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【6556】ウェルビー~有価証券報告書の読み方~

結論

財務良好、体質有望。隗より始めて、目指せ福祉のパイオニア

 

目次

 

前置き

ウェルビーは2017年にマザーズに上場した新興企業のため、分析対象リストに入っていなかったのですが、読者様よりリクエストを頂きましたので分析します。 ただ、新興企業は成長途上であり、体質が変化しやすい点は予めご了承ください。

 

事業概要

まずはウェルビーの事業についてです。

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ウェルビーは障害福祉事業の会社です。

事業のタイプとしては3つほどに大別できると思います。

①就労移行支援事業(障害者総合支援法に基づく)

・勤労移行支援事業

・就労定着支援事業

・特定相談支援事業

・自立訓練支援事業

②療育事業(児童福祉法に基づく)

・児童発達支援事業

・放課後等デイサービス事業

・障害児童相談支援事業

③その他

・官公庁からの受託事業

・企業向けサービス

 

全事業を通して障害というテーマが一貫しており、単なる金儲け主義ではないのだろうな、という印象です。

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基本方針や理念もそれに見合うものであり、きちんとした信念が感じられます。

ただ、事業の構造を見た時に気になるのは金の流れです。

③のその他事業は相手先が官公庁や企業向けの事業ですから、サービスの提供先と支払先が一緒なので、もしサービスの質が低いと感じられれば、売上は上がりません。自然とビジネスの質が高められる構造です。

しかし①、②はサービスの提供先は個人である一方で、報酬の支払元は各都道府県国民健康保険団体連合会です。

サービスの受け手と報酬の払い手が違う場合、ビジネスにおいて正しい競争が起こらない可能性があります。何をベースに支払う報酬が決まるのかを確認する必要があります。

課題の④に以下のような記述がありました。

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就労移行支援事業は、職場定着者が多いほど報酬が高くなる仕様のようです。確かに就労支援サービスである以上は定着率によって報酬を決めるのは妥当かな、という気がします。

療育事業に関しては特に報酬を決めるルールの記述は見つかりませんでした。

サービスの受け手と報酬の払い手が違う場合、どうしても競争原理がうまく働かない可能性がついて回ります。

その点は、もし投資するのであれば、例えば自身でそのサービスを利用するか、実際にサービスを利用した人に聞くなどして、サービスの質を確かめる必要があるかな、という気がします。

 

セグメント別

先に記載してある通り、同社は障害福祉事業の単一セグメントです。

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個人的には①~③の事業はセグメント別にして採算を見てみたいところです。そうすればもう少しどういった体質なのかを深掘りできる気がします。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は8.2%⇒18.8%⇒23.8%⇒25.6%⇒26.3% 

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非常に良好な数値です。売上が伸びるごとに利益率が向上している点は、体質が良い可能性が高いです。

 

 

 

経営方針

経営指標としては売上高、営業利益率のようです。

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シンプル過ぎる気もしますが、同社のように歴史が浅い会社の場合は自己資本も充実してませんからROEが高いのは当たり前ですし、成長中の企業は売上高と売上高営業利益率だけでも十分マネジメントできてしまうと思います。

成長の壁にぶち当たった時に、改善の過程で他の指標を入れ始めれば十分かな、と思います。

 

 

 

キャッシュフロー

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実に潤沢です。

投資活動によるキャッシュフローもそこそこありますが、これはセンターや療育教室の新設に関する投資です。

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とはいえ十分営業キャッシュフローの範囲内ですから、資金繰りに問題は無い印象です。

あと目立つのは2018年3月度の財務キャッシュフローがプラスになっていますが、これは新株を発行して手元資金の充実にあてています。もともと無茶なお金の使い方をしない会社のようなので、心配する必要はないと思われます。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現預金は20.4億円(45.1%)と手厚いです。

売掛金が12.4億円(27.5%)と、総資産割合的には普通の会社より多いですが、回転期間=売掛金/売上で見ると66.8日という事で、2か月ちょいなので滞留しているわけではありません。売掛金が多いというより、分母となる総資産が少ない事によるものだと思います。まだ社歴が浅く、純資産が少ない事によるものと思われます。

主要な支払者は健康保険団体連合会ですから、質的にも貸倒のリスクは低いのかな、と思います。

のれんは0.9億円ほど発生しています。これは20年2月に児童発達支援及び放課後デイサービスの多機能事業所を経営する(株)アイリスを買収した事によって発生したものです。買収といっても、同じ事業領域での買収ですから、自前で設備投資するのと変わりません。

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アイリスのB/S、P/Lを見ても、収益性こそイマイチではありますが、少なくとも開示されている限りでは、債務超過のような明らかにヤバい感じは無いのかな、と思います。

同じ事業分野の会社を0.9億円ののれんで購入したのであれば、新規出店よりお手軽なので手堅い買収なのかな、という印象です。

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あとB/Sのポイントとしては敷金です。ぱっと見で2.4億(5.3%)という数値が大きく見えて違和感がありました。敷金はご存じの通り、賃貸していた建物を返すとき、綺麗にするための前払費用です。大抵の企業は他の資産が多いので、敷金はそんなに目立たない事が多いです。

目立つ理由としては、母数である総資産が少ない事が一つ。

ただそれにしても絶対値大きいな、という感じたので関連性の深い「建物」勘定を見て気づきました。

「建物」が無い。

「建物付属設備」しかないんです。

普通は「建物および建物付属設備」なんですが同社は「建物および」がない。

いやいやまさか、何かの間違いで本当は建物付属設備の中に建物が入っているんじゃないか、と思って、耐用年数を確認。

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多分建物入ってません。

建物って木造以外は30年以上あるので。

まさかマイホームでもないのにいまどき木造で建物作らんでしょうし。。

主要な設備を見てみると

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なるほど、確かに設備としか書いてません。

建屋は持ってないっぽいです。

ということは全部賃貸なのかな、と売上原価明細表を確認すると、

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確かに地代家賃が経費内訳トップにありました。

つまり同社は建物自体は借りて中に付属設備などを設置する形で事業展開するスタイルのようです。これは戦略的にも財務的にもスマートなスタイルです。

自前の土地、建物を持った場合、戦略的には不適切な地域だったとしても、損失が大きすぎて容易には撤退できません。

財務的にも土地は償却されずに経費にならず、建物は償却されますが耐用年数が30年~50年と長いので、投資回収期間が長いので資金繰りが厳しくなります。

意図的にそれを理解してやっているのか、何か別の理由があるのか分かりませんが、このスタイルは現代ビジネスの定石に則っていると思います。

 

以前分析したステップという会社さんは優秀な体質なのに、自前の建物をかなり抱えていてそれがネックでした。

www.freelance-no-excelyasan.com

ステップもウェルビーのようなスタイルになれれば良くなるのでは、と思います。 

 

資産の並びを見る限り、ウェルビーの経営陣はかなり財務に明るい印象です。体質良さそうです。

 

 

負債、純資産を見てみます。

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全部で1.8億円ほどの有利子負債があります。

ただ、純資産が34.8億円かつ現預金20.4億円のウェルビーからすれば、健全性という意味では問題になりません。

 

 

 

従業員の状況

同社は業績の急拡大に伴い、従業員数が毎年右肩上がりです。

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ただ、それ以上に業績が上がっているため、利益率は飛躍的に上昇しています。

これは投資家から見れば好ましい状況ではあるんですが、現場ではかなりのストレスがかかります。

会社員として働いた経験のある人は分かるでしょうが、新人教育というのは一朝一夕でできるものではありません。ある程度会社のルールややり方などを教え込み、成果を出そうと思ったら、丁寧に教えても1年、2年はかかります。これは過去の経験がある中途採用であってもあまり変わりません。むしろ過去経験が邪魔をして教育が進まない場合は1、2年で教育するどころかルールの方の変質(ほとんどは悪化)を招きかねません。

こういった意味でも従業員の急増は長い目で見た体質リスクとして理解しておくべきかと思います。

 

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同社の平均年齢は37.38歳で平均年収が394万円です。

上述の通り労働環境としてはかなり過酷な状況でありながら、この年齢の年収にしては低すぎるのではないかと思います。

創業して間もない会社ではありますし、人が増えているために勤続年数が短い傾向にあるのは致し方ないとしても、この給与では質の良い人材を引き留められないのではないかと思います。

介護、福祉、接客業などは業界として給与が低くなりがちです。もしかすると業界の人からすればそれほど違和感のない金額なのかもしれませんが、「だからそのままで良い」とはなりません。

特にウェルビーは理念の中で「全従業員の自己実現と幸福の追求」をうたっています。

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現状の待遇はそれに見合ったものなのか、少々疑問です。

いかなるビジネスであれ、体質改善しようとするなら多才な人材が必要となります。

そして多才な人材は報酬の低い会社には集まりません。

 

参考までに「隗(かい)より始めよ」という言葉があります。

大事業などの遠大な計画は手近なところから行うとよい、という意味の言葉ですが、これは古代中国の政治家である郭隗(かくかい)と燕王のエピソードに由来します。

燕の昭王は、多様な人材を求めるにはどうすれば良いか郭隗に尋ねました。

郭隗は「まずは自分のような凡庸な者を登用してください、そうすれば、郭隗のような者が優遇されるのだからといって、より優秀な人が士官してくるでしょう」と答えました。

燕王がこの通りにすると果たして各地から優秀な人材が集まりました。

その中には楽毅(がくき)もいました。彼は後に燕が斉に滅ぼされそうになった時、韓・魏・趙・秦と共に5か国連合を編成して指揮し、当時強国だった斉を滅亡の一歩手前まで追い詰めた人物です。(たしか三国志で有名な天才軍師、諸葛孔明が尊敬する人物は楽毅だった気がします)

このように、企業が理想を求め、それを叶える質の高い人材を求めるのであれば、先ずは自社の従業員の待遇を改善する事から始めるべきかと思います。

 

収益性が低く、給与を上げようにも上げられない会社ならともかく、ウェルビーのような高収益の会社こそが率先して、業界の常識、慣例などに捉われず、改革を断行していただきたいな、と思います。

 

 

 

役員の状況

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建屋を賃貸に徹底しているスタンスとか、無駄のない買収、事業領域から外れない堅さとかから、多分財務に強い人が多いのだろうな、とは思ってましたが、やはり強そうな経歴の方が揃ってますね。。

だからこそ体質の弱体化に繋がりかねない給与の引き上げなどの施策は難しいのでしょうが、そこを冒険して福祉事業の新たな一歩を踏み出してほしい所です。

 

 

 

まとめ

ウェルビーはまだ創業からそれほど経っていない若い会社ではあるのですが、率いている方々がスマートなのか、体質としてはかなり良いと思います。

ただ、これは経営課題の第一に書かれている事なので、

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経営陣も承知とは思いますが、企業が成長するのに最も重要な要素は「人」であり、現在のようなスピードで成長していった場合、現場の人間に強いストレスがかかります。

 

また、現状のような待遇では多様な人材は集まりにくく離職率も高くなるのではないかと思います。

 

給与をあげたからと言って即社員の質が向上するような事は無いと思いますが、業界でずば抜けた高効率体質の会社(キーエンスやショーボンドHDなど)は従業員の給与も業界の中でずば抜けていることも事実です。

給与が上がれば応募者が増え、競争も増えます。適切な人事制度を敷くことができれば不適切な人材を篩(ふるい)にかけることもできるようになります。

平均的な待遇が悪い業界だからこそ、それによる効果は非常に大きいと思います。

 

元々スマートな経営陣のようなので、是非福祉業界のパイオニアとしての地位を確立して、業界に革新をもたらすような企業になって頂きたいな、と思います。 

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

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