結論
財務盤石、体質良好。
ただし経営者の考え方が少し心配。。
目次
事業概要
先ずはディップの事業についてです。
ディップはバイトル、バイトルNEXTといった、CMで良く聞くアルバイトサイトを運営している会社です。基本的には人材サービス事業がメインなんでしょうが、最近はAI・RPA事業にも参入しているようです。
自社を「労働力の総合商社」と定義するのであれば、確かにコンピューター労働者ともいえるRPAに参入するのはおかしくない気もします。ただ、「労働力の総合商社」という志からRPAに参入したというより、RPAに参入する理由として「労働力の総合商社」を名乗った感があるのは私だけでしょうか。。
流行りのAI・RPAに参入したり、LIMEXの販売代理店をしたりと、2017年くらいから少々移り気のある経営陣という印象です。オーナー社長や社会的影響力のある経営者にこういう傾向がありますが、そういう会社は体質が安定しないため少々不安です。
セグメントを見てみます。
やはり人材サービスがほとんどを占めています。
事業の内容から不安視していたその他事業の売上での割合は0.1%ですね。。損失額は先行投資という意味なのか、相当大きくはありますが、それでも利益の3%程度です。本業である人材サービス事業がいかに強力かが分かります。
利益率40.6%ですからね。。
この売上規模でこの利益率は脅威です。
業績推移
経常利益率の推移は26.8%⇒27.6%⇒28.5%⇒30.5%⇒31.0%
安定している上、かなり優良な利益率です。
バイトなどに一切興味ない私ですらバイトルの名は聞いたことがありますから、そういったブランド力はかなり強力なのかもしれません。
経営方針
質的な部分である営業利益率を重視している所は好感が持てます。また、1株当たり当期純利益を重視するというのも本質をついていて非常に良いと思います。この売上高、営業利益率、1株当たり当期純利益(EPS)というチョイスは非常にバランスが良いです。
・売上高⇒規模をはかる
・営業利益率⇒質を見る
・1株当たり当期純利益率⇒実質的な株主への見返り
無駄がなく、指標の意味が重複していません。
数ある指標の中でこのチョイスができる経営陣は、企業経営に対してしっかりした哲学をお持ちではないかと思います。
キャッシュフロー
キャッシュフローは潤沢です。
やはりインターネットメディア系はキャッシュフローが強いです。資金繰りに困ることは考えられませんから、むしろその余剰資金を何に使うかが、体質を測る上で焦点になります。
ちなみにキャッシュフローが上下に分かれているのは、上が提出会社の経営指標等から持ってきており、下が連結経営指標から持ってきています。
連結経営指標は何らかの子会社や関係会社がいるときに作られます。子会社・関係会社間がいる時にその提出会社の指標しか見ていないと、例えば経営者がもう少し業績が欲しいと思ったら、意思決定権を掌握している子会社相手に売上を立てたりできてしまいます。
連結すると、意思決定権を掌握した子会社に対する取引は相殺されるため、そういった粉飾ができなくなるわけです。これを連結会計と呼びます。
つまり、この2年の間ディップは何らかの子会社を持っていて、連結決算をしていたことになります。
注記を見てみると、やはり株式会社BANQの株式を2019年に譲渡したために、直近の2020年の決算では連結から個別に戻っているようです。
沿革を見てみると2017年以降やたら色んな会社の株を取得しているようです。
・BANQ
ブロックチェーンを活用したトークンエコノミー事業、オンデマンド給料サービス、その他FinTechサービスの開発
・ジョリーグッド
VRサービス
・GAUSS
AIスタートアップ
・hachidori
チャットボット開発
・Marketing-Robotics
デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)
・TRUNK
学生向けキャリア・ビジネススキル教育サービス
・appArray
真に習得できるAI英会話
色々手を出してますね。。
最初のBANQは何となく本業と関係しそうではあるんですけど、他のは「労働力の総合商社」がなぜ投資したのか良く分かりません。
企業の投資というのはその企業の理念やビジョンに基づいて行われるべきだと思います。理念を突き詰めていくと、その過程でこのような課題があり、こういう解決方法を目指しているから技術を持っているこの会社に投資する、というのが企業の投資というものだと思います。
目指すべき道が定まっていなかったり、経営者の財布と化している会社というのは得てしてベンチャーに投資したりする事も多いですが、明確なビジョンの無い投資は、もはや投資ではなくギャンブルと同じだと思います。個人のお金でギャンブルする分には文句はありませんが、上場企業のお金で本来の理念に基づかないギャンブルしているとなれば、いかがなものかと思います。会社の体質としては危ないと言わざるを得ません。
B/S(貸借対照表)
流動資産の確認です。
現預金が192.4億(資産全体の46.8%)というのは、かなり手厚いです。
売掛金の回転期間も45.6日とそれほど問題なさそうですし、貸倒引当金の設定率も2.2%ほどですから、一般的水準です。
流動資産に問題はないと思います。
次に固定資産です。
IT系らしくソフトウェアが52.4億円あります。
ディップが運営しているバイトルとかのサイトの構築、拡張費用がここに積みあがり、5年償却(経費化)されているようです。この辺りは上手くいっているわけですから、そう簡単に減損等の対象にはならないと思います。
投資有価証券、関係会社株式の内訳は以下です。
何も書かれていませんから、投資有価証券分は純粋な余剰資金運用ではないかと。。
とはいえ累積で2千万ほど含み損のようなので、成績は芳しくないようです。
関係会社株式は、先ほど書いた通りの会社が並んでいます。しめて21.2億円。。この辺りは海千山千のベンチャーが多いようですから、あまり期待せず資産価値ゼロと考えておいた方が無難かもしれません。
次に負債・純資産です。
色々と引当金があって負債が多いように見えますけど、実は無借金経営なんですよね。
ちょっと未払金が多い気がしますが内訳は以下。
サイバーエージェントとか電通とか主に広告代理店ですから、広告宣伝費の未払いですかね。。後は内容は分からないのですが、関係会社に対しても未払金があるようです。
とはいえ、未払金に関しては基本的に払う側なので資産と違ってリスクはありません。とりあえずスルーで良いかと。
株主の状況
筆頭株主は代表取締役兼CEOである冨田氏の資産管理会社EKYT株式会社で41.62%です。個人で持っている分を加えると44.92%。さらに事実上無効化される自社株が全体の10%ほどありますから、事実上冨田氏が支配権を持っていると考えてよいでしょう。
となると同社は冨田氏の考え方如何でどうとでもなるわけですから、冨田氏がどういった考え方をする人なのかを推測せねばなりません。。
そんな中、嫌な感じがするポイントが2点
①会社の資金でベンチャー投資している
既に書いてますが、2017年から何社も急激に投資を増やしています。ベンチャー投資自体は立派な行為だと思いますが、それが会社としての理念や方針に沿っていないのであれば、個人の財布からすべきです。支配権を掌握しているからといって、上場企業は少数株主のものでもあるのですから、しっかりした理念や明確な目的もないままベンチャーに投じているのだとすれば、冨田氏が公私の区別ができていない可能性があります。
②よく分からない関連当事者取引
アルト株式会社という会社に対して売掛金を持っています。ただこの会社、「当社役員の近親者が議決権の過半数を所有しております」ってぼかして書いてあるんですけど、普通に考えたらこんな怪しい事ができるのって支配権のある冨田氏の近親者じゃないかと思うんですよね。Google先生に聞いたのですが、アルト株式会社の詳細が出てこなかったのでこれは推測の域を出ませんが。。
ディップが売掛金を持っているという事は、アルト株式会社がディップに支払う形なので、アルト株式会社が販売代理を請け負って外部に売上げ、手数料をディップに支払っているのかな、という気がします。となると外部の顧客とディップとの間にフィーが発生しますから、支配権を利用して冨田氏の近親者がディップの利益を一部吸っている、という図式が成立し得るという事に。。
一般的な取引条件で行っております、と書いてありますけど、取引条件は同じでも取引をするかしないかはディップが決めるわけですから、そのあたりの判断に支配者の近親者、という忖度が働いてもおかしくないです。つまり、仮にですがアルト株式会社がテキトーな業務していても、ディップから代理店契約を切られる事はなく、お金が落ちる仕組みが成立する。あくまで仮に、ですが・・・。
特定の営利団体の支配権を持つ人間の近親者は、その会社の業務には関わらせない方が良いと思います。真実がどうであれ、こういう邪推を生みますし、それは社内に不公平感を生み、ひいてはそういった権力者におもねる社風を生むことになります。
そういう怪しい図式を放置している、というのはいかがなものかと思います。
まとめ
数値的には正直文句ないです。ベンチャーの事などをごたごた書いてましたが、たとえそれら全てが損失になっても持ちこたえられるほど財務健全性は高いですし、体質としてもしっかりした経営方針を示して、諸々の数値分析もかなりしっかりしてます。
私が何度も指摘しているベンチャー投資という懸念点は数値にしてみれば最悪のパターンでも数十億円程度です。年の純利益が100億であるディップにとって大した問題ではありません。
とはいえ、ベンチャー投資を始めたのは2017年からで、これからさらに拡大する可能性もありますし、そもそも支配権を持つ冨田氏の考え方に若干、公私の分別がついているのか怪しい所です。
経営者は投資家にとっては大事な資金を託す運用代理人であり、社員にとっては人生を賭けるリーダーです。そういった観点で見たとき、経営者の誠実さはかなりの重要性の高い要素です。今は盤石でも、今後の冨田氏の方針次第では少々怖い気がします。今後の動向に注目したい所です。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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