結論
財務に対する考え方に不安あり。。財務的に改善できる部分があると思います。
目次
前置き
三協フロンテアは将来分析対象リストの企業ですが、読者様よりリクエストを頂きましたので、前倒しで分析します。
事業概要
まずは三協フロンテアの事業についてです。
三協フロンテアの事業はユニットハウス及び立体駐車場の製造・販売・レンタル事業です。
ユニットハウスと聞いても私はピンとこなかったので、同社のHPを見てみると説明してくれてます。
フレーム部分をいくつかの部屋ごとに分けて工場で生産して、現場で組み上げていくようなイメージでしょうか。
プレハブ小屋などが同じような工法だったと思ったので一応Wikipediaで確認します。
プレハブ工法は、建築物の一部又は全ての部材をあらかじめ工場で製作し、建築現場で建物として組み立てる建築工法である。近年の建築物には多かれ少なかれ工場で生産された部材が用いられているが、従来の建築工法に比べて工場生産の部材を利用する割合が大きい工法に対して用いられる
事前に工場でパーツを作って現場で組み上げる工事をプレハブ工法と呼ぶようなので、三協フロンテアはプレハブ工法の会社といってよいのかと。。
ただ同社の説明ではユニットハウスとプレハブを別にしています。
おそらくはこの3つの工法の違いは、どこまでを工場で作るかという比率で違うのかな、と推測されます。
最も非効率な評価な在来工法でも、ある程度のパーツは工場で作るでしょうし、ユニットハウスにしても一軒丸ごと工場で作るような事はしていない筈です。
この資料から三協フロンテアが主張したいのは、自社のユニットハウス技術が、既存のプレハブ技術と一線を画すほど格段に効率的である、という事なのかな、と思います。
こういう事業は災害時に非常に役立ちそうです。
東日本大震災や近年多発する大洪水で家を失ってしまう人が結構いますから、そういった人たちの緊急避難場所として重宝されそうです。工期が短いというのも、切迫した状況の人々にとっては非常に好都合です。
オリンピック需要でガンガン建物を立てているそうですが、一時的な特需のために建物を建てると、いずれゴーストタウン化するのは目に見えているのですから、こういったフレキシブルな移動や撤去ができるような建屋を上手く利用できると、解決できそうなものですが。。その辺りは政治が絡むので深くは突っ込みますまい。
セグメント別
同社はユニットハウス事業の単一セグメントなのでセグメント別はありません。
業績推移
経常利益率の推移は13.2%⇒14.0%⇒14.0%⇒14.5%⇒16.0%
売上を順調に伸ばすとともに、経常利益率も伸ばしています。
ただ個人的な感覚としては、もう少し利益率の厚さが欲しいかな、という印象です。これくらいの利益率ですと、不景気になって売上が下がった時にどこまで黒字で食い下がれるかが不安です。特にユニットハウスは建設・土木業界が主要顧客なので、需給の変動は往々にしてあり得ます。
これまでの分析でもチラチラと高い利益率を推奨してきましたが、ここらへんで何故高い利益率が望ましいのかという経理的理由を説明しておきます。
【コラム】直接原価計算と固定費、変動費の考え方
企業が不景気による売上減にどれだけの耐性を持つかを分析する会計手法に直接原価計算というものがあります。
一般に経費といっても、売上に応じて変動する変動費と、売上が上がろうが下がろうが発生する固定費が存在します。それぞれの具体例は以下です。
変動費・・・原材料費、販売手数料、直接消耗品費、残業代等
固定費・・・減価償却費、人件費(固定給与)、家賃等
この費用種類を分類する事を固変分解と呼び、売上から変動費を除いた「限界利益」と固定費を比べる事で損益分岐点(赤字と黒字になる売上の分岐点)を見極めたりする原価管理手法を直接原価計算と呼びます。
この直接原価計算をすると、その会社の儲けの体質が良く分かります。
限界利益は薄いけど、量を売る薄利多売型
限界利益が多いけど、量が少ない高付加価値型
などの利益体質があり、限界利益で固定費を回収できる売上高が、不景気になった時にすぐ赤字に転落するかどうかの境目になります。
本来その会社の体質を語るのであれば、この数値を算出するのが理想です。
ただこの直接原価計算という手法、固変分解の定義が難しく、現実的には自社での管理会計としてすら導入できている会社は少ないと思います。
例えば人件費にしても賞与は業績によって変動しますが、一概に売上にリンクしているとは言えません。
残業代も仕事量によって変動しますが、売上とリンクしているワケではありません。
設備の修繕費も生産量に応じて変動するため、間接的には売上とリンクしているでしょうが、在庫として残る分があると、必ずしも売上とリンクしない時があります。
このように固変分解は手間がかかる割に、本当に正しいデータを集めるのが困難です。まして、外部から見る我々一般人が有価証券報告書を読んでもこういった数値を入手する事は現実的に不可能です。
よって、私たちが会社の不景気に対する耐性をざっくりとでも見ようと思ったら、安全を考えて経費を全て固定費と捉え、利幅こそが売り上げが落ちても耐えられるレベルと考えるべき、というのが私の個人的結論になります。
(例:利益率50%の会社=売上が半分にならなければ赤字にはならない解釈)
上記理由から私は利益率=不景気耐性として見ており、ざっくり20%以上であれば、比較的安全かな、と思ってます。その考えからいくと三協フロンテアの利益率は薄いのではないか、と思います。
経営方針
経営指標としては売上高粗利率、売上高経常利益率、自己資本比率を用いているようです。
体質という観点で見るのは悪くないんですが、先ず見ているだけでどの水準が適正、或いは目標なのかが書かれていません。
そして、実際に経営成績の分析を見てみます。
経営指標の推移や分析が出てきませんので、上記経営指標は建前で言っている感じがします。
経営指標はその推移を比較し、変動した理由を分析し、悪化したからこうする、目標数値に達さないからどうする、といったような、次の体質改善に繋げるから意味があります。
色々頑張った結果この数値になりました、だけでは指標の意味がありません。
キャッシュフロー
投資キャッシュフローが営業キャッシュフロー内に収まっていますから、無茶な投資などは無さそうですが、直近は投資キャッシュフローが増えて営業キャッシュフローが減っています。これはあまり良くない兆候です。
B/S(貸借対照表)
流動資産の確認です。
現預金は30.8億円(4.9%)と厳しい水準です。
営業債権が97.2億円(15.3%)と絶対値は多めですが、売上高457.5億円から見れば、妥当な水準かと思います。
次に固定資産です。
有形固定資産432.3億円(68.2%)とかなり多いな、という印象です。特にレンタル資産243.3億円というのが大きいです。
昨日もシーティーエスというレンタル事業がメインの会社さんを分析しましたが、同社はレンタルに供するための資産を19.3億円持っていましたが、その中でレンタル資産はたったの0.3億円でした。代わりにリース資産が18.8億円ありました。
レンタル資産とリース資産の違いは何かと言うとひとえに資金繰りの問題です。
レンタル資産はあくまでレンタルする目的で購入した自分の所有物であり、その購入費用は自社で準備する必要があります。
一方のリース資産はリース会社から借りているモノを、会計の要請で帳簿に載せているだけなので、支払っているのはリース料だけです。それを顧客に又貸ししている状態です。
B/S上の見た目は項目が変わるだけなのですが、資金繰りからするとリース資産の方がかなり有利なのです。
同じレンタル事業でも、シーティーエスの方が総額としての有形固定資産の割合が低く、かつほとんどをリース資産にしているだけあって、財務体質はかなり健全です。
勿論扱っているモノが違う、という点はあるでしょうが、少なくともレンタル資産とリース資産であれば、リース資産に切り替える方が資金繰りとして有利なので、もし私が財務担当であれば、セールアンドリースバック※をしてレンタル資産をリース資産に切り替える事を推奨すると思います。
※セールアンドリースバックというのは、リース会社に自社資産を売却してリースしてもらう施策です。実態はほとんど変わらず、損益上は利子分悪化して見えますが、余剰になった資金を自社株買いなどの新たな施策に使えるため、資金効率はかなり上がるはずです。
既に三協フロンテアではセールアンドリースバックは行われているようですが、金額は微々たるものです。もっと積極的にやって財務体質の改善を図るべきではないかと思います。
同じレンタル業でもシーティーエスはこのあたりが見事な采配だっただけに、それに比べると三協フロンテアは資金効率の考え方が見劣りしてしまいます。
負債、純資産を見てみます。
短期、長期合わせて有利子負債は91.3億円あります。
有形固定資産を432.3億円かかえる会社にしては少ない水準だと思います。
これができるのも、純資産額が357.7億円と手厚いからなのでしょうが、だから良い、とはなりません。資金繰りの観点から見ても、減損リスクの観点から見ても、有形固定資産は回収に時間のかかるリスキーな資産ですから、少しでも圧縮すると共に、できれば資金上有利なリースに切り替えていくことで財務体質改善を図るべきかと思います。
いかに純資産が多くとも、相手となる資産がほぼ有形固定資産では、いつ減損で棄損されるか分かったものではありませんし、資金の枯渇は即倒産のリスクを孕んでいます。
不景気の時にはキャッシュが王であり、不景気はいつ訪れるか誰にも分かりません。だからこそ財務的基盤は常に整える必要があると思います。
配当性向
何故配当性向が35%目標なのか、理由が知りたいところです。おそらく業績目標と同様、明確な理由は無いのではないかと思います。
大株主の状況
しっかりと社長の長妻氏の一族とその資産管理会社が過半数以上を握っています。役員の中に親族の方は見当たらなかったため、同族経営なのかは分かりませんが、長妻氏自身が入社してすぐ、若くして要職を任されているため、同族経営の可能性は高いです。
将来的に息子さんが後を継ぎ、また体質として変化するリスクも抱えています。
まとめ
最近IT系を見ることが多かったので、有形固定資産が多く現金が少ない会社というのは久しぶりに見ましたが、やはり資金繰りが苦しそうです。また、資産欄の中で現預金以外の部分というのはリスクを抱えているものがほとんどです。よって、現預金の割合が低いというのは、減損や貸倒といった巨額損失リスクが高いと考えた方が良いです。その点も重々注意した方が良いです。
また、昨日同じレンタル業でもかなり体質として優れたシーティーエスを見ていた事もあり、三協フロンテアの体質的な粗が目立ちました。総じて財務方面の能力が低いか、財務に明るい人材が重用されていない可能性が高いです。
現状で業績が良いので問題なく回るでしょうが、こういった部分の粗は業績が悪化した時にこそ、減損や資金の枯渇などで顕在化するものですから、注意が必要かと思います。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
企業分析リンク
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