結論
コロナと無関係に事業の体質改善が急務。
目次
事業概要
先ずはエイチ・アイ・エスの事業についてです。
エイチ・アイ・エスといえば格安航空券最大手で旅行事業で有名ですが、その傘下にはいくつかのビジネスがぶら下がっています。ハウステンボス、ホテル事業、その他事業(損害保険業務)は何となく本業の旅行事業と関係がありそうですが、九州道交グループとエネルギー事業はどういう経緯で始めたのか謎です。。
理念
基本的に会社というのは、先ず核となる創業者の理念や情熱があり、それを実現するために組織ができていきます。
では、エイチ・アイ・エスの理念は何かといえば
いまいち何したいのか分からないです。
理念というのは、会社が事業に対して意思決定を行う際の指針になるものです。
例えば有名な所でいえば永谷園ホールディングスの企業理念は「味ひとすじ」です。
これは非常にシンプルで分かりやすい理念です。
この理念に照らせば、永谷園が不動産事業やホテル事業に参入すべきでない事が一目で分かります。
エイチ・アイ・エスの基本方針を見てみると、
「自然の摂理にのっとり」
⇒自然の摂理に則らない組織なんてあるんでしょうか・・・
「人類の創造的発展と世界平和に寄与する」
⇒大抵の社会的行動は人類の創造的発展と世界平和に寄与するものだと思います。
つまり、大抵の行動を受容できてしまうため、意思決定の指針としての役割を果たせていません。そのため、同社は経営者の気まぐれで今後も関係のない事業にも参入するリスクがあると考えられます。
これは体質上の重大な課題と言えます。
セグメント別売上
売上高での割合は以下の通りです。
旅行事業:89.9%
ハウステンボス:3.3%
ホテル事業:1.5%
九州産交グループ:2.8%
エネルギー事業:2.5%
売上はほぼ旅行事業が占めています。
しかし、利益の観点から言うと
旅行事業:69.7%(利益率1.9%)
ハウステンボス:25.7%(利益率19.2%)
ホテル事業:-1.1%(利益率-1.8%)
九州産交グループ:0.8%(利益率0.7%)
エネルギー事業:4.9%(利益率4.8%)
大分構成が変わってきます。
利益率という観点から考えると、まともな水準はハウステンボス事業だけです。
セグメントを総括すると、エイチ・アイ・エスは薄利多売の旅行事業と、高利益率(同社の中では)のハウステンボス事業によって成立している会社になります。
業績推移
セグメントでおおよその見当はついていましたが、非常に利益率が薄い会社です。
経常利益率4.2%⇒1.7%⇒3.2%⇒2.7%⇒2.1%
これだけ利益が薄いと、売上が下落した際にドラスティックなコスト削減をしないと赤字に転落します。
念のため経営指標を覗いてみると
やはり売上高、営業利益、経常利益とその成長率を求める絶対値主義です。「全部伸ばせ」とだけ言って、最後に黒字だったらよかったよかった、というどんぶり勘定のマネジメントです。
付加価値率(効率)の観点が欠けています。
低い利益率に甘んじているのは、そもそもマネジメントにその意識が薄いためであると推測されます。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローがほぼずっと赤字です。
どんどんお金が流出していってます。
逆に財務活動によるキャッシュフローが黒字なので、借入や社債発行をすることで投資資金を賄っている形です。
キャッシュフローに比べてやたら現金同等物は充実していますが、この場合はあまり望ましくありません。財務活動によるキャッシュフローがずっとプラスなのを見る限り、どんどん銀行や投資家からお金を借りている筈です。それなのに返済せずに手元に現金が有り余っているというのは、特別な理由がない限りは資金管理ができていないか、そもそも資金効率を考えていないと推測されます。
B/S(貸借対照表)①
資産状況の確認です。
目立つのはやはり潤沢な現預金ですね。キャッシュフローの状況から見て、キャッシュを遊ばせている余裕なんて無い筈ですが・・・
73億円ほど(純資産に比べれば影響軽微)ですが、のれん爆弾もしっかり抱えてます。
負債の状況ですが、有利子負債が総額2,459億円。。現預金の額は2,192億円。。なんでこんな途方もない額を借りて遊ばせているのでしょうか・・・。
しかし上記だと凄く細かくて分かりにくいですね。。簡便化します。
B/S(貸借対照表)②
私が勝手にリスクの性質でまとめます。。
借方
現預金:2,191億円
債権+有価証券:913億円
有形固定資産:1,471億円
その他:1,199億円
貸方
営業上の負債:1,577億円
有利子負債:2,459億円
その他負債:499億円
純資産:1,239億円
考え方としては債権+有価証券は貸倒、もしくは架空になるリスクが高く、有形固定資産は減損になるリスクが高い資産です。
負債側は営業上の未払や前受をまとめて営業上の負債、銀行や発行した社債で借りている負債は有利子負債にしてます。
こうしてみると少なくとも2019年度末の純資産は手厚いですね。
リスク性の資産である債権+有価証券+有形固定資産の合計が2,384億円ありますが、50%以上、減損、貸倒にならない限りは債務超過にはならないですが、さすがにそれは考えにくいかと思います。。
ただ、短期有利子負債や営業負債の水準を考えると、現預金は決して余裕があるわけではありません。(さっさと返済すればよいのに・・・)
にもかかわらずキャッシュフローのこの状況はちょっと危機感が薄いと思います。
フリーキャッシュフローが赤字の体質をどうにかしない限り、同社はどんどん負債を抱え込み、何かで赤字に転落する事があれば、一気に資金が干上がるリスクを抱えています。デカい会社だけに、それまでの流れを変えるのは容易ではありません。
役員報酬と従業員給与の対比
あまり個人の懐具合を詮索するのは好きではないですが、こういった所からも経営者の考え方が見えると思います。
先ずは従業員給与ですが、平均年齢32.6歳というのは比較的若い年齢層です。それに対する年間給与が500万円。
年齢が若く、サービス業という点を考慮しても上場企業にしては低い気がします。
一方で創業者である澤田氏は億越えです。
私は所得格差を否定しません。
仕事の役割によって報酬が違うのは当然ですし、エイチ・アイ・エスという巨大会社の経営者である澤田氏が従業員より多く貰うのは当然だと思います。
ただ、体質や効率の観点で言って決して優良とは言えない状況、従業員が500万円であるエイチ・アイ・エスの状況を鑑みると、管理責任者の報酬にしては高いと思います。
ちなみにこの報酬、目標を達成できていない時の報酬です。
目標を108%として実績87%でこの報酬です。
経営者というのは、もし会社に損失が出たとしても、直接的には損失を負担しません。損失が起きたときに負担をするのは株主です。
だからこそ経営者の報酬は利益の絶対値ではなく、効率や体質で評価しなければ、株主や従業員に対してアンフェアです。
もしどうしても報酬を絶対値で評価したいのであれば、会社が赤字に転落したら経営者の報酬は減額、返納ではなく、マイナス(経営者が会社に払う)にすべきです。
報酬の設定の仕方からもあまり経営者に誠実さが感じられません。
まとめ
純資産の手厚さや手元資金の量から、昨年までの財務はそこまで悪くはないですが、過去からずっとフリーキャッシュフローが赤字、利益も薄いという体質がずっと変わっておらず、むしろ年々悪化してます。
これらはそもそも経営陣の管理能力に問題があると思います。資金効率や利益率やそれに向かう姿勢というのは、経営者の最も重要な能力の一つで、会社の生命線と言っても過言ではありません。仮にトップがそれに長じていなくとも、優れた補佐役の意見を取り入れ、体質の改善を図るべきかと思います。
今まさにエイチ・アイ・エスは店舗の閉鎖や新卒採用の中止など、コロナを理由にコストカットを図っていますが、そもそもの効率に対する意識が変わらなければ、所詮は一時しのぎです。体質改善を図らなければ、遠からずエイチ・アイ・エスは危機的状況に陥ると思います。
エイチ・アイ・エスの新卒採用の中止で嘆いている方もいるようですが、人生万事塞翁が馬。エイチ・アイ・エスに入らなくてよかった、と思う時が来るかもしれません。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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