結論
キャッシュフローの観点から安全性の高いビジネスといえる。ただ、広告媒体の先行き懸念や、PLしか見ないマネジメントの雰囲気が気になる。社員の勤続年数の短さ、平均年齢に対しての給与水準の低さ、役員との給与格差など、将来的な価値を生み出していく筈の部分にお金を回し切れていないように思われる。
目次
前置き
表示灯は調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずは表示灯の事業です。
表示灯の事業は以下の三つです。
- ナビタ事業
- アド・プロモーション事業
- サイン事業
ナビタというのは駅とかにあるこれの事みたいです。
https://www.hyojito.co.jp/business/navita/station/
「見た事はあるけど名前を知らないもの」の一つですね。ナビタです。
地元のお店:ここに広告を入れる事で集客する
駅(ロケーションオーナー):周辺地図を置いておくだけで広告収入が入る
仲介者(表示灯):管理運営のために費用を徴収する
という具合の三方良しのビジネスモデルかと。
アド・プロモーション事業は広告代理店業で、顧客に対して広告目的に沿った最適な企画立案・プレゼンテーション・予算管理までを含めたトータルプランニングを提案するとのこと。
最近は広告といえばインターネットが主流という気がしますが、同社の場合はナビタで分かるようなリアルの工事を伴うような媒体がメインの印象を受けます。
サイン事業は様々な形のサインを施工する事業のようです。
https://www.hyojito.co.jp/business/sign/standard/
広告というより完璧にデザインや施工メインの事業のようです。
つまり表示灯の事業はナビタの広告媒体運用事業を中核として、広告のみの営業活動も行い、サインの施工単独も行う形ですかね。
事業領域が分かりやすく、しっかりしている印象です。経営方針も確認しておきます。
歴史の重みを感じる方針ですね。良い感じです。
沿革を見てみると、同社は1967年にナビタ第一号を設置している老舗です。
インターネット時代の広告代理店のイメージしかない私には逆に新鮮です。
おそらく多くの広告媒体がそうなのですが、インターネットやスマートフォンさえ出てこなければ、ナビタ事業やサイン事業はもっと結構な力を発揮する媒体となっていたのではないかと思います。現在の広告媒体の主力はインターネットとテレビで、それ以外の広告は結構厳しいイメージがあります。
以下は媒体別の広告費構成比
「2020年 日本の広告費」解説──コロナ禍で9年ぶりのマイナス成長。下期は底堅く回復基調に | ウェブ電通報
同社の主力は、プロモーションメディア広告費の中の交通や屋外といった部分なので、広告市場の7%ほどがMAXなのかと。この分野は将来性という意味でもかなり苦しいので、表示灯が独占できたとしても安心はできないと思います。
インターネットやスマートフォンが席巻する現代広告で、旧メディアを主力とする表示灯がどう戦っていくのか、が今後の焦点になるかと思います。
事業のリスク
色々書かれていますが、個人的に特に気になるのは「モバイル機器の普及について」「大株主について」です。
「モバイル機器の普及について」
地図アプリという文言からおそらくスマホを想定したリスクではないかと思うのですが、私が思うに表示灯の事業で懸念される端末はスマホよりもARやVRの端末かと。ARやVRは映像に対して情報を無限に付与できる技術ですから、もし実現して一般化されれば、それこそ表示灯の事業はかなり無力化されると思います。AR、VRはGAFAMが力を入れている分野の一つですから、そのプラットフォームが遠からず確立される可能性は高いと思います。
逆に、プラットフォームが出てくる前に研究し、この分野について強くなれば既存の強みや顧客のニーズともマッチしてますから、大きなアドバンテージを持つことも可能かと。しかし同社のマネジメントが、未知のフロンティアであるAR、VRではなく、広告業界での熾烈な群雄割拠であるアプリ市場にばかり目を奪われているのなら先見性が少々不安です。
「大株主について」
創業者である吉田氏と栗本氏が合わせて65.35%の株式を保有し、今後も引き続き大株主であるとのこと。この率はかなり大きいと言えます。
大株主を見てみます。
ん?95.67%が大株主ですか?なんかおかしいな。。
あ、失礼。表示灯は上場したばかりなのですね。
https://www.hyojito.co.jp/ir/faq/
歴史が古いので昔からの上場企業かと勘違いしてました。
大株主の状況は2021年3月末の状況ですから、この株主状況は上場して新株を発行する前の状況ですね。ただ、この書きぶりからすると、保有割合が下がったとしても、両大株主は保有をし続けるかと。同社にとってこの二人の影響力が大きい事は間違いないですから、会社全体の様子からお二人の雰囲気を推測する必要があります。
セグメントの状況
表示灯はナビタ事業、アド・プロモーション事業、サイン事業の3セグメントです。
- ナビタ事業:84.2億円(63.6%、利益率15.8%)
- アド・プロモーション事業:20.8億円(15.7%、利益率2.3%)
- サイン事業:27.3億円(20.6%、利益率13.8%)
主力のナビタ事業が一番利益率が良く、サイン事業は「施工工事」という意味では無難な水準かと思います。アド・プロモーション事業は元々固定費が少ない事業ですから、利益率は一般的に高くなりそうな事業ですがかなり低いです。この辺りは広告代理店とはいえ、比較的古い媒体のため競争が激化しているためかと推測されます。
総じてそれほど利益率が高くないのは、やはり広告全体から見て媒体のシェアが低く、昔からあるものが主力のため競争が激しいのではないかと。
あと、事業環境として書いておくべきは、少し前まで東京オリンピックによる景気拡大、インバウンド需要が注目されており、同社のビジネスはかなり恩恵を被りそうでしたが、コロナのためにオリンピックが賛否両論の巻き起こる残念な形になってしまいました。現在でもコロナの脅威は払しょくされておらず、旅行需要が今後いつ回復するかは不透明です。これは同社としては痛恨の環境変化ではないかな、と。
業績推移
利益率の推移は7.4%⇒6.9%⇒9.3%⇒9.2%⇒11.0%
全体として付加価値率が高いとは言い難いです。
あと、ちょっと気になるのは、2021年3月の業績が全然コロナ影響を受けていないように見えることです。2021年3月期はコロナ直撃の期ですから、旅行需要は壊滅的かつ広告スポンサーもお金を出し渋る時期ではないのかな、と。売上は前年対比で伸びて、経費は少なく済んだというのは違和感があります。
経営者の説明をチェックします。
なるほど、ナビタ事業は広告費を前受にして、年ごとに売上計上にしているわけですね。一応B/Sに前受収益があるかどうかを確認。
確かに34.8億円もありますね。これが毎年売上に化ける形ですかね。ナビタ事業は既に前受金として受け取っている部分や契約済みの部分があったため、2021年の業績は悪くなかったわけですね。
サイン事業の方は2020年末頃からオリンピック需要が回復したため、その需要を取り込んで前年対比で大きく増えた、という事です。
しかしそうなると、ナビタ事業やサイン事業が2020年ほぼ同程度か上回る業績なのは2021年限定の話で、2022年3月期はコロナの影響がもろに出て酷い業績になる気がします。一応直近の決算資料などを見てみますか。
表示灯[7368]:2022年3月期 第3四半期決算説明資料 2022年2月14日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
やはり結構なダメージを受けてます。
表示灯はリアルを基盤とするビジネスモデルですから、普通に考えてコロナをノーダメージで乗り切るのは不可能だと思われます。インバウンド需要も見込めない今、今後成長の可能性があるとすればWebやAR、VR業界への参入とかかと。
折角上場して資金調達の手段が広がったのですから、資金調達して余力のあるうちに次の手を打つ必要があるのではないかな、と思います。
財務指標
表示灯は売上高、営業利益の絶対値を指標としています。
個人的にこれはあまり良い指標の置き方ではないと思います。具体的な数値目標が無いのもそうですが、同社ほどの規模になると損益ベースのみの指標というのは心もとないです。
表示灯のビジネスモデルで警戒すべきは、ナビタを自社で所有している所です。このやり方ですと、ロケーションオーナーに一定料金を支払えば、残った広告料は全て入ってくるため実入りは大きくなりますが、その一方でナビタが十分な広告料を稼げなかった場合や、修繕等が膨らんで赤字になった場合、ナビタの価値が低下するリスクを、自社で担う事になります。
実際に設備投資の内訳を見てみます。
ナビタ事業の投資が21.3億円あります。
そのうち工具器具備品が20.0億円ありますが、これがナビタの筐体かと思われます。
注記を確認すると工具器具備品は10年で費用化されます。
売上という観点から見れば、投資額はいくら投資しようと関係ありませんし、営業利益という観点から見ても、投資の10分の1のコストを1年で回収できれば営業利益はペイするので、現在の指標のまま成長を求めると、自然と採算に合わない投資が増えてくる可能性が高まります。
しかし、実際には積みあがった投資が不採算化すると、将来的に大幅な減損や修繕などの投資に関するトータルコストの増による損益の悪化が見込まれます。売上が10億、20億程度の企業ならまだしも、同社レベルの規模になってくると、投資採算についてもしっかり見れる指標に変えていかねば、どこかで大きめの減損に見舞われるリスクが高いです。
そうした視点が指標に反映されていない点が、指標としていまいちかと。
キャッシュフロー
FCFがかなりの黒字ですね。
先の前受収益の件から察するに、同社の事業は数年ベースで契約をして前金を受け取る形のようですから、キャッシュフロー的には余裕がありそうです。コロナの一件があってすら売上が微減した程度だったので、不況が来た場合でも1年ほど余裕があるため、不況に備えられるのは強みかと思います。営業CFに比べれば、投資CFもかなり少な目で、そこまで派手に投資している印象はありません。
指標の立て方を見ていると成長のために暴走しかねないかと思いましたが、少なくとも現状はそんな事は起きていないようです。一定の規律があるのかもしれません。
資金繰りについては、それほど苦労の無さそうなビジネスかと思います。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が55.2億円(43.2%)と、かなり多めですね。CFでもかなり余裕がありそうな雰囲気でしたが、これだけ手元資金が充実していれば、B/Sリスクはかなり低くなりそうです。
売上債権は8.1億円(6.3%)で滞留期間は22.3日。前受収益があるくらいですから、売上に対して売掛金が少ないのは当然です。さっき見た感じ売掛金8.1億円よりも前受収益34.8億円の方が多かったくらいですから、企業としては売上金を常に前借りしているようなものですね。キャッシュフローや手元資金が充実するのも当然かと。
ちなみに、同社は注記の中で売掛金の滞留日数を公開してます。
私が出している滞留日数(=売掛金残高/売上)と全然違うのですが、同社の注記で出している数値が正です。私が普段この算式をしていないのは、基本的にBの数値とCの数値は公開されている情報からでは分からないからです。
ただ、基本的に私のやっている簡便法でもそこまで大外しはしません。
今回大外ししてしまったのは、表示灯の売上の相手勘定が売掛金ではなく前受収益だったからです。私は滞留日数の分母を売上で計算しますが、売上の中に売掛金が出てこない部分があるわけですから、滞留日数が自然と短くなってしまうわけです。
このように売掛金滞留日数は、売上の季節的な集中や、ビジネスモデルの違いによっても差異が生じるデリケートな指標なので、読者の方々も取り扱いにはご注意ください。
(私は解釈を間違って勘違いした挙句、お叱りを受けた事があります)
有形固定資産は47.2億円(36.9%)あります。
詳細を見てみます。
事業所の機能はとてもシンプルで分かりやすいです。
ナビタ事業は先に記載した通りです。名古屋本社の建物、構築物の金額が高い印象ですが、生産施設を兼ねているのに加え賃貸しているという事で、そこまで問題視するレベルではないかと。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は0.2億円(0.1%)と全体からすると微々たるものです。もともと資金など必要のないビジネスモデルな気がしますが、昔何かに使ったのか。。
一応財政政策方針をチェックします。
基本的には自己資金、とのこと。
今期上場して資金調達していますから、キャッシュインが豊富な事業モデルと相まって、よほど大きな投資をしない限り、今後は借りる必要は無いのではないかと。
純資産は60.3億円(47.2%)。自己資本比率から見ればそれほど高くないですが、負債は売上の前借りである前受収益がほとんどですから、財務安全性は70%、80%の企業と大差ないです。
従業員の状況、役員報酬
年齢層が高い割に、給与が低いです。勤続年数も歴史の長さの割に短いです。
直近5年の従業員数を見てみます。
確かにここ5年で154.0%伸びてます。
これによる増員が新卒ばかりであれば平均給与が押し下げられる、というのも考えられますし、勤続年数が引き下げられるのもあり得ます。ただ平均年齢を見るにそんなに新卒がいるとは思えないのです。。この平均年齢でこの給与、勤続年数というのは少々警戒が必要です。労働環境として過酷な可能性も考慮すべきかと。
最近あったグレイステクノロジーの粉飾の直接の原因も労働環境にありましたが、外部の投資家がその体質に感付けるチャンスがあるとすれば、それは従業員の離職率だったと当ブログでは考えています。
平均給与が低いという事は、今後引き上げられるリスクが高いという事を示しており、今の損益がさらに圧迫される可能性があるという事です。また、離職率が高い職場は採用のために結局労務コストがかかる上、引継ぎばかりでノウハウが蓄積されないため付加価値の高い仕事が定着しません。長期的に見て衰退するリスクが高いです。
同社への投資を真剣に検討するなら、転職会議とかに登録して転職者の意見を確認しといた方が良いかもです。
一方、役員はどうかと言うと・・・
社内の取締役1人当たりの報酬は平均31.8百万円ほどです。一般層と比べると貰っている印象です。会社の規模から考えたらこれは結構な乖離ではないかと。
これまでは非上場企業だったので、私的な会社として社員も役員報酬をあからさまに知る機会はなかったでしょうが、こうして公開会社となったからには、社員も役員の報酬や自分たちの給与水準を意識できるようになる筈。同社は労働組合もあるようなので、そこが動き出す可能性も考えられるかな、と。
大株主の状況
非上場時の大株主は創業者である吉田氏と栗本氏の資産管理会社です。
上記の状態から、上場にあたって新株を一般募集で65.0万株、第三者割当増資で18.3万株を発行してます。
元々の発行済株式数が388.7万株で今回の新規発行分を加えると472万株。発行済み株式数が388.7万株に対して472万株となったという事は元々の所有権は82.4%に希薄化されます。
ただ、いずれにせよここに載っている株主の占有率は過半数を圧倒的に超えていますから、創業者である吉田氏、栗本氏に意思決定権が握られているのは間違いないかと。
その点も踏まえると従業員と役員報酬の格差の問題は簡単には決着しない気がします。
株主還元
配当政策に具体的な目標のようなものはないようです。
還元する原資としての現金は豊富に持っていそうですから、配当ができなくはないでしょうが、2021年に上場して株主還元をどうこう言うのは野暮ですね。資金を充実させて投資するための上場なのに、資金を集めてまたすぐに返すのでは、手数料取られるだけ損です。表示灯が上場してどのような部分に投資していくのか。
今後の戦略に注目です。
まとめ
キャッシュフローの観点から安全性の高いビジネスといえる。ただ、広告媒体の先行き懸念や、PLしか見ないマネジメントの雰囲気が気になる。社員の勤続年数の短さ、平均年齢に対しての給与水準の低さ、役員との給与格差など、将来的な価値を生み出していく筈の部分にお金を回し切れていないように思われる。
次代の広告媒体への研究開発や、社員の労働環境改善など、投資すべき課題は多いため、上場によって集めた資金で何をするのかが注目される。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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