企業分析アナトールの株式投資

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【3763】プロシップ~有価証券報告書の読み方~

結論

株主還元策についてちょっとだけ考えればそれだけで会社としてのレベルが一段上がりそうなポテンシャルを秘めている惜しい会社。社員の待遇と共に還元策を工夫すれば、かなり有望な会社ではないかと。

 

目次

 

事業概要

まずはプロシップの事業についてです。

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プロシップの事業はパッケージシステムの開発・販売・導入です。

具体的には総合固定資産管理システムです。私も会社で使ったことあります。

経理をした経験がある方はご存じだと思うんですが、経理にとって固定資産はかなり厄介な論点です。税金計算の上でも取得価額、耐用年数、稼働時期、廃棄時期といった基本的な部分についてすら様々な論点がありますし、増加償却、特別償却、圧縮記帳といった優遇措置を適用するとなるとさらに面倒です。会計上もその価値がきちんと残っているかどうかの減損のリスクにも常に気を配る必要があります。

会社によっては、固定資産専任の経理を置いて、入社から定年まで固定資産一筋の方もいるとか。考えれば考えるほどどこまでも極める必要のある分野です。

それだけにより効率的にできるシステムがあれば、部分的にでも導入したいと思う企業は多いのではないかと思います。

個人的には管理業務の効率化以前に、会社方針としてのアセットレスを勧めたいところですが、現実的に不可能という会社は多いと思うので、今後も固定資産管理システムの需要はあり続けるのだろうな、と思います。

特に今後IFRSが導入する企業が増えれば、リース資産の計上が増えますから、より固定資産管理が複雑化します。その対応のために同社のシステムを導入する会社は増えるかな、と。

 

セグメントの状況

セグメントはパッケージソリューション事業とその他事業です。

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パッケージソリューション事業:48.5憶円(96.0%、利益率29.3%)

その他事業:2.0億円(4.0%、利益率22.3%)

その他事業は子会社によるシステムの受託開発という事です。本業とそれほど離れない事業ですし、利益率も悪くないので体質的に問題視するような事業ではありません。

本業のパッケージソリューション事業も優良な利益率です。

システムの受注開発よりもパッケージシステム販売が強いのは、初期投資をしてしまうと横展開ができるため、利益率が高くなりやすい点です。システムに質的な問題が無い限りは売上が大きくなればなるほど利益率が上げやすいです。

自社の事業領域を絞り、自社の課題やポイントを押さえた研究開発ができれば、無駄に研究開発費が大きくならず、すぐにキャッシュリッチな優良企業になります。

経営方針では研究開発に対する考え方なども抑えておきたいところです。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は35.1%⇒38.3%⇒33.9%⇒35.9%⇒30.4% 

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立派な利益率ですが、直近の業績が利益が伸びず売上が伸びる事で利益率が下がっています。原因 によっては体質の悪化とも取れるので、一応損益計算書を見ます。

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売上原価と販管費両方とも上がってます。

内訳を見ていきます。

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売上原価の内訳を見ると、労務費と経費(外注加工費)が上がっています。ま~システムの会社さんですから、上がるとしたらそれしかないわな、と別に驚きはしません。

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販管費の方も研究開発費の金額も上がっていますが、それより目立つのは退職給付費用です。普通、退職給付費用なんて社員の定年までに少しづつ計画的に積み立てるものなので、こんなに大幅に前年比で増える事はありません。なので理由を探してみると。

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退職金規定の改定をして社員の退職給付費用を増やしているようです。

こういうのは改定した時にドカッとそれまで溜まっていた差異分を計上するので、この1.9億円分は一時的な費用発生ではないかと推測します。

今後多少は退職給付費用が多くなる傾向はあるでしょうが、ここまでの費用は来年以降のPLには出てこないのではないかと。

 

ちなみに、退職金規定の改定というのはあまり起こる事ではありません。

つまりこの変更には何らかの意図があると思われます。

この変更の意図については他の経費を紐づけて考えると、一つの仮説が浮かびます。

外注加工費が増えるのは、単に売上が増えた影響と取れますが、社員の負担を軽減する費用という解釈もでき、労務費、給与が増えているのも社員の待遇向上を目的とするものです。

(プロシップの従業員数はほとんど増えてないので、増員による増ではない)

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すなわち、「プロシップは現在社員の待遇改善に力を入れている」という仮説が立ちます。

仮説が合っていれば、これは悪くない変更ではないかと。プロシップくらいの利益率をあげている会社であれば、社員の待遇を良化しても文句はありません。むしろ将来の事を考えるのであれば、目先の業績よりも社員への還元を手厚くするのは重要な戦略です。

待遇の悪い会社は人が辞めやすく、パフォーマンスも上がりません。短期的にブラック企業のように恫喝まがいのマネジメントで業績を維持できたとしても、結局、巡り巡って採用費や教育費用やパフォーマンスの低下などで対価を支払うことになります。

 

という事で、この判断は体質として悪くなく、業績としてもこの退職給付費用分1.9億円を経常利益に加えて利益率を再算出すると、34.1%となり実質的にはそれほど悪化はしていない、という結論になります。

 

 

 

経営方針

目標とする経営指標は「粗利率51%以上、経常利益率25%以上」のようです。

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具体的な数値をあげているのは体質評価として良いです。いずれも既に達成しているとはいえ、決して低い目標値ではありませんから、例えば今回のような退職給付規定の変更による突発費用が起きても、この率を死守するというデッドラインを引くことに繋がります。
悪くない目標設定だと思います。

 

研究開発費についても見ておきます。

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現在進めている事業の延長線上の開発を行っているようで地に足の着いた印象です。

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理念の立て方も領域を絞っているあたり、無駄な開発はしそうにありません。

この評価はポジティブです。

 

 

 

キャッシュフロー

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3、4年前に特徴的な時期がありますから一応見ておきます。

 3、4年前の投資キャッシュフロー

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単なる定期預金の増減が年跨ぎになっているだけです。

「なんちゃって投資活動」でした。

この影響を除けばプロシップは毎年安定したフリーキャッシュフローを生んでいる事が分かります。資金的には一切問題ないと言えます。

 

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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手元資金は有価証券を合わせて82.4億円(74.5%)と、IT系にしても多いです。

投資有価証券9.9億円(9.0%)もそこそこありますが、社債がほとんどですから、リスクとしてはかなり低そうです。

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多分満期保有目的なんでしょう。ほとんど現金同等物的なイメージかと。

次に目立つのは売掛金9.5億円(8.6%)ですが、これも売上から見れば滞留期間は68日程度と滞留はほとんど見られません。問題ないです。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債はゼロ、無借金経営です。あれだけ現預金があれば当然ですね。

退職給付にかかる負債が3倍になってます。むしろ今までが少なすぎたのかもです。

純資産は十分ですからちょっとやそっとでは揺るがないでしょう。

 

 

 

大株主の状況&役員の状況

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利益率が優良な上場企業にしては珍しく、特定の株主による独占がされていません。

フラットな株主構成です。

冒頭の事業の概況にあったように、同じ上場企業のNSDに開発業務を委託している関係で20.75%を保有されていますが、意思決定を強制されるような親子会社関係ではありません。持分法適用会社程度です。

会長である鈴木氏の保有割合も16.09%と、総会を牛耳るほどのレベルではありません。

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あんまり分析に関係ないんですが、鈴木氏の略歴を見るとどうも創業者ではないんですかね。。創業してしばらく後に普通に入社しているようですから、たたき上げの社長ということでしょうか・・・?創業者はどこにいったのだろうか。。

 

 

 

従業員の状況 

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平均年収は決して低くはないです。ただ、特別高いという印象もありません。

従業員人数があまり増えてませんから平均勤続年数もそこそこです。

良い待遇、というほどではありませんが、現在従業員の待遇を改善している雰囲気を見ると、今後に期待、というところでしょうか。

 

株主への還元

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ありがちではありますが、株主還元政策はいまいちかな、という印象です。 

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配当性向は30%と言いながらもそれを十分超える配当をしている点は素晴らしいです。ただ、プロシップのように「浮動株が多い」「現預金が潤沢」「純資産が積みあがっている」会社であれば、断然自社株買いを平行してやるべきだと思います。

自社株買いは、長期保有株主の発言権を強くし、将来的な配当を減らし、純資産利益率を向上させることのできる株主還元方法です。同社のように浮動株が多い会社なら、ちょっとやそっとの自社株買いをしても上場廃止にはなりません。

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プロシップは純資産が積み上がり過ぎて自己資本利益率が悪化しています。

会社で大量に滞留している現金や、配当で垂れ流している現金を自社株買いに充てれば、自己資本利益率も改善され、株価は軽く倍くらいにはなるんじゃないかと。

単なる還元方針の変更で簡単に伸びそうで、実に惜しいな、と思います。

 

 

 

まとめ

事業内容としては、同社が認識している通り今後も上場企業のIFRSの導入が進めば、リース絡みで困る会社が出てくるので、同社の成長余地はあると思います。

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後は体質ですが、ざっと見た感じでは、かなり良さそうな印象でした。強いて言えば従業員の待遇は並程度でしたが、退職金改定の事を考慮すると、今後改善されてくることが期待されます。

ただ・・・転職サイトの意見を見ると。。

https://www.vorkers.com/user_answer.php?vid=a0A1000001k5Yq1

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あんまり評価が芳しくないです。。う~ん。。体質を読み違えたのか。。

しかしこの回答も2016年のものですから、もしかするとこういった批判を受けての現在の社員待遇改善なのかもしれません。だとすれば、今後待遇が改善していく可能性も大いにあるので、今後に期待でしょうか。

後は、株主還元策についてちょっとだけ考えればそれだけで会社としてのレベルが簡単に一段上がりそうなポテンシャルを秘めている惜しい会社だと思います。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

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