企業分析アナトールの株式投資

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【6073】アサンテ

結論

事業としてかなり難しそうな印象を受けたが、キャッシュフローはかなり潤沢で、堅実な資金の使い方をしている。ただ、総合的、超長期的に考えると内部に懸念のある会社なのかな、と。

 

目次

 

前置き

アサンテは後の調査予定でしたが、読者様にリクエストされたため、前倒しで調査します。

 

事業概要

まずはアサンテの事業についてです。

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f:id:umimizukonoha:20210912215712p:plainアサンテの事業は既存木造家屋を対象とした「白蟻防除」、「湿気対策」、「地震対策」の各種施工です。上場企業で木造家屋のみを対象としたビジネスというのも珍しくて面白いですね。木造建築におけるシロアリ被害ってたしか、放っておくと家が倒壊するレベルの問題という事で、一時期ニュースとかでかなり騒がれた覚えがあります。

 

シロアリが発生する状況の特徴としては、木造の一戸建てを所有されている方で以下のような症状がある場合は、既に駆除の必要がある模様。

  • 台所で羽アリが飛び回っている。
  • 床がぶかぶかになっていて腐ったような匂いがする

あと、新築の家とかは防蟻対策はしてあるものの、予防の効果は約5年と言われている為、5年以内に薬品散布を行っていないお家はシロアリ予防を実施した方が良いとの事です。

いずれにせよ、資産価値低下の可能性も考えると木造一戸建てを持つ人は、調査だけでもしてもらうのが無難なようです。

シロアリの被害が心配ならシロアリ110番まで

(注:上記はアサンテではなくシロアリ駆除の仲介サイト情報になります)

 

ただこの事業でちょっと難しそうなのが、顧客をどうやって捕まえるのか。

木造住宅とかに住んでいる人とかで、家の資産価値とかを気にする意識高い人でもなければ、積極的にシロアリを調べてもらう人ってあまりいない気がします。大抵は気づかないうちに進行する話ですから。

リスクの部分に書いてますね。

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訪問営業が一般的なのかな、とは思いますが突然行って「お宅の家を調べさせてください」というのもかなりハードルが高い話です。飛び込み営業は話を聞いてもらうだけでも難しい上に、居住者にとってはわけが分からない上に金がかかるという、正直聞きたくない話ですからね。

さらには詐欺的業者もある模様。

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シロアリ駆除はするメリットもしないデメリットも、いまいち素人は実感しにくいです。効果の実感が薄いからこそ、悪徳な業者が出てくることもあるようです。

シロアリ駆除詐欺に騙されない!悪徳業者の特徴と6つの自衛ポイント

そのためアサンテは、農協のような組合と提携して販売活動を行っているようです。

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契約をチェックしてみます。

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顧客を捕まえにくい事業だからこそ、組合のようなある程度信頼のある団体を後ろ盾として、営業するわけですね。

しかしいずれにしても、元来営業が難しいビジネスには違いありません。数値を追う上でも、その辺りは念頭に置いておく必要があります。

セグメントの状況

アサンテの事業は既存木造に関わるサービスという事で単一セグメントとしているようです。その代わり、サービスごとに売上の比率を出しています。

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シロアリ以外にも湿気対策、地震対策といった木造住宅の耐用年数を延ばすトータルサービスを提供しているようです。確かに、折角調査させて貰えたのに「シロアリいませんでした」で終わるのは勿体ないですから、木造住宅にとってメリットの大きいサービスを合わせて持っておくのは重要な事かと。

同社の経営方針の中でもその旨が言及されてます。

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個人的にはシロアリ云々を語るより、住宅の長寿命化、つまりは資産価値低下の防止等を売りにした方がお客さんは興味を示す気がしますね。

ほとんどの個人にとって人生最大の買い物である自宅の資産価値を守れる、というコスパを示されれば倹約家の素人でも、むしろ倹約家ほど関心を示す気がします。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は12.2%⇒15.4%⇒16.0%⇒16.5%⇒13.5%

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※令和3年度は連結財務諸表が作られていますが、影響軽微のため売上高利益率の推移は単独決算のみで見てます。

利幅は十分とは言えませんが、順調に伸ばしていっていたのが、令和3年に急激に落ち込んでいます。理由は売上が落ちているため、固定費を削り切れず急落、という事でしょうが、売上が落ちた理由は何なのか。

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訪問営業を一定期間自粛しているようですね。

その影響でこれだけ売上が落ちるという事は、逆に言えばそれだけ訪問営業が必要な事業なのかと。

本当は「お客さんの方からやってきてくれるビジネス」がベターで「利用せざるを得ないビジネス」が理想なのですが、少なくとも現状のアサンテのビジネスはそういうタイプではなさそうです。

農協とかより、木造の建築会社と組んで、木造住宅の資産価値維持の保証サービスとかやったら「お客さんの方がやってくるビジネス」に転換できそうなものですけどね。誰だって人生最大の買い物は少しでも長く資産価値を保っていてほしい気がします。

雨漏りとか細々としたメンテも含めた、木造住宅専業のトータルメンテナンス保証ビジネスってニーズありそうな気がしますが・・・そう簡単にはいかないのかな。。

トラブルが起こりやすく、アフターコロナで問題になりやすい訪問営業が主力のビジネスというのは、ビジネス自体の評価としてはマイナスかと思われます。

 

 

 

財務指標

アサンテは財務指標のようなものを設けていないようです。

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若干抽象的な5つの方針を掲げているものの、それをKPIに落とし込むような事はしておらず、経営数値の分析においても特定の指標などに触れてません。

中計策定に毎期3年分を見直すローリング方式を採用している所なんかも、マネジメントの発想がちょい古い感じがします。あまり数値管理のポイントが抑えられてない感じがします。

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PL分析はただ事実を並べただけで、どういうスタンスで経営状態を把握して、どういう状態を目指しているのかがイマイチよく分かりません。

マネジメントの質として良い評価はできなそうです。

 

 

 

キャッシュフロー

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FCFは本当に潤沢ですね。というか営業CFに比べて投資CFが少ないですね。確かにアサンテのサービスは設備投資はあまり必要ない気がします。

設備投資の内訳を確認してみます。

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一番金額が大きいのが本社ですが、そのほとんどが土地の価格です。新宿区に土地を持っているというのは中々凄いですね。静岡にある研修センターは、土地が安い代わりに建物および構築物に相当お金をかけているようです。

販売拠点や生産拠点もありますが、金額の影響はそれほどでもありません。同社のビジネスを続ける上で、設備投資は必須の要件ではなさそうです。

設備投資が必要ないビジネスはFCFが豊富でキャッシュを溜めやすいです。これは一つビジネスの強みだと思います。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び同等物が66.8億円(46.3%)は結構多めですね。やはり普通の会社よりキャッシュリッチな印象です。

売上債権の金額は16.7億円(11.6%)で滞留は46日ほど。問題ないです。

有形固定資産は45.5億円(31.5%)です。

内訳は先に見たので割愛するとして、主な勘定別で見ると、帳簿価格ベースで見ると、建物と土地だけで96.7%を占めるんですよね。建物も土地も一度投資すると耐用年数は長い(土地に至っては∞)ですから、再投資のほとんど不要な資産です。

やはり設備投資が原則不要のビジネスなのだろうな、と。

一応今後どういった投資をする予定なのかを見ておきます。

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新設の投資をする予定はないですね。

過去5年、十分な営業CFがありつつも投資CFが少ないのを見るに、おそらく無駄な投資などをしたがるタイプでもなさそうです。これは質として一つプラスです。

キャッシュリッチになると、どうしても誘惑が多くなり、無駄な投資をしたがる企業は多いですから、「しない」事を貫けるのは立派な事だと思います。

のれんは4.5億円(3.1%)ですね。これは令和3年度決算が連結決算になっていることから分かる通り、令和3年度の買収によるものです。詳細は以下。

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ざっくり見ると、7億円の現金を払い、2億円弱の純資産価値の会社を買収したため、5億円ののれんが発生。当期償却して4.5億円ののれんが残った、という感じでしょうか。

ただ、同社を買収した影響額の数値が個人的には腑に落ちないんですよね。。

営業利益がマイナス影響なのに、経常利益が1.6億円くらいのプラス影響とはこれいかに。負ののれんを一括償却したとかなら分かりますけど、普通にのれんですからね。コロナ補助金?いやいや・・・売上と同額くらいの利益になるほどの補助金とか考えられないですよね。。なんなんだろう。。分かったら追記するかもです。

ま~いずれにせよ、買収後ですら66.8億円のキャッシュを有するアサンテから見れば、これは大した買収では無く、内容的にも本業の強化をしているタイプの買収ですから、ここは質的に問題ないと思います。

投資有価証券も1.2億円ほどありますが、内容は0.2億円は関係会社株式等で、残りは債券による手堅い運用のようですね。

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総じて本業に忠実で、かなり堅実な経営者の雰囲気ですね。

中計のローリングとかも含めて、考え方が古く堅そうな気がします。トップがご高齢の方とかなんじゃないかな、と役員を見てみると。。

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社長の宮内氏は昭和46年生まれという事で、まだ50そこそこですから思ったほどのご高齢ではないです。しかし専務で管理本部長の飯柴氏は70歳を超えていてしかも銀行出身ですね。このお堅そうな雰囲気はこの辺りから出ているんじゃないかな、と。

しかも気になるのは取締役の中に三菱銀行出身者が飯柴氏以外に3人くらいいますね。多すぎる気が。若い社長と、高齢の専務以下銀行出身者多数、というのもあまり印象が良くないです。要は派閥争い的なものがありはしないかな、と。

昨今の企業経営ではダイバーシティが流行りです。要するに企業の経営は異なるバックボーン、考え方を持った役員が、各々の見地から自社の理想を目指して議論する事で、より良い意思決定に繋がるという発想です。

これは意思決定の精度もそうですが、派閥や政治を生まない、という意味でも非常に重要です。同じバックボーンを持つもの同士の派閥や政治は、本質的な企業活動を停滞させ、付き合わされる社員から活力を奪う、百害あって一利無しの害悪です。

アサンテの内実がどうであるのかは、外部の我々からは分かり得ませんが、分かり得ないからこそ、同じ銀行出身者が取締役の半分を占めるというのは、十分警戒に値する状況ではないかな、と。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は6.4億円あって、担保まで設定してます。

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少なくとも今のアサンテなら即金で返せる額ですが何故借りているのか。。このあたり、銀行出身者が多いのが関係しているんじゃなかろうか。。役員に偏りがあるとそうした邪推もしたくなります。

純資産は116.7億円(80.9%)と高水準です。キャッシュが豊富で、事業に対する投資も再投資の必要性がないという事もあり、財務状況としては盤石と言えます。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

平均勤続年数はそれなりに長いですが、平均年齢に対して給与水準はそれほど高くないです。売上の要となる訪問営業はかなりストレスのかかるキツい仕事でしょうから、もう少し引き上げても良いような気がします。対面での顧客とのやり取りのある仕事ですから、社員の質や印象はそのまま企業の評価に繋がります。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均31百万円ほどです。

ただ、ここには使用人分給与が含まれていないとの事。ほとんどの役員は何らかの使用人分の役割を担っていますから、少なく見積もっても10百万円は上乗せされているのではないかと。そうすると従業員給与と比較してかなり高い気がします。

役員として著しい業績達成を実現しているのであれば、それもアリだとは思いますが、以下の自己資本利益率を見ても正直ぱっとしません。

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実はアサンテは自社株買いを実施していながらこのROEです。

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これは利益に対して、純資産が大きすぎるためかと思われます。

是非もっと自社株買いをするなり、配当をするなりして、純資産を減らし、ROE平均を15%くらいには引き上げてくれないと、役員報酬に見合う気はしないです。

 

 

 

大株主の状況

創業者である前経営者の宗政氏の資産管理会社と、おそらく配偶者の方が合わせて18.9%保有しています。意思決定を支配するほどではないため、この点はそれほど懸念はありません。

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宗政氏の後任の宮内氏は同性ではないので、おそらく血縁者による経営というわけでもないかと。となれば、それほど特定の人物の意思決定に左右されることもないのかな、と。

 

 

 

株主還元

還元について具体的な方針は出してません。

ここの書き方は正直イマイチです。

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実際に出している配当は以下。

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配当性向としては決して悪くないです。平均すると50%くらいになりそうです。

しかし、先のROEからも分かるように純資産はかなり多い水準であり、所有するキャッシュも豊富、事業のキャッシュフローも豊富です。それらを考慮すると、この配当還元は正直不十分ではないかな、と。DOEなどをベースに配当を考えていかなければ、ただただキャッシュを蓄積して、今後も効率が悪くなっていくだけかと。

 

 

 

まとめ

アサンテの事業は、販売方法としてかなり難しそうな印象を受けましたが、キャッシュフローはかなり潤沢で、無駄金もあまり使っていません。かなり堅実な資金の使い方をしていると思います。

しかし一方で、経営の考え方で古かったり堅すぎたりという部分が散見されます。配当の考え方や中計の毎年ローリング、指標等を設けて要点を抑えていないなど、全体的な建付けが古い感じがします。

では、今後それが一新される可能性があるかというと、役員の顔ぶれを見ると、そういった議論が為されるようなダイバーシティ的な顔ぶれとは程遠い、半分が同じ銀行出身という懸念もあります。

さらには従業員給与と役員報酬も結構な格差があり、それを埋めるだけの経営者の質を示すような実績も見受けられません。

堅実にキャッシュを稼いで還元はしてくれる感はありますが、総合的、超長期的に考えると内部に懸念の多い会社なのかな、と。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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