結論
事業領域の核となる部分が不鮮明で、エッジがない印象。ここ数年でリスクテイクの傾向が見られ、個人的には悪印象。
目次
事業概要
まずは山田コンサルティンググループの事業についてです。
山田コンサルティンググループの事業は経営コンサルティング、不動産コンサルティング、教育研究・FP関連事業、投資・ファンド事業の4つがあります。
社名から分かる通り、主にコンサルビジネスですね。
コンサルビジネスの強みは大きな設備投資も在庫もいらないので、長期間に渡る資金の拘束がない事です。顧客にコンサルティングをして報酬を受け取る、資金繰りの非常に楽なビジネスです。
一方で弱みは参入障壁が低いことです。コンサルタントという職種は初期投資も掛かりません。顧客が一人でも見つかればすぐに始められます。それだけにそもそも組織としてやるメリットも少なく、ある程度ノウハウを学んだら独立して個人でコンサルを始めたり、他会社に転職する人も多い職種なので、組織にノウハウが蓄積されにくい体質であると言えます。
求人やM&Aなど、特定の分野に特化したコンサルであれば、信用度や情報を得るルート、サイトなどの無形資産が重要になってるため、蓄積する余地がありますが、山田コンサルティンググループのような経営コンサルという分野は、経営といっても色々な企業があるため漠然とし過ぎていてノウハウの蓄積が難しい分野という気がします。
セグメントの状況
山田コンサルティンググループは先に書いた通りの4つのセグメントですが、ダントツで経営コンサルティングです。
経営コンサルティング:119.8億円(86.7%、利益率16.2%)
不動産コンサルティング:9.3億円(6.8%、利益率24.8%)
教育研修・FP関連事業:7.4億円(5.4%、利益率4.3%)
投資・ファンド事業:0.4億円(0.3%、利益率16.0%)
事業の説明が少ないので、セグメントの補足も参照します。
主力の経営コンサルは全般的な話を手広くやっている印象です。
最近はITとかM&Aに特化しているコンサルが多いので、若干ターゲットが絞れていない感があります。経営の何でも屋という強みは勿論あるかもですが、そういうゼネラリストは本来経営者自身が果たすべき役割で、わざわざ外部のコンサルに頼むのは、何に手を付けて良いのかすら分からない行き詰った会社か、破綻した会社の事業再生など、相当ヤバいケースではないかと。そうなると客層も悪く、厳しいビジネス環境という印象です。
それが理由なのかは分かりませんが、経営コンサルセグメントの利益率はコンサルビジネスにしてはそれほど高くないです。
個人的な印象ですが、全体的な事業イメージとしてあまりポリシーみたいなものを感じません。パッと見、領域が近そうな事業はしているんですが、ターゲットをあまり絞り切れていないように感じます。コンサルティングとしてできそうな事を手当たり次第にやっているような印象です。
なので核となる考え方を見てみます。
ちょっとうーんな内容。基本となる理念はどんな事業でも共通するかなり漠然としたものですし、到達したい場所が「存在する意義のある組織」というのも疑問符です。
勿論これらの価値観が社会的組織集団として欠かせない要素である事は認めますが、率直にいって「らしさ」がない。
基本理念|企業情報|山田コンサルティンググループ株式会社|企業情報サイト
「自己や我々の組織の利だけを図る行動を取るならば、その組織は即座に解体すべき」という信念から「存在する意義のある組織」という言葉を用いているのも分かりますし、考え方もアグリーなのですが、存在する意義の無い組織ってそもそも存続し得ないので、わざわざ宣言しなくても良いと思うんです。
例えるなら「良くない行動をした人は死ぬべきなので、私たちは死なずに生き続ける事を目指します」と言われている感じ。。そうですか、としか言えぬ。。
自らの定義や事業領域といった会社としての「らしさ」が見えない気がします。理念というのは経営者や社員が自らの仕事上のアイデンティティに相当するため、それが曖昧だと取り組む仕事の狙いや質も、社員によってバラバラになったりします。
事業に芯が見えないのはこうした理念設定に通じているような気がします。
業績推移
利益率の推移は22.6%⇒21.4%⇒22.0%⇒17.6%⇒16.2%
決して悪い利益率ではないんすが、やはりコンサルとして見ると少し物足りないな、という印象です。あと、2019年から結構落ちてます。
何故2019年から落ちているのかを見てみます。
販管費が5億ほど増えているんですね。さらに掘ってみます。
注記の主要な内容である給与とかは対して変わってないですね。。
理由は別にあると思います。
という事で経営者による分析を見てみたら、書いてました。
教育訓練費と広告宣伝費だそうです。
先行投資と言えなくは無いんですけど、正直こういった費用ってコスパが見えないんですよね。。その分翌年以降の売上が爆上がりしてたら分かりやすいんですけど、かけた費用(営業利益で5億円相当)ほど売上が伸びている印象はないです。
宣伝広告費用は、経営者やマーケティング部署の自己満足で終わる可能性もあるので、それによって利益率が悪化したなら、あまり体質として肯定的に捉えない方がいいように思います。
経営方針
経営上の指標としてはROE20%です。
ただ、目標とすると言いつつ達成できる保証はありません、という注記がついてます。
言わんとする事は分かるんですけど、目指す以上は最初から予防線を張るのはやめてもらいたいな、と。
未来が不確実なのは当たり前で、刻一刻と変わり続ける状況に対して対応して目標達成のために尽力するのがマネジメントの役割です。
達成できれば良し、達成できなかったら潔く次期の対策説明、で良いと思うんです。
環境変化で達成できなくても仕方ないというスタンスでは、環境が変化しないなんてあり得ないのですから、目標設定の意味がない気がします。
実績を見てみるとやはり達成してません。
2019年以降特に悪化してますが、その理由は先の分析での教育訓練と広告宣伝です。過去から目標を達成できていないにも関わらず、効果の定かではない、目標から遠のく意思決定を行った上での逃げ口上・・・正直、仮に利益が減ったとしても、指標がROEなら、自社株買いなどの財務的施策で向上は見込めます。それすらやらないというのは、意識的に達成する気がないと取るしかないです。これは体質としてマイナス評価とせざるを得ないな、と。
キャッシュフロー
コンサルビジネスだけに過去からそんなにフリーキャッシュフローに問題は無いです。
ただ2020年度に突如営業キャッシュフローが赤字になってます。
詳細を見ます。
営業投資有価証券が著しく増えてます。
あまり見ない勘定ですが、営業投資有価証券というのはベンチャーキャピタルなどの投資業が用いる有価証券の「在庫」の勘定のことです。
営業投資有価証券とは投資事業を営む企業に必要な勘定科目 | 投資Q&Aドットコム
投資・ファンド事業をやっている同社にこれが出てくるのは別に驚きませんが、随分急激に増えた感があります。
内容としてはキャピタルソリューション参号投資業有限責任組合なるもの。
これだけではちょっと分からないので事業リスクを読むと。
未上場会社をターゲットとした株式投資がメインのようです。
過去5年の純利益が年20億円に満たない同社が30億円以上を未上場企業に投資するというのは結構な冒険です。
未上場企業の何がマズいって、流動性がほとんどないので、資金が固定されてしまいます。SPACに売却を予定しているとかでない限り、リスクの高い意思決定と言えます。
広告宣伝の件も含め、ここ数年でタガが緩んでいる印象です。
勿論、この投資先の企業を同社がコンサルする事で大きく飛躍させ、上場とかまでもっていったならば、本業のコンサル報酬と合わせて相当なリターンが見込めるでしょうが・・・少なくとも現状で外部からその投資の質を推し量る事はできないです。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が62.5億円(41.6%)と、十分な割合です。
投資有価証券も8.4億円(5.6%)で、内訳は以下です。
残りは非上場株式ですが、基本的に国債・地方債等ですし金額も大きくないのでそこまで警戒する必要はなさそうです。
売上債権は15.1億円(10.1%)で滞留日数は40.6日と問題ないです。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は5.0億円(3.3%)です。
それほど大きくないので影響はないでしょうが、資産構成からしても実質的に営業投資有価証券を買うための負債なんだろうな、と。ウォーレンバフェットの金言「株を買うために借金してはならない」にも抵触します。。事業会社はあくまで本業に注力すべきではないかな、と。
純資産は120.0億円(79.9%)と割合としては十分です。
従業員の状況、役員報酬
671.5万円はコンサルにしては低めな印象です。
勤続年数が5年というのもかなり短いです。
コンサル業が転職されやすい上、激務なのは理解できるため勤続年数が短いのは仕方ないにしても、せめてもう少し年収をあげられないのかな、と。結局は人材流出が止まらず、サービスとしての価値も高まらず、企業の質も落ちるという悪循環に陥るのではないかと。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役の一人当たり平均は34.2百万円です。コンサル業にしては低めです。
全体的に社員、役員に対する還元は低めですが、付加価値率からみれば仕方ない面もあります。
給料を上げれば質があがるかといえば、勿論そんなことはあり得ないですが、コンサル業は人材が基礎となるビジネスですから、従業員の給与を少しでも上げる方法を模索しないとジリ貧ではないかな、と。
大株主の状況
株式会社日本マネジメント・アドバイザリーカンパニ―が結構な割合を占めてます。
同社は創業者一族の資産管理会社のようです。
これだけ持っているとほとんど意思決定を掌握していますから、外的な力で方針を変える事はないと思います。
株主還元
配当の還元方針は上限が50%?のようです。しかし配当実績は以下。
50%を超えている年がほとんどですね。。下限を定めておいて配当を出し過ぎました、というのはむしろ好印象なんですが、上限を50%にしておいて実績が上回るというのは、ちょっと意図が分からないですね。。
下限の間違いなんだろうか。。分かったら追記します。
まとめ
3年前くらいからリスクテイク傾向があるようです。
勝算があれば別に構わないんですが経営が傾く時の兆候って①M&A・投資、②広告宣伝、③新規事業進出が多い気がします。いずれの手法も経営陣が本業の閉塞感、停滞感を払拭するために、用いられがちな安易な手法です。
他社を買収すれば状況が好転するかもしれない。
知名度が上がれば売上が伸びるかもしれない。
新規事業に進出すれば大成功するかもしれない。
要は、今眼前にある課題の解決策が浮かばないけど何かしなければ、という焦りから経営者が安易に選んでしまいがちな手法です。しかし、こういった手法はほとんどの場合失敗に終わるというのが定説です。
詳細はビジョナリーカンパニーシリーズを参照のこと。
同社が今後どうなるかは分からないですが、ちょっとリスクのある方向に進んでいるように思われます。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
有料note
2020年の投資、分析をざっくりまとめた有料noteを作成しました。
Free-EX Report(2020年版)|フリーランスのエクセル屋さん|note
買って頂けるととても嬉しいです。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com