結論
利益率は普通だが、財務は盤石。若干分かり難いが、選択と集中のできる優れた体質を持っているのではないかと。
目次
前置き
この記事を書いている現在、私はコロナショックで下がった時に買ったエーアイテイー株を800株(@535円)保有しています。そもそもこんなシリーズやっているのに、自分が既に投資している会社の事を分析してないのがおかしいと気づきました。基本的に、他の企業と変わらない基準で分析する積りですが、一応前置きでそういう利害関係がある事を明示しておきます。
事業概要
まずはエーアイテイーの事業についてです。
エーアイテイーの事業は中国を始め、アジア圏がメインのフォワーダー事業です。要するに国際貨物輸送業者なのですが、特に自前の船舶や航空機といった輸送手段を持つのではなく、他の業者の運送手段(船舶、航空、鉄道、貨物自動車など)を利用し運送を引き受ける事業者をフォワーダーと呼びます。
例えば私が海外にいる知人に巨大な荷物を送るとします。国を跨ぐ際には沢山の手続きが必要になりますし、輸送手段には陸・海・空とそれぞれが得意な運輸業者がおり、時期によってコストはバラバラ。安く運ぼうと思うと、どこに頼むのかも相見積もりする必要があります。これらの作業は非常に面倒です。そこでフォワーダーにそれらを全て依頼すると、国際物流の専門家が、出発点から到着場所までの最適最安な物流手段を手配、手続きしてくれるというわけです。
自前で様々な運送手段を持つ企業は、逆に言えば自社の運送手段を用いなければならないという制約が出てきますが、自前の輸送手段を持たないフォワーダーはあらゆる輸送手段を駆使して最善の輸送を選択できます。
この点は財務的にも非常に有利で、自前の固定資産を持たないというのは、減価償却費や維持管理費といった固定費が少なく済みます。固定費は貨物があろうがなかろうが発生するため、それを多く抱えている業者は、貨物が急減した時などに大きな損失となることが多いのです。
フォワーダーという事業自体が、体質としてかなり有利なビジネスであると言えます。
セグメントの状況
セグメント別の数値を見てみます。
エーアイテイーは国際物流という性質的な業務は単一セグメントですが、地域によって分析しています。
日本:357.0億円(71.3%、利益率3.0%)
中国:125.7億円(25.1%、利益率3.3%)
その他:17.7億円(3.5%、利益率5.2%)
利益率が低いです。利益率が低いという事は付加価値が少ないという事で、通常であれば評価としてかなり悪くなります。
ただ、事業の説明の部分に以下のような記述があります。
フォワーダーという事業はコンテナ輸送運賃分も顧客に請求し、まとめて船会社に支払います。つまり、売上の中には事実上自分たちが負担しない、単に「建て替えているだけの原価」が含まれていると推測されます。
セグメント別ではその金額までは分かりませんが、単純にエーアイテイーの経常利益を売上高で割っても、エーアイテイーとしての利益率(付加価値率)は見えないという事です。
業績推移
経常利益率の推移は7.6%⇒6.9%⇒6.3%⇒6.1%⇒4.3%
安定していますが、かなり低いです。
ただ、先ほども書いた通り、この数値は実態を表していないため、ざっくりとでも、同社の本当の経常利益率を推測してみようと思います。
以下はエーアイテイー本社単体の営業原価明細書です。
(単体決算じゃないと原価の内訳までは見えない)
営業原価の7割~8割が外部の運送会社への支払のようです。
とすれば、PLの営業原価のうち75%ほどを売上高から除く(立替分を除く)ことで、本当の意味での売上高が分かり、経常利益率も分かるのではないか、という推測が成り立ちます。
2019年2月期
売上高(実態推定):101.8億円
経常利益:17.0億円
経常利益率:16.7%
2020年2月期
売上高(実態推定):173.6億円
経常利益:19.5億円
経常利益率:11.2%
推定でしかありませんが、そんなものではないかと。。
特別高い、というわけではありませんが、良い利益率ではないかと思います。
あと、直近で大幅に売上高が跳ね上がっていますが、これは日新運輸という同業他社を子会社化した事によるものです。利益率が悪化しているのも、日新運輸がエーアイテイーより利益率が低かったことによるものだと思われます。
日新運輸は41.8億円の純資産を持つ会社で、それに対して51.2億円のエーアイテイー株を交付してます。
日新運輸はエーアイテイーと同じく国際貨物輸送の会社で、中国セグメントに強い同社を加えて、さらにアジア圏での地盤を固めた形になります。
専門分野の同業他社、しかもセグメントは得意な地域での株式交換ですから、対象としては手堅い会社を子会社化したな、という印象です。現段階ではまだ利益率は低いでしょうが、業種が同じ以上、エーアイテイー側のノウハウを移植する余地はあるでしょうから、同水準まで体質を引き上げる事は十分可能ではないかと思われます。
経営方針
目標とする指標は安定的かつ持続的な成長と利益の確保、と具体的な数値などは示されていません。営業収益、営業利益、経常利益の成長率とも記載していますが、残念ながら利益率等についても触れられていません。
同社の売上の中には売上として計上する必要のない原価が混ざっていますが、これは少し処理の方法を変えれば、純粋な売上だけにすることは可能ではないかと思います。(会計士が認めるかどうかではありますが・・・)しかし、こういった利益率に拘らない姿勢のため、そういった事も眼中に無いのかもしれません。
私の基準では、これはあまり良い傾向とは言えません。
成長は勿論重要ですが、それならそれで成長率を具体的に定めるとか、そもそも利益率やROEといった性質を示す指標を使うなどして、体質チェックをしていかなければ、規模ばかりが拡大してもリスクが広がるだけではないかと思います。
キャッシュフロー
キャッシュフローは文句なしと言えるでしょう。フォワーダーという事業の性質上、自前で設備投資などはほとんど必要ないので、キャッシュはほぼ入ってくるばかりです。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
手元資金は109.7億円(53.1%)とかなり潤沢です。コンサル業と同じく投資などで資金が減る要素がほとんどないので、キャッシュがたまりやすい体質です。
今回の日新運輸の買収で発生したのれんが9.7億円(4.7%)です。決して金額として小さくは無いですが、同社のように大した在庫も有形固定資産もなくキャッシュが半分以上を占める優良B/Sにしてみれば、これくらいの瑕瑾があった方が可愛げがあります。
顧客関連資産は、M&Aした時の会社の顧客、受注関係を数値化したものらしいです。
M&A会計 実践編 第5回 無形資産とのれんの会計処理と開示(1)|サービス:M&A|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
M&A会計 実践編 第6回 無形資産とのれんの会計処理と開示(2)|サービス:M&A|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
これは知らなかった。。
顧客リスト・顧客との契約・顧客との関係(顧客との契約が無くても過去の取引において特定の顧客と継続して取引を行っている場合)などが含まれるそうです。
これが23.7億円(11.5%)あります、と。。買収の際にアイ・アール・ジャパンという仲介業者がデューデリしているようなのですが、この数値どうやって出したのだろう。。全然数値的客観性が無い気がするけど。。
安全目に見るならのれんと同様この金額も実体のないものとして、純資産価値から差し引いて理解した方が良いかもしれません。
投資有価証券も6.1億円(2.9%)あります。
内容としては、上場企業の株が1.4億、残りが非上場株式だそうですが・・・何の株なのだろう。。
日新運輸の株は連結決算では相殺されている筈ですから、また別の会社の株式を握っているという事になります。
おそらく関係会社の以下の会社たちでしょう。
合弁のような形で、中国に物流の拠点を拡充したものと思われます。
積極的に中国圏の拡大に力を入れています。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は43.5億円(21.1%)と結構借りていますが、これは単に今回子会社になった日新運輸が持っていただけだと思います。
昨年までずっとエーアイテイーは無借金経営でしたし、買収も株式交換によるものなので、現金を借りる必要は一切無い筈です。そもそもキャッシュが潤沢なエーアイテイーがわざわざ金利を払ってまで借金する理由がありません。
つまり遅くとも数年のうちに潤沢なキャッシュフローから完済されるものと考えられるため、心配は不要かと思います。
繰延税金負債が6.2億円(3.0%)あります。
あまり馴染みが無い勘定かもしれませんが、簡単に言えば税金の未払です。
【以下は大した意味ないので飛ばしてよいです】
会計上は帳簿に残しているにも関わらず税務上は損金計上しているものがある場合これが出てきます。
逆に会計上は経費処理なのに、税務上は損金に落としてくれないものがあると繰延税金資産という勘定が資産の方に計上されます。これは税金の前払と同じ意味です。
一般的に会計上で落とさないものを税務上の損金で落とすケースは稀なので、内容を見てみると。。
あ~なるほど、という感じです。
顧客関連資産はやはり会計上のっけているだけで、税務上ですら損金算入が許されてしまうほどに実体のない概念なのではないかと思われます。
のれんは税務上5年で償却しますが、繰延税金負債の金額からして顧客関連資産はほぼ一括損金処理のようなので、のれん以上に実態が税務に認められていないという事になりますね。。
やはり純資産から除いてしまうのが正解かもです。
【以上、大した意味の無い考察でした】
繰延税金負債自体は単なる税金の未払と考えてくれれば良いのですが、こういう部分から間接的に他の資産の実態が推測できたりします。
配当政策
ここはエーアイテイーの凄い所だと思うのですが、配当性向が64.9%もあります。また、特に方針など具体的な事は書かれていないのですが、結構自社株買いをします。つまり、かなり株主還元に対して手厚い会社です。
キャッシュフローが潤沢で、かつ追加投資などが必要ないからというのもありますが、そういう会社であっても中々これだけの還元はできないと思います。
これは経営陣が株主に対して誠実である事の表れであると私は考えています。
特に日本では「会社は社長のもの」という認識が根強く、株主軽視の風潮があります。多くの経営者はそれを良いことに株主への還元に対する意識が低い人が多いように思います。そんな日本においては、株主に誠実な経営陣はそれだけで得難い存在だと言えます。
従業員給与
従業員の平均給与はあまり高くはないかな、という印象です。
確かに利益率こそ普通な印象ですが、潤沢なキャッシュや充実した株主還元の方針に比べると、36歳で5.8百万円は若干寂しいのではないかな、という気がします。
ファブレス企業ですから、決まった作業を延々と続けるような付加価値の低い仕事をしているわけではないでしょうから、もっとあげても良いのではないか、と。
逆にそんな仕事をしているのだとすれば、多少高額報酬になってでもITの人材を投入してシステムやソフトを拡充してより効率化を図り、付加価値の高い業務にしていくことを考えてはどうかな、と感じます。
現場を知らないので何ともいえないですが、無理なんですかね。。
まとめ
結論として、利益率は普通ですが、財務体質は結構良い、という所でしょうか。
昨日のJALと同様、何でここに投資したの?という感じですが、理由はやはり経営者の手腕、性質への信頼です。
先に述べた通り、エーアイテイーの株主還元政策はかなり充実しています。
全体利益自体はここ5年でそれほど伸びていないので、通常であればどんどんROEが悪くなるのですが、この5年間のROEが以下。
直近は日新運輸の買収のために20%を割っていますが、それ以外は特に方針に立てているわけでもないのに、ずっと20%をキープしています。
これは利益が伸びずとも自社株買いや配当を沢山出すことで、純資産を一定の数値を維持しているためです。これは充実した株主還元政策が一定の意図をもって行われている事を示唆しており、特に目標設定もせずにこれができるのは、こうした対応を「当たり前のようにできる」会社という事です。これはかなりのプラスファクターです。
ちなみに私が一番最初にエーアイテイーに目を付けたのはリーマンショックのあった2008年頃ですが、その充実した還元策のお陰で、その時からホールドしていれば、資産は余裕で10倍以上(20倍だったかも?)になっていたと思います。
私は買ってませんから詳細は語れませんが。。
後は、セグメントを選別する意思決定が迅速で、事業の資源配分が適切な部分(中国を中心とするアジア圏の国際物流)に集中投資されているように感じます。
セグメント分析の冒頭にこんな記載があります。
セグメント分析はどちらかというと、言われているからやる、というスタンスの会社は多く、それを実際に進出撤退、或いは経営資源の配分に利用できている会社は少ない印象です。仮に業績が悪くても中々撤退を思いきれずにズルズルと行ってしまうのが普通です。
その点、同社の沿革を見てみると、
かなりの清算を繰り返しています。
「選択と集中」は現代ビジネスの常識ですが、言うは易く行うは難し、です。特に撤退という決断は経営陣にとってかなり難しい決断で、それがこれほど沢山、しかも迅速にできるトップは中々いるものではないと思います。
米中関係の悪化やコロナの問題があるご時世で、果たしてアジアの物流ニーズは大丈夫なのだろうか、という空気になり、コロナ時に結構エーアイテイーは値下がりましたので私は結構安値で拾えました。しかしJALと同様、一つかみ目(一つかみはSBI証券の手数料無料の50万円以下)で株価が倍くらいに戻ってしまいました。
もしまた市況が悪くなって株価が下がったら、買い増そうと目論んでおります。(少なくとも今は)
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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