結論
財務盤石、体質異常。
キーエンスを超える化物企業
目次
事業概要
先ずはカカクコムの事業についてです。
言わずと知れたインターネットメディア企業の雄「価格ドットコム」の運営会社です。日本のインターネットメディア黎明期から現在に至るまで、圧倒的なブランド力を持ち続けているのは同社を除いたらYahooくらいなものじゃないでしょうか。
カカクコムは「価格ドットコム」以外にも「食べログ」や「映画.com」のような複数のサイトを運営しており、これらの運営事業をまとめて、インターネットメディア事業と定義しています。
さらに、オンライン展開を中心とした生命保険及び損害保険の募集代理・媒介事業、保険商品の比較・検討に役立つコンテンツの提供、保険に関するコンサルティング等のサービスを行っているようで、これをファイナンス事業と呼んでいるようです。
カカクコムの事業はこの「インターネットメディア事業」と「ファイナンス事業」の2つのセグメントがあるとの事です。
とはいえ、知名度からも分かる通り「インターネットメディア事業」がほぼ同社のメインと考えてよいと思います。以下が売上の割合です。
全体の96.4%をインターネットメディア事業が占めています。
しかし、変化の激しいインターネットメディア業界で、黎明期から存在しているのにまだ前年同期比で成長しているというのは凄いです。。
業績推移
利益率の推移は49.4%⇒48.8%⇒45.3%⇒43.7%
キーエンスを彷彿とさせる化物です。
多く語るだけ野暮でしょう。
経営方針
価格ドットコムは「誰でも思いつきそうなアイディア」でトップをとっているだけに、コンテンツに恵まれただけの会社と思われがちですが、私の考えではカカクコムは経営体質も群を抜いて優れています。
先ず経営上の指標が凄い。
ROEは親会社所有者帰属持分当期利益率、という面倒な言い回しをしていますが、要は、純資産に対してどれくらいの利益をあげているのかを測る指標です。その指標で40%という目標目安の設定値が異常です。40%というのはつまり、額面で投資したら2年と少しで投資を回収できてしまうレベルという事です。一般的には優良な会社であってもせいぜい20%が良いところです。
ROE 40%が目安の会社など世界的に見てもそうは無いと思います。
ROEという指標
そもそも、ROEを目標に掲げる会社は多くありません。何故なら、このROEという指標は、求めすぎると企業体質を悪化させるリスクがあるからです。
具体的に数値を使って説明します。
例えば資産が現預金のみで100万円、さらに無借金で純資産が100万円の会社Aがあったとします。この会社Aは毎年20万円の利益をあげるとするとROEは20万円/100万円で20%です。
もし同社がROEを高めようと思ったらどうすれば良いでしょうか。
最も簡単なのは、自社株買いをすることです。
事業で使っていない資金50万円を使って、株式市場で取引されている自社株を買ったとすると、現預金は50万円、純資産も50万円になります。(自社株を購入すると、帳簿上、純資産からマイナスされる)
遊んでいる資金を使っただけなので、ビジネスの本質は変わらず利益は20万円です。
よって、ROEは20万円/50万円となり、元々の20%から40%まで跳ね上がります。
しかしこれは同時に会社から現預金が流出しているという事ですから、有事の際には会社のお金が尽きる可能性が高まる、というリスクも抱えています。何かあった時、他の条件がすべて同じなら、50万円持ってる会社より、100万円持っている会社の方が安心なのは当たり前です。
会社によっては、このROEを求めすぎるために、借入を行ってまで自社株買いをして、財務健全性を著しく損なう事もあります。つまり、財務安全性と資金効率指標であるROEは往々にしてトレードオフの関係にあり、それがためにROEという指標は企業にあまり受け入れられていないのです。
キーエンスとの対比
このブログでは典型的な化物企業として頻繁にキーエンスを挙げてます。
www.freelance-no-excelyasan.com
しかし、そのキーエンスですら、ROEは以下の通りせいぜい15%程度です。
それはキーエンスがカカクコムより劣っているというより、ポリシーの違いによるものです。キーエンスは「絶対に潰れない会社」という創業者の考え方を反映しているため、有事の際のために、恐ろしい額のキャッシュをため込んでいます。キーエンスもやろうと思えばROEを高める事はできるでしょうが、そもそもの意図としてROEを目標としていないのです。
一方でカカクコムは、資金の使い方に以下のような方針を示しています。
必要な資金を手元に残した上で、過剰な内部留保は行わずに株主還元を行う事としている、とあります。そして、事業拡大に必要な資金は営業キャッシュ・フローから獲得した資金を充当している、との事。
要は無駄な資金は持たず、成長に必要な原資以外は全て株主に還元します、追加の資金は営業キャッシュフローから充当します、という事です。
はっきり言って、株主にとってこれ以上の資金配分方法はありません。
カカクコムの示している方針は株主重視企業の一つの理想形と言えると思います。
キーエンスとカカクコムの企業体質はいずれも優れており、そこにあるのはポリシーの違いだけです。ただ、投資家目線で言えば、カカクコムのポリシーに圧倒的軍配があがります。投資家目線での体質においてはカカクコムはキーエンスを超える超絶優良企業であると言えます。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローは十分な水準です。成長原資は営業キャッシュフローだけで十分、というだけの事はあります。
B/S(貸借対照表)
財政状態の確認です。
現預金が295.0億(資産全体の46.6%)というのは、かなり手厚いです。元々営業キャッシュフローが潤沢ですから、もっと薄くても問題ないのでしょうが、そのあたりは財務健全性を担保するために温存しているものと思われます。
営業債権の水準も売上と比較すれば普通の水準ですし、営業債権、有形、無形固定資産といったリスク性の高い資産の合計は179.4億円ありますが、100%減損になったとしても純資産429.0億円のカカクコムではどうやっても致命傷にはなり得ません。
財務状態は盤石と言えます。
ちなみに使用権資産というのはリース資産の事で、国際会計基準では資産を賃貸契約しているとその資産額と負債額を両建て計上しなければならないという、誰得?なしゃらくさいルールがあるため計上しているものと思われます。よって、無視で良いです。
リース資産の両建て計上は、のれんの非償却に並ぶ貸借対照表を見辛くする国際会計基準の無益なルール※だと私は思います。
※財務諸表を見辛くする国際会計基準の三大謎ルール
①のれんの非償却
②リース資産のB/S計上
設定した側にもそれなりの理由も言い分もあるでしょう。
だが見にくい。
それは事実。
ビジネスを見やすくする会計の意義を根底から覆す愚かなルールだと思います。
(個人的な見解なので悪しからず)
有利子負債が5.7億円ほどありますが、これも無視で良いと思います。
大勢に影響ありません。
ストックオプション制度
あまり褒めてばかりなのもどうかと思うので、一応良くないと思う所も書きます。
カカクコムはストックオプション制度を導入しています。
例えば2016年の8月に取締役に向けて発行されたストックオプションです。
当時の取締役は1,670円でいつでも買う権利があるわけですが・・・いや普通に当時の値段でその時に買ってください。自分で買うのもストックオプションで買うのもほとんど変わらないでしょう。無駄に複雑な金融商品など使わないでほしい。
本質はいつだってシンプルなんです。
マネジメントは会社を成長させるためにいるのですから、もし自分でマネジメントして今後の業績向上に自信があるのなら、自分で市場から買ってください。
ポリシーとして株を持つ気のない役員ならそれはそれでよいですが、そんな人に会社が無理やり株を付与しないでください。割安な株式購入権を与えないとパフォーマンスを発揮しないような人なら、そんな人はそもそも経営陣に加えるべきではありません。
ストックオプション制度は無駄かつアンフェアなので早々にやめて頂きたい。
まとめ
財務体質は盤石、経営体質も最高の化物企業です。よほどの事が無い限り失敗する事はないでしょう。私は「価格ドットコム」というサイトは、アマゾンとウォルマートのコンセプトを足して2で割ったようなポテンシャルを秘めていると思います。アマゾンはあらゆるものをネットで購入できるようにする、というコンセプトで、ウォルマートはどこよりも安い値段で生活用品を提供する、というコンセプトです。
価格というのは誰もが気になる部分ですし、だからこそリアルでそのコンセプトを貫いたウォルマートは世界のトップ企業となりました。価格ドットコムのしている事は方針として同じです。後はアマゾン並みの商品量やサイトのユーザビリティがあれば、アマゾンにも十分対抗する強さを持てるビジネスに変身を遂げるのではないかと思います。
しかし、アマゾンがこれだけのブランド力を持ってしまった今、総合販売サイトとして戦えるのかどうか。
私が大学の頃なんかは価格ドットコムを必ずチェックしてましたが、最近は何か買おうと思って検索したら、アマゾンばかり出てくるので、いちいち価格ドットコムは見てませんでした。。もし経営陣にその気があるのなら、打倒アマゾンを掲げてほしいな、と思いました。カカクコムならそれができるのではないか、と思いました。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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