企業分析アナトールの株式投資

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【4488】AI inside~有価証券報告書の読み方~

結論

DXの徒花として消えるか、はたまたここから大きな飛躍を遂げるのか。とりあえずショーケースとの提携でどんな付加価値を生むかが試金石かと。

 

目次

 

前置き

AI insideは調査リストにありませんでしたが、暴落しているという話を耳にしたので、どれどれ、と株価を見てみたらエライ下がり方をしてました。

【AI inside】[4488]チャート | 日経電子版

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市場が急落しているわけでもないのに、たった半年ほどで1/5以下になるというのは結構珍しいケースかと思います。

こういうのは投資家にとって絶対に避けたい事象です。理由が何であるか、当ブログの分析方法で巻き込まれる事を避ける事ができるのか、そのあたりを重点的に見てみるために寄り道します。

 

事業概要

まずはAI insideの事業についてです。

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AI insideの事業は人工知能事業のみの単一セグメントで、主力のサービス名としてDX suiteがあり、オンプレミス環境を希望するお客さん向けにAI inside cubeというハードもあるようです。

「AI insideのストーリー」まではふんふん、と普通に理解できました。

しかし・・・私の頭が悪いだけなのかもですが、サービスの内容以降は何度も読み返さないとよくわからない(あるいは何度読んでもよくわからない)記述が多かったです。環境とか経緯とかの説明がやけに多くて、「で、どんな機能なんだっけ?」という部分が多かった気がします。

分かる人には分かるのかもですが、もう少し分かりやすく書けないものかな、と。

これだけではちょっと良く分からないので、私の経験から捕捉。

私の会社でもDX推進部署がDX suiteを仮導入しまして、PDFから文字情報を読み取るサービスを何かに使えないか、という話がきました。

私も新しいソフトとか好きなんで早速何かに使えないか考えたんですが・・・少なくとも私の仕事の範疇では全然使い道が思いつかなかった。。

棚卸のカウントの紙を目視で転記している仕事があったので、これをやらせたらどうかとは思いました。ただ、紙をすべてPDF化する手間とクラウドにアップロードする時間、このサービスを使用するために払わなければならないコストを考えると、正直、1日転記するバイトを1万円くらいで雇って転記してもらった方が安上がりなんじゃないかと。

棚卸なんて年に1度か2度なんで、それで十分な感はあるんですよね。。

Snipping toolのようにカットしてすぐに文字になるというなら使い勝手も良いですが、クラウドサービスではどうあってもアップロード時間という制約があってよほどの効果が見込めない気がしました。

そんな業務が果たしてあるのか・・・少なくとも私には思いつきませんでした。。

という事でPKSHAの時も書いたんですけど、もともとAIの未来に懐疑的な私としては、若干将来性に不安が残る事業なのかな、と。

【3993】PKSHA Technology ~有価証券報告書の読み方~ - フリーランスのエクセル屋さん

 

セグメントの状況

AI insideは先に書いた通り単一セグメントですのでセグメント別はありません。

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ただ、サービスごとの情報や主要な顧客情報などがあるのでチェックします。

サービスはリカーリング型とセリング型に分けられてます。

事業の内容の中に書かれてますが、リカーリング型とは継続的に収益があがるモデルであり、セリング型は取引ごとに収益があがる形とのことです。

読み込んだ回数によって課金されるのがリカーリング型、買い切り型がセリング型と考えればよいのかな、と。

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カーリング型とセリング型を合わせて16億円あまりの売上があり、そのうち1.7億円がエヌ・ティ・ティ・データ向けの売上のようです。

全体の10.8%ですから、そこまで売り先が偏っている印象はないです。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は▲556.7%⇒▲338.5%⇒▲111.5%⇒▲41.1%⇒25.7% 

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創業時は恐ろしいレベルの赤字ですが、段々と赤字率を減らしていき、ついに2020年に黒字転換、しかも素晴らしい利益率をたたき出すという素晴らしい成長曲線です。

成功のストーリーとして実にシンプルで今後も成長の期待ができそうな雰囲気です。

では、このあたりで2020年3月以降の株価推移を情報と共にフォローしてみましょう。

【AI inside】[4488]チャート | 日経電子版

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2020年3月以降、順調に株価を伸ばしていたAI insideですが、11月以降、3度の急落に見舞われています。2020年11月、2021年2月、2021年4月の3回です。

これが何故起こったのか、当時の公開文書と共に追ってみましょう。

先ずは2020年11月です。

2020年11月のチャートを見ると、大幅な上げから急落しているのが見てとれますから、良い情報のすぐ後に悪い情報が来たのだと推測されます。同時期に出た公開情報がこちら。

まず株価が大幅に上昇したタイミングの情報

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これは凄いですね。

元の予想も前期実績対比で相当伸びていたのに、さらにそこから修正予想がかかったわけですから、確かにこれは期待が高まります。修正の理由も至って自然で、コロナ禍を追い風に飛躍を進めている印象しかありません。

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次に、暴落した時期に公開されている情報

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(。´・ω・)ん?

なんかあまり関係なさそうですね。。

添付資料で説明会において使用した資料がついてますが、先の決算修正情報以外にめぼしい変化は見られませんでした。

となると、この暴落は直前の急上昇から利益確定売りが入っただけかもしれません。

実際暴落と言っても、この時点では決算修正が入る前の水準に戻っただけですから、それほど本質的な暴落とはいえません。

 

次に2021年2月の暴落です。

この時期に公開されている情報がこちら

AI inside[4488]:2021年3月期_第3四半期決算説明資料 2021年2月10日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞

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これも大して悪くない業績ですね。。

順調な進捗状況だと思います。

ちなみにこの報告資料では2回ほど修正が入ってます。

1回目修正

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2回目修正

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同じ事務職としてこういうミスは当然起こりうるのは理解できますが、対外発表資料でこういうことが立て続けに起こるとなると、資料作成の現場はよっぽどテンヤワンヤで混乱しているんだろうな、と感じます。

とはいえ、訂正内容はそれ自体がクリティカルな暴落原因になるとは考えにくいです。

他の要因が無いとすれば、そもそもAI insideに対する市場の評価が、「業績を上方修正して当たり前」という前提の株価まで上がっていたのかな、と。

計画通りに業績を伸ばしている会社側からすると迷惑な話ですね。。

勝手に期待して、勝手に失望した株主から八つ当たりされるのはIR部署ですから。。

 

最後に2021年4月の暴落です。

これに関しては業績に直撃する情報が入ってきました。

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要するにAI-OCRの販売代理店的パートナーシップ契約を結んでいたNTT西日本が、頑張って営業努力してみたけど、1年と経たずに解約する会社さんが多くて、AI insideにライセンス料を払って許諾を受けていた分を全然捌けないので、ライセンスの多くを解約することになった、という事かな、と。

これによる影響額が2021年3月期にはほとんどないけど、2022年3月期には17.6億円くらい売上が減りますよ、と。

2020年11月と2021年2月の下げから分かる通り、AI insideは市場から過剰なほどの期待をされていた会社さんですから、この発表はかなりの痛手です。

単純な売上減という意味でもそうですが、1年足らずの解約が多いってつまり、私が事業内容で危惧していた通り、AI-OCRをきちんと業務の改善に使いこなせている会社がほとんどいないという事じゃないかな、と。

それはもはやAI insideの主力商品であるDX Suiteの事業性に関わる問題になります。

DXという言葉が持てはやされて採用する会社が増えたものの、結局本当の改善に繋がらず時代の徒花として消える、というのは容易に考え得るシナリオです。

ただ漫然と数値を追うだけでは見えない事もある、という所でしょうか。

 

 

 

経営方針

経営上の指標としてはリカーリング型売上の成長ですね。

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AI insideのように新たな分野を開拓する企業で求められているのは、まずは売上を伸ばすことであり、より多くの顧客から必要とされる存在になる事が重要です。

その点、この目標は無難な設定であると思います。

 

 

 

キャッシュフロー

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直近はさすがにフリーキャッシュフローが黒字です。

元々AI関連事業の投資で必要なのはサーバ程度でしょうから、フリーキャッシュフローは黒字になりやすい企業ではあります。うまく売上を上げて無駄遣いしなければ、そうそうキャッシュに関して心配する事はないと思います。

それにもかかわらず、随分財務キャッシュフローが黒字になっています。

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内容を確認してみると新株を発行してますね。

問題はこれを何に使うかですが、事業等のリスクのところにざっと記載がありました。

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内容はM&Aいっぱいします、とかじゃなく、あくまで自前事業の強化である点は好印象です。ただ、一方で2020年11月くらいに、こういう事してます。

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この金額が12.3億円ほどです。

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一応目的は以下らしいです。

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この提携によって、AI insideがどのようなサービスを構築しようとしているのか、私にはイメージがつかめません。しかし、2020年3月期に新株発行して調達した資金を丸ごと突っ込んでいるので、この投資がAI insideのマネジメントの質を見定める試金石になるのは間違いないかと。これがまったく的外れで後に売却するようであれば、あまり信用できないです。
 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が25.3億円(84.2%)と、増資したばかりでほぼ現預金です。

2020年11月にこのうち半分の12.3億円がショーケース株に変わる事になるわけですね。

ちなみにAI insideはショーケース株を695円で購入しているようですが、2021年5月11日時点での同社の株価は820円。18%くらい含み益になってます。単純な投資パフォーマンスとしては悪くないですね。

やはり売掛金2.2億円(7.3%)で滞留期間は50日ほどで問題なさそうです。

 

負債、純資産を見てみます。

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短期借入金1.0億円(3.3%)は※印がついているので注記を見ると、当座貸越なんですね。

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当座貸越というのは、当座預金という口座を持っている法人が、預金残高を超えて使用できる制度です。会社って二回支払い不能(不渡り)を起こすと、銀行が融資をストップして潰れてしまうので、資金繰りは絶対ミスれないんですけど、この当座貸越を契約しておけば、仮に資金繰りミスって残高より支払いが多くなっても銀行が貸してくれるので不渡りとかにならないらしいです。

〔当座貸越〕 当座貸越とは何ですか? |NEOBANK 住信SBIネット銀行

簿記の問題で見た事はありますけど、少なくとも私は現実にはお目にかかったことのない仕組みです。ある程度大手の企業は預金に余裕を持っているので、当座貸越する必要とかあんまりないんでしょうね。

AI insideも特段必要なさそうな気がするので、いずれなくなるんじゃないかと。

前受収益2.0億円(6.8%)については特に記載がなかったですが、おそらくはライセンス料の前受分ではないかな、と。

純資産は23.1億円(76.7%)ですから十分盤石と言えます。

 

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

できたての会社にしては結構な給与を出しているな、という印象です。

人材についてはある程度優遇している様子がうかがえます。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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取締役の一人当たり平均は18.9百万円です。

一般より少なめですが、できたばかりで最近まで赤字だった会社ですから、無難な金額ではないかな、と。社員との格差もそこまでない印象です。

 

 

 

大株主の状況

渡久地氏が半分以上を所有しているようです。

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意思決定権を掌握しているので、一応不当な関連当事者取引がないかだけ確認しておきます。該当なさそうです。

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株主還元

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上場してからそれほど時間も経っていませんし、成長に投資しなければならないというのは当然でしょうから、あまり還元できない、というのは仕方ないかと。

 

 

 

まとめ

結論から言えばAI insideのここ半年の暴落は、AI insideの責任というより、あまりに市場の期待が高すぎたことによるものではないかな、と推測されます。

5/11の株価で16,370円ですけど、2021年3月期の利益予想は、311円。

暴落した後の今ですらPER52倍です。

業績の今後の伸びが懸念されている今の状況では、保守派の私に言わせるとPER10倍でも買う気がしません。

希望があるとすれば、ショーケースとの協業関係がうまくいき、うまくDX Suiteを活用できる分野を見つけ出すことかな、と。逆に言えばそれがうまくいかなければ、同社の成長はかなり厳しいものになるのではないかと。

 

今回のこのAI insideの事例から得るべき教訓は、同社のように新たな市場を開拓するタイプのビジネスは過去や目先の業績が何の役にも立たない、という事かと思います。実際AI insideの業績推移は、ベンチャーの成長の仕方としては理想的ともいえる形をしていて、成長率だけでみれば、まだまだ成長余地があるように見えます。しかし、少なくとも公開資料上では一切の予兆も見せず、突然業績見込みが悪化しています。財務数値だけ見ていてこの状況変化を予測する事は不可能です。

既にある程度の市場が確立されており、規模もそれなりに大きく安定している会社であれば、過去の業績や財務数値から、経営者・会社としての癖や考え方などが透けて見えますが、同社のような会社はサービスの質次第でどこまでも伸びる可能性を秘めている一方、質が悪ければ一気に衰退するリスクも秘めています。

こういった会社は財務数値は最低限のリスク分析程度に止め、成長性はサービスや製品の質、顧客の反応といった定性的な部分を重視するのが見極めるポイントになるのかな、と感じました。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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