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【2413】エムスリー~有価証券報告書の読み方~

結論

財務良し、利益率も良い。

ただ、体質が悪くなりそうな雰囲気。。

 

目次

 

事業概要

先ずはエムスリーの事業についてです。

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冒頭の志、実に素晴らしいと思います。エムスリーの進むべき道を分かりやすく示しています。理念や事業目的を軽んじたり、アバウトすぎる理念を掲げたりしている会社は、規模が大きくなると道を見失いがちです。

組織というのは様々な意思や価値観を持った人々の集まりですから、大人数になれば当然意見が割れますし、争いも起こります。その時に社員たちを結束させ、同じ方向を向かせるのは何か。

それは理念です。

創業者が定義した会社の存在理由、すなわち考え抜かれたシンプルな理念、事業目的が必要になります。これが曖昧だったり、分かりにくかったりすると、社員はそれぞれの解釈によってバラバラの方向を向き、烏合の衆と化します。

エムスリーの事業目的は同社の方向性を示すのに十分な内容です。少なくとも、この事業目的がある限り、「土地ころがしをしよう」と言い出す社員は淘汰されるでしょう。

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エムスリーでは細かく事業を分けているようですが、事業目的に沿った通り、医療関連のサービスである事は共通しています。セグメント別の数値を見ながら全体像を見ていきましょう。

 

セグメント別

メインとなる5つの事業セグメント別収益が以下です。

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メディカルプラットホーム:売上割合38.3%(利益率39.4%)

エビデンスソリューション:売上割合16.7%(利益率22.1%)

キャリアソリューション:売上割合12.0%(利益率27.0%)

サイトソリューション:売上割合9.6%(利益率7.7%)

海外:売上割合23.4%(利益率19.1%)

 

この数値は圧巻です。

サイトソリューション以外はかなりの利益率です。メインであるメディカルプラットホームは40%に届きそうなレベルです。複数セグメントを持っていて平均してこれだけの高さを保っていられる会社もそうはないと思います。

ただ、やはり他が優秀だけに、唯一利益率が低いサイトソリューションが気になります。

理由の一つとして考えられるのが従業員数です。

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売上高の割にサイトソリューション事業は割り当てている人数が多いです。

従業員一人当たり売上金額

メディカルプラットホーム:35.1百万円

エビデンスソリューション:10.4百万円

キャリアソリューション:25.2百万円

サイトソリューション:9.9百万円

海外:15.6百万円

こうしてみると、エビデンスソリューション、キャリアソリューションが特に低いのが分かります。臨床事業とコンサル・訪問看護ですから、いずれの事業も人件費以外の経費がかかるようには思えませんが、エビデンスソリューションはそれなりの利益率、キャリアソリューションの利益率だけが低いという事は、キャリアソリューション事業は何らかの収益上の欠陥があると推測されます。

サイトソリューションセグメントの人員をさらに増やしているという記述もあるため、今後この事業の割合が増えた場合、全社としての収益性が下がる可能性があります。

こういった部分に経営陣がどのような対応をするのか、体質を探る必要があります。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は30.9%⇒31.9%⇒29.1%⇒27.4%⇒26.4% 

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売上の最大の割合を占めているメディカルプラットフォームが40%近い利益率であるため、かなり高い利益率で推移しています。若干の利益率が下降傾向なのは、高利益率のメディカルプラットフォーム以外の売上が伸びてきているため、利益率が薄められているものと考えられます。

また、2017年を見てみたところ、メディカルプラットフォームの利益率は56.0%だったため、売上が伸びてはいるものの、利益率は悪化しているようです。

あまりこれは望ましい傾向ではありません。売上が伸びたからと言って、利益率が下がったのでは、事業の体質としては弱くなっているという事です。売上は不景気になるとすぐに下がりますが、経費はそう簡単には削れません。だからこそ、体質の良い会社は売上が上がってもコストを維持するか削減を徹底し、利益率としては良化させます。

利益率の低い事業を拡大させている点もそうですが、少々利益体質に対する認識が甘いように思われます。

 

 

経営方針

思った通り、資本効率こそ考えているようですが、利益率、付加価値率に関しては重視していないようです。

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営業キャッシュフロー、一株あたり当期利益は、規模さえ拡大してしまえば増やせてしまう数値です。これだけを追い求め続けると、不景気になるとすぐに赤字に転落する体質の弱い企業になるリスクがあります。

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宣言通りにROEもそれなりに高いですが、付加価値率を無視した状態でROEを上げようとすると、売上を無理に増やす必要があったり、借入をしてレバレッジをかけたりすることになり、企業の健全性が悪化する恐れがあります。少々体質として心配です。

 

 

 

キャッシュフロー

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直近で大きく財務でお金を集めて投資していますね。。ROEが直近悪くなっている時点で何かあったことは分かってましたが。。内訳を見てみます。

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う~ん・・・定期預金以外は派手に使ってますね。。おそらくは複数の会社の買収でしょうか。。

そしてその原資となる財務キャッシュフローを見てみます。

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株式の発行、つまり増資によってその資金を賄っています。

 

財務体質的には借入するよりはマシかもしれませんが、この買収が大きな成果を挙げなかった場合、エムスリー自身が重視している指標である、一株当たり純利益が希薄化(少なくなること)される事になります。特に、エムスリーは元々かなりの高利益率企業なので、どこの会社を買収したとしても大抵の場合は希薄化する事が予想されます。

ちょっと雲行きが怪しくなって参りました。

 

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び現金同等物は479.4億円(21.6%)という事で、資産全体にたいして少なめですが、短期金融資産のうち、196.6億円は定期預金ですから、これを合わせると676.1億円となり、30.5%になります。

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まあ、元々キャッシュリッチなビジネスなので、これくらいでも問題ないと思われます。

営業債権及びその他債権が結構ありますが、主に医療関係者相手のビジネスですからそれほど貸倒のリスクは無いと考えられます。

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流動資産に関してはそんなに問題は無い気がします。

問題は固定資産ののれんです。

511.7億円と中々ない水準まで膨らんでいます。

のれんというのは、買収した企業の帳簿上の純資産と買収額の差額です。

純資産が100億円の企業を200億円で購入した場合、100億円がのれんという資産になります。そしてIFRS上はこれを価値が無くなったと判断できるまで資産に載せていてよい事になっています。

しかし、当ブログでは企業分析においてこののれんの価値を一切認めません。IFRSや企業の信用度は関係なく、私個人の考えとして、認めていません。理由としては、のれんというのはそもそもが実体のない概念であり、その価値を裏付けるのは経営者の価値判断能力だけだからです。そして、往々にしてその判断は経営者の幻想です。投資家はIFRSが認めようが認めまいが、保守的な観点からものれんに価値を認めるべきではないと思います。

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同社は過去から利益を積み上げており、資本合計が1716.0億円あるため、全額減損しても十分耐えられます。とはいえ、511.7億円という金額はエムスリーの利益二年分弱を吹き飛ばすレベルです。決して軽く見れる水準ではありません。

511.7億円のれんを例えば5年で償却した場合、エムスリーの利益が100億円ほど減ることになりますが、こののれんを生んだ買収は本当にそれに見合う利益を生んでいるのでしょうか。

直近の収益性の軽視や多額の買収を見ていると、会社の方向性として、体質が弱まってきているように思えてなりません。

 

 

 

ストックオプション

エムスリーは結構派手にストックオプションを発行している会社です。

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ストックオプションというのはつまり経営者や従業員が会社の株を安値で購入できる権利を付与する事です。目的としては、とかく自身の報酬、給与にのみ注意がいきがちな経営者と従業員に株を安値で買う権利を与えることで、株主目線の意識向上を促すというものです。

ただ、当ブログはストックオプション反対派です。

理由としては、2つです。

①株価は景気動向でいかようにも動くため、上がったから頑張っているとは限らない。株価の上下によって報酬が決まるのは不適切であるため。

ストックオプションは無償で提供されるものであり、投資家は自分のお金で株を買っている。経営者や従業員は権利を与えられただけなのでリスクは無く、経営者、従業員に有利過ぎてフェアではないため。

 

総株式発行数は7億近いため、総数を合わせても影響は軽微かもしれません。

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しかし、経営指標として一株あたり純利益を重視すると言っておきながら、希薄化のリスクを持つストックオプションをこれだけ発行するというのは、言行一致していないように思います。

結果として影響軽微だから良い、というものではありません。数量が増えてきたら問題になるような行為をしている時点で問題だと思います。

 

 

 

 

まとめ

エムスリーは結構昔から高収益率で優秀な会社、という印象があったため、今回分析するのを楽しみにしていました。実際現状の財務状況や利益率は悪くありません。並みの企業では比較にならない水準です。

しかし利益率をあまり重視していない方針や、低利益率の事業を拡大しようとしている雰囲気、直近の買収の加速、のれんの拡大といった点を考えていくと、体質として悪化してきているように感じられます。

私は企業というものは理念こそがアイデンティティであり、それの実現のためならば、時には短期的な利益を見送っても良いと思います。ただ、そもそも利益が薄いというのは顧客のニーズが薄いという事です。利益を意識しない、という事は経営陣が顧客を意識しない自己満足に陥っている可能性があります。

絶対悪い、と断言できるレベルではないですが、なんとなく嫌な感じがあります。。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

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