結論
尊敬するウォーレン・バフェットもAmazonに投資している以上、私が見えてない何かがあるのかもしれない、という気はしますが、それを差し引いてもちょっと高すぎやしないかな、という気がしてます。。
目次
前置き
Amazon.comについての分析依頼が来たため分析します。以前から書いている通り、数値については基本的にTIKR.comを使います。ただTIKR.comが網羅していない数値や、数値背景については10-Kから持ってくるつもりです。
前回記事で10-Kの構成は把握しましたが、個人的には有価証券報告書ほどは細かく書いてない印象なので、どこまで実態に迫れるかは分かりませんがとりあえずやってみます。
事業概要
まずはAmazon.comの事業についてです。
Amazon.comの事業は御存じの通りAmazon.comの運営を祖としています。Amazon.comは元々書籍をメインとして扱い倉庫に山と積まれた書籍をAmazon.comで注文を受けて全米に発送する仕組みでしたが、段々と書籍以外にも手を広げ、現在ではありとあらゆるものを扱う、まさに何でも買えるお店に変貌を遂げました。
最近では単なる物販やマーケットプレイスの提供だけではなく、Kindle(電子書籍)やAmazon prime(動画配信)、Amazon ecco(スマートスピーカー)など様々な分野に進出しています。
現在世界的な力を持つハイテク企業の略称をGAFA-Mと呼ぶそうですが、Amazonもその一社です。
社名(祖業、有名な収益源)
Google(検索サイト、広告業)
Apple(Macやi-phone、製造業)
Facebook(SNSサイト、広告業)
Amazon(販売サイト、物販業)
Microsoft(WIndows、製造業)
こうして並べて見ると5社の中では、Amazonの祖業となったビジネスは比較的オールドエコノミーに近く、突飛なアイディアでもありません。
しかしAmazonがここまでの企業になったのは、Amazonが自らを単なる小売業ではなく、あくまで旧来の物販にあった顧客の課題に焦点を合わせ、徹底的に技術的解決を試みた「技術」の会社である事が一因ではないかと推測します。
具体的な例を挙げると祖業である書籍の販売です。
旧来の書籍販売が抱えていた課題としては、どこに何の書籍があるのかが分からない。自分が欲しいと思う書籍をすぐには探せない。良い書籍を見つけづらい。そんな課題がありました。
Amazonの書籍販売はそれらの課題を技術で解決しています。
名前を検索すればあっという間に見たい本にたどり着く。
条件で検索するだけでも類似本を見つけることができる。
良い書籍を安い価格で紹介してくれる。
「地球で最も顧客中心の企業」という信念に違わず、顧客にとって切実な課題に対し、技術的解決策を提示できる点こそが、Amazonの本質であり、現在までの成長の本質ではないかと思います。
実際、現在でもAmazonの「物販」改革への意欲は止まらず、現在は「アマゾンゴー」と呼ばれるフリーハンドで顔や光彩認証によって決済できるコンビニを作る事で、顧客の決済の改善にも努めていると聞きます。
よってAmazonという会社をざっくり俯瞰するならば、「地球で最も顧客中心の企業を目標として既存の課題を技術力で解決しようとする会社」という認識がシンプルではないかと思います。
セグメントの状況
Amazonは現在様々な事業を展開している巨大企業ですが、その事業をAWS(クラウドサービス)とそれ以外に分け、それ以外の区分を北米(アメリカ、カナダ、メキシコ)、国際(北米以外の地域)という地域による区分と、3つの事業セグメントに分けているようです。
北アメリカ:170,773百万ドル(60.9%、利益率:4.1%)
国際:74,723百万ドル(26.6%、利益率:▲2.3%)
AWS:35,026百万ドル(12.5%、利益率:26.3%)
計:280,522百万ドル(利益率:4.1%)
利益率はお世辞にも高いとは言えません。
国際部門は黒字ですらないのですね。。
Amazonはとにかく目先の利益よりも将来への投資や開発を重視する考えで、上場するまでずっと赤字だったと聞きます。現在でもその方針は変わらないのかもしれません。
Amazonの「地球で最も顧客中心の企業」という目標からすれば、これはそれほど驚くべきことではなく、顧客満足のために技術開発を重視しているだけ、と考えればビジョンに対して姿勢が一貫していると言えます。
業績推移
営業利益率の推移は3.1%⇒2.3%⇒5.3%⇒5.1%⇒5.2%
営業利益率はかなりの低空飛行です。
粗利率は如何にもIT企業な高利益率なのに、ここまで営業利益率が落ちるのは、やはり開発費が凄いのが大きな理由の一つではないかと思います。
ちなみに、利益率の概念で補足するとすれば、営業利益率が低い=良くない会社とは一概には言えません。小売業のように業種の性質上利益率が悪い会社もあります。
そういった会社でも回転率を上げれば優良企業となる可能性は十分にあります。
例えば、売上が100万円に対して50万円の利益を生む会社は利益率で見れば50%と高利益率です。一方で売上が1,000万円で100万円の利益をあげる会社があったとして、営業利益率は10%ですが、同じ資本金額であれば、後者の方が優秀です。
同じ資本で50万円の利益と100万円の利益なら、当然100万円の利益の方が良いです。
利益はあくまで回転率×利益率で算出されるものであり、漫然と営業利益率だけを見てればよいわけではありません。
なので、合わせて株主資本利益率も見ておきます。
この数値をどう評価するかは人によるでしょうが、私は20%以上の利益率であれば十分優秀だと思います。ましてAmazonクラスの規模の企業でこれだけの株主資本利益率を達成できるのはかなり凄いです。ここ3年の利益率はさすがGAFAと言われるだけの事はあります。
理由としては勿論回転率が高い、という点もあるでしょうが、それ以上に過去から成長に投資してばかりで利益を留保していないため、株主資本が抑えられ、株主資本利益率が高くなるのも一因ではないかと思われます。
経営方針
日本の有価証券報告書と違い、10-Kではあまり分かりやすくは書いてませんでしたが、Amazonの方針としてはやはり「地球で最も顧客中心の企業」というのが該当するのかな、という気がします。
先に書いた通り、利益よりも試験費や未来への投資につぎ込むという姿勢はまさに方針にかなう方法ですから、ビジョンに対して正しい姿勢が取れていると考えられます。このこと自体は体質として良いと考えられます。
ただ、強いて言えば、「この地球で最も顧客中心の企業」という方針はそのまま解釈すれば株主軽視の方針とも取ることができます。
具体的に言えば、少なくとも現在は売上高が伸びているため、顧客中心の企業である事が結果的に株主利益に繋がることになりますが、これが売上の成長が止まり、顧客の利益と株主の利益が整合しなくなった場合、どうなるのか。
もしAmazonがあくまで「この地球で最も顧客中心の企業」に拘るならば、売上が止まろうが利益に結び付かなかろうが、顧客満足度向上のため、未来への膨大な投資は続けるのが筋です。そうなれば当然赤字になり、投資家に利益は還元されず、会社の価値は暴落する事になります。
Amazonという会社がどこまで伸びるのかは分かりませんが、いかなる企業であれ永遠に成長する事はあり得ません。「いずれは」伸びなくなる事は確かです。
試験費や投資がいつまで売上や利益に結び続けるのかは誰にも分かりません。
そうなった時に同社の方針が最優先で守るのは、少なくとも「投資家の利益」ではないという事を投資家は頭に入れておいた方が良いと思います。
キャッシュフロー
基本的にはフリーキャッシュフローは黒字で安定していますが、2017年については赤字になってます。これは主にホールフーズという食料品店チェーンを買収した事によるもののようです。
未来のための投資、です。
これによるリターンがきちんと成長に結びつけば良し、行き詰ればどうなるかは分かりません。
個人的にはAmazonの強みは本来IT企業として有形固定資産を持たない事というイメージでした。(在庫を抱えるための倉庫は持つにしても、販売店を持たないメリットは維持費という意味でも大きい筈)それを旧来のマーケットごと買収してしまうとかなり財務的にはキツくなるのではないかと思います。
アマゾンゴーのように決済機能を開発するのは構わないですが、それだったら一つや二つ試験用のお店でも作れば良いだけで、何も既存の巨大企業を132億円かけて買収する必要があったのかな、という気がします。わざわざ小売りの巨人ウォルマートとやり合う事ないのに、という感じです。
むしろあくまで決済機能の開発に注力して、ウォルマートとホールフーズに提供する、という立場でいる事もできたのではないか、と思ってしまいます。
もしかすると裏に深い意図があるのかもしれませんが、正直今の情報だけでは規模が大きくて雑な買収をしてしまった感が拭えません。
果たしてここから今後も132億ドルに見合う高い成長が見込めるのか。
推移を見守りたいです。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
手元資金は550.2億ドル(24.4%)です。てか手元資金が日本円に換算すると5兆円以上って凄いですね。。やっぱりGAFAはレベルが違う。。
とはいえ総資産構成で言えば24.4%というのは決して高い率ではありません。
おそらく在庫やら設備投資といったリスク性資産の割合が高いのでしょうが、逆に言えばそれだけ減損リスクが高い事を意味しますから、少々怖いです。
売掛金は205.4億ドル(9.1%)ですが、売上に対して26.7日分です。勿論売上は現金払い分も含まれますから、この数値を額面通りに信じるわけにはいきませんが、少なくとも異常な水準ではないかな、と。
問題は純資産プラントおよび設備978.5億ドル(43.4%)です。金額としても比率としてもかなり大きいです。製造業の会社並みではないかと。
キャッシュフローの観点から言えばこうした有形固定資産の多い企業は資金繰りが苦しくなりますし、資金効率も悪くなります。IT企業としてのアセットレスメリットを享受できなくなります。ほんの4年前と比べると3倍以上に膨れ上がっているのを見る感じでは、かなりIT企業の体質からオールドエコノミーの企業体質にシフトしつつある印象です。ホールフーズの買収の件もありますし、これは決して良い傾向ではないと思います。
のれんの金額も147.5億ドル(6.6%)と結構なものです。特に2017年に増えているのを見ると、ホールフーズ買収で結構発生しているのではないかと推測されます。オールドエコノミー企業を買うのにそんなに上乗せして良いのだろうか。。
GoodwillではなくBadwillなんじゃないだろうか。。
いずれにせよこの分は純資産から差っ引いて考えた方が良いと思います。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債(と思われる額)は247.2億ドル(11.0%)あります。
これは全体の規模としてはそれほどではありません。
一方で総資本(純資産)が620.6億ドル(27.6%)です。絶対額としてみればさすが、という印象ではありますが、資産側の明細のうち代表的リスク資産である有形固定資産やのれんの合計額が1,126億ドルである事を考えると決して余裕というワケではありません。今は勿論業績が良いので現在の価値を保っていますが、これがもし減損損失などを計上するという話になれば、如何にAmazonでも無事では済まないと思います。
つくづくと、何故有形固定資産を抱え込む方針に舵を切ったのか。。
私はAmazon創業者であるジェフ・ベゾス氏をビジネス史に残る卓越した見識の持ち主だと思っていますが、個人的には賛成しかねる判断です。。
投資価値について
基本的に私はその会社に投資する価値をPERで測ります。
PERというのはEPS(一株当たり純利益)に対して現在の株価が何倍なのかを示す指標です。
Amazonであれば、EPSは26.04ドルのようです。
これに対する現在の株価は3,272.71ドルです。
つまりPERは125.7倍です。
この数値を分かりやすく言うと、Amazonがもし現在と同程度の利益を出し続けたとして、利益額で投資額を回収するまでに125.7年かかる計算です。
まあ、正直私なら買わないな、という水準です。
もっとも、Amazonがもし研究開発を止めて利益が3倍になれば、これも40年くらいに縮むわけですから一概にこれが高すぎるとは言えません。今後利益が10倍に増えるなら12.6年まで縮まります。
結局はどれだけAmazonという会社の将来に期待を持てるのかにかかってきます。
まとめ
Amazon株は正直色々規模がデカすぎて何とも言えん、というのが正直なところですが、少なくとも私は買わないと思います。
資産構成のリスク資産の割合が大きい事や、そもそもこんな規模からさらに利益を何倍に増やせるものなのかという規模の問題、企業の方針としての顧客至上主義は懸念として拭えません。
勿論あらゆる可能性は否定できないですからAmazonが今後も信じられない発展をする可能性もありますし、私が尊敬するバークシャー・ハサウェイもAmazonに投資している以上、見えてない何かがあるのかもしれない、という気はしますが、それを差し引いてもちょっと高すぎやしないかな、という気がしてます。
米国株は初めて分析しましたが、TIKR.comと10-K使えばどうにかなりそうな気がします。とはいえ、英語の資料読むのは凄くしんどいので、多分無料公開はしないです。
すみませんが、米国株に興味があったら大学の講義note買うくらいの気持ちで買ってください。
昔からウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの銘柄達に興味があったので、直近のウォーレン・バフェットの投資分析と称してまとめた記事を有料note化しようかと思ってます。
本記事は10-K、およびTIKR.comを元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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