結論
グレイステクノロジーの不適切会計は「架空売上」の可能性が出てきた。
目次
前置き
先日、作成したグレイステクノロジーの不適切な会計処理に関する記事に反響が多かったのと、追加で情報が入ったので続報出します。企業分析は前回一通りやっているので、不適切な会計処理にフォーカスした内容になります。
Twitterで不適切会計とはすなわち架空計上ではないか、という指摘がありました。
で、ちらっとその元数値を見てみると、「確かにそれっぽい」と私も思ったので、私なりの解説を加えつつ、さらにその解釈をした場合に増える謎についても書いてみたいと思います。
架空計上の可能性解説「売掛金の滞留」
先ずは私がそれっぽいと思った指摘の説明です。
以下はグレイステクノロジーの2017年~2020年の売掛金の期末残高です。
- 2017年3月:136,847千円
- 2018年3月:344,858千円
- 2019年3月:430,062千円
- 2020年3月:837,513千円
順調に増えてます。
誤解の無いように言うと売掛金残高そのものが増える事自体はおかしな話ではないです。以下の通り、グレイステクノロジーはずっと増収を続けてますから、その売上の対価である売掛金が増えるのは自然です。
しかし、そのスピードが異常、というのが今回の指摘。
売掛金の妥当性を測る指標に債権滞留日数というのがあり、この算式は以下です。
債権滞留日数=期末の売上債権/年間の売上×365日
これで債権がだいたいどれくらい滞留しているのかが見えます※。
※売上に季節性がある場合この指標は役立たずになりますが、その辺りは名古屋電機工業の時に説明しているので割愛
- 2017年3月:49日
- 2018年3月:96日
- 2019年3月:103日
- 2020年3月:161日
これは確かに異常っす。。
こういう滞留を見た時に何を懸念すべきかというと「架空売上」です。
要するに架空の契約書とか検収書をでっちあげて売上を立てる事です。
架空の契約や検収をあげたら売上と債権が発生しますけど、架空の債権ですからお金が入ってくるわけありません。ずっと滞留する債権が出てくるので、こんな具合に滞留日数が長くなるわけです。
こういった不正が起こる背景には、営業担当へのノルマプレッシャーとか、銀行融資が打ち切られないための粉飾などが考えられますが、グレイステクノロジーの場合、著しく滞留が伸びている2018年時点での業績は銀行融資が打ち切られるような業績ではないと思うので、前者の可能性が高い気がします。
というわけで、確かにこの数値は明らかに異常ですから、外部から指摘があっても不思議はないのと、調査時期が2017年以降という点からも辻褄が合うので、今のところ「不適切な会計処理」の最有力候補はこの架空売上かな、と思います。
確かにあの売上の中に架空計上が相当の額含まれているのだとすれば、非常に高い利益率にも説明がつきます。架空だったらコストはないのでそりゃあ利益率は上がりますね。
アナトールは何故指摘できなかったのか
とまあ、偉そうに語ってますが、アナトールは前記事でこの可能性を指摘してませんでした。何故指摘できなかったのか。
普段記事を読んでいただいている方はご存じの通り、当ブログでの分析では、売上債権の滞留期間は必ずチェックします。まさに架空計上のケースを防ぐためです。
そして前記事でも算出してます。
そう。前回私は直近の2021年3月期の滞留期間は出しているのですが、なぜか2021年3月期はそれほど異常でない滞留期間になっているのです。
売上債権の滞留期間は業種の商慣習によって異なり、ITやコンサルなどの金回りの良い事業は2か月以内が多く、一般的な製造業では3-4か月、半導体企業などは6か月など長期になる事があります。
グレイステクノロジーに関しては取引先が製造業ですから、84日(3か月弱)という滞留は異常ではありません。なので私は以下のように書いておきながら架空売上の可能性をスルーしておりました。
いかに鈍い私といえど、不適切な会計処理を発表している会社の債権滞留が161日(5か月以上)あると分かれば「ん?なんか長くね?」となる。
なんで「推移見ないの?」と思われるかもですが、仮に売上が架空だったら、売上戻しとか貸倒損失とかでPLに反映されない限りは、直近の売掛金残高に残り続ける筈なんです。
グレイステクノロジーの場合は明らかに増収増益を続けており、そのいずれの兆候も無かったので、2021年のBSに無いなら架空売掛金はない、と判断したわけです。
売掛金はどこに消えた?
さて・・・私は債権滞留時期が明らかに2017年-2020年で悪化している事から、グレイステクノロジーの言う不適切な会計処理疑義が架空売上のことである、という説にアグリーなのですが、それが事実とした場合、私の目を欺いた「現象」が気にかかります。
つまり2020年3月まであった架空売掛金は2021年3月ではどこに消えた?という。
私は前回連結BSで滞留債権を見ましたが、今度は単体BSを見てみます。
2021年に売掛金が減ってるんですね、明らかに。
もし架空の売掛金だったらどうして減ったんだ、という話です。
売掛金が減るのは大まかに言って3パターンです。
- 入金する
- 貸倒損失になる
- 売上戻し
他にも裏書とか為替手形もあるでしょうが、今回は多分関係ないので省きます。
架空売掛金の場合、1の入金はあり得ないので、普通は2か3になるわけですが、2021年3月期では売上は売掛金の減ほどは下がっておらず、貸倒損失も計上されていません。
となればやはり入金したのかもしれませんが、だったらどこから金は来たのか。。
ここで一つ私、かなりぶっ飛んだ可能性を思いついたんですが・・・外れていたら関係者に失礼なので、やめときます。
簿記を勉強した事のある人はわかると思いますが、複式簿記というのは常に二方面から記帳する仕組みになってます。
といった具合に。
つまり、どのような形で売掛金を減らしたのかは分かりませんが、帳簿から売掛金がただ消失する事はあり得ず、そこには必ず仕訳という足跡が残らざるを得ません。その足跡さえたどればほどなく事の真相にたどり着くはずです。
おそらく第三者委員会が調査するのはその辺りかと思います。
さてさて・・・どのような調査結果が出るのか。。
監査が入っても気づけない可能性はあるのか。
あと、気になるのはこの事案に対する監査法人の立ち位置です。
私は会計士ではなく経理マンなので、会計士監査の実務についてすべてを知っているわけではありません。ただ、監査対応経験のある経理からすると、架空売上だとすればなぜ監査法人がこの事象に対して気づけなかったのか違和感があります。
先ず監査では債権については残高確認を取るはずです。帳簿に載っている債権金額を、その債務者側に問い合わせて確認する作業です。全件かは分かりませんが、それなりに金額が大きかったり、滞留しているものを無作為に抽出して確実に残高確認はする筈。
このタイミングで、うまく架空売掛金をヒットさせられなかったなら、もしかすると気づかない可能性はあるかもしれません。或いは会社側がガチで架空の取引先の残高証明をでっちあげたならば、その時点では会計士は気づけないかもしれません。
ただ、先に見ている通り2017年-2020年の売掛金の滞留期間は明らかに伸びていますから、この数値を見て一切違和感を覚えない会計士だったとしたらちょっと問題です。監査の最大の目的は企業の不正を見逃さない事であり、在庫と債権は最も不正が起こりやすいポイントです。債権滞留期間がこれだけ伸びているのであれば、少なくとも企業の与信管理表を確認して、架空は絶対に見逃さないようにすべきかと。
当ブログ記事のように①経理かじっただけのド素人が②仕事後の疲れた頭で③直近の外部資料(有価証券報告書)を元に④1記事1円~10円のグーグルアドセンスを糧に⑤一晩でやった分析での見落としとはワケが違う。
監査法人は①会計の専門家が②仕事として③全帳表は勿論、内部ヒアリングも含めてチェックした上で④巨額の監査報酬を受け取りながら⑤何年にもわたり見てきているわけです。
本件が本当に売上の架空計上だったとしたら、監査を担当した監査法人は責任を免れないのではないかと。。
パンドラの箱
蛇足になるかもしれませんが、「パンドラの箱」の逸話をご存じでしょうか。
・・・全能の神、ゼウスは、人間たちを懲らしめるために、パンドラという女性に箱(本来は壺)を持たせて、人間界へと送り込みます。絶対に開けてはいけないと言われていたその箱を、好奇心にかられてつい、開けてしまう彼女。すると、中から疫病、犯罪、悲しみなどなど、ありとあらゆる災いが飛び出してきました。慌てたパンドラが箱を閉めた結果、箱の中には「希望」だけが残された、ということです。
グレイステクノロジーの株価暴落を見ているとまさに「パンドラの箱、オープン!」みたいな阿鼻叫喚。。
【グレイステクノロジー】[6541]チャート | 日経電子版
不正な会計処理がされたかもしれないという以外、何も情報が無い以上、みんな怖くて売りたくなるのは当然です。考えだしたら怖い想像は切りがない。君子危うきに近寄らず、と申しますし私も今のところは、傍観者を決め込むつもりでいます。
ただ、虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも申します。
以下は同社のキャッシュフローの推移(2016年-2020年)です。
同社のキャッシュフローを見た時に、売上の伸びほどではないにしてもそれなりにキャッシュインはあるわけです。
キャッシュフローは監査で銀行の預金残高と照合されるため、小細工がほぼ不可能な資料です。つまり、グレイステクノロジーはもしかしたら架空計上の粉飾をしていたとしても、その期間、確かにキャッシュとして入ってきた分はあったわけです。
(何らかの理由でキャッシュすら合わなかったらもうお手上げですが・・・)
つまりグレイステクノロジーの不正会計は、業績に下駄を履かせていた可能性はありますが、キャッシュがマイナスとかそうした次元にはないのではないかと。となれば、不正によって粉飾されていた部分はあるものの、その範囲は限定的、という可能性も十分にあり得ます。
グレイステクノロジーの質的な部分を問うならば、分析の中で触れたHOTARUの状況やら、従業員給与や勤続年数といった指摘に加え、こうしたトラブルを起こし得る内部統制の脆弱さなど、課題は山積です。
ただ、キャッシュインがある程度事実で、会社のビジネス内容について復活の見込みがあるのであれば、値段によっては買い時になる見込みはあるのではないかと。
パンドラの箱を開けた時、災厄があふれ出ましたが、最後には希望だけが箱の中に残ったとの事。もしかするとグレイステクノロジーにはまだ希望が残されているのかもしれません。
まあ・・・勿論箱には災厄しか入ってない可能性もありますが。。
そのあたりも含めて今後を見守っていきたいですね。
当ブログは特定の株式の投資を推奨するものではありませんが、一方で買わない事を推奨するものでもありません。空売りを考慮に入れれば、どっちもポジショントークになる可能性ありますし。
あくまで投資家さん自身がリスクをきちんと把握するのをお手伝いできればいいな~というのが当ブログの趣旨です。読者の方は悪しからずご了承ください。
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