結論
体質的に有利なビジネスをやっているものの、親子上場の難と、事業ごとの強弱が見えてない感が課題
目次
前置き
イントラストは分析対象リストに入っていなかった企業ですが、読者様よりリクエストを頂きましたので分析します。
事業概要
まずはイントラストの事業についてです。
イントラストは【4290】プレステージ・インターナショナルの子会社です。プレステージ・インターナショナルが株式の半分以上を握ったまま、親子上場している状態です。
私は親子上場の子会社は一歩引いて見る必要があると思います。経営方針から経営者のタイプを分析したところで、親会社の考え次第でおかしな方向へ進まざるを得ないリスクと、親会社の問題ある人材が送り込まれるリスクがあるからです。特に後者は体質として致命的です。そのあたりは最初からマイナスせざるを得ません。
事業内容は少々長いですが、それなりにまとまっている感があります。読んでいてそんなに苦ではありません。
同社の事業は大別して二つで、その中にいくつかのサービスを持っています。
①保証事業
・家賃債務保証
・介護費用保証
・医療費用保証
・養育費保証
保証事業は読んで字のごとくあらゆる費用の連帯保証を請け負うビジネスです。保証委託者から依頼された保証する対象の審査を行い、ある程度の信用度があると判断できた時は保証料を受け取り、万一保証対象が債務不履行の場合は代わりに債務を支払う仕組みです。
扱う対象は家賃、介護費用、医療費用、養育費の4つです。
保険事業と同様、こういったビジネスの強みは審査さえ適切に行われれば、最初は保証料が振り込まれるだけの状態が続くので、資金繰りに強く、余裕資金を運用に回す事が可能です。
ちなみに、投資の神様ウォーレン・バフェットは保険事業のこの性質に目を付けて保険事業を次々買収し、自らの投資能力をかけ合わせることで、世界最強のコングロマリットであるバークシャー・ハサウェイを築き上げました。バークシャー・ハサウェイはバフェットの力によって化物のようなコングロマリットに変貌しましたが、その本質は潤沢なフロート(余剰資金)を持つ保険業です。ウォーレン・バフェットを投資家と評する人が多いですが、その実、彼は単なる投資家ではなく保険事業で異常に成功した実業家だと私は思ってます。
この種の事業は資金に余裕がある傾向にあります。ウォーレン・バフェットほどの運用利益を出せずとも、潤沢な資金は事業を運営する上で大きな強みです。よほどの間違いがなければ潰れない事業です。
ただ、こういった製品や宣伝による差別化が困難な事業の場合、その飛躍は経営体質にかかってくると思われます。よって、経営方針や分析内容から、会社がどのような考え方を持っているのかを理解する事が必要だと思います。
②ソリューション事業
・C&O(コンサル&オペレーション)サービス
不動産管理会社から受託する入居者の信用度審査、債権管理などの一括サービス
・Don-onサービス
督促などをSNSメールで一斉発信するサービス
・保険デスクサービス
不動産管理会社の保険募集、付保管理に係る業務代行サービス
ソリューション事業は上記3つがメインですが、家賃債務保証から派生した不動産管理会社向けのBPO(間接業務代行・支援)といった所でしょうか。親会社であるプレステージ・インターナショナルがBPOの会社のようですから、その辺りの絡みがあるのかもしれません。
業務としてはマンパワーを使いそうな事業なので、保証事業ほどの利益率は得られそうにない気がします。あくまで推測ですが。。
セグメント別
同社は総合保証サービスというくくりで自社の事業を定義しているため、セグメント別の数値はありません。
ただ、①保証事業と②ソリューション事業はいずれも保証に関わるビジネスであるとは思いますが、事業の性質が明らかに違うと思うので、個人的にはセグメント別管理しておいた方が良いのではないかな、という気がします。
業績推移
経常利益率の推移は20.4%⇒22.0%⇒25.5%⇒26.8%⇒28.3%
優秀な数値です。売上が伸びるごとに利益率が向上している所から、経営の質かビジネス本来の体質の良さを感じる事ができます。
ただ、以前似た種類のビジネス(住宅ローン保証事業)を営む全国保証という会社を分析しました。
www.freelance-no-excelyasan.com
その時の同社の利益率が80%オーバーだったため、それに比べると結構落ちているように見えます。保証しているものが違うと言えばそれまでなのですが、性質は似た部分が多い筈なので、ソリューション事業が利益率の足を引っ張っている可能性もあるんじゃないかな、と推測します。
そういう観点からもセグメント別数値を出してみてほしい所です。
経営方針
経営指標としては売上高、営業利益、営業利益率という事で目標値を定めているようです。
実際に目標値を見てみると、営業利益率は2021年時点で25%を設定しており、既に達成できています。
自ら定めた目標を達成できる経営者は一つ信用に足るポイントではあるのですが、問題は何故利益率を25%に設定したのか、という所です。
一応中期経営計画資料を見に行ったところ
う~ん。。現状の売上高と営業利益を伸ばしていったら、結果的に営業利益率がこの数値になりました、という感じの印象です。
少なくともこの資料だけでは、経営者がちゃんと体質をゼロベースで考えているようには見えません。
もし本気で体質をゼロベースで見るのであれば、先ずは事業を性質別(保証事業とソリューション事業)に分けてその2事業の体質分析をし、その体質をどう改善するのかを考え、それができなければ、どのタイミングでその事業から撤退するのか、など、諸々の検討をする必要があります。
ただ、そういった数値的検討をしているようにはあまり見えないです。
そもそも、分析の仕方が雑な気がします。
財務諸表から読み取れる数値を並べているだけ、という印象。
分析というのは次回からどんな体質改善をするのかを決めるスタート地点です。そこをきちんとしなければ、いかなる企業も体質改善は望めません。市場が伸びていくうちは業績も伸びるでしょうが、市場が停滞、縮小、或いは競争が激化した際、わけもわからず業績が悪化して退場する、という事も考えられます。
キャッシュフロー
潤沢なんですが投資活動によるキャッシュフローが結構多い印象です。ビジネスの性質からしてあまり投資が必要な業種とも思えないのですが。。
内訳を見てみます。
有形・無形固定資産への投資が意外にあるのと、投資有価証券が多いです。
投資有価証券は手堅い社債運用ですから、ほぼ現金同等物と考えて良いと思います。なんちゃって投資キャッシュフローです。
問題は有形・無形固定資産の方で、基幹業務システム開発です。
正直、保証事業は確率計算なので、こんな莫大な設備投資が必須とは思えないです。サービス提供するソリューション事業にかかる投資じゃないかな、と思います。。実際、全国保証は有形・無形固定資産なんてほとんどなかったですし。。
さらに2020年は追加で設備投資が必要そうです。
そうまでして本当にソリューション事業やるべきかな、という気がします。
そもそも同社の設立の本懐は保証事業にあると思います。
ソリューション事業はどちらかというと親会社のプレステージ・インターナショナルの影響を受けた発想という気がします。もしくはプレステージ・インターナショナルのビジネスに慣れた人間が親会社のやり方を無理やりイントラストに移植しようとしている、とか。。あくまで推測に過ぎませんが。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
流石は保証事業、といった感じで現預金と投資有価証券の合計が32.7億円(69.2%)と十分な水準です。
立替金10.6億円というのが、保証事業の鬼門である、支払不履行の方の代わりに払っているお金の事でしょう。これについては元々が安全性の低い債権ですから、4.6億円(立替金に対して45.8%)のという高率の貸倒引当金が設定されています。
ただ、これに関してはそもそもが不履行になっている債権ですから、残った5.0億円も全損するものと見ておいた方が安全でしょう。
投資キャッシュフローで設備投資について色々言いましたが、B/Sの全体的な重要性から言えば有形、無形固定資産の金額2.0億円(4.2%)は軽微です。
どちらかというと数値自体のリスクより、本来の企業意図とは少しズレた部分に資金を投資している経営者の考え方の方が不安要素です。今は金額が小さくとも、事業に対する姿勢に問題があると、ドンドンずれていく可能性もありますので。。
ましてそれが親会社の方針なら、なおさら変え難い体質です。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営、加えて前受収益は前もって貰えるお金ですから、キャッシュフロー的には多い方が得な負債です。不履行にさえならなければこの前受収益はそのまま会社の利益になります。
純資産は33.8億円と、資産欄のすべてのリスク資産が吹っ飛んでも生き残るでしょうね。盤石と言えます。
つくづく保証事業はキャッシュに余裕のあるビジネスだと思います。
従業員の状況
やっている事業内容と平均年齢の割には給与が低くないかな、という感じです。
全国保証は平均年齢36.4歳で718万円です。
もし保証事業だけに特化して収益性が向上するのであれば、もっと従業員の報酬をあげられるのではないかな、と思うと現状の待遇はマネジメントの責任という気がします。
サービスごとの情報
セグメント別の数値は分からないのですが、売上だけなら保証、ソリューション別の数値が分かります。ソリューション事業の割合が結構高くて、確かにやめようと思って簡単に止めれるレベルではありません。
ただ、保証事業の性質としての高い利益率、潤沢なキャッシュフローを考えれば、単独事業で生計を立てる事も可能ではないかな、と思います。ソリューション事業から撤退しないにしても、少なくともこの二つの事業を一緒くたにしたまま、セグメント分析すらしない、というのは、マネジメントの怠慢ではないかと思います。
事業の体質向上は、先ず事業を性質によって分けて原因分析する所から始まると思います。
まとめ
イントラストは財務体質としては盤石で、かなり資金的に有利なビジネスをやっていますから、よほどの事が無い限り危機に陥る事は無いと思います。ただ、もし著しい成長を望むのであれば、現状の体質のまま放置していては望めないと思います。
シビアにゼロベースで利益率を考え、少なくとも保証事業とソリューション事業に分けて分析する。可能であれば保証事業とソリューション事業の中でもサービスによってそれぞれ採算が異なるはずですから、それぞれの採算をチェックしてどこにテコ入れをしていかなくてはならないのか、どこを伸ばしていかなければいけないのか、そういった観点で分析をしていかなければ、イントラストは市場の伸び以上の成長は見込めないのではないか、と思います。
少なくとも有価証券報告書に書かれている内容を読む限りでは、経営能力としての体質はあまり強くないのかな、という気がしました。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com