結論
・企業価値=現預金以外の簿価21.8億円+21年4月以降のCF現在価値
・企業価格(前提株価71円)=10.0億円(=20.2億円-10.2億円)
・主なリスク(訴訟・顧客喪失・社員離職)
魅力は無い事は無いんですが、怖い事案かと思います。
手を出すなら自己責任でお願いします。私はまだ悩んでます。
目次
前置き
当ブログで取り上げたグレイステクノロジーですが、えらい事になってます。
【グレイステクノロジー】[6541]チャート | 日経電子版
上場廃止のリスクが高くなれば、売りたくなるのは当然です。
真っ当な投資家はこうした会社には近づかないのが基本で、当ブログの考え方としても状況が見えない会社には関わらない事を推奨します。
「君子危うきに近寄らず」
それが正解です。
しかし一方で、大きなチャンスというのは、総悲観の汚泥の中からしか掴めないのもまた事実。これだけの暴落を見ると逆にチャンスが無いか気になってしまいます。特に今回の場合、上場廃止となれば自由に売買ができなくなりますが、事業本体に影響が無ければ会社自体は存続して非上場の株主となれる可能性もあるそうな。
上場廃止の株はどうなる?過去の事例と再上場した場合、株価をかんたん解説! | LIVE出版オンライン(お金のトリセツ)
長期投資家にとっては、売買できるかどうかはあまり関係ないです。事業が存続するならば後はいくらでそれを買うのか、大事なのは冷静に価値を見極める事です。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という所。
実際に株を買うかはさておき、事実関係を整理する事で見えるものもあるかな、と今回グレイステクノロジーの情報を私なりに整理してみようと思います。
毎度のことながら、あくまでここに書くのは、限られた情報を元に私が勝手に分析している内容なので、当然誤りがある可能性があります。さらに言えば元々が粉飾という信義に反する事件が発端ですから、限られた情報ですら正しいとは限らないです。
内容の誤りがあればご指摘はいつでも受け付けますし、必要があれば編集します。
では、始めます。
1.粉飾による損益(P/L)影響
先ずは今回の粉飾による損益影響を整理します。
グレイステクノロジー[6541]:2021年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) 2021年5月14日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
ここで発表されている粉飾の内容は以下
①架空売上計上
②売上前倒計上
③架空外注費計上
そして、①についての結果が以下。
②、③の影響は現在も調査中とのこと。
ただ、私はこの②③の影響はあまり気にする必要はないのではないかと思います。
②は実際に売上げている金額の前倒しですから、売上の期ズレ修正すればカタが付きますし、③は確定しても損益にとってはプラス影響のハズ。会社のリスクをはかる上では無視して問題ないと思います。
とすれば、①の売上だけを置き換えて単体決算の数値を並べると以下。
2017年:売上1,002,548千円/経常経費716,548千円/利益286,000千円
2018年:売上966,538千円/経常経費901,092千円/利益65,446千円
2019年:売上1,018,852千円/経常経費951,224千円/利益67,628千円
2020年:売上1,413,805千円/経常経費956,258千円/利益457,547千円
2021年:売上817,978千円/経常経費812,188千円/利益5,790千円
経常経費=単体決算の粉飾修正前売上-経常利益
ここにさらに③の架空外注費が利益に加算される筈なので、この前提の上では、グレイステクノロジー本体の事業は黒字という事になるかと。
赤字の上場企業が山ほどある中でこれは立派な事です。
粉飾を度外視すれば決して悪くはないビジネスではないかと。
勿論、今出てきている情報の範囲で、でしかありませんが。。
詳細が分かっていない部分は具体的に言えば以下とか。
また、当初の調査対象は架空の売上計上でしたが、その範囲外であるリース案件についても会計処理の適切性が疑われる取引が発見されたとの報告がありました(以下「新たな不適切取引」といいます)。特別調査委員会は、新たな不適切取引の発覚を受けて調査範囲を拡大し、現在も調査を継続しております
このリース案件が何なのか、損益インパクトがあるのかどうか良く分からんです。
ただ、リースの処理での不適切処理ってオペレーティングリースとファイナンスリースの取違えくらいしか私は思いつかないですし、もしそうなら損益影響は軽微じゃないかな、と個人的には思ってます。
という事で、今の時点での結論としては粉飾を抜きにしても過去の損益数値は悪くない(少なくとも赤字ではない)のではないかな、と。
2.B/Sのリスク分析
次にB/Sの内容を整理します。
2021年3月末時点のB/Sが以下。
一番大きなポイントとしては、41.8億円の現預金がある点。
総資産の65.8%を占めてます。安全性という意味ではこれはかなり大きいです。
現預金は預金残高証明と照合する監査の基本なので、偽るのはかなり困難です。
今回のケースでは入金まで偽装されていたわけなので、噓といえば嘘なんですけど、入金された以上は会社のお金として扱ってしまって良いのではないかと。送金した人が返還請求しない限り、会社としては返金する理由は無いです。ここに関するリスクは後述しますが、とりあえず私はこの分はグレイステクノロジーの資産としてカウントしてしまって良いと思ってます。
現預金が会社のものと仮定した場合、負債総額である31.6億円を全額返金しても現預金41.8億円-31.6億円=10.2億円が残ります。
対して現在の同社の時価総額は発行済株式数28,398,600株×71円=20.2億円
つまり、現在の株式市場は現預金以外の資産(21年度末帳簿価額にして21.8億円)+21年4月以降にビジネスから生まれるキャッシュフローの割引現在価値を、10.0億円(=時価総額20.2億円-現預金10.2億円)で売買している事になります。
ただ、それを安いと思うかどうかは、この後のリスクポイントを考慮すべきです。
3.質的リスクポイント
リスク①:訴訟
今回の粉飾による影響で損害を被った株主が経営陣に対し、損害賠償請求をする可能性があります。ただ、ここで認識すべきは、株主が損害賠償請求をするのは「経営陣」に対してであり、「グレイステクノロジー」ではない点です。
グレイステクノロジーのビジネスが顧客に対して何らかの不利益をもたらした場合、訴訟の対象はグレイステクノロジーとなり、会社に損害が発生しますが、今回のケースは経営陣がステークホルダーに対して偽った報告をしていただけですから、賠償を請求すべきは経営陣個人であり、接収対象は経営陣の個人資産になる筈。
となれば、基本的にグレイステクノロジーという会社自体はこれを危惧する必要はないのですが・・・一点だけ懸念。もし経営陣に対して賠償を請求した株主が、グレイステクノロジーに仮装入金した金額についても、経営陣の資産として返還請求した場合、グレイステクノロジーの現預金が差し押さえられる、という可能性もあるのかな、と。
その辺りは私は法律の専門家ではないので、あくまで可能性の一つですが。
リスク②:顧客の喪失
今回の一件は、粉飾という株主・債権者―経営陣の信義のトラブルによるもので、事業そのものには関係ありません。顧客からすれば良い仕事さえしてくれれば、株主がどうなろうと、会社が上場廃止になろうと本質的に無関係です。
ただ、このコンプライアンスが叫ばれる昨今、取引先が今回のような不祥事を起こした会社と取引を継続してくれるかは分かりません。同社のビジネスがどれだけ取引先にとって重要かによりますが、世間体を気にして取引を止める会社も出る可能性は大いにあります。
結果、ビジネスの存続が不可能となり倒産する可能性も十分考えられます。
このあたりはアウトサイダーの分析者としては全く見えません。
リスク③:社員の離職
グレイステクノロジーは累積で6年もの間、粉飾をしていたわけですが、同社社員の平均勤続年数は5.7年。
つまり社員の多くが不正をしている間の会社しか知らない事になります。
かつて立派な体質を持っていた企業が、気の迷いやトップの暴走によって一時的に道を誤ったのであれば、社員の力で難局を乗り切る事も可能かもしれませんが、ほんのここ数年で入社した社員にしてみれば、正常な状態を何も知らずにいきなりハードモードのバッシングを乗り越えるだけの覚悟があるかは、かなり微妙です。私なら無理ぽ。。
如何に顧客が続いたとしても社員がいなくなれば仕事はこなせなくなる可能性は大きく、結局ビジネスとしては成立しなくなります。
まとめ
今回の記事を簡略化すると以下
・企業価値=現預金以外の簿価21.8億円+21年4月以降のCF現在価値
・企業価格(前提株価71円)=10.0億円(=時価総額20.2億円-現預金10.2億円)
・主なリスク(訴訟・顧客喪失・社員離職)
企業価値と企業価格を考えると、良さそうな事案になりそうな印象ですが、いかんせんリスクで見えない所が多すぎます。上場廃止後も株主の権利は残るのかもしれませんが、事業の存続ができなくなれば当然株式は紙切れです。情報量の少ない個人投資家が手を出すのはかなり怖い事案かと思います。
しかし分析する中で思ったのは、グレイステクノロジーを丸ごと買収してビジネスを再構築する事に興味を持つ企業やファンドがいてもおかしくないな、と。もしビジネス自体に価値があると踏めば、丸ごと買収して名前変えて、問題のある役員、社員を総とっかえすれば、元々はそれなりに顧客を持っている事業ですから、かなり旨味のある買収になる気がします。
案外既に動きだしている所もあるかもしれませんね。。となるとそこを見込んで今のうちに買っておくのも・・・。いや、これは判断難しいですね。。
当ブログは特定の株式の投資を推奨するものではありませんが、一方で買わない事を推奨するものでもありません。空売りを考慮に入れれば、どっちもポジショントークになる可能性ありますし。
あくまで投資家さん自身がリスクをきちんと把握するのをお手伝いできればいいな~というのが当ブログの趣旨です。読者の方は悪しからずご了承ください。
有料note
2021年の投資、分析をざっくりまとめた有料noteを作成しました。
Free-EX Report(2021年版)|企業分析アナトール|note
買って頂けるととても嬉しいです。