らにおいて偽装入金されて未入金が解消されたものであるとの認識まではなかった。

・・・

(3) 内部監査の機能不全
当社においては、2017 年 3 月に内部監査室が設置されるまでは、管理部が所管していたが、実務は常勤監査役の F 氏が行い、内部監査の対象とする案件を抽出するに際しては、問題のない案件の抽出を C 氏に依頼するなどしていた。
2017 年 3 月に内部監査室が設置されてから 2021 年 10 月までの間、内部監査室長は従前からの営業業務を継続しており(むしろ営業活動のウエイトの方が多かった)、自身も予算達成のプレッシャーを受けていた。そのため、内部監査手続は形式的なものに留まり、同内部監査室長は営業部による売上の前倒しを認識していたが、内部監査や報告の対象とはしなかった。
当社の内部監査は機能しておらず、そのため、営業部による売上の前倒しに対する牽制機能を発揮することはなかった。

F氏の気持ちは分からないではないです。余計な指摘してトラブルになったり、社内で煙たがれるの嫌ですよね。問題ない案件、知りたいですよね。私も内部監査対応とかには苦い記憶しか無いので、お飾りのような監査役だったらどんなに楽かと思います。。

でも監査役ってそれだと存在意義がないんですよね。。

監査役の方はせめて監査する案件をランダムに自分で選ぶくらいはしてください。。

 

いずれにしてもここから言える事は、今回の事件は粉飾に気付くヒントが出ていましたが、やり方次第ではヒントすら出てこない可能性もある、というところです。

 

 

 

まとめ

というわけでグレイステクノロジーの事件調査報告書を元に、私なりに今回の粉飾について気づけそうなポイントを整理してみました。しかし、結論としては残念ながら、今回のような粉飾を絶対見抜けるとは限らない、というのが正直な所です。

しかし、じゃあ個別株をやる人はこうしたトラブルは避けられないのか、というとそういうわけでもないと思います。少なくとも今回のような件は多分、何度起きたとしても私が被害を被る事はないと思ってます。

理由は同社の時価総額です。

【グレイステクノロジー】[6541]チャート | 日経電子版

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同社の発行済株式数は28,398,600 株、2020年末の株価は4,000円超。

時価総額は28,398,600株×4,000円超=1,135.9億円超です。

グレイステクノロジーの売上は26億円、純利益は10億円、従業員は40名程度、事業の内容もマンパワーという制約があるタイプで、拡大のスピードが早い事業ではありません。どこかで頭打ちになるであろうことは想像に難くないです。常識から考えて、そんな企業に売上の40倍の値を付けるのは常軌を逸しています。

今回のグレイステクノロジーの事件は、元をただせばマーケットが同社株におかしな値付けをした事で企業に、過度な成長のプレッシャーを与え、創業者に偽装入金ができる原資を提供してしまっていることが事態をややこしてくしてます。つまり、マーケットが今回の粉飾を間接的に支援している構図とも言えます。

私は結局のところ、全ての問題はそこに集約していると思います。

投資家が企業の価値を正しく判定し、それに見合った常識的な価格で買わなければ、ダブついたお金が自分や他人の人生を狂わせることもあります。粉飾を実際に行った経営陣を擁護する積りはありませんし、処罰は粛々と実施すべきと思いますが、一方で私たち投資家も価値と価格をしっかり見極めて投資するという意識を忘れない事が、自他共にこうしたトラブルを避ける事に繋がるのではないかと思います。

 

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