結論
土地神話に未練がありそうな財務状況。体質微妙。とにかく土地の売却と有利子負債の返済を最優先すべきかと。。
目次
事業概要
まずはヒューリックの事業についてです。
ヒューリックの事業は不動産事業、保険事業、その他の3つです。
中でも不動産事業が中核事業のようで、その中でも内容によって、不動産賃貸業務、不動産開発業務、アセットマネジメント業務、その他の4つに分類しています。
不動産事業は財務的には最も厄介というか、不安な事業の一つです。
理由としては2つあります。
①レバレッジをかけて(借金をして)いることが多い。
②市況の変化が激しく減損、評価減のリスクが高い。
①レバレッジをかけて(借金をして)いることが多い。
レバレッジというのは借金をして自己資本以上の取引をすることを指します。
具体的な例を一つ。
例えば1,200万円で売る不動産を原価1,000万円で作って売るとします。原価の1,000万円を全て自己資金から出したのであれば、売れた場合の利益率は20%です。ただ、ほとんどの不動産事業の会社は、これを自己資金ではやりません。
例えば400万円ほどを自己資金にして、600万円を借入れて不動産を作ります。こうすると、借入金は低い金利を払って返済するだけなので、ほぼ1,200-400=800万円が不動産会社の利益です。利回りは200%となり、全てを自己資金でやった場合の10倍になります。
ただ、一方でリスクもその分大きくなります。
仮に1,200万円の物件が実は800万円でしか売れなかったとします。自己資本1,000万円で作っていた場合は20%の損で済みますが、400万円を元手にしていた場合、200万円の損は400万円の元手に直撃しますから、50%の損になります。
これがレバレッジという手法です。
(これはビジネス全般にも言える事で、借入が多い会社は意識するしないに関わらず、レバレッジのリスクを抱えています。自己資本利益率が高い会社は、レバレッジによって支えられている会社も多いです。そういった会社は不景気になると一気に損失を計上して金が回らなくなり倒産する事が多いのです)
不動産業はこの手法を取る事が非常に多い業種ですから、よほど慎重に見る必要があります。
②市況の変化が激しく、減損、評価減のリスクが高い
簿記を勉強している方はご存じかと思いますが、固定資産や棚卸資産といった資産は会計上、それを取得するのに費やした金額で記帳されます。
ところが、不動産は市況が変動するため、購入、建築した値段よりも実際の評価額が下がる事があります。そうなった時、会計上は固定資産であれば減損、棚卸資産であれば評価減という帳簿上の価額を下げて損失処理をする必要があります。
ですが、会社や会計士がそれをどこまで正確にできるかは微妙なところです。
特に不動産など、市況が悪くとも売れる時は売れてしまう事もあります。賃貸に出している不動産は想定キャッシュフローの金額合計で価値を決めますが、それだって推測でしかありません。そんなあやふやな状況で減損、評価減を決行するのは実務上非常に困難です。
つまり、固定資産にしても棚卸資産にしても、会計上、帳簿に載っている金額が本当に今の正しい価額であるかは、誰にも分からないのです。
よって、資産に固定資産や棚卸資産の額が大きい場合は、仮に減損しても十分耐えられる純資産があることを確認しておく必要があります。
上記二点は不動産事業メインであるヒューリックを分析する中で特に注意しておかねばならない部分です。
セグメント別
セグメント別で状況を確認します。
不動産事業:3,325.6億円(93.0%、利益率28.9%)
保険事業:29.9億円(0.8%、利益率20.7%)
その他事業:217.2億円(6.0%、利益率2.4%)
保険事業はそれなりの利益率ですが売上に占める割合が軽微、その他事業は売上が多い割に利益率が悪い。という事で、ヒューリックの業績を左右するのはやはり不動産事業の成否にかかっていると思われます。
業績推移
経常利益率の推移は25.0%⇒23.8%⇒21.4%⇒25.2%⇒23.7%
この規模の会社で20%以上の利益率をキープするのはかなりの難易度です。
ちなみにこの高利益率はレバレッジの影響ではありません。レバレッジによって良化するのは「自己資本利益率」であり、付加価値率である経常利益率は資金規模を増やした所で良化させる事はできません。
つまり、同社の不動産事業はかなりの付加価値を生んでいるものと思われます。
経営方針
いまいちはっきりしない書き方です。
経営者による分析の所を見てみると以下の指標を使っているようです。
基準として、なんだかな、といった印象です。
経常利益は絶対額で見てますから、あんまり付加価値率は気にしていないようです。
EBITDAは以前別記事でも解説しましたが、結構昔にその意義が疑問視されて現代ではあまり使われてない指標です。私もどんなに考えても、企業がこの指標を正当化する論拠が見つかりませんでした。
ネットD/Eレシオというのはざっくり言うと有利子負債/純資産なんですけど、3倍以内の基準が分かりません。借金は本来すべきではないですから、3倍以内ならOKなんて理屈はありません。少なければ少ないほど良い筈です。わざわざ3倍という基準を設ける意味が分かりません。
ROEは目標数値として適切ですが、ネットD/Eレシオが3倍のレバレッジかける前提でROEが10%以上という目標は低過ぎるんじゃないかと。。
確かに実績としては良いところでしょうけど、レバレッジかけなければROE3%~4%の事業って資金効率から言って明らかに非効率だと思います。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローがほぼ赤字で、財務活動によるキャッシュ・フローによって賄ってますね。借り入れによって規模を拡大しているだけの印象です。
ただ、実はヒューリックは不動産事業の中でも、安定したキャッシュフローが入りやすい不動産賃貸事業をやっていますからまだマシな方です。
開発販売しかやってない不動産会社は悲惨で、フリーキャッシュフローどころか営業キャッシュフローが赤字の所が多いです。
(1,000万円の売り上げが立ってキャッシュが入っても、次の仕入れに2,000万円使ってしまい常にキャッシュフローが赤字の状況)
そういう会社に比べれば、まだヒューリックは安全めではあります。過去のリーマンショックなどの金融危機を乗り越えて生存しているのはその辺りが強いからかと。。
とはいえ、一般的な感覚からしてリスキーな状態なのは変わりありません。徒な拡大志向を止めてキャッシュフローの健全化とキャッシュ積み上げを考えるべきではないかな、と思います。
フリーキャッシュフローが潤沢になれば、自社株買い等に資金を回す事もでき、不用意な拡大よりも低リスクで資金効率が上昇するはずです。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
うわ~・・・という感じです。
有形固定資産が1兆3445億円(75.7%)ありますね。。
しかもそのうち80.5%が土地です。これは資金繰りがキツそうです。。
建物や機械装置といった減価する固定資産は、時間の経過と共に経費になるので売上と相殺して法人税のキャッシュアウトを防ぐ効果があるんですが、土地は償却(経費化)が無い上固定資産税でお金ばかり出ていくので、持っているだけで資金繰りが厳しくなります。土地をこれだけ持っているなら、そりゃあ借入も必要になります。
しかも、これだけの土地を持っていて、果たして今の帳簿価額は正しいのでしょうか。おそらく国内の土地なのでしょうが、現代日本は人口減少に伴い土地の値段はどんどん下がってきています。いつから保有しているのか分かりませんが、この土地は全て売り払ったら、本当にこの値段で売れるのでしょうか。
どっかのタイミングで大幅減損になりかねないのではないかと。既に誰が最後にババを引くのか、という仁義なきチキンレースは始まっているかもしれません。
一応、投資有価証券や販売用不動産といったリスク資産も一千億以上づつあるんですけど、土地の怖さに比べたら可愛いものですね。。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は全部で1兆1,461億円です。
一方で純資産は4,619億円。絶対値だけで見ればため込んでいるな、と思うのですが、保有している土地の金額と有利子負債の金額を見た後だと、心もとないです。
資産の中でもリスク性の高い資産を合わせると1兆5,945億円に上ります。
(固定資産1兆3445億円+販売用不動産1,170億円+投資有価証券1,330億円)
これらの資産にとっては、純資産は29.0%に過ぎないため、価値が3割落ちた場合、事実上の債務超過となる可能性もあります。(あくまで可能性ですが・・・)
ヒューリックは純資産の倍以上のレバレッジをかけているため、このように資産価値の下落が純資産に直撃して大きな棄損を生む危険性があります。
従業員の状況
従業員数の推移、傾向はその会社の規模拡大への意識を表します。
見て頂くと分かる通り、ヒューリックの従業員数は増加傾向にあり、直近で倍くらいに膨らんでいます。これはその他セグメントに属する日本ビューホテル株式会社を新たに連結グループに含めた事によって一気に膨れたものです。
これは会社として不動産事業で稼いだお金を使い、3Kビジネスに進出しようとするという経営方針によるもので、今後も継続されると思われます。
しかし上記で見た通り、その他ビジネスの利益率は低く、今後規模が拡大したからといってそれが改善される保証はありません。むしろ規模が拡大すると普通、利益率は悪化するので、今よりさらに体質が悪化する可能性もあります。
個人的にはあまり良い判断とは思えません。
ちなみにヒューリック(不動産事業の人)は、給与が滅茶苦茶良いです。
不動産会社は概して良いと聞きますが、普通の会社の役員級ですね。
役員は役員でまた高いです。億単位がゴロゴロしてます。
私は報酬は役割や成果に見合った額であれば、いくら貰ったって良いと思います。100億稼げる人間なら10億貰ったって文句を言われる筋合いは無い筈です。ただ、利益にも質があり、会社にも体質があります。
現状のヒューリックの利益はキャッシュインの少ない、質の悪い利益ですし、ROEもレバレッジをかけているから高く保たれている感が否めません。なにより財務状況から見て、体質が健全とは言い難く、にも関わらず新しい事業に参入しようとする。
果たしてその意思決定はいかがなものか。。
経営陣や社員は会社が赤字になったとてお金を返済する必要はなく、最終的に返済するのは企業であり、投資家の財布です。であればそもそも経営陣、従業員は絶対値の利益ではなく、企業体質ベースで評価されるべきであり、現状のヒューリックの体質から見ると、経営陣・従業員は貰いすぎではないかな、という気がします。
デリバティブブームの際に、アメリカの投資銀行のトレーダーがハイレバレッジをかけ、成功したら高額報酬を受け取り、失敗したツケは会社(株主)が払うという構図があったそうですが、現状のヒューリックの高額報酬は成功報酬を受け取っている段階のようにも見えます。。
リスクとリターンは基本的に同じ人間が払うべきで、それが成立しない状況は必ず後で問題になると思います。
まとめ
ヒューリックは一般的な不動産会社の中では、営業キャッシュフローが黒字な分、かなり健全な部類に入ると思います。また、本文では詳しく書きませんでしたが、アセットマネジメント業務というREITの運用もしています。これも資金繰り的にはポジティブな話で、自社で持っていた物件を証券化して資金を調達するルートを持っているという事なので、他の不動産会社より有利な筈です。
だからこそ浮き沈みの激しい不動産業界で長く生き残ってきた筈で、その力量は賞賛されるべきものです。
ただ、日本という国が衰退傾向にある今後もそうあり続けるとは限りません。コロナによるオフィス需要の減少などは、不動産業界にとっても大きな変化を与える筈です。
特に今保有している土地の金額は異常で、土地神話のあった時代ならいざ知らず、早々に手を打ち整理しなければ、後で反動が来るのではないかと懸念されます。
個人的にはヒューリックは何をおいても、土地を売却して資産を圧縮し、浮いたお金で有利子負債を返済していくべきだと考えます。キャッシュフローを健全化した後で新規ビジネスでもなんでも始めればよいのではないかと。今のままではツケを先延ばしにしているようで、いずれ酷い事になるのではないかと心配です。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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