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【4732】ユー・エス・エス~有価証券報告書の読み方~

結論

ビジネスモデルと市場でのシェアの強さを感じさせる内容。ただ、B/Sの圧縮についてまだ改善の余地があるように思う。

 

目次

 

事業概要

まずはユー・エスエスの事業についてです。

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ユー・エスエスの事業はオートオークションとその周辺事業のようです。

オートオークションで思い出すのは前に分析したシステム・ロケーション。

同社は2017年にオートオークション事業から撤退してました。

業界シェアを調べてみると以下のような資料をUSSが出してました。

http://daiwair.webcdn.stream.ne.jp/www11/daiwair/qlviewer/pdf/1908204732ihhu7wb.pdf

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USSが業界の2位以下の6社を合計したよりも多い、ダントツトップなんですね。素晴らしいです。トップというのは業界のスタンダードを決めることができる非常に有利な立場です。

システムロケーションはこういった業界図をひっくり返すのは困難と見て撤退したのかもしれません。

こういった強みをどう活かしているのか、考え方を見ていきたいと思います。

 

 

セグメントの状況

ユー・エスエスの事業はオートオークションが中核で、その周辺事業が少しある形のようです。

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オートオークション事業:637.7億円(81.1%、利益率55.6%)
中古自動車買取販売事業:91.0億円(11.6%、利益率1.1%)

その他事業:57.4億円(7.3%、利益率6.4%)

明らかにオートオークション事業の利益率が飛びぬけてます。

利益率50%オーバーはなかなか見ない数値です。中古自動車買取販売やその他事業(リサイクル)とかは明らかに不採算事業ですし、業種として先行きが明るいようにも思えないので、撤退してしまった方がよいのではないかな、と。

なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note

少なくともユー・エスエスがやる必要はないのではないかと。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は51.3%⇒49.1%⇒48.8%⇒47.6%⇒47.0% 

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利益率たっか。。凄いですね。。

業界トップというのに加えて、オートオークションという業種はオークションをやって手数料を稼ぐビジネスなので原価はなく、利益率が高めになるタイプのビジネスなのかな、と。

理由がなんであれ、利益率が高いビジネスというのは、不景気等になって売り上げが落ち込んでも赤字になりにくいです。成長が鈍っても後戻りはしない。これは複利計算を考えたときに大きなポイントです。

 

余談ですが、ウォーレンバフェットは投資で最も守るべきは、以下の2つのルールであると説いてます。

ルール1.損をしないこと

ルール2.ルール1を忘れないこと

この言葉を単に株価のPBR、PERといった株価の安全余裕度で捉えている方が多い気がします。師匠グレアムが唱えたシケモク手法の前提であれば、その解釈は正しいのですが、ウォーレンバフェットは常々、「買うのは事業であって株券ではない」と説き、PBR、PERが高い事業もバンバン買ってます。

つまり、この「損をしない」というルールは単に株券の割安性、安全余裕度ではなく、事業としての利益で解釈するのが妥当かと思います。そして、利益率は損しない事業を見極めるための最も簡易的な指標であると言えます。 

(ただ、売上が急変する性質の業種だったり、不動産業のようにBSにハイリスクな資産を抱えている場合は突然赤字になる可能性はあるので、「高利益率=損しない」ではないですので、あまりP/Lの数値を過信しない注意は必要です)

 

 

 

経営方針

経営上の指標としてはROEを重視しているようです。また、配当性向も55%以上をベースにするという恐ろしいほどの還元率です。投資家に誠実な会社であると思います。

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具体的に数値まで出してくれているのも素晴らしいです。

しかし、目標が15%というのは正直拍子抜けで、実績が11.3%というのも?マークがつきます。あれだけの利益率がありながら、それくらいのROEにしかならないということはB/Sに難があるのだろうな、と。

一応、過去のROEの推移をチェックします。

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決して悪い結果ではないのですが、同社ほどの利益率の会社なら、まだまだ効率上げられるんじゃないかな、と。

資本効率とは要するに利益を最大にして、B/Sを最小にする考え方であり、同社の利益があれだけ高利益率なら、あとはB/Sで無駄なものを整理して削れば達成は容易な気がします。

 

 

 

キャッシュフロー

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基本的にフリーキャッシュフローは潤沢です。

3年前に何かしら大きく投資に使っているようなので、内容を見ます。

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どこかを買収してますね。

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なるほど、元東証二部上場企業でもあるライバルの中古車オークション会社ですね。同じ業界の会社を吸収してさらにシェアを伸ばした、という事ですね。

非常に貪欲な会社ですね。。

戦略としては悪くない買収だと思いますが、一方でかなりののれんと顧客関連資産が発生しています。

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これらはかなり資産性の薄い資産なので、全損してもよい財務状況の必要があります。B/Sがどんな具合かチェックしてみましょう。

 

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が507.3億円(23.1%)と、意外に割合として少ないです。

何が多いのかな、と見ていくと思わず絶句。。有形固定資産が1,067.5億円(48.7%)、しかもそのうち土地は半分以上の650.3億円(29.7%)。

オークションと聞いて私はネットオークションをイメージしていたのですが、会場を運営する昔ながらのリアルオークションスタイルなのですね。。

このB/Sの構造を見る限り、東京ドームとかUSJみたいな固定資産を軸にしたビジネスモデルと理解した方が良さそうです。

ただこのビジネスモデルの怖さは同社の事業リスクのところにも書かれています。

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要するにオートオークション業界はすでに成熟期に至っており、大きな成長は困難な市場です。また、インターネットやVRといった新技術によって、今後リアルオークションの必要性は少なくなっていく可能性があります。

そうなれば有形固定資産がキャッシュを産まなくなり、減損は免れません。土地は基本的にずっとそのまま残るので、いずれは減損になることを覚悟せねばならないかと。

例えば、もし今後オートオークションがVRによる代替などが進み、リアル会場が縮小する可能性が高いなら、早いうちに有形固定資産の処分と新技術への投資に力を入れなければ、一気に置いて行かれる可能性も考えられるかな、と。

投資の回収に時間のかかる固定資産はなるべく少なく、ハードからソフトに。これが現代ビジネスのトレンドであり、リスク管理として有効な戦略かと思われます

シェアでトップをとるのは確かに重要ですが、一方で固定資産を増やすことへのリスク管理が甘いと体質として不安です。

 

おそらくジェイ・エー・エー買収の名残でしょうが、のれんも294.5億円(13.4%)と結構大きいです。

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会計基準が日本基準ですから、いずれは償却されるでしょうが、さっさと税務上の5年で償却してしまえばよいのに、のれん償却の上限年数である20年間も選択肢に入れてしまうあたり、資産のリスク管理が甘そうで怖いです。。

金額的にはそれほど大きくないですが、投資不動産とかがあるのもなんだかな、と。

ただでさえ固定資産でB/Sが大きいのだから、資金を寝かせるのでなく、新規技術への投資や株主還元にお金を使うなり、しないのかな、と。

 

総じてB/Sの圧縮が手ぬるい印象です。

利益率が非常に高いのにROEが一般的な水準なのはそういった部分が原因なのかな、と。

 

あと、余談ですが、再評価に係る繰延税金資産というのは結構珍しい資産だと思います。普通、土地を再評価したら評価が上がって繰延税金負債になるんですけどね。。

インフレ対応が目的の土地再評価でマイナスになるとは珍しいケースかな、と。

まあ、これはあまり評価とは無関係の雑談です。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は全部で29.4億円(1.3%)ですね。全体からすれば微々たるものです。

というか、親会社単体ではないので、子会社のどこかが資金繰りのために借りているもので、原則として無借金を意識した会社なのだろうと思われます。

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純資産は1,875.9億円(85.6%)と十分すぎるほど充実してます。これだけ積んでいるから土地をあれだけ持っていても資金も十分なのだろうな、と。

これだけ純資産が充実しているのであれば、のれんとか土地とか、固定資産関係は早々に整理して筋肉質な経営にかじ取りをした方がよいのではないかな、と思いますが・・・おそらく様々な理由があるのでしょう。深追いはしません。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

従業員の給与はなかなかの水準です。勤続年数もそれなりに長いです。

環境としては悪くないのかな、と。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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取締役の一人当たり平均は42百万円です。従業員給与や利益率といった部分を考慮してみれば、それほど問題視する額ではないかな、と。個人的には取締役が7人もいる?とは思いますが、それでも一桁台であれば許容範囲なのかな、と。

 

 

 

大株主の状況

COOの瀬田氏とCEOの安藤氏が大株主に名を連ねていますが、意思決定権を牛耳るレベルではありません。私物化されるようなガバナンスリスクはないかと。

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株主還元

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方針のところでも触れましたが同社の配当性向は55%を目指しており、これは還元率としてはかなり大きいと思います。株式分割、増配などを意識してやっているのもよいです。

ただ、B/Sの改善や削減によってまだまだキャッシュフローを改善する余地はあると思いますし、そもそも資産が圧縮できれば配当性向100%以上の配当すらできるようになり、DOEで考えることもできる筈です。

折角十分なポテンシャルを持っているので、今一歩踏み込んだ還元を検討頂きたいな、と。

 

 

 

まとめ

利益率が高く、シェアも高いので、稼ぎやすいビジネスモデルを確立しているといえると思います。しかし一方でROEを重視するといいつつ、BSを圧縮する取り組みについて具体的な施策が見当たらず、積極的な印象を受けませんでした。

できるできないはさておき、B/Sの圧縮は将来的なリスク低減とキャッシュフローの改善に繋がる唯一のルートなので、その意欲が見えないのはマネジメントの体質評価としてはNGです。

中古車販売オークションビジネスがこの先10年、20年でなくなるとは思えませんから、当面は安泰なのかもですが、今後の技術革新の内容によっては、固定資産を抱える会社は大きな痛手を被るリスクがあります。

今のうちから先手先手で手を打っていく姿勢がどこかに見られればいいな、と思いました。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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