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【4345】シーティーエス~有価証券報告書の読み方~

結論

一点の瑕瑾を除き素晴らしい会社です。この体質を作り上げた創業家に敬意を捧げるとともに諫言し奉る。。

 

目次

 

前置き

シーティーエスは将来分析対象リストの企業ですが、読者様よりリクエストを頂きましたので、前倒しで分析します。 

 

事業概要

まずはシーティーエスの事業についてです。

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初見で事業名を見ても分かり辛いのですが、簡単に言えば土木・建築会社に対してシステムや測量道具、ハウス備品といったものをレンタル、販売するビジネスです。

経営方針の記述の方が分かりやすいです。

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こっちを事業内容の冒頭に持ってきた方がすんなり理解できるのでは、と思います。

 

セグメント別

セグメント別を確認します。

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システム事業:41.4億円(45.2%、利益率25.7%)

測量計測事業:33.8億円(36.9%、利益率16.3%)

ハウス備品事業:11.0億円(12.0%、利益率16.8%)

その他事業:5.5億円(6.0%、利益率9.5%)

 

レンタル事業と聞くと、ただ貸しているだけなので差別化が難しく、利益率が低そうなイメージですが、なかなかの利益率です。理由の一つとして考えられるのは相応のリスクを負っている事ではないかと。

事業等のリスクについて見てみます。

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とても分かりやすくリスク要因を書いてくれていますが、特に技術革新の進展による陳腐化が利益率が高さに見合うリスクではないかな、と。

以前、建設関係の知人に聞いたのですが、現在国土交通省は「i-Construction」と呼ばれる取り組みを推進しているとか。

 

i-Construction

「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組

https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/index.html

 

土地測量なんかもこれまでは飛行機を飛ばして測量していたのを、新技術であるドローンを使って測量することで、著しいコスト削減を実現したそうです。

そうした新しい技術を駆使して、建設業界を変革しよう、というのが「i-Construction」という取り組みらしいです。

 

こういうホットな現場で起こるのは著しい技術革新によるモノの陳腐化です。次々に便利な技術が導入されれば、古いモノは廃棄せざるを得なくなります。

建設会社からすれば、すぐダメになるかもしれない設備を自前で購入するのはハイリスクです。

購入費用に見合うだけ使用するなら良いですが、使い切る前に新しい技術が導入された場合、資産価値が著しく減価(減損)しないとも限りません。

短期的にみて割高でも、必要な都度シーティーエスのようなレンタル会社から借りて利用した方がトータルで見ればコスト削減に繋がります。シーティーエスのビジネスはそうした建設会社のニーズを捉え、モノの陳腐化リスクを担うタイプのビジネスなのだと思われます。

 

そう考えれば、シーティーエスをチェックする上で重要な数値は、レンタルする有形固定資産の金額です。陳腐化の激しい有形固定資産を持っていると考えれば、これがあまり高い金額を占めると、突然減損損失を計上するリスクがあると思われます。純資産と比較して減損しても問題ない水準かどうかが、B/Sをチェックする際のポイントになるかと思います。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は14.9%⇒15.5%⇒17.1%⇒18.1%⇒19.8% 

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売上を伸ばすとともに利益率も向上しています。

これは売上を伸ばす一方で経費を抑える事もできているということなので、体質として期待できます。

注:写真が途中で切れているのは2018年以降、連結決算を開始しているためです。

 

 

 

経営方針

経営指標としては売上高80億円超、営業利益率20%超、ROE20%超、という目標を設定しています。

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全体としての収益を追いながら、付加価値率と自己資本利益率の目標を明確にする事で、体質面でのフォローも行っています。非常にバランスが取れていて数値も現実的な目標設定だと思います。

 

結構シーティーエスの経営方針は質が高いです。

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まず冒頭に理念を出し、なおかつその理念の一つ一つの意味を分かりやすく説明してます。抽象的な理想論を語るのではなく、具体的に誰に対して何をするのか、それがしっかり分かる内容です。

さらに経営理念を、経営姿勢として会社としての顧客、社員、株主、地域社会という4大ステークホルダーに対する具体的な心構えにまで落とし込んでいます。

非常に分かりやすいです。

この「非常に分かりやすい」というのは理念や方針の設定において意外に重要で、細かすぎて覚えられなかったり、逆に曖昧過ぎて解釈の幅が広い経営姿勢は社員が日々の仕事で実践できません。これくらい分かりやすければ、真面目な社員であればきちんと意識できると思います。

これを定めた方は、企業理念と経営方針の重要性を良く理解されている方なのだと思われます。

是非、理念や方針が社員に浸透していない会社はシーティーエスの設定方法を手本にしてもらいたいです。

経営環境の捉え方

経営環境の捉え方にも結構経営陣の考え方や会社の雰囲気が滲むものです。

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平凡な会社は経営環境を語る時、「悲観的な経営環境」だけを並べようとします。そうしておけば、経営数値が悪くても言い訳ができるからです。

ちなみに最近流行りの言い訳は「コロナ」ですが、その前は「先行きの読めない経営環境」「不確実な経営環境」でした。

先が読めて確実な経営環境なんてあるんでしょうか、という話。

 

体質の優れた会社はいかなる状況であろうとも、どうすればその環境を自社にとって有利な解釈をできるか、を常に考えます。環境の変化は常に良い面と悪い面があり、経営者には大きな変化をピンチに変える力と気概が不可欠です。

その点、シーティーエスは見事に変化を自社のチャンスに読みかえています。こういった、自らの意志ではどうにもならない環境に対し、真正面から立ち向かう姿勢は中々無いと思います。

 

経営の神様、松下幸之助は戦国三武将のホトトギスの句になぞらえてこう言ってます。

「鳴かぬなら それもまた良し ホトトギス

景気が良ければ収益が安定して経営も安定する

不景気になれば安く設備投資ができて会社が強くなる

優れた経営者は環境を敵とせず、味方につけてしまうものだと思います。

 

中期経営戦略

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これまた凄いな、という感じです。

通り一辺倒な中期経営計画と違い、恐ろしく具体的です。おそらく経営陣の頭には、目標に至るまでのステップがおおよそ見えているものと思われます。

経営の質の高さを感じさせる内容です。

 

 

 

キャッシュフロー

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営業活動によるキャッシュフローが多く、投資活動によるキャッシュフローは非常に少ないです。

有形固定資産に相当するような機材のレンタル事業ですから、 もっと投資活動によるキャッシュフローがマイナスかと思ったのですが。。少し意外です。

意外ではありますが、フリーキャッシュフローという観点からすれば文句なしです。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現預金は55.4億円(47.3%)と十分な水準です。

建物、構築物、土地は本社ビルのものでしょうから、それ以外の簿価19.3億円(16.5%)がレンタルに供するための資産と考えるべきかと思います。それで商売している割には案外少ないな、という印象です。これらのレンタルで91.7億円の連結売上をあげているわけですから、リスクとリターンのバランスとしてはかなり良いと思います。

投資その他の資産が3億ほど増えていたので、確認してみると、非上場企業に投資してます。

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多分ファイルフォースという会社さんです。関係会社の欄で以下が増えてたので。

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ストレージシステムを開発する会社さんです。完全に本業絡みの投資と思われます。

実に生真面目で無駄がない資本配分です。

 

負債、純資産を見てみます。

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リース債務は利子の概念があるので厳密に言えば、無借金経営とは言えないですが、銀行からの融資などに頼らないでも問題ない、という点では事実上の無借金経営と言えると思います。

資本は78.4億円と盤石です。貸与資産が4回全損しても大丈夫ですね。

実に無駄なく手堅い。。質実剛健、といった印象です。

 

 

 

 

配当性向

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ここまで配当性向の設定基準まで説明してくださる会社も珍しいです。

正直、算出式が一体何を意味するのか、私にはよくわかってないんですが、重要なのは何となく周囲の会社を伺って似た数値を持ってくるのではなく、自社の頭で考え、自社にとってどんなルールが適切なのかを考え、それを説明する事です。

そのルールが正しいかどうかはさておき、その経営者の真摯な姿勢こそが重要だと私は考えます。

株主還元の方法としては自社株買いという選択肢もあるはずなので、何故自社株買いではなく配当による還元なのか、という問いについても考え方も整理してくれるともっと良いかな、と思いました。

(例:PER10倍以内であれば配当はせず自社株買い実施、など)

 

 

 

役員の状況&大株主の状況

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役員の中で、社長の横島氏と同姓の方が若くして役員を務められています。
現在社長の横島氏自身も30歳の時に取締役になっておられるので、シーティーエスは創業時から同族経営の会社なのだと推測されます。

この点はあまり頂けません。。リーダー人事は企業の存続に関わる事であり、その命運は企業に関わる全ての人に関わることですから、リーダーは血筋ではなく能力と人徳で選ぶべきです。現後継者の能力が仮に優秀だったとしても、2代、3代後は分かりませんし、社員のモチベーションが保てなくなり衰退する可能性も十分あります。

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横島家の資産管理会社と思しき会社が37.5%の株を持っていますから、ほぼほぼ横島家の意図通りの役員にできるのでしょうが、果たしてそれが会社や横島家にとって良い事のなのか。。

創業家が自分の会社の株式を持つのは勿論個人の自由なのですが、キーエンスのように合理主義的経営を目指してもらえないものかな、と思います。

 【参考記事】

www.freelance-no-excelyasan.com

経営理念や計画の立て方など非常に合理的で素晴らしい印象だった分、この点は少々がっかりでした。

 

 

 

 

まとめ

社名がアルファベットの会社は無味乾燥な感じがしてあまり調べてなかったんですが、やはり食わず嫌いは良くないな、感じました。

財務体質も経営体質も今のところ非常に素晴らしい会社です。理念や方針の設定の仕方など、他の企業が是非手本にしてほしいような部分が満載です。この体質が保たれる限り、シーティーエスの未来は安泰ではないかと思います。

ただ、そういう意味でも同族経営はやめてもらいたいな、と思ってしまいます。

いかなる強靭な体質も企業文化もトップの素養によって、大きく揺らぎます。

トップの人事が血脈によって決まるものである限り、いずれは創業家にとっても、会社にとっても、そして祭り上げられたトップ自身も不幸な結果になると考えます。

その点さえ、改善できるのであれば、シーティーエスはいずれ日本を代表するような会社となれるように思います。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

www.freelance-no-excelyasan.com