結論
財務優良、体質不安。自分探しの最中なのかも?ただ、自分探しは他人の芝生を買ったり漁るのではなく自分達の中にある確かな想いを掘り起こして磨き上げる事では無いかな、と思う。
目次
前置き
前回分析したガンホーが今の市場環境では有望かつ割安な気がしました。ただ、ガンホーだけが体質として良いのか、それともコンテンツ業界、ゲーム業界は大体凄いのか、その辺りが分からないので、似た印象の会社をピックアップして、何社か寄り道しておこうと思いました。今回は一時期飛ぶ鳥を落とす勢いだったグリーを見てみようと思います。
事業概要
まずはグリーの事業についてです。
グリーはインターネットメディア事業をやっています。
インターネットメディア事業というと、何ともボかされた印象です。グリーといえばアプリゲームというイメージだったので、アプリゲーム事業と名乗れば良いのに、こういう呼び方をする意図としては、他の事業にも手を広げようとしているor既に広げている事の表れかと思います。
具体的に言えば、まだPOKELABO、REALITYは事業領域がゲームにかなり近い所にある気がしますが、MINE、LIMIA、aumo、WOOZはほとんどGREEの元の事業とはかなり違う気がします。
沿革を見ると2015年のリミアに始まり、少しづつインターネットメディア事業に参入していますが、正直こういったメディアは今更感が強く目新しさは感じられません。
個人的にはこの意思決定は良くない気がします。
タイプの違う事業を抱える企業は、ウチはこういう事を実現するんだ、という主張というか魂のようなものが感じられなくなります。それは投資家だけでなく、組織を構成する社員も同じです。
会社がグループとして一体何を目指しているのかが分からないと、社員は何を基準に判断すれば良いのか分かりません。会社が儲かればなんでも良いのか、流行りに乗れれば良いのか、上司の意図に沿えば良いのか、自分にとって得であればよいのか・・・それぞれが勝手な信念で仕事を始めたら、それはもはや組織ではありません。烏合の衆です。
明確な理念や目指すべき遠大な理想を掲げることは、単なるお題目ではなく、烏合の衆を一個の組織にするために不可欠な要件の一つだと思います。
この参入はこの要件をぼかしてしまっているのではないかと。。
経営陣がどのような背景からそういった選択をしたのかは分かりませんが、もし明確な意図も理想もなくこういった選択をしているとすれば、体質としてあまり期待できない気がします。
セグメントの状況
インターネットメディア事業の単一セグメントのためセグメント別はないそうです。。
グリーの事業をインターネットメディア事業という漠然としたくくりでひとまとめにするのはいかがなものかと。。事業のタイプ別に採算検討をすべきではないかな、と個人的には思います。
業績推移
経常利益率の推移は27.0%⇒15.1%⇒15.4%⇒13.2%⇒8.1%
目に見えて利益率が悪化してきています。
セグメント別を出していないため、特定の事業が苦しいのか、全部が苦しいのか分かりません。
P/Lを見る限りでは売上減がほぼそのまま経常利益に直撃している感があるので、柔軟性のある経費構造では無い気がします。
支払手数料って何なんでしょう。。内容は分かる方は一報ください。
経営方針
目標とする指標は売上高及び営業利益で、特にユーザー当たりの売上高を目標に掲げています。
売上高や営業利益という絶対値評価はあまり好ましくありません。
これらを手っ取り早く増やそうと思えば、増資したり借り入れたお金で適当な会社を買収すれば達成できてしまいます。楽に増やす事のできるような指標はイマイチです。
ユーザー当たり売上高という指標もちょっと疑問符です。同社のビジネスがゲームだけであればこの指標も悪くはありませんが、同社のビジネスはインターネットメディア事業だったはずです。
この目標はゲームしかやってなかった時代から変われていないのではないかと。事業の変化にマネジメント手法がついていってない感があります。
そもそもメディア部門に進出したのは、グリーのミッションが曖昧である事が要因ではないかな、と。
相当ざっくりしてます。
インターネットさえ関係すれば何をしても大丈夫そうなミッションです。「より良くする」とは、何を基準に「世界を良くする」のか分かりません。
「俺、いつか絶対ビックになるんだ」と宣言する絶対ビックになれない人を連想させます。
本当に「ビック」になる人は先ず「ビック」の定義を定め、そのために辿る道筋を定めます。その上で「ビック」への最短ルートを行ける進路を定めます。時間は有限であり、持てる資源にも限りがあることを知っているからです。あれこれ望んでフワフワしていても、時間が経つだけです。
ワンピースのルフィなんかも何も考えていないようで、実はしっかり「海賊王に俺はなる」と具体的に道を定めて、自分の理想の海賊をやりながら、ラフテルとワンピースを探す事で海賊王への道を進んでます。
もしルフィが「俺はビックになる」と言って海賊になったり海軍に入ったりサーカスに入っている男だったら誰もワンピースは読まないと思います。
企業も同じで、目指すべき理念が曖昧だとどこを目指してよいのか分からず、経営資源と時間が浪費され、結局どこにもたどり着かずに淘汰されてしまう懸念があります。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローは黒字です。
悪くは無いんですが投資活動によるキャッシュフローが気になります。
継続的に投資有価証券を買ってます。
単なる資金運用、というのなら良いのですが、過去の沿革から見てかなりの会社を設立、子会社化しています。
9年で15社あまりの会社の設立や子会社化、組織変更に関わっています。
投資有価証券というのはつまりこれらのことなのかな、と。
そう考えると、少々移り気が過ぎる気がします。
それではグリー自身がどうありたいのかが見えません。何らかの目指すべき理想があって、その理想を達成するために買収したり設立するなら分かりますが、今のままでは単に使い道に困った資金で、面白そうな事業を買収したり設立して、ベンチャーキャピタルごっこをしているようにも見えます。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
手元資金は844.7億円(69.0%)で十分な額です。正直これだけキャッシュが豊富なら、ベンチャーキャピタルごっこをしたくなるのは分からなくはない。。もし私が経営者でも多分やりたくなる。
ただ、倫理的に言えばやるべきではないと思います。上場企業は理念を実現する「公器」であって、経営者のドル箱ではないです。ベンチャーキャピタルのような投機性の高い事をしたいなら非上場にして、完全な「ドル箱」化して個人資産としてやるか、余剰資金で配当を出し、受け取った配当でやるべきだと思います。
他で目立つのはやはり投資有価証券176.5億円(14.4%)です。これだけあれば資本金1億円の会社を176社作れるわけですから、やはり規模がでかい。。しかし、本当にこれらの投資有価証券が将来的にきちんと収益を上げるのかは、あれだけの投資量(10年弱で15社を考えると疑念が残ります。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロ、堂々の無借金経営です。
ここまで項目がさっぱりしている負債、純資産の部も珍しいです。
シンプルでとても良いと思います。
先ほど176.5億円の投資有価証券のリスクについて触れましたが、仮に全損してしまっても問題ないほど優良財務です。
直近の移り気な方針や曖昧な理念は賛同しかねるため、将来の期待という意味での私の体質判断は良くないですが、現状の帳簿上から見れば、財務安全性はかなり高い会社さんです。
大株主の状況
創業者である会長兼社長の田中良和氏が47.23%を保有しています。浮動株の中の議決権未行使分を考えれば実質的に田中氏がグリーの株主総会の過半数を握っていると考えるのが妥当だと思います。
こうなると同氏の倫理観が重要になってきますが、以下を見ると少々不安です。
事実上過半数の議決権を握る会社(グリー)と自分が間接的に100%の議決権を持つ会社の取引をさせるというのは倫理上の問題に繋がりかねないと思います。
うがった見方をすれば、例えばテキトーな業務をグリーから受注してグリーのお金をモグナに移す、という事が無いと言い切れるのか、と。
「業務委託契約は適正に決定しております」と書いてますが、サービスの価値は対価を払う側が決めるものですから、対価を払う側であるグリーの意思決定権を握っている田中氏が自分の会社と取引させるとなれば、グリー関係者は忖度するでしょうから、ガバナンス上望ましくないと思います。
勿論これは邪推でしかありませんが、事実がどうであれ、そうした疑念を抱かせるような取引は、よほどの事情が無い限りは避けた方が良いと思います。
こういうのを容認しているのを見ると、少々体質として脇が甘いのではないかな、と思います。
株主への還元
配当方針は基本的に配当性向を定めていないとしつつも、単なる配当性向にとどまらず、純資産に対する配当率にも触れている点は立派だと思います。こういう点は特に理由もなく純資産を貯めるだけ貯めている会社も見習ってほしいものだと思います。
強いて言えば、あっちこっちの企業買収や設立を止めれば配当性向20%どころかもっと十分な配当が出せるような気がします。
まとめ
あくまで私の個人的な好き嫌いの問題ですが、グリーの現在の内容はあまり好きではないかな、と思いました。
次々に買収や設立を繰り返すのは、本業に自信の無い事の表れと取れますし、実際、目指すべき理想も具体性に欠けてる気がします。自分探しの最中、という感じです。
(そして大抵の場合、他力本願な自分探しは失敗する・・・)
創業者の所有する会社と取引するのはガバナンス上どうなんだろう、というガバナンスとして不安な面もあります。
財務的にはグリーは余裕で優良企業です。
ただ、将来的な利益を決めるのは、なんといってもやはり企業体質だと思います。
その点グリーはあまり有望とは思えませんでした。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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