企業分析アナトールの株式投資

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【6039】日本動物高度医療センター

結論

面白いビジネスをやっている会社で、株主への還元にも一定の配慮を感じる。ただ、業界全体の付加価値率不足は否めないため、それをどう改善していくかが重要かと思う。現状の延長線上では厳しいのではないかと。

 

目次

 

事業概要

まずは日本動物高度医療センターの事業についてです。

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日本動物高度医療センターの事業は、その社名通り、ペットに対して高度医療を施すビジネスのようです。ニッチですが独自性のある面白いビジネスだと思います。

こういったビジネスはマーケットが限られますから、新規参入も少なく、他社動向に無駄な気を散らす必要がないです。経営が上手いと素晴らしいビジネスに成長する可能性が高いと思います。是非ともチェックしておきたい会社です。

事業内容詳細は以下。

  1. 二次診療・・・動物病院(一次)で扱いきれない病状のペットの診療
  2. 画像診断・・・MRI、CTといった画像診療で一次診療のサポート
  3. その他サービス・・・動物医療関連の物品販売等、診療以外の分野

事業領域に特化したビジネスモデルです。

二次診療事業は術後のケア自体は動物病院にお願いしているように、あくまで高度な治療に特化している部分が好印象です。下手に売上高を追いすぎて、一次診療とかに手を出したりすると、それこそ協力してくれる動物病院と競合してしまって、厄介な事になりそうです。うまく切り分けを行う事が必要なのかな、と。

セグメントの状況

日本動物高度医療センターの事業は動物医療関連事業の単一セグメントですからセグメント別はありません。

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個人的にはサービス別の損益状況を把握したい所です。。

複雑な事業構成とは思えませんから、それぞれのサービスをセグメント別に切り分けるのは、それほど手間でもなさそうですし。。

一応販売実績にサービス別売上があったので以下。

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  • 二次診療サービス:82.1%
  • 画像診断サービス:17.2%
  • その他:0.7%

割合としては二次診療サービスが8割以上を占めてます。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は12.8%⇒11.7%⇒15.8%⇒16.5%⇒14.4%

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事業のイメージから高付加価値かと思いきや、意外に平凡な利益率です。

売上高こそ伸びてはいますが、経常利益は伸びてません。

一応内容をチェックします。

粗利率から悪化しているのが目に見えますね。

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単体決算の売上原価明細を確認してみましょう。

悪化の理由は労務費の上昇ですね。

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経営者の分析ではどういう風に書いているかというと・・・

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従業員の増加及び待遇改善に伴う人件費増加だそうです。

さて実際どうなのか、人員の変化を見てみましょう。

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確かに増傾向にありますね。

しかし今更突然増えた感じではないですから、どちらかというと待遇改善の影響の方が多いのかな、と。

待遇を確認してみましょう。

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おお・・・確かに低めですね。。

平均年齢も若いですし勤続年数も短いので多少低めになるのは仕方ない気はしますが、それにしても医療というイメージからすると意外な気がします。

何でかな、と一応調べると

動物看護師の年収は?給料を上げるための方法とは? | アニマルジョブ

人間の病院の場合、診療・治療費用の3割を自分で負担し、残りの7割を国が補助してくれるので、体調が優れないと気軽に病院に行くことができます。

しかし動物病院の場合、診療・治療費用をすべて飼い主が払わなけらばならないので、人間の病院ほど気軽には動物病院へ行くことができません。
そのため、動物病院は高い売上をあげることが難しく、動物看護師を含む従業員に高い給料を支給できないのです。

あ~。。言われてみればそりゃそうですよね。

医療とはいえ動物相手では健康保険は適用されません。

そうなればちょっとした治療でも高額な医療費がかかるし、ペット相手にどこまで払えるのか、というのは大きな問題です。最近だとペット保険とかができ始めていると聞きますから、そういうのがもっと一般的になれば、動物病院も多少は利用しやすくなるかもしれませんが、今後どこまで浸透するかは予想ができません。

私も実家でビーグル犬を飼っていて弟のように可愛がってましたが、果たして病気になった時にいくらまで払えただろう、と。ま~、その子は幸い天性の超絶健康優良児で、特別な治療はあまりせずに17歳まで生きたので、そういった問題に悩む事はほとんどなかったんですけどね。。

話を戻します。

要するに、動物医療は少なくとも現状では付加価値率としては勿論、社員の待遇面すら厳しい業界という事かと。

当ブログで社員の待遇を見るようにしているのは、いずれ同社のように待遇改善が必要になり、利益を圧迫するリスクがあるためです。

既に給与水準が高いまま出している利益というのはある程度信用がおけますが、低い給与水準のままではブラック化して摘発されるリスクもありますし、社員のモチベーションという意味でも望ましくありません。

同社の目先の課題は先ず十分な給与を払い、会社自身も高付加価値の体質を作る事ではないかと。

 

 

 

財務指標

同社の目標は初診数であり、それを裏付けとする売上高、経常利益とのこと。

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この目標は個人的にはイマイチかと思います。

同社は先に見た通り、給与水準が低く、利益率もそれほど高くない状況です。

しかもビジネスモデルから考えると、売上が増えれば増えるだけ社員と投資が必要になるタイプかと。頑張れば頑張るだけリスクも大きくなるんじゃないかと。。

攻め方を変えることを考えなければ、コスト構造を変える事は出来ない気がします。

コスト構造を変えられる戦略で思いつくのは3つへの参入かな、と。

 

これらの共通点は既存の知見やネットワークを活かしつつ、追加の設備投資が無い形でできる事業です。これらを推し進める事で、会社の認知度を高めたり、保険への加入を増やす事で二次診療(本業)へ進みやすくする環境整備にもなります。

YouTubeやWebサイトで動物の治療についてや病気について、一般的な飼い主への啓蒙をしつつ、これらの副次的ビジネスで収入源を厚くする事で利益率を上げていってはどうかな、と。

経営方針の本来の意図をまっとうするのであれば、高度な治療によって得られた知見を諸々の形で世に伝え、より多くの人に動物との生活を豊かにする手段を多く持つ必要があると思います。

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二次診療という特化分野を持つのは大切ですが、その特化分野をマネタイズする方法は複数持つべきではないかと。現状の目標のように、単純に初診案件を増やす事だけを考えていても、今後戦略的に行き詰まるのではないかと。

 

 

 

キャッシュフロー

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4、5年前の投資キャッシュフローがやたら多いですのでチェックします。

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有形固定資産の取得です。

さらに内容を見てみると東京病院の建設費用のようです。

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さらに、大阪病院も建設、と次々に設備投資を行っています。

人員がこの5年で増えたのもそうした新病院に人員を増やすためかな、と。

先に書いた通り、売上を伸ばすために病院を増やしたり人員を増やせば、リスクは増えます。ただでさえ固定費が大きくなる上に、規模が大きくなるほど世間の風当たりはきつくなり、給与水準などに対する批判も大きくなります。ビジネスモデルを描きなおし、高付付加価値率を達成しない限り、どこかで苦しくなるのではないかな、と。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び同等物が12.1億円(20.8%)と、割合としては少な目です。

有形固定資産42.0億円(71.8%)が圧倒的ですね。しかもそのうちの半分くらいが土地で占められてます。土地は経費化されないので法人税を余計に払う事になり、ただでさえ資金繰り悪化要因です。土地がBSの中でこれだけの割合を占めていると資金繰りは結構厳しいのではないかと。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は30.7億円(52.6%)。やっぱり相当借入れてます。

同社は2005年創業ですから、まだ歴史は浅く、純資産も積みあがっていない筈。そんな会社が土地を買おうとしたら当然借入などに頼りざるを得ないです。

土地と建物を担保にして借金してまで箱物を自前にする必要があるのかな、と。

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医療系という事で融資は下りやすいのかもしれませんが、経営者のお金の使い方としては若干不安が残ります。要は見栄を張りやすい傾向にあり、経営での合理性が足りないのではないか、と。

対する純資産は23.4億円(40.0%)。

有利子負債比率の割に純資産比率は高いです。営業債権債務が少ないのでしょう。

この辺りは医療ビジネスの強みですね。基本的にBtoCの現金商売で、メインの事業が仕入などは必要ないサービス提供のため、営業債権債務が少なく運転資金も低く抑えられる。有形固定資産さえ抑えれば、アセットレス経営が可能な部類のビジネスです。

それだけにもう少し有形固定資産を圧縮できないものかな、と惜しまれます。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

先に触れた通り従業員の給与水準はあまり高くありません。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均17.0百万円ほどです。上場企業としては少なく、社員の水準から考慮するとかなり良心的な水準です。

経営陣におかれましてはビジネスの高付加価値化を達成し、役員報酬も社員給与水準も株主利益も全部UP、という流れを作ってもらいたいです。自分たちのやっている事はそのレベルの報酬で収まるものではない、と証明して頂きたい。。

 

 

 

大株主の状況

大株主を合わせても30%を満たないレベルで、かなり浮動株が多いですね。特定の意思決定者がいない分、経営の自由度は高そうですし、自社株買いの還元の幅が広そうです。それだけに経営者の手腕がモノをいいそうです。

今後の業績でそれが明らかになっていくのかな、と。

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株主還元

ずっと無配とはいえ、この書き方からは経営者から株主に対する一定の配慮、誠実さを感じます。自己株式を1株当たりの株主価値とROEの向上を目的とする、と明記しているのも、好印象です。

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ただ、ROEを考慮して自社株買いを実施したにも関わらず、12.8%の水準にとどまっているのはなんだかな、という感じです。

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しかも同社の場合は財務レバレッジをかなりかけてこの水準ですから、事業そのものの効率性に難があると言わざるを得ないかと。

やはり現状の箱物ビジネスモデルを脱却して、高度医療というコアを維持しつつ収益源を増やす戦略を採る必要があるのではないかと。

 

 

 

まとめ

コアとなる動物の高度医療というビジネス自体はニッチで面白いと思います。ただ、ニッチであるがゆえに、その成長のためには新しいお客さんを待つのではなく、潜在的な顧客を自分で掘り起こす活動が重要になるのではないかと。

高度医療の知見を活かしてペット保険を推奨、布教して動物医療へのハードルを下げる。高度医療の知見を活かしたアイテムをOEM開発し、自らの知名度を上げたり、収入源を作る。動物病院(一次)とのネットワークを活かし、儲かっている病院とそうでない病院の差について分析し、コンサルする事で、ネットワークをさらに強固にする。

他にも前提となるマーケティング戦略として、WEBサイトやYouTubeにて動物の高度医療や難病についての知識を配信したりと、より顧客に直接的にアプローチできる方法を模索していく必要があるのかな、と。

少なくとも現状の方針のままでは苦しいのではないかと。

会社の事業領域やビジネス上の強みなど、いい部分の多い会社なので、マネジメントによってポテンシャルが開花することを切に願います。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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