結論
体質がかなり優秀。筋の通った経営をしている感がある。ビジネスの弱さを感じる部分はあるが、それを補い解決しうるポテンシャルを持つと推測。今後も注目したい会社。
目次
事業概要
まずはフィックスターズの事業についてです。
フィックスターズの事業はソフトウェア・サービス事業とハードウェア基盤事業です。
面白いと思うのは、フィックスターズのソフトウェアサービスは私たちが使うようなソフトを作って売るわけではなく、企業や研究機関がビジネスで使っているシステムなどをハードの性質に合うように最適化する事で、そのシステムの動作を改善したりできるようです。
以前出資してたITベンチャーの社長さんが仰っていたのですが、若いエンジニアはハードならハード、ソフトならソフトしか知らない人が多く、ハードにとって最適なソフトを選択できない、とこぼしてました。
同社はそういった問題をソフトとハードの両面からケアしていくビジネスなのかな、と。
正直、私は文系なので、読んでいて「ああ、なるほど」とはならないのですが、それでもあんまり無駄な説明はしていない気がします。用語解説などもしてくれているため、初心者にも読みやすく、分かりやすく書かれていると思います。
若干内容が専門的ではありますが、フィックスターズはやっている事をきちんと整理して分かりやすく伝えようとしてくれている誠意が感じられます。
セグメントの状況
同社のビジネスはソフトウェア・サービスとハードウェア基盤の2つに分かれていますが、内容を読む限りその目的は同じ気がします。
ハードに取って最適なソフトを提供するか、ソフトにとって最適なハードを提供するか、という手段が違うだけで、目的は大量データの高速処理なのだと思われます。
ソフトウェア・サービス事業:45.5億円(65.4%、利益率23.5%)
ハードウェア基盤事業:24.1億円(34.6%、利益率10.3%)
ソフトウェア・サービス事業に関しては良い利益率です。
しかしハードウェア基盤はそれほど良くないです。これはフィックスターズという会社としては自前でハードウェア基盤を作っておらず、あくまで日本IBMなどから部品を仕入れて顧客に提供するという、IT基盤の小売りのような立ち位置だからだと思われます。ただ、単なる小売というわけではなく、ストレージ・サーバに関しては開発も行っている模様。
しかしそれにしては利益率があまり良くないですね。。
正直この2つの事業は表と裏の関係性ですから、利益率が良くないからといってハード事業だけを切り捨てる事はできないとは思うのですが・・・自社開発までやっているならもう少し利益率はどうにかならないのかな、と少々不思議です。
業績推移
売上高利益率の推移は17.4%⇒17.4%⇒18.3%⇒21.1%⇒18.8%
売上高利益率としては優良だと思います。
ただファブレスのIT企業である点と、ビジネス自体の独特さを考慮すると控えめな印象です。
推測ではありますが、対象となる業界が銀行・証券や、メーカーの研究機関などの高速計算を必要としている特定顧客にしかニーズが無いため、買い手市場で利益率を上げ辛いのかもしれません。
そんな事を思いながらしばらく読み進めていって、見つけたのは販売先リストです。
上位3社で売上の59.4%を占めています。
これは確かに利益率を上げ辛い。。
特定の会社への依存を減らして価格アドバンテージを取れるビジネスを拡大しない限り、利益率を上げるのは難しいのではないかな、と思います。
会社としてはこの課題について認識していています。
経営方針
目標とする経営指標は自己資本利益率、営業利益、フリーキャッシュフローです。
この指標のチョイスは良いな、と思います。
自己資本利益率⇒効率及び株主還元
営業利益⇒絶対値としての成長
フリーキャッシュフロー⇒財務健全性
財務担当者のスマートさを感じる「ポイントを押さえた」指標だと思います。
具体的な数値目標こそないですが、この的を射たチョイスができる人が経営指標を「言うだけ」で終わるとは思えませんから、きちんと押さえられているのではないかと推測できます。
経営者の分析の所でも、きちんと当該3種の指標をきちんとフォローしています。
自己資本利益率は高いです。この数値は御立派です。。
これだけの数値なら、具体的な目標設定しておらずとも十分意識して管理している事が分かります。
キャッシュフロー
目標に設定しているだけあって、フリーキャッシュフローは十分ですが、投資活動によるキャッシュフローの変動が荒いです。
敷金及び保証金の差入による支出が多いです。これについては詳細が見つからなかったのですが、主な設備の所に事務所を全て賃借しているとのことなので、最近人員が増えたこともあって新たに事務所を増床した敷金ではないかと推測します。
自前で固定資産を持たず賃貸にするというのはキャッシュフロー経営においては重要なポイントですから、これもフリーキャッシュフローに重点を置くという会社の方針に沿った判断だと思われます。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
手元資金は17.0億円(40.9%)というのは、IT企業らしい十分な水準かと思います。。
売掛債権が18.3憶円(44.1%)と結構多いですが、回収期限が96日とおよそ3か月ほどです。長いと言えば長いのですが、得意先が支払の遅い製造業ですから、これくらいは異常ではないです。
資金と売上債権を合わせると85.0%を占めるという、実に流動資産の多い、安全性の高いB/Sです。ファブレスのスタイルを取っている事や、本社などを自前で持っていない事がこの健全な体質を保ってくれているのだと思います。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営です。
特段の理由が無い限り先ず借金をする必要は無いと思います。
注目すべきは自己株式だと思います。純資産の金額に対して結構な自社株買いしています。
同社は売上高利益率は優秀ではありましたが、自己資本利益率ほど異常なレベルではありませんでした。これには二つの可能性が考えられます。
①売上高回転率が高く、自己資本に対して利益が多い。
②自社株買いをして純資産の母数を減らしている。
①は利益率が低い代わりに回転率の高い小売業でありがちです。フィックスターズは業種的にそれには該当しませんから、多分②だとは思ってました。
ここから読み取れるのは、目標となる指標をきちんと意識して財務的な調整を行っているという財務に関する優秀さと、株主還元に対する意識の高さです。
配当政策の所を読んでみると、目標が30%とそれほど多くなく、その理由も曖昧であまり良い政策とは思えません。ただ、実は裏で淡々と自社株買いして自己資本利益率をあげつつ、株主還元しているという心憎い会社のようです。
2019年~2020年
2017年~2018年
大株主の状況を見る限りでは、特定の株主が持っているわけではないため、まだまだ買える株はありそうですから、今後も自社株買いを継続してくれるのではないかと。
まとめ
かなり体質が良質な会社だと感じました。
得意先企業が少なく、利益率がそれほど高くないというのは、業種自体の性質ですから仕方ない面があります。それを財務でバランス良くマネジメントしており、質の高い企業として成立させている感があります。
説明の内容もかなり明瞭で、株主への誠意を感じる部分が多々あります。
マネジメントはかなり優秀な方々ではないかと。
優秀なマネジメントがいるのであれば、今現在として利益率がそれほど良くなくとも、一つ一つ課題を解決し、大きく企業として飛躍しうる可能性があるのではないかと思います。
自社株買いを定期的に実施しており、期待値も高いため、よほどの事が無い限り株価は下がらない気がしますが、今後とも成長に注目していきたい会社だと感じました。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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