結論
少なくともコロナ禍以前の業績はかなり優秀。とはいえ事業領域を広げすぎている印象もあるし、役員で結構な株を保有しており、社長への貸付などが実施されている点などは、ガバナンス含む体質に一定の警戒が必要かと。
目次
事業概要
まずはIBJの事業についてです。
IBJの事業は以下の2つです。
- 婚活事業
- ライフデザイン事業
婚活事業は結婚相談所、ブライダルネットのようなアプリ、パーティー事業など、独身の方に様々な形での出会いを提供する事業ですね。
パーティー事業を運営するParty☆Partyはたしか私も独身時代に利用した覚えがあります。婚活と言っても今のご時世だと誰かの紹介とかもあんまりないですし、待っていてもチャンスなんて巡ってきません。多分気長にそういう出会いの場に出てないと、そもそも好みの人と出会えないし、まして結婚なんてできないだろうな~と思い、私は24、5の時から平均すると3か月に1度くらい、(Party☆Partyに限らず)そういう場に参加するようにしてました。
私のスペックが低い事もあってか、最終的に妻と出会えたのは29の時でした。意識的にそういう場に出始めて5,6年かかっているわけですから、やっぱり投資でも何でも長期目線で手を打っておくべきだな、と思います。
結婚したいと思いだした時だともう遅くて、やっぱり余裕のあるうちでないと、色んな人をゆっくり見れないので、仮に結婚できたとしても、もっと良い人が居たんじゃ・・・とか思ってしまう気がするんですよね。。
というわけで、読者の方で若いからという理由で婚活してない独身の方がいたら始めるだけ始める事をお勧めします。投資と同じく、やるなら早めに長期視点で始めといた方が絶対リスクもコストも低いです。
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男女ともに20代のハイスペックな方向け
幅広い年齢層を網羅するサブスク型結婚相談所
結構色々なサービスがありますね。。
婚活業界はそれだけ需要があるという事かと。。
要は私のように、ナンパ(通報されそう)やら知人の紹介(断り辛く別れ辛い)とかが苦手なタイプの人間にとっては、こういったサービスがあるのは結構助かりますし、見つかるまで長期でサービスを利用するのではないかな、と。
結婚相談所とかは私は利用したことないですが、かなり高い料金設定をされていると聞きますから、逆に言えばそれなりに需要はあるのだろうな、と。
一方、メインであろう婚活事業は良いとして、ライフデザイン事業というのが結構範囲が広い印象です。
ウェディングはまだ本業に近そうですが、旅行、語学、不動産、保険となんでもありな感じですね。事業領域をどのように定義しているのか、方針を確認しておきます。
マリッジ&ライフデザインサポートという定義であれば、あながち外れてはいない気がしますが、事業領域の範囲が広すぎる気もします。範囲が広すぎるとそれはそれでサービスに特色がなくなりがちです。付加価値率などを見ながらどんな状態なのか見ていきます。
セグメントの状況
IBJの事業は、先の2セグメントです。
- 婚活事業:111.5億円(85.2%、利益率23.7%)
- ライフデザイン事業:19.3億円(14.8%、利益率▲3.6%)
コロナ禍の中で婚活事業でこれだけの利益率を出すというのは凄いと思います。
同じく婚活業界を主戦場としている街コンサイト運営のリンクバルを以前分析しましたが、コロナ禍による飲み会禁止により、目先の業績は大幅に落ち込んでいます。
IBJがそれほど落ちていない理由が知りたいので、経営者の分析を読みます。
婚活セグメント売上高は7.0%伸びているのに、利益は19.8%減なのですね。。
コロナ禍という状況を鑑みるとこれは変わった動きです。
PLを確認してみましょう。
ライフデザインセグメントの減収によってトータルの売上は減っているのに、販管費が増えてます。注記で詳細を見てみましょう。
給与も広告宣伝費も地代家賃も漏れなく増えてますね。
つまりは出店も人材登用も積極的に行っているという事です。
従業員数も見てみますか。
凄い勢いで増えてますね。
理由の一つは新しい子会社の買収もあると思います。
IBJは2019年にはサンマリエとK Village Tokyo、2020年にはZWEIを買収しています。
人員は書かれていませんがTWEIは私も聞いたことのある婚活企業なので、それなりに人員はいるのではないかと。
結婚情報のIBJ、ツヴァイを買収 婚活事業拡大へ: 日本経済新聞
ツヴァイは紹介型を中心とする結婚相談サービスを展開してきたが、インターネット上で結婚相手を探す「マッチングアプリ」などが増加したことなどを受けて顧客獲得に苦戦していた。
ツヴァイは今後、IBJが開発した「成婚メソッド」やお見合いシステムを導入するなどで運営体制を立て直す。会員基盤の拡充や地方における顧客満足度の向上にもつなげ、婚活事業の拡大を目指す。
これを読む限りではツヴァイはマッチングアプリのような技術系は弱い、紹介型婚活会社なのかもしれません。
買収の狙いは何となくわかる気がします。IBJとしてはツヴァイを買収すれば顧客リストが増え、マッチング能力が拡大するメリットはあると思います。一方で紹介型婚活の店舗、固定資産を引き受ける形になりますから、ツヴァイを連結した上で、バランスシートがどれくらいのリスクを抱えているのかは確認しておきたい所です。その点は後でB/Sを見ましょう。
戦略としては利益率の高い婚活事業に積極的に投資するのは悪くないですし、しかもこのコロナ禍で先の見えないタイミングで追加投資に踏み切るのは中々の胆力です。しかも実際に婚活セグメント自体はかなり利益率をたたき出しているわけですから、これを意図して実行しているとすれば、マネジメントの質に期待が持てます。
しかし、一方でライフデザイン事業に関しては大幅に売上が落ちており、赤字に転落しています。コロナがなければ利益率が良いのか、というとそういうわけでもなく、以下の通り、0.9%と利益率は微々たるものです。
事業内容や方針から見る限りでは、ライフデザイン事業は事業領域を無理やり広げている感が強いです。いくらIBJが婚活の顧客リストを持っているからといって、うまくその他の事業に繋げられるかというと、そういうわけではないと思います。顧客からしても、婚活に来ているのに語学とか保険とか勧められたらドン引きじゃないかな、と。。
では、独力でこれらの事業の子会社が業界でトップの地位を狙えるのかというと、かなり難しい気がします。保険とか語学とか住宅ローンとかは、それ自体を専業でやっている会社がブランドとしても強く、婚活事業グループの子会社が参入して突然トップを取れるとは思えません。
一つの業界でトップを取れる企業というのは、リソースのほとんどを主力の事業に集中しています。無駄な枝を剪定してこそバラがきちんと咲く、という理屈です。
当ブログ的にはIBJは婚活事業に集中すべきではないかな、と。
業績推移
利益率の推移は21.0%⇒15.8%⇒12.4%⇒15.4%⇒11.6%
一見すると、2016年~2019年で売上が3倍近く伸びてますが、利益率が上下しています。これはビジネスが伸びているというより、買収によって連結の範囲が拡大している可能性が高いです。
単体決算を見てみると、伸びてはいますがそこまでのスピードではありません。
IBJの売上増は子会社の売上を合算した影響が大きいように思います。
そして、親会社であるIBJ本体の経常利益がグループ全体の利益とそれほど変わりません。つまり、IBJグループの利益はほとんどIBJ本体から出されている事になります。
(連結相殺される部分はあるでしょうが、事業内容上多くはないのではないかと)
沿革を見てみると、2016年以降、随分と買収を繰り返しているようです。
中々の速度です。
これだけのスピードで買収をすると有形固定資産だけでなくのれんの金額にも注意が必要になってきます。BSの懸念が大きそうです。
PL上の数値をそのまま本質的な成長と見るのは早計ではないかと。
財務指標
IBJは「成婚組数2.5万組」「加盟相談所数1万社」「お見合い会員数20万人」「マッチング会員数50万人」とビジネス上の具体的なKPIを設けてます。
経理的にはつまり売上の事になると思いますが、具体的に社員目線で目指す目標に落とし込めている点は好印象です。また地味に「より重要な経営指標は何かを議論し策定した計画」という文言が、KPI設定を重視しているのかを物語っており、良い傾向です。
一方でこの指標はビジネス拡大という攻めの視点しか無く、そのために支払うコストや負うリスクについては触れてません。こういう会社は勢いがあるため伸びるのも早いですが、長期的に見た時、同じ売上でもどうやって低リスクに、低コストに抑えるのか、という観点が無ければ、勢いが弱った時に痛い目を見ます。
あと、このKPIは明らかに婚活事業を意図してますがライフデザイン事業は議論に加わってないのかな、とも思います。
キャッシュフロー
2018年度まではFCFは黒字でしたが、直近2年はFCFが赤字で財務CFで補っている感じですね。何にそれほど投資しているのか、直近2年の投資CFを見てみます。
2019年の投資は投資有価証券の取得と貸付です。
投資有価証券の取得は非上場企業の株式を購入したようです。
詳細はここの記述からは良く分かりません。
非上場株式という事は資産運用というよりは、ベンチャー投資か何らかの事業投資だとは思います。過去の経緯からして、IBJはベンチャー投資よりは事業投資だと思うので婚活事業とライフデザイン事業に関係する事業投資かと。
ただ、いずれにせよ積極的な投資には違いありません。
貸付金の方は、社長である石坂氏と子会社の社長である津元氏への貸付です。
妙に関連当事者取引が多いんですよね・・・
社長の石坂氏については資金を貸し付けた上で株式会社 K Village Tokyo株式の引き受けをするというのは、結局IBJが引き受けるのと変わらないのでは・・・間に社長個人を挟む意味は・・・?とかなんか金の流れが気持ち悪いです。
基本的に役員と会社の取引はあまりない方が吉です。過去から個人が会社と取引してマズイことになった事例はあっても、良かった事例は聞きません。
マズイ事例で有名なのは王子製紙の井川氏の特別背任の件ですね。
無論、IBJ内で井川氏のような事例が起こり得るかどうかは分からないですが、企業とその意思決定を掌握している役員間の取引は、どういうパワーバランスでその取引が成立しているのかは、外部からは分かり得ないですから、あらゆる可能性が懸念されます。
仮にこの貸付や新株発行などが社長の私的利益のためでなく、IBJグループのためのものだったとしても、個人を介入させなければならない理由は何なのかな、と。小さな会社だと、社長は銀行から融資を受ける際に個人債務保証をかけさせられることはあるので、全ての関連当事者取引がNoとは思いませんが、こういうのはスッキリさせておかないと、質として怖い部分になります。
正直、社長に貸付とかはあまり事業に必要なケースは想像がつきません。。
ただ、2020年度では早速社長は貸付金を返済してます。
この間に何があったのか。。
いずれにしても役員個人が簡単に会社から金を借りられるというのは公私混同が起きかねないリスクという意味で、投資家としては懸念材料です。
あとの2020年の投資CFはTweiの買収によるキャッシュアウトですね。
ネームバリューのある会社ですから、値がはるのは仕方ないにしても結構な投資です。この投資によってB/Sがどのような構造になったのかは注目したい所です。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が59.4億円(42.8%)とキャッシュは潤沢です。
売上債権の金額は12.7億円(9.1%)で滞留は35日ほどです。基本的には一般人相手のビジネスですから滞留としては短くて当然かと。
有形固定資産の帳簿価額は7.2億円(5.2%)とTwei買収によって懸念したほどのレベルではありません。前年対比で1.38倍になっているとはいえ、そんなもんか、と言えるレベルです。これくらいであれば、減損インパクトはそこまで心配する必要はない気がします。ただ、注意すべきは、建物の取得価額は前年対比1.77倍になっている点です。
Tweiは対面式のビジネスという事ですから、Tweiを飲み込んだならこれくらいの建物増は不思議はないです。ただ、建物の増はすなわち補修費、資産税といった建物に付随する固定費の増を意味します。特に店舗式のビジネスは、店舗の見栄えもブランドイメージに影響しますから、古くなればなるほどメンテナンス費用は嵩みます。
帳簿価額は減損インパクトをはかる上で重要なポイントではありますが、特に店舗経営に関しては取得価額も無視して良いわけではない点に留意が必要です。
こうして見ると、Twei買収によってIBJグループのビジネスモデル、収益構造として難しくなるのは間違いないので、それを跳ね返すだけの付加価値をここから得られるかどうかが今後の業績を左右するのではないかと。
のれん21.7億円(15.6%)はやはり大きいですね。現預金の占める割合が大きいので、B/Sリスクはそれほど高くはないにせよ、決して無視できない金額です。
しかも償却期間は15年と、税務上の5年より結構先送りにしているんですよね。。
このあたりも処理のスタンスとしてちょっと心配ですね。
個人的にはこういう、実在が不確かなものは可能な限り早めに償却すべきと思います。税務ですら5年なのだから5年以内で片づけて欲しいです。
投資有価証券15.0億円(10.8%)は先に述べた通り、主に非上場会社に対して投資しています。内容が分からないとなんとも言えませんが、運用とは取らない方が良いと思います。リスク資産として見ておくべきかと。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は49.9億円(35.9%)と結構借りてますね。
対するリスク資産はざっくり有形固定資産+のれん+投資有価証券で43.9億円(31.6%)。資産リストとしてはそこまでリスキーではありませんが、有利子負債比率の高さと合わせ技で若干B/Sリスク(減損による純資産棄損の可能性)は高めなのかな、と。
従業員の状況、役員報酬
従業員の給与は4.6百万円と正直厳しいですね。平均勤続年数も低めです。
業界平均とかはあるでしょうし、接客業って年収低くなりがちなんですけど、正直ライフデザイン事業とかに事業領域を広げるくらいなら、リソースを従業員給与に割いて、婚活事業をさらに掘り下げて高度化していくのが先のように思います。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり平均19.8百万円ほどです。従業員対比だとこんなものかな、と。
あと取締役の人数が多いです。取締役というのはグループとしてのトータルメリットを考える場なのですが、グループ内の子会社の社長や実務部隊の役職を兼務している人も見受けられ、この構成で果たしてその意思決定が担えるのか疑問です。
大株主の状況
役員の方やその関係者、資産管理会社で39.83%を占めてます。内乱でも起きない限りは役員の意思決定でいかようになる構造です。先の貸付の件と合わせて考えると、警戒すべき内容です。
株主還元
還元については明確な指針が無いようです。
財務レバレッジをかけているお陰もあるでしょうが、コロナ禍で苦しい直近以前は凄まじいROEをたたき出してます。
配当性向こそそれほど高くないですが、高水準のROEと合わせて考えれば、株主への還元は悪くないと思います。
コロナ禍にあってもTWEIを飲み込んだ結果が未だ見えていませんから、ここから業績がどう転ぶかがカギです。これでアフターコロナに元のような高ROEに戻るようなら、マネジメントとしてかなりのセンスだと思います。
まとめ
少なくともコロナ禍以前の業績はかなり優秀。とはいえ事業領域を広げすぎている印象もあるし、役員で結構な株を保有しており、社長への貸付などが実施されている点などは、ガバナンス含む体質に一定の警戒が必要かと。
直近で大きな投資を続けているのが、どう転ぶのかが気になります。ピンチはチャンスと言いますから、危機下において積極投資できるのは、優れた経営者の素養でもありますが、大きくコケたら目も当てられません。マネジメントの評価は今の投資がどういう形で今後に繋がっていくのかに寄るのかな、と。
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