結論
現状での体質評価はニュートラル。市場こそ期待できるとはいえ、人員の大幅増、ダブつく資金、親子上場と懸念事項は多い。既存の大手企業などとうまく連携して日本を盛り上げてくれる事に期待。
目次
前置き
マクアケは調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずはマクアケの事業についてです。
マクアケの事業は応援購入サービス事業です。
所謂クラウドファンディングの事です。
クラウドファンディング(英語: crowdfunding)とは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。不特定多数の人が他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味する。ソーシャルファンディングとも呼ばれ、日本語では「クラファン」と略されることもある。
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クラウドファンディングは資金提供者に対するリターン(見返り)の形態によって下記の3類型に大別される。
・金銭的リターンのない「寄付型」
・金銭リターンが伴う「投資型」
・プロジェクトが提供する何らかの権利や物品を購入することで支援を行う「購入型」
日本では、資金決済に関する法律や金融商品取引法などによって個人間の送金や投資が制限されていることから、購入型のクラウドファンディングの企業数が最も多く認知度が高い。
マクアケは、Wikipediaの分類での「購入型」のクラウドファンディングではないかと思われます。個人的にこの分野にかなり期待しています。
理由はマクアケの事業内容の説明の中にも書かれてます。
当社は、企業の研究開発テーマや成果の中に有用な技術であるにも拘らず事業化に至っていない案件が数多く存在していると考えており、Makuakeの運営を通じて蓄積した顧客ニーズのデータやノウハウ等を活用し、企業の有用な技術を活用した新しい発想の製品開発をサポートすることで、報酬を受領しております。
近頃のベンチャーは新しい製品を作るときは先ずは試作品を作ってから、クラウドファンディングに出品してみて、反響があれば量産体制を拡充するのがトレンド、と以前知り合ったベンチャー会社の社長さんが仰ってました。
これはとても賢いやり方だと思います。
従来の一般的な会社の製品開発だと、おかしな製品を出すとブランドを損ねる恐れがありますから、慎重なマーケティングや開発、調整、生産などを経てようやく製品化されます。しかし、このやり方だと時間がとてもかかりますし、議論した所で、売れるか売れないかなど結局売ってみないと分かりません。
マーケティングの難しさを示すエピソードは以下があります。
SONYの伝説的経営者である盛田氏が、ウォークマン開発販売を推進した際、販売部門はそんなもの売れる筈がない、と大反対したそうです。盛田氏は当時からカリスマ的経営者であったにも関わらず、その反対は根強く「もし売れなければ俺は辞める」とまで言って反対派を説き伏せたそうな。結果はご存じの通り大ヒット。ウォークマンはSONYの代名詞とも言われるヒット商品として歴史に名を刻みました。
この話を今聞くと反対派はどういう感性しているんだろう、と思われるかもしれませんが、現実としてヒットする商品なんてものは「今の常識」の破壊してなんぼなので、机上の議論をしている間は反対派の意見ももっともらしく聞こえるものです。もし当時クラウドファンディングという仕組みがあったら、盛田氏は自らの進退を賭けてまで説き伏せる必要は無かったかもしれません。
これは当時のSONYだけの話ではありません。もしかしたら今もどこかの会社に、技術もアイディアもあるんだけど、社内の審議を通らなくて承認が下りない「ウォークマン」が眠っているかもしれないのです。
大手企業というのは良くも悪くも歴史があり、ブランドや過去の成功/失敗の経験に引きずられて製品化までたどり着かないものも多く眠ってしまいがちです。技術系の大手企業こそ、こういうサービスを積極的に活用し、自社の埋もれた技術を様々な製品やサービスという形で表現し、世にその価値を問うていく姿勢が必要ではないかと思います。ブランド棄損が怖いなら、小回りの利く子会社でも立ち上げてその企業名で色々試してはどうかと思います。挑戦を繰り返す事で、いつか素晴らしいベンチャーを生み出すかもしれません。その意味で私は、クラウドファンディングというサービスにとても期待しています。
ただ、私は分野としては期待していますが、業界には結構ライバル企業も多いようです。Wikipediaによれば購入型だけでも以下。
・CAMPFIRE
・FAAVO
・Fanbeats(ファンビーツ)
・READYFOR
・スポチュニティ(spportunity)
・academist
・Kibidango
・ファインクラウド
・A-port
・MotionGallery
・Greenfunding
・sandwich
・ラポルノ
・うぶごえ
やはり多いですね。。
クラウドファンディングという分野に期待しているとはいえ、マクアケが伸びるかどうかは結局マクアケの体質次第かと。例によって例の如く、良い体質を持っているかどうか、探っていきましょう。
事業のリスク
市場環境で気になるのはやはり競合です。
競合についての「事業対象とする領域のユニークさから同市場において同じビジネスモデルを展開している事業者は存在しておらず」というのは私は疑問符です。ポリシーとか得意分野を細かく見ていけば違いはあるでしょうが、プロジェクトを公開して購入者を集めるプラットフォームという意味ではライバルは結構多い筈ですし、それほど独自色を出せる事業なのかな、と。
この辺りの意図が分かる方はコメントプリーズ。。
あと、マクアケはサイバーエージェントの子会社で親子上場という形になるため、少数株主にとっては不安要素です。当ブログの方針としても親子上場の子会社は、よほど信用できる根拠がなければ、投資候補から外します。おかしな人間を送り込まれるリスクや、少数株主に対してどのような扱いをするのかが見えないためです。
目を引く事業リスクとしてはそんなところかな、と。
セグメントの状況
マクアケは単一セグメントですからセグメント別はありません。
業績推移
利益率の推移は12.9%⇒16.3%⇒9.5%⇒15.9%⇒7.1%
さすが新しい分野だけあって売上成長は著しいです。
ただ、利益率はそれほど高くなく、動きも荒いです。
未だ成熟しきっていない若い会社ですし、規模も小さいため当然と言えば当然です。
経費の構成も見ておきましょう。
売上原価明細
売上原価の7割近くが広告費です。
広告費は削減しやすい経費ですから、この割合が多いのであれば不景気への耐性もそこそこあると思います。固定費となる労務費やサーバー利用料、ソフトウェア償却費などが3割程度という事は、本質的な原価はかなり少ないと見ていいと思います。やはりプラットフォーム系のビジネスは実質の粗利率が良いです。
販管費明細
ここでも広告宣伝費に42.7%が費やされています。
原価と合わせると20億円ほどを広告に使っているというのは、売上高46.2億円の企業にしては凄いですね。やはり技術による差別化よりも、認知度による差別化を図るビジネスなのかな、と。
あと、給料及び手当が倍近くになっている点も注目です。
おそらく人員を急激に増やしているのではないかと。
人員推移を確認します。
5年前対比で人員を5倍に増やしてますね。凄いスピードです。
サイバーエージェントの子会社なわけですから、人材の融通は利きそうです。つまり単体で新規採用してド新人から育てなければならない会社よりも、サイバーエージェントから人員を回してもらえれば、採用リスクは抑えられるかもしれません。ただ、一方でそれは「支援」という名目でサイバーエージェントから余剰人員を余計に送り込まれているリスクもあることは留意が必要です。
(実際のところは分かりませんが、こういう邪推をしなければならないので、私は親子上場の子会社をできるだけ投資対象から外す事にしています)
いずれにせよ、これだけの人員増を飲み下すのは組織として中々に難事です。先に見た通り実質のコスト構造が強い企業なので、ある程度の人件費は売上増と多少の広告費削減で捻出できるでしょうが、今後もガンガン増やしていくような雰囲気ですと、いずれ統率が取れない上、コスト構造の悪化を招き、組織として瓦解する可能性だってあります。2022年に人員増を抑えつつどれくらい売上を伸ばせるかにかかってくるかと。
次に財務指標でマクアケの経営の方向性を見ていきましょう。
財務指標
マクアケは応援購入総額を最重要指標に挙げ、その中で掲載開始数、アクセスUU、会員数、リピート応援購入率を掲げてます。
応援購入総額はすなわちマクアケの売上に繋がるため、売上高と読み替えて差し支えないと思います。この会社規模でしかも新しい市場であれば、一刻も早いシェア拡大が最大目標でも仕方ありません。ただ、売上が目標では先ほどの人員採用の抑制には繋がらず、むしろ売上のためならば何人でも採用してしまう事になります。
これは今後、会社としての質を落とす可能性があるため、警戒が必要です。
それ以外の指標の推移を見てみると。
コロナ禍であっても広告宣伝の効果か、順調にアクセスUUや会員数を伸ばしているのは立派です。ただ、応援購入総額は目先の2021年度は伸び悩んでいる感があります。
時期が時期ですから致し方ない反面、掲載開始数や会員数が増えているにも関わらず応援購入総額があまり増えていないのは、案件1件あたり、会員あたりの売上が落ちているという事かな、と。
マーケットとして黄信号が灯っている可能性も考慮に入れる必要があります。
キャッシュフロー
目先の営業活動CFの激減が違和感ありますね。前年に凄い増え方をしているのも気になります。ビジネスモデルからいって、そんなにキャッシュフローが乱れる印象は無いので、何か理由がありそうです。後、財務キャッシュフローがほぼプラスというのもチェックの必要があります。こんなにキャッシュ持ってどうするのか。。
先ずは営業CFの内訳を見てみます。
2020年度は大量に預り金が入ってきたため、キャッシュフローは黒字、2021年度も入ってきているものの未払金の支払いが増えて大きく減る、という形です。預り金はビジネスモデルから考えて、おそらくプロジェクトに購入応募した方のお金の預かりと思われます。プロジェクトの確定まではマクアケがお金を預かる形になり、一時的にキャッシュインが増えるのかな、と。このキャッシュは保険会社のフロートや保証会社の前受収益のように、マクアケが勝手に使っていい類のものではなく、便宜上マクアケが預かっているだけでしょうから、資金繰りにとってはプラスにもマイナスにも働きません。
この分は実質的なCFからは除外して考えるべきかと。
投資CFについても一応見ておきます。
プラットフォーム型のビジネスですから無形固定資産に投資するのは当然として、投資有価証券と敷金保証金が増えてます。
投資有価証券から見ます。
非上場株式を提携関係の強化を目的に購入してます。
同社の現金同等物は85.9億円ですから、1.3億円の戦略投資がどうという事は無いですが、逆になんでそんなに現金を抱えているのかな、という印象です。
一方で敷金は本社設備等のもののようです。
推測ですが、先に見た通り直近人員がかなり増えていますから、賃借オフィスの増床を図ったためではないかと。この辺りは人員が増えているので致し方ないでしょう。
人の増員というのは労務費だけに影響するのではなく、オフィス賃料、管理料、マネジメントコストといった、見えにくいコストにじわじわ効いてきます。どこまでそれを御せるかで、マクアケの成長が決まってくる筈です。
最後に財務CFです。
マクアケは増資(株式の発行)しているのですね。。
売上46億円の会社が現金同等物85.9億円を一体何に使うのか。。
単にずっと持っているだけならば資金効率として悪手です。流石に何の狙いもなく増資したりはしないでしょうから、次の一手で経営者の素養が試されます。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が85.9億円(83.2%)とほぼ現金同等物です。
プロジェクト預り金はマクアケが自由に動かせない筈のお金ではありますが、資産としてのリスクはゼロですから現金同等物として扱って問題ないと思います。
売掛金は5.5億円(5.3%)で滞留期間は43.5日。問題なしです。
固定資産は10.4億円(10.1%)あって、ソフトウェアと投資有価証券は多少減損リスクはありますが、BSのリスクとしては軽微な方かと。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロです。
あれだけ増資してキャッシュも潤沢ですから借り入れる必要性は皆無です。
純資産は68.7億円(66.5%)。それほど高くないようにも見えますが、負債のほとんどはノーリスクの預り金で、その影響を除くと89.5%とほぼ自己資本となります。
とはいえ、純資産の内訳の多くは増資で増えた資本剰余金であり、自力で蓄積した利益剰余金ではありません。この原資から今後どれだけの利益を生み出していけるか。。
元の利益率は高いですから、宣伝広告費を全削減して今の売上を維持できれば2年くらいで資本剰余金分を稼げそうな気はしますが、おそらくそう簡単にはいかないのでしょうね。
従業員の状況、役員報酬
給与水準としては悪くないです。
増員してばかりで在籍年数が短い割に貰っている人が多いのではないかと思います。
しかし平均勤続年数が2年を切るって凄いですね。。
新人(年齢は問わず)ばっかじゃないですか。。
一方、役員はどうかと言うと・・・
社内の取締役1人当たりの報酬は平均18百万円ほどです。
会社の規模を考えれば無難な水準かと。
大株主の状況
親会社であるサイバーエージェントが過半数を持っており、役員の方が1%~3%程度保有している感じです。
いかにもサイバーエージェントの一部門を独立上場させた感じです。
最近話題になったアプリゲーム「ウマ娘」を生んだCygamesもサイバーエージェント子会社ですから、サイバーエージェントの起業力はキレがありますね。企業の一部門が独立した企業ってあまり上手くいかないイメージがあります。社員として優秀な人間があまり起業家に向いていないという意見は良く聞きますが、同社には何らかの秘訣があるのかもしれません。いずれそちらの方も研究してみたいものです。
株主還元
お金が足りなくて増資しているくらいですから、配当を出さないのは理解できます。今は成長にお金を使うのが最優先かと。問題は何にお金を使うかです。
大きなM&Aに使うのか、宣伝広告に使うのか、UIの改善に使うのか。。
戦略次第かとは思いますが、乞うご期待ですね。
まとめ
ビジネスとしての将来性は高いですし、もっと多くの企業がこのサービスを利用してより発展していってほしいビジネスだと思います。ただ、マクアケ自身が成長できる優れた体質を持っているかどうかは、今の内容だけでは判断しかねます。
今後判断のポイントとなるのは以下3つです。
・従業員の大幅な増員を飲み込んだ上で付加価値を伸ばせるか。
・滞留した現金をどう使うか。
・親子上場の弊害をどう除いていくのか。
いずれも企業の成長には避けられない道なのですが、ここからどのような意思決定をし、進んでいくのか。注目していきたいところです。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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