前回(以下)に引き続きキーエンスの考察です。
このシリーズでは、漏れ伝わった「話」だけでキーエンスの在り様を推測し、それを通して複数回に渡り「会社のありたい姿」を考えてみたいと思ってます。
本日扱いたい話はこれです。
「付加価値の高い製品とは何か」
我々の商品政策は、従来からある商品でも非常に精度を高くするとか、精度は同じでも非常に小さくするとか、はっきりした特徴を出すやり方であり、こうして付加価値の高い商品を開発し、それを汎用品として売る力があるからこそ、高い成長率を維持できるのです。(キーエンス創業者滝崎氏~高成長ができた理由を問われて~)
【参照】
https://harubou-room.com/keyence03/
機能がてんこ盛りのトースターは高付加価値製品?
私が「毎朝パンを食べたいからトースターを買いたい」と思って、2,000円のトースターを買いに行った時、パンだけじゃなくてチーズやハムも卵も焼ける4,000円のトースターがあったとします。その時に私は「こんなに色々できるのに4,000円?安い!」とは思いません。「何でパンを焼く以外の機能にプラス2,000円も払わないとだめなの?」とパンしか焼けないシンプルな製品を探します。
勿論値段だけの話ではありません。多くの機能を持つトースターは何を焼くのか、こっちがいちいち指定しなければなりません。パンしか焼かないのに、毎日「今日は何を焼きますか?」と聞かれて「パン」としか答えないこっちの身になってほしい・・・。色々な機能を使いこなせない自分の無能を責められている気分になります。
このように、多すぎる機能は使用する人間に余計な手間とストレスを掛ける事になります。高いコストを払ってまで、何故ストレスを負わなければならないのでしょうか。
90年代の不況の後、建機大手のコマツは彼らがダントツ製品と呼ぶ製品を市場投入して、劇的な復活を遂げています。
以下、サイトより抜粋
http://www2.meijo-u.ac.jp/~onishi/gyokaiprow7/w-komatu.html
”2003年から、性能面で他社製品を大きく引き離す製品作りを戦略的に進めてきた。 「ダントツ商品」とは「製造原価を10%以上低減しながら、他社が3~5年追いつけない先進性をもった製品」のこと。 中でも低燃費、高い安全性、静粛性、IT(情報技術)の4項目に絞り、4つの重点項目で満足いく成果を出し、 顧客から高く評価された製品を、コマツは「ダントツ商品」と認定している。 ダントツ商品の製品化のため、コマツは製品開発プロセスを根本から見直した。 従来は企画、設計、生産といった役割を各部署が分担してリレー方式で進めていた。 それを、開発の初期段階から協力企業も含めて関連部門が参加する部門横断的なコンカレント方式に変更した。”
注目すべき点は、コマツはやみくもに「ダントツ」を叫ぶわけではなく、「ダントツとは何か」を具体的に明記している点です。
元々「ダントツ」という言葉は競争相手に対して圧倒的優位に立つ事を指します。それを会社の方針として採用した場合、顧客ではなく競争相手に焦点が合うことになります。そうなれば、競争相手を負かす事に熱中して顧客のニーズを置き去りにした「ダントツで無駄な製品」ができかねません。
それを防ぐために、コマツは顧客のニーズを調査し、購入判断の決め手となるポイントを「低燃費」「高い安全性」「静粛性」「IT(情報技術)」4つに絞り込み、この分野について「ダントツ」になることで、顧客にとって高付加価値の製品を開発できたと考えられます。
滝崎氏の商品政策も、「ダントツ」という言葉こそ使っていませんが、これと同じ事をしているように思います。コンサル営業の中で顧客がどのような製品を求めているのかを正しく認識し、精度、小ささなど、顧客が欲しがる性能を定義して特徴を出したのではないでしょうか。その点に集中し、他社を圧倒する機能を開発したからこそ、顧客が大金を出しても惜しくはない高付加価値製品となったのではないでしょうか。
顧客の心に刺さる、エッジの効いた製品こそが高付加価値
別の記事でも書きましたが、ビジネスの本質とは顧客の課題を解決してその対価を受け取る事であり、製品は一つの形式手段に過ぎません。顧客が欲しているのは、「自身の課題を解決してくれる何か」であって「製品そのもの」ではありません。製品を企画する際に最も重要なのは、どれだけ他社製品より優れているかではなく、どれだけスマートに顧客の課題を解決するかです。
顧客は「競合より優れているもの」ではなく、自身が抱えている課題の解決方法を求めているのです。
品質向上を求めている顧客が欲しがるのはグッドデザインのセンサーでしょうか。
いいえ、ダントツに高精度というエッジの効いたセンサーです。
狭い機械にセンサーを搭載したい顧客が欲しがるのは価額の安いセンサーでしょうか。
いいえ、ダントツに小型というエッジの効いたセンサーです。
顧客は自分の問題を解決してくれる製品なら多少高くても買います。
逆に自分たちの問題を解決しなければ、どれほど安くても買いません。
付加価値の高い製品とは、やみくもな競合との競争の結果できるのではなく、ターゲットとする顧客にとっての最高の解決を追求した結果生まれるものなのだと思います。
次の記事
www.freelance-no-excelyasan.com