結論
記載の仕方は好印象。ただ、未だ結果の数値がついてきていないように感じる。優れた文面に沿った意思決定を粛々と行う事で、今後の飛躍に期待したい。
目次
前置き
アンリツは調査予定でしたが、読者様にリクエストされたため前倒します。
事業概要
まずはアンリツの事業についてです。
アンリツの事業は、計測及びPQA(プロダクツ・クオリティ・アシュアランス)の開発、製造、販売と不動産賃貸業のようです。
かなりシンプルな事業説明です。
あまり一般的な製品ではないので、どういう特徴がある部品なのかとか、会社の強みとかもう少し説明が欲しいところです。探してみると、少しだけ業績の説明の所にありました。
計測事業は5G商用化に関連する事業のようです。
私は技術に疎いので5Gについてお勉強です。
今更聞けない「5G」とは?第5世代移動通信システムをわかりやすく簡単に説明 | 株式会社クロス・コミュニケーション コラム
なるほど・・・要するに5Gになると回線が早くて快適になるわけですね。。
確かにYouTubeやらVRやら、やり取りするデータ量はどんどん大きくなってますから、こういったインフラ整備は不可欠かと。その設備投資に関連する計測器を作っているなら、マーケットとしては有望な気がします。
あと、主要な会社を見て気づくのは、計測事業が各国に展開されている点です。
北アメリカ、南アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニアと多くの地域、国にまたがるグローバルカンパニーですね。
ここに拠点が書かれてないのは地政学的リスクの高い中東、アフリカくらいでしょうか。ただ、中東・アフリカ向けのビジネスであっても拠点をヨーロッパにおいておくのはよくある話なので、おそらく世界中に向けて売っているグローバルカンパニーなんじゃないかな、と。
セグメントの状況
アンリツは計測、PQA、その他の3つのセグメントに分かれてます。
- 計測:748.9億円(67.8%、利益率23.7%)
- PQA:214.2億円(19.4%、利益率6.3%)
- その他:140.7億円(12.7%、利益率12.8%)
主力である計測器の利益率は十分高いです。
しかしPQAについてはリストラ対象と考えるべき水準かな、と。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
始めたばかりの先行投資事業であれば致し方ないですが、5年前のセグメントを見てみるとPQAは売上規模も利益率もそんなに変わってません。
ずっと放置しているとすれば、当ブログの評価としてはマイナスです。賢明な経営者ならテコ入れなりリストラ(撤退)なりをすべきではないかと。
地域別売上
アンリツはグローバルカンパニーですから、どの地域が主要な市場なのかを確認しておきます。
多いのはアジアと日本で69.4%と7割を占めてます。
この業界についてGoogle先生に聞いてみると、世界最大手はアメリカのキーサイト・テクノロジーでシェアは25%とのこと。
アンリツはその半分だそうなのでシェアは12.5%くらいでしょうか。
アンリツの売上がアジア・日本に偏っているのは、キーサイトに比べて地理的優位性などもあるのかもしれません。
あと、非流動資産が日本に集中してるので、設備投資の明細を見てみます。
アメリカに工場がある以外は、日本に開発生産拠点を絞っているようです。
つまり、海外の拠点は販売や現地サポートがメインで、日本で作ったものを世界中に販売するビジネスモデルなのかな、と。
業績推移
利益率の推移は4.1%⇒5.4%⇒11.4%⇒16.1%⇒18.7%
2018年-2019年で急激に利益率が改善してますので、その理由を確認するため、当時のセグメントを確認します。
計測器の利益が4倍以上に伸びてます。
計測器の利益率が向上した事と、売上に占める計測器の構成が増えた事が、アンリツ全体としての利益率向上させたのかな、と。
計測器が伸びたのは、やはり5G絡みのようです。
計測事業は利益率が高いですし、分野としても将来性のある事業という気がするので、いよいよPQAとその他事業は足を引っ張っている感があります。
財務指標
指標のチョイスはスマートな印象です。
あと、触れておきたいのが、経営方針。
2021年4月付(結構最近ですね)で経営ビジョン及び経営方針を改定したそうです。
個人的にはこれはかなり印象が良いです。
先ず理念や方針の設定目的もきちんと明記してあるのが良いです。
まさに理念や方針の主眼は従業員が「その会社らしさ」を理解して、同じ方向を向き、その力を最大限に引き出すためにあります。マネジメントがその辺りをしっかり意識しているのは立派なことだと思います。
で、この設定された理念、ビジョン、方針、かなり良くできていると思います。
通り一辺倒な言葉や曖昧な言葉が少なく、かなり具体的です。一方で事業領域、コアコンピタンスを匂わせつつ、必ずしも特定の業界に捕らわれない自由度もあります。
しかも多分、レイアウトとかも考えているんじゃないかな、と。カタカナ、ひらがな、感じ、句読点などの記号のバランスが良い。言葉のチョイスにもセンスを感じます。
方針にもそれぞれ「誠実」、「和」、「意欲」、「志」とキーワードを設けることで、シンプルに総括する工夫もあります。これはよく練られている。。
社員の精神的基礎を構築するに十分な内容かと。
後は企業体質をどこまでこの理念、ビジョン、方針に寄せられるかです。理念のようなものは、ただ掲げていれば良いものではないです。マネジメントが率先して理念に沿った意思決定をする事で、社員は考え方を理解して少しづつ社内の体質に浸透します。
例えば理念の「オリジナル&ハイレベル」を測る指標は付加価値率、すなわち利益率になると思いますから(オリジナル&ハイレベルなビジネスが低利益率な筈がない)、セグメント別で見た時の利益率をベースに事業構造改革をするなら、かなり良い兆候と考えてよいと思います。
改定したばかりですから、今後のマネジメントの意思決定に期待です。
キャッシュフロー
キャッシュフローを重視しているだけあって、FCFが非常に厚いです。
これは資金繰りが楽そうです。
工場持っているのに資金繰りが楽なのは何でなのかな、と理由を考えてみたのですが多分機械装置とかが少なくて、建物や構築物が多いからかと。
つまり、生産量を維持するための必要投資がかなり少ないと思われる。
これは減損リスクを防ぐ意味でもビジネス上有利です。最低限必要な投資額が多いビジネスは運転資金が必要になる上、生産量が減るとそれだけで大損失に繋がりますので。。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が498.1億円(34.6%)と工場を持つ会社にしては多いです。
売上債権の金額は261.8億円(18.2%)で滞留は90日ほどです。まあ、メーカー向けの部品ですから、これくらいの滞留は普通かと。
棚卸資産は200.4億円(13.9%)で、滞留期間は150日ほどです。ちょっと長い気もしますが、アンリツは各国に拠点を持つ会社ですから、各社である程度の在庫を持つことを考えるとある程度の滞留は致し方ない気がします。
有形固定資産は252.8億円(17.5%)です。工場を持っている割に大きくないです。
無駄に世界中に生産拠点を設けていない事や、そもそも大きな機械装置などの投資が必要ないビジネスモデルだからかと思われます。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は41.3億円(2.9%)と軽微です。あれだけキャッシュフローに余裕があるわけなので、あまり有利子負債を借りる必要性はなさそうです。
借入の理由を確認します。
読む限りでは、指標としてROEを掲げている点や、キャッシュマネジメントシステムでの自動借入などが理由ではないかと推測されます。いずれにしても質的に問題は無く、資金効率を意識した運用体制が出来上がっている点はむしろポジティブな印象です。
純資産は205.2億円(68.1%)です。
パーセンテージとしてはそれほど高くないですが、資産にも負債にも大きな問題は見当たらないため、文句なしの水準です。
従業員の状況、役員報酬
給与が783万円と製造業では高めの水準です。勤続年数も長いですし、待遇は良さそうです。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり平均60百万円ほどです。多少高めです。
直近のROEとしては勿論良い水準ではありますが、過去の推移を見ていると、利益と連動していますから、利益が増えたからROEが改善したに過ぎない印象です。
もし本気でマネジメントがROEを意識した経営をしているのであれば、例えば自社株買いや配当などで純資産を減らすなどして、改善する手段はあった筈ですが、それをしてはいない印象です。キャッシュフローは潤沢なので選択支としては十分あり得たのではないかと。
マネジメントとしての重要な仕事である、事業の選択と集中やROEの改善といった部分にあまり手を出していない点は、報酬額には見合ってないように思います。
大株主の状況
特定の支配を受けている印象はありません。
その分浮動株があるわけなので、自社株買いをする余地は十分にある筈です。
ROEを指標としてる割に、ROEをあの推移を放置するのは好ましくありません。
株主還元
DOEを入れているのは悪くないですし、具体的に連結配当性向30%以上と書いてます。
自社株買いについても言及してます。
形としては文句はないですし、実際配当性向は達成しているのですが。
正直もっと自社株買いして良いと思います。
資本効率という意味では、多少借入を増やしてでも自社株を買ってよいと思います。
まとめ
直近での経営理念等の更新は好印象で、各項目の書き方もしっかり考えられている印象です。文面の記載からみればかなり優秀な会社だと思います。ただ、売上高利益率、ROE、株主還元など、ポイントとなる部分の数値を見比べて考えると、まだまだ改善の余地があるように思われます。とりあえずは理念の部分に沿うような選択と集中、株主への利益還元を目指してほしいと思いました。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
企業分析の基本は簿記の勉強から
初月無料で経理の仕事に役立つ150以上の動画が学べるサイト【Accountant's library】
有料note
2020年の投資、分析をざっくりまとめた有料noteを作成しました。
Free-EX Report(2020年版)|フリーランスのエクセル屋さん|note
買って頂けるととても嬉しいです。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com