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【2222】寿スピリッツ~有価証券報告書の読み方~

結論

スピリッツだけに精神面に偏重している感あり。コロナ危機を乗り越えた暁には体質の変化に期待。

 

目次

 

前置き

寿スピリッツは、調査リストに入ってませんが、読者様よりリクエストを頂きましたので分析します。 

 

事業概要

まずは寿スピリッツの事業についてです。

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寿スピリッツは複数のブランドを持つお菓子会社です。

お菓子会社というのはブランド力を持つと非常に強い事業で、ウォーレン・バフェットの成功譚の中にもシーズ・キャンディーズというアメリカのチョコレート会社やリグレーガムといったお菓子が登場します。

 

日本でもブランド力の強いお菓子は結構あると思います。

北海道の「白い恋人」、博多の「通りもん」、伊勢の「赤福」などがかなり有名どころではないでしょうか。ここに行ったらこれを買う、という定番お菓子のブランドを確立してしまうと、多少高くてもどんどん売れていきます。これをウォーレン・バフェットは競争にさらされることのない「経済的な堀」或いは「経済的のれん」(会計上ののれんではなく)と呼んだりしています。寿スピリッツがそういった部分を意識して事業をするようであれば、かなり有望かなと思います。

ただ、販売子会社が結構な数あるようです。

お菓子の小売というビジネスは基本的に利幅が少なく、店舗等の維持費(固定費)がかかるという財務的な弱みがあります。本当に高収益を目指すなら会社は自前で販売チャネルを持たないことが多いです。

(本当にブランドがあればどこに置いても売れるし、撤退も容易)

注意

GAFAの一角であるAppleはブランドの確立のために自社チャネルとしてApple-storeを作っても異常な利益率でしたが、あれは扱う製品が異常な高付加価値であるi-Phoneかつ、自前の工場を持たないファブレススタイルだったからこそ、そこに設備投資しても高付加価値を保てただけで、他の会社が真似すべきではないと思います。

 

 

セグメント別

 

寿スピリッツは事業種、ブランドによってセグメントを分類しています。

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シュクレイ:158.8億円(35.1%、利益率13.0%)

ケイシイシイ:123.0億円(27.2%、利益率10.5%)

寿製菓・但馬寿:73.1億円(16.2%、利益率18.5%)

販売子会社:61.6億円(13.6%、利益率8.5%)

九十九島グループ:27.3億円(6.0%、利益率13.7%)

その他:8.1億円(1.8%、利益率▲21.8%)

寿製菓・但馬寿の利益率はそれなりに良いのですが、他のセグメントは良好とはいえない利益率です。体質としては20%以上は欲しい所です。

今くらいの利益率だと、売上が落ちたときに簡単に赤字に転落するリスクが高いです。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は12.5%⇒12.0%⇒13.5%⇒14.7%⇒14.3% 

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やはり利益率は20%ほどは欲しいな、という所です。

また、5年前に比べて70%も売上が伸びています。にも関わらず経常利益率は1.8%しか伸びていません。これはつまり売上の伸びと共に経費(リスク)も大幅に拡大しているということです。経費は売上の下げと共に削れるものばかりではありません。こういう伸び方をすると、景気後退や今回のようなコロナショックに痛手を被ります。

規模の拡大でなく、体質の強化に注力してほしいです。

 

 

 

経営方針

経営指標としては経常利益率のようで、20%以上の達成を目標としているようです。

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おそらく取り組みをしているのは事実なんでしょうし、現場は必死に頑張っているんじゃないかな、とは思うんですが、0.5ポイントの改善しか出せないくらいの施策ではいつまで経っても20%には及ばない気がします。

本気で今の14.3%から20%を目指すなら、例えば販売チャネルの撤退などを含めた構造改革を視野にれた施策でもしないかぎり、ずっと14%前後をウロウロし続けるのではないかな、という気がします。

 

こういうエピソードを聞いたことがあります。

松下幸之助さんは3%のコスト削減で悩んでいる社員に対して、「じゃあ、3割(30%)のコスト削減を考えたらどうかな」と助言したそうです。社員は最初、んなアホな、という気持ちでしたが、実際やってみたらできてしまったそうな。

松下幸之助さんはこう言ったそうです。

「3%だったら、今までの延長線上でコストダウンを考える。しかし、3割下げるには商品設計からやり直さなければならない。そうだとしたら、3割は無理ではない。やってみよう」

 

事業の形をそのままで改善しようとしたら、社員がどう足掻いても小さな改善しかできません。経営陣が広い視点から大局図を描けないなら、今後も利益率はそのままではないかな、という印象です。

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あと、経営理念、社是、経営信条、基本ポリシーなど会社の考え方が整理できてない印象です。

理念や方針は会社の魂であり、どういった事業をするのかを定める部分なので、規模が大きくなればなるほど、それを明確にすることは重要だと思います。

だからこそ、こんなに色々あって、社員は完全に理解する事ができるでしょうか。

 

個人的には「社是」と「経営信条」は抽象的かつ一般的な話なので不要かと思います。

 

経営理念と基本ポリシーだけで十分寿スピリッツの「らしさ」は表現できていると思いますし、「社是」と「経営信条」までどうしても理解させたいのであれば、経営理念手帳に100か条も入れているのですから、その中に統合してほしいです。

現状のままでは、社員が結局理解するのを諦めるのではないかと。

複雑すぎる方針なら、ない方が良いと思います。

 

 

 

キャッシュフロー

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きちんと投資キャッシュフローが営業活動によるキャッシュフローに収まっていますし、手元の資金も十分ではないかと思います。この辺りの体質は心配ないように思います。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現預金は82.9億円(30.9%)と手厚いですが、昨年は58.6億円(21.8%)なので、おそらく直近はコロナの影響を意識して一時的に現預金を手厚くしているのではないかと思われます。昨年までのB/Sは工場と販売店まで、いかにも大量の有形固定資産を持つ会社のB/Sといった雰囲気です。

売掛金は27.6億円(10.3%)と目立ちます。自前で販売店などを持っているのであれば、現金商売で売掛金など縁が無さそうですが、インバウンド需要を狙った空港のようなグループ外の小売店に対するものと思われます。

とはいえ、特定の売り先に依存しているわけではないので、売掛金の質的リスクはそれほど高くないのかな、と思います。

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商品および製品、仕掛品、原材料は20.8億円(7.8%)もそれなりに多いです。特に飲食物は生ものなので、今回のコロナのような突発事象が起きると全損になり、純資産を直接棄損するリスクも抱えていますから、その金額水準には注意が必要です。

実際、P/Lを見ると分かるのですが、2020年3月期の段階で棚卸資産の10%以上の評価損を計上しています。

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有形固定資産107.9億円(40.3%)も同様で減損を計上しています。

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自前で店舗や工場を持っている懸念は結局これです。

B/Sが膨れ上がり、一度危機になってその価値が減損されると、純資産が大幅に棄損されます。当決算の段階でこそ、2.6億円(有形固定資産評価額の2.5%)で済んでいますが、コロナによってさらに業績が悪化した場合、減損が増えて純資産をかなりの部分を棄損する可能性が高いです。 

同社は歴史の長い会社ですから、普通に考えれば純資産を積んでいるはずですが、一応どこまで耐えうるかを確認する必要があります。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は1.8億円と問題ないレベルだと思います。

おかげで純資産は211.6億円とかなり手厚いため、ちょっとやそっとの事では倒れないと思います。

ただ、資産の中で商品および製品、仕掛品、原材料は20.8億円と有形固定資産107.9億円のリスク資産合計128.7億円がコロナ下の世界ではやはり怖いな、という印象です。ただでさえ赤字になることは明らかなのに、さらにこれらの資産が減損になる、というのは関係者にとっての恐怖です。

ビジネスモデル上、今のB/Sになるのは仕方ないのかもしれませんが、それならそれでもっとB/Sを軽くできる方法を模索しておかねば、こうした危機の時に一気にツケが噴出します。

有形固定資産や棚卸資産を抱える体質は、是非これを機に見直しをしてもらいたいです。

 

 

 

経営者による分析

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現状の成績をどう見るのかというのも経営者の素養の一つなので体質を測る上では欠かせない点だと思います。こういう所を見ると結構、経営者の考えが透けている気がします。

個人的な意見ですが、2019年の経営スローガン「超 超絶 WSR!!」=「世界へ、ありえないほどの驚きの、非日常(超感動)を提供する」はどうなんだろう、という気がします。

先に書いた通り、同社は経営理念、社是、経営信条、基本ポリシー、それに経営理念手帳など、精神論を説くものが多すぎる感があります。

そこにさらにスローガンまで加わったら、社員はわけがわからないので無視するか、最近のスローガンしか頭に残りません。

このスローガンはつまりは基本ポリシーである「熱狂的ファンづくり」をさらに強調したいんじゃないかとは思うのですが、それならば社是とか経営信条とかを取り除けば、自然に基本ポリシーが目立って同じ効果が見込めるのではないかと思います。

 

こういう文面から考えられるのは、経営者が精神論、抽象論ばかりで、現実的になすべき施策が見えていない可能性です。

優れた経営者は会社の理想を数値に置き換えます。例えば同社のポリシーである「熱狂的ファンづくり」が実現しているかどうかは、利益率などで定義します。i-Phoneファンがどんなに高くても格安スマホではなくi-Phoneを買ってしまうように、熱狂的ファンがいる製品は高い利益率を持つためです。

次に、その利益率を達成するための予算決めをします(対外的に出す必要はありません)。暫定の原価や経費は社内で算出できますから、利益率から逆算して売値が決まります。しかし売値を決めても、きちんと売れるかどうか分かりません。製品の企画、開発、営業が力を合わせて売値に見合う商品を作る必要があります。

一方で製造コスト、経費も出したままで良い筈もなく、売上が下がっても利益が保てるように原価をゼロベースで模索しなければなりません。

そうして企業の体質改善は始まります。

しかし、トップがそういった具体的な数値目標やそこに至る施策のイメージができておらず、精神論ばかり説いていると、下の人間は何をしてよいか分からず、せいぜい現状維持か、身の回りでできる範囲の改善程度しか成果があがりません。

そうした体質が根付いている場合、今後大きく業績が改善される可能性は低いかな、という気がします。

 

 

 

まとめ

財務体質として、有利子負債はほとんどないため、堅実な印象の会社です。過去から積み上げてきた純資産のお陰で、大抵のトラブルは耐えられると思います。とはいえ、リスク性資産である有形固定資産や棚卸資産の合計額が120億円超であり、これが減損、廃棄になるとかなり痛いです。

事業の性質上仕方ない面は勿論あるでしょうが、「だから仕方ない、事業は損が出る事もある」と言って諦めるのは、上場企業の場合、株主に対して不誠実です。(上場していない会社の経営者なら損をするのは自分なので構いませんが・・・)

経営者はあらゆる手段を講じて財務リスクは減らすべきで、ビジネスモデル上、リスク資産が積みあがらざるを得ないなら、ビジネスモデルをゼロベースで考えて組みなおす必要があると思います。

それには経営者に財務に対する深い理解が必要になってくると思うのですが、語られている内容には精神論が多く、あまり論理的な感じがしません。そうした事のできるブレーンを重用しない限り、体質的には弱っていく一方ではないかな、と思います。

いずれにせよ、コロナというかなりのピンチを生き延びる事ができた後の話でしょうが。。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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