結論
数値で見る分には十分優秀な会社。ただ、個人的にはミッションからロードマップや財務指標の設定ができてないように思えるので、先ずはそこを整理してはどうかと思った。
目次
前置き
アバントは調査予定にはありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずはアバントの事業についてです。
アバントの事業内容は連結会計関連事業、ビジネス・インテリジェンス事業、アウトソーシング事業に分類されます。
私も一応経理の端くれなので、連結会計システムDIVAの名は知ってます。アバントという会社名は知らなかったし、私は連結をメインで担当したことないんで、触ったことないんですけどね。。
連結会計関連事業と、アウトソーシング事業は連結決算絡みの事業なんですね。さらにビジネス・インテリジェンス事業はそのデータを統合整理する事業です。となるとアバントの事業領域はCFOの意思決定を補佐する部分に特化している印象ですね。
経理にあまり馴染みが無い方に捕捉しますと、経理システムと一口にいっても、単体決算、固定資産、研究開発、資産管理、旅費精算、予算管理と、結構な論点があって、システム会社が個別論点ごとにパッケージ化してたりします。
大きな会社になると継ぎはぎのように複数の会社のシステムを連携させてたりします。私の会社も、知っているだけで4社くらい使ってます。
で、連結決算システムというのはそういった個別論点のシステムから情報を吸い上げ、最終的なアウトプットを出すポジションになります。グループ会社のCFOが状況を確認するとしたら、間違いなくグループ全体の連結業績から見ますから、連結決算システムはある意味CFOと会計システムの窓口であると言えます。
事業系統図にある顧客の定義「上場企業のCFOおよびCFO組織というのは」自身の事業領域を深く理解した、実に的を射たターゲティングではないかと。
セグメントの状況
アバントはセグメントを先の3つのセグメントに分類してます。
連結会計関連事業:84.9億円(52.0%、利益率19.1%)
ビジネス・インテリジェンス事業:57.7億円(35.3%、利益率12.0%)
アウトソーシング事業:20.6億円(12.6%、利益率17.7%)
ん~・・・?なんか思ったほど利益率は高くないですね。
事業説明の内容的にはかなり的を射ていたのでちょっと意外です。
会計システムの会社は過去分析していた中で、プロシップやOBCのようなかなり高利益率の会社があったので、ちょっと拍子抜けです。
比較相手が悪すぎる(良すぎる)、というのは勿論あるのでしょうけどね。。
業績推移
利益率の推移は11.6%⇒12.4%⇒13.5%⇒14.0%⇒14.5%
ん~付加価値率という観点から見ると結構平凡ですね。。
財務責任者に一番近いシステムだから、もっとがっぽり儲かっているかと思っていたのですが、財務責任者だからこそ意外にシビアなのか、それとも業界での競争が厳しいのか。。
この業績がどういう方針のもとで出されたものなのか、覗いてみましょう。
ここってかなり感覚的な話になってくるので、あくまで一意見として読んでもらいたいですが、私はこの方針あんまり好みじゃないです。
先ず、経営の原則の最初の①-③は結構普通の事を言っていて、あんまりこれを関係者が見てもあまり役に立たないと思うんです。
信用第一⇒まあ、信用が無いとお客さんが買ってくれませんよね。
赤字は悪⇒赤字を正義だとは思う人はあんまりいませんよね。
創意工夫で高価値化を追求⇒うん・・・人まねで高価値化はしないですよね。
といった具合に、当たり前のことだから同意はしますけど・・・今後どうすればいいんですか?という印象です。こういう場合の考え方って、他に選択肢がある中でこれを選びます、という事を書かないとあまり意思決定の役に立たない気がするんです。
例えば
規模と利益だったらどっちを選ぶのか、とか。
資本効率と付加価値率はどちらを選ぶのか、とか。
顧客、社員、株主の利益が共存できない場合、最も優先されるのはどこか、とか。
そういう選択肢がある中でこれを選ぶ、という事を書かないと社員は「そうですね」と同意するだけで終わってしまう気がします。それではあってもなくても同じです。
④、⑤でようやくちょっと会社独自の色が出てきたかと思ったんですが、2つとも「社員が成長すれば会社が伸びる、社員頑張れ」なんですよね。。
え・・・マネジメントは何するの?ミッション示して応援だけ?という感じ。
同社はミッションとして「経営情報の大衆化(経営情報を未来の地図に変えていく)」を掲げており、このミッション自体はとても良いと思うのですが、そこに至るまでのロードマップが「一般論」と「社員頑張れ」だけではマネジメントの意味がないと思います。
経営情報の大衆化というミッションをもう一段階具体に落とし込む、例えば「CFO組織とのヒアリングをして一つ一つ丁寧に対応して満足度を高めるとともに、潜在ニーズを吸い上げ、よりクリアなビジョンの創造を目指す」とか、より現実的な方針に落とし込む必要があるんじゃないかな、と。
少なくともこの方針なら、社員はIFRS対応に必死になったり、競合他社のシステムを真似る事より、あくまで顧客としっかりコミュニケーションを取り、少しでも情報を取ってくる事を重視してリソースを割くようになるんじゃないかと。
そしてそれを続けていけば、ミッションもクリアできる気がしないでしょうか。
あくまでこれは一例ではありますが、社員が「この方針に従っていればミッションに至れる」と信じられる道を示すのがマネジメントの仕事だと私は思います。
少なくとも有報では精神論や抽象論が多く、それができている印象は受けません。
戦略や方針として練り切れてない感が強いです。
財務指標
同社は売上、ストック売上比率、営業利益、売上成長率+営業利益率、ROE、配当を指標としているようです。多いですね。。
売上と営業利益と営業利益率辺りの目的がダブっている感じがしてあまり整理されてない気がします。
財務指標というのは本来、目標に到達するためのベンチマークとして設定するものです。同社の場合、ミッションを具体に落とし込めていないために、こういうボヤけた指標になるのかな、と。
ミッションを深堀してどういう指標を改善する事がミッションの達成に繋がるのか、という問いをすれば、せいぜい3個程度に絞れるんじゃないかと思います。
キャッシュフロー
十分なフリーキャッシュフローです。
営業キャッシュフローは十分ですし、投資キャッシュフローも安定しています。余計な運用とかもしていなさそうです。この辺りは経理システムの会社っぽい。
アバントが資金繰りに困る事はあまり考えられないですね。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が63.4億円(53.8%)とやはりIT系なので多めです。
売上債権の金額は23.4億円(19.9%)で滞留は55日ほどです。問題ないです。
前払費用5.5億円(4.7%)は割合としてはそれほど大きくないですが、項目として珍しいです。全然説明が無くて、しばらく考えたんですけど、注記見ていて気付いたのが以下。
受注製作のソフトウェアを工事進行基準で認識しています。
工事進行基準というのは、工事の進捗に応じて売上と売上原価を計上する会計方法で、建物の建築みたいな、工期が長い受注案件に適用されます。
工事にかかる費用を一旦前払費用として計上し、顧客から前受収益を受け取り、工事の進捗に応じてこれらを売上と売上原価に振り替えていく形になります。
一応、相手となる前受収益があることも確認。
20.8億円ということなので、前払費用より多いですね。
つまり、先に入ってきているお金の方が多いということなので、これは資金繰りにとっては有利な取引ということになります。質的に問題ないかと思います。
ちなみに建築業のように長期受注案件の収益認識方法には、この工事進行基準と、工事完成基準の2つがあり、工事進行基準は完成進捗に応じて売上、売上原価を立てるのに対し、工事完成基準は引き渡しが完了したタイミングで売上と売上原価を一括計上します。
一括で引き渡す工事完成基準に比べると、工事進行基準は「進捗に応じた」という曖昧な部分があり、この進捗を操作する事によって収益の認識を操作し得る、という特徴があったりします。
昔、監査法人をテーマにしたドラマ?か何かで、これを題材にした粉飾の話がありました。怪しいと思った工事進捗を調べるために会計士が現場を見に行く、と言うと、社長が進捗操作がばれないように、現場の人間に一度作った建物を解体しろという指示をし、しかもその急な解体工事のせいで人が死んで、何故か会計士が社員の遺族から恨まれて葬式で水をぶっかけられるという壮絶なストーリーだったと思います。。
絶対悪いの社長じゃねーか、と思った記憶があります。
要するに、こういう工事進捗の操作による売り上げ操作って、やろうとしてもせいぜい前期のものを当期にしたり、来期の売上を当期にしたり、といった短期の操作に限られる(長期になってくるとさすがにB/Sとかに違和感が出てくる)ので、数年単位の売上を見てみれば、均すことができます。
こういう会計ルールの特徴を知っておけば、万一会計士がスルーしたとしても数年単位でPLやBSを見れば、実態が掴める筈です。
会計ってのはどうしたって工事進行基準ルールのように見積が含まれるので、そのあたりをチョコチョコっと説明を作ってやれば1期や2期のズレは生める可能性があります。
だから企業の財務数値は何年か分の数値を追うのが大事なんですよ、という余談でした。
有形固定資産4.7億円(4.0%)は割合としてそれほど大きくはない印象です。
ソフトウェア会社なのでせいぜいオフィスだけなのでしょうね。
本当にソフトウェア会社は固定資産が無いのでうらやましい。。
敷金は6.7億円(5.7%)と有形固定資産より多いです。有形固定資産より敷金の方が多いというのは、自前で持つのではなく賃貸しているオフィスが結構あるという事で、これは持たざる経営ができてるという意味ではポジティブな印象です。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営のようです。
純資産は71.9億円(61.1%)です。資産欄リスキーな資産はほぼなかったので、十分な水準です。
従業員の状況、役員報酬
これくらいの年齢でこの給与だと、若干少な目かな、と。。
従業員の勤続年数が短いのは、この人たちが持ち株会社であるアバントの従業員だからかと。持ち株制を導入してアバントができたのが2013年なので、仕方ないと思います。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり平均56百万円ほどです。
社員の給与水準と比べると若干高めの印象です。
アバントの社員はグループ全体で1000人以上の規模ですし、営業利益率こそ大して高くありませんが、ROEはそれなりに高く安定してます。
こういった成果を鑑みれば非難されるほどではないのかな、と。
個人的には、方針の作り方があんまりな印象だったので、それだけもらうならもう少し方針とかを練り上げてほしい気がします。
大株主の状況
創業者兼社長の森川氏が結構な比率を保有してます。
以前に分析したOBCも大株主に名を連ねてますね。
一応OBCとの契約とかあったりするのかと思って調べましたが。。
特になさそうです。
OBCは株主還元にあまり興味がなく、ひたすら金貯めて運用している会社だったので、アバントへの投資は戦略的な話ではなく、単に投資目的なのかもしれません。
株主還元
純資産配当率に触れているのは悪くないですが、具体的な数値目標が書かれてません。。
一応配当性向も確認してみます。
そんなには高くないですね。。
先に見た通り、それでも十分ROEが高かったので、今の状態でも十分純資産に対して利益が大きいのでしょう。ただ、自社株買いとかでもっといけるんじゃないかな、と。
まとめ
財務は盤石、PLも十分優秀。ただ、事業内容の説明は良かったんですけど、ミッション達成に至るまでの道筋がちょっと見えないのと、ベンチマークをうまく設定できてなさそうな所が気になりました。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
有料note
2020年の投資、分析をざっくりまとめた有料noteを作成しました。
Free-EX Report(2020年版)|フリーランスのエクセル屋さん|note
買って頂けるととても嬉しいです。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com