結論
営業視点でのマネジメントをしている感が強い。攻めには強いのかもしれないが、設備投資の妥当性やBSの圧縮、資金の効率性などを見ていかなければ、将来的に大きな損失に繋がる可能性があると思われる。
目次
事業概要
まずはOSGの事業についてです。
OSGの事業は精密機械工具の製造・販売です。
セグメントの状況
OSGの事業は、精密機械工具事業の単一事業ですが、セグメントは日本、米州、欧州・アフリカ、アジアと地域に分けられており、それぞれに製造拠点と販売拠点が存在しているので、製造~販売までの一気通貫、地産地消が原則なのかな、と。
- 日本:578.4億円(47.5%、利益率4.3%)
- 米州:192.3億円(15.8%、利益率8.5%)
- 欧州・アフリカ:195.0億円(16.0%、利益率2.5%)
- アジア:253.0億円(20.8%、利益率8.4%)
総じて利益が薄い印象です。
ただ、この2020年11月期はコロナショックのただ中で、特に米州、欧州・アフリカへの影響があると思うので前年実績も見てみてその性質は考えるべきかと。
前年は以下。
- 日本:767.7億円(50.1%、利益率15.7%)
- 米州:237.3億円(15.5%、利益率11.5%)
- 欧州・アフリカ:210.3億円(13.7%、利益率5.6%)
- アジア:315.9億円(20.6%、利益率12.4%)
こうして見ると多少全体的に良くはなりますが、欧州・アフリカに関してはあまり良くないですね。確かに精密機械工具事業という性質上、モノづくりが盛んかつ人件費の安くなりがちなアジア圏の需要が高く、欧州・アフリカでの事業はしにくいのかな、と。
ただ、欧州地域は今後50年での成長発展の見込まれるアフリカ、中東地域に近いという地理的な利点があるため、戦略的に撤退とかはし辛い地域なのではないかと。他のグローバルカンパニーを見ても中東、アフリカ、欧州とひとくくりにしている会社が見られますので、グローバル企業としてはどうにか存続しつつ、採算改善したい部分になるのかな、と。
あと、独自採算なのかと思いましたが、日本セグメントは内部売上が220.5億と結構あるので、他セグメントに対して製品などを供給しているようです。
各国での生産も勿論あるのでしょうが、現時点では開発・生産の中心拠点はあくまで日本になるのかな、と。
業績推移
利益率の推移は16.9%⇒15.9%⇒17.2%⇒15.5%⇒8.6%
直近はコロナ影響を受けているため利益率が一桁ですが、元々の利益率は製造業にしてはかなり健闘している水準です。
ただ、このコロナ影響でも見えるように、製造業のように工場を自前で持っている企業は売上が上がろうが下がろうが発生する固定費(減価償却費とか人件費とか、建物機械の維持メンテナンス費とか)が高くなりがちなので、売上が減っただけでも結構利益率が苦しくなります。今回のコロナ影響にしても売上が前年対比で82.2%程度にも関わらず、利益は45.4%と半分以下になってます。ここだけで見ると損益分岐点売上高は900億円くらいかな、と。。
よほど競争力のある製品でない限り、付加価値が出し辛く、難しいのが工場持ち企業の特徴です。工場は危険が伴うためただでさえ安全管理が大変なのに、量産製品ならば生産量は必達。もし生産量が減少すればギリギリまで必要経費を削らなければならず、超過すれば責められる。材料在庫管理を誤ればキャッシュフロー管理に響くが、在庫が不足し減産しようものならさらに責められる。こうした対立によって生まれる経営と現場の溝と重い空気。
機関投資家にはモノづくりこそ日本の底力、とか語る人もいますが、本当に彼らは現場の闇を知っているのか。。機械と人とが入り混じり命の危険と隣り合わせの現場とか、経営からの無茶なコスト要求に苦しむ現場とか、現場作業員の賃金交渉する労組の現場とかを見た事あるのかな、と。エリート高給取りが、安全と景観の担保された工場見学とか、経営陣の語るストーリーを聞いただけでモノづくりの美談を語っているとモヤっとするんですよね。。
脱線しましたが、要するに工場を抱える製造業は経営が難しいんです。なので私は工場抱える企業は経営者の能力が高いように見えても警戒します。工場抱える製造業の会社のPERが低くなりがちなのは、結局そういうリスクを含んでの事だと思います。
財務指標
OSGはあくまで中計として売上と営業利益を掲げているだけで、質的な管理の指標は特に無さそうです。
対処すべき課題の所を見てみても、シェアアップとか新規顧客開拓、製品ラインナップの拡充など、販売視点が多い気がします。経営戦略というより営業戦略という印象。販売あっての会社、というのは勿論なんですが、経営は売上を伸ばせればいいというものではなく、開発・製造・物流トータルの総合力が必要です。
経営者の視点として少々物足りない気がします。
ちなみに基本方針自体は顧客、社員、株主と、当ブログの考える3大ステークホルダーを網羅しており、バランスの取れた方針になってます。
キャッシュフロー
一見して分かるようにフリーキャッシュフローが少ないです。
直近2年は赤字で、営業CFを目いっぱい使っている印象です。
2019年度は有形固定資産で大きいです。
ただ、2019年の設備投資説明ではあまり具体的な内容が見えません。
前年の投資予定を見てみると多少内訳が分かります。
こうして見ると、特定の投資で凄く増やしたというより、経常的な設備投資が多かっただけの印象です。フリーキャッシュフローが凸凹して計画性があまり感じられないので、投資管理、資金管理などはあまり重視していないのかな、と。
あと、子会社株式取得についてですが、先の方針の部分で触れている通り、M&Aなども積極的に行っているようです。
しかも、直近5件の買収の内、4件は欧州・アフリカセグメントでの買収ですね。
欧州・アフリカセグメントの不調は、買収した会社を御し切れていないという事もあるのかもしれません。のれんの償却もそれなりに響くでしょうし。。
以下はのれんの償却実績。
やはり欧州・アメリカの負担が大きいですね。
残高から見て償却完了までに7年くらいかかりそうですから、大幅な効率改善がされない限り7年は欧州・アフリカセグメントの利益率の低迷を覚悟すべきかと。
先の方針でも販売重視、PL重視の方針なのかな、と感じてましたが、あまり経理的、経営的な見方をしないマネジメントなのかもしれません。これは当ブログとしてはマイナスのイメージです。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が378.1億円(18.9%)と工場持ち製造業らしく薄いです。
在庫は420.2億円(21.0%)、在庫滞留は233日。リードタイムが結構長そうですね。各セグメントごとに製造拠点がある割には長い。先にラインナップを強化とありましたが、製品点数が多いのかもしれません。在庫が多くなればそれだけ評価減のリスクも高くなりますし、運転資金も多く必要になります。在庫を多く持ちたいというのは機会損失を避けたい営業の希望だったりするので、先の方針の所で触れたように、本当に営業の意見の強そうな会社だな、と。
有形固定資産が796.0(39.8%)と資産の中では最も大きいです。キャッシュフローのところでも触れましたが、経常投資と思しき投資なのに投資キャッシュフローが凸凹という、計画性の薄そうな投資なので、果たして採算が取れているのかも不安です。
そもそも投資キャッシュフローのキャッシュアウトって不確実性が高いので、営業キャッシュフローの7かけくらいに抑えておかないと、目先の利益は黒字でも、どこかで減損計上などで大きく赤字を出し、トータルでは利益が残らない可能性が高いです。
2か年連続のフリーキャッシュフロー赤字というのは、投資過剰の感があります。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は417.7億円(20.9%)。あれだけ在庫と有形固定資産が多ければ資金繰りに借入は不可欠とは思います。資産リストも決してリスクの低いリストではないので、減損が生じた場合は、レバレッジがかかっている分、純資産へのインパクトも大きめになりそうです。
純資産は1,401.8億円(70.1%)
結構外部資本に頼っている割に、営業債務が少ないからか分厚いですね・・・さすがは歴史の古い会社、といった所でしょうか。
従業員の状況、役員報酬
従業員の給与は6.0百万円と平凡な水準ですね。
ただ、グループ合計で7,173人という規模感や製造現場のブルーカラーが多いという条件から考えれば、高めではないかな、と。
勤続年数が長いのも、待遇としてはそれなりであることの表れではないかと。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役1人当たり平均79.0百万円ほどです。結構乖離はありますね。グループの規模感から見ればそれくらい貰っても罰は当たらない気はしますが、直近の業績とかマネジメントとして見ている視点とかを考えると、微妙ですね。。
しかもCEOとはいえ会長職である石川氏が1億もらっているのですね。。
これだけの規模のグループで純利益が50億ほどの利益率にも関わらず会長の報酬が1億超というのは、多いのではないかと。グループ規模が大きく、管理が大変だから高い報酬を受け取れるというロジックが通用するのは中間管理職までで、トップはマネジメントの質や株主へのROEに応じた報酬を受け取るべきではないかな、と。
規模の大きさはそれだけ投資家にとってリスクが高い事も意味しますから、そのスケールを小さくしてリスクヘッジすることも含めてトップが考えるべきではないかと。先の方針からはそうしたマネジメントの雰囲気は感じられなかったです。
大株主の状況
大きな影響力を持ちそうな株主はいません。浮動株が多い企業のようですね。
逆に言えばそれだけ役員が力を持っている可能性があります。
関連当事者取引を見てみると
取締役の小野氏の企業に対して工事を発注しているようです。
関連当事者取引は公平性の証明がどうやったって不可能なので、ない方が良いです。
あと、取締役にOSG創業時の名称「株式会社大沢螺子研削所」にある大沢姓のお二人がいるところを見ると代々創業家が役員を務めている形なのかもしれません。
大株主としての権限が無くとも、他に大きな権限を持つ株主がおらず、役員に居座っていれば同族企業を継続する事はできます。
基本的に同族とか関係会社取引などが見えるのは、当ブログの方針上はガバナンスとしてマイナス評価です。
株主還元
連結ベースでの配当性向30%以上とのこと。
目標自体は具体的で悪くないですが、ROEの推移を見ているともっと配当を吐き出して純資産を減らしてほしいところです。
ただ、現金を吐き出そうにも在庫、有形固定資産といった資産リスクが大きいので、先ずはそこを圧縮して、有利子負債を返済してからの減資なのかな、と。あくまで健全なBSになった上で配当を吐き出しておかねば、どこかで痛い目にあいそうな気がします。
まとめ
方針として営業視点でのマネジメントをしている感が強い。攻めには強いのかもしれないが、設備投資の妥当性やBSの圧縮、資金の効率性などを見ていかなければ、将来的に大きな損失に繋がる可能性があると思われる。
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