企業分析アナトールの株式投資

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【9104】商船三井

本記事はコメントにて複数の誤りが指摘されております。取り下げるべきか考えましたが、誤り自体は筆者の未熟さを露呈する事はあっても、第三者の名誉を棄損するものではない点を鑑み、一旦そのままにします。読者様におかれましては一番下のコメントを併読する事で正しい認識を持たれますよう、お願いします。

結論

目先の業績はバルチック海運指数の上昇によるもので、元々の利益を稼ぐ力は決して高くない。売上規模を縮小する構造的な改革に手を付けている感はあるものの、まだまだ道半ばという印象。

 

目次

 

前置き

商船三井は調査対象外でしたが、読者様にリクエストされたため調査します。

 

事業概要

まずは商船三井の事業についてです。

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商船三井の事業は、海運業を中心とした5つのセグメント、ドライバルク船事業、エネルギー輸送事業、製品輸送事業、関連事業及びその他で構成されているようです。

  1. ドライバルク船事業:鉄鉱石、穀物、塩、アルミ塊、銅鉱石などさまざまな資源を、梱包せずに大量にそのまま輸送する「ばら積み船」のことのようです。

    いろいろな船

  2. エネルギー輸送事業:火力発電用の石炭を輸送する石炭船、油送船、LNG船等の不定期専用船
  3. 製品輸送事業:自動車専用船、コンテナ船等、「モノ」の運送全般
  4. 関連事業:不動産事業、客船事業、曳船業、商社事業等
  5. その他:油送船とLNG船を除く船舶の船舶管理業、グループの資金調達等の金融業、情報サービス業、経理代行業、海事コンサルティング業等

一口に船と言っても色んな種類があるのですね。

関連事業・その他といってもそれほどやっている事は海事から離れていない感じもしますから、事業領域をしっかり持っている印象です。

セグメントの状況

商船三井のセグメントは先の5つのセグメントに分かれ、製品輸送事業は特に自動車船・フェリー内航RORO船事業を切り出しています。

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  • ドライバルク船事業:2,221.8億円(21.6%、利益率▲1.9%)
  • エネルギー輸送事業:2,875.9億円(28.0%、利益率10.3%)
  • コンテナ船:2,205.8億円(21.5%、利益率53.1%)
  • 自動車船・フェリー等:1,758.9億円(17.1%、利益率▲8.2%)
  • 関連事業:981.3億円(9.6%、利益率9.6%)
  • その他:225.8億円(2.2%、利益率11.8%)

こうして見ると利益が出ている事業と出ていない事業の差が激しいですね。

目立つ赤字としてはやはり自動車船・フェリーで、フェリーは間違いなくコロナの影響があると思います。ダイヤモンド・プリンセス号の事件は未だ記憶に新しく、間違いなくフェリーの印象は悪くなったと思います。船を自前で持っている会社の場合、客が居ても居なくても固定費は発生し続けますから、どうあがいても赤字確定のセグメントな気がします。

普段からそういったリスクを補うだけの利益を出していれば良いですが、コロナ影響の無い2019年3月期を見ても利益率は0.8%と微々たるものです。

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普段から利益をあげていない事業だと、こういった突発事象が起きた際、どんどん困った状況になります。。

自動車船も状況としては芳しくないと思います。

自動車産業は日本を代表とする産業であり、現在においても屋台骨には違いありません。ただ、おそらく今は自動車の輸出は昔ほど盛んではなくなってきているのではないかと。一応、日本の自動車産業の歴史をおさらい。

自動車産業 - Wikipedia

日本の自動車産業の出発点は、1907年に山羽虎夫と吉田真太郎が東京自動車製作所で「タクリー号」を生産したことから始まった。その後、1911年に橋本増治郎が快進社を設立し、イギリスのスイフト社からシャシーを輸入して組み立てた「スイフト号」を生産し、1914年には自力で「ダット一号」を生産した。その後、1923年に関東大震災が発生し、東京の交通機関が麻痺した際に、東京市長後藤新平は1000台の米国車を緊急輸入することで東京を機能不全から救い、日本人の間で車への評価が大いに高まったという。これに目を付けた米国の自動車会社は、1925年にフォードが横浜に、1927年にGMが大阪に自動車組立工場を建設し、1931年時点では、両社で合計二万台を組み立てていた。これに対して日本車の生産台数は400台に過ぎなかった。

フォード・GMの自動車組立工場は、どちらもKD工場であったため、主要部品はアメリカ本国からの輸入であったが、補修部品を中心に日本の部品企業に厳格な査定を要求したため、結果的に日本の自動車産業の発展に大きく寄与することになった。

その後、外資系企業による日本の自動車産業の独占を危惧した政府は、自動車製造事業法(1936年)を制定し、国内自動車産業の本格的な育成に乗り出した。この流れを予測していた豊田自動織機製作所(現・豊田自動織機、後に自動車部門をトヨタ自動車として分社)は1933年に、日産は1934年に自動車産業への本格的な進出を開始し、日中戦争、太平洋戦争における日本の軍用トラック生産の大半を任されるようになり、戦後の日本自動車産業の本格的な発展の準備となった。 朝鮮戦争後の1950年代後半から1960年代前半にかけて、日本の自動車産業は朝鮮特需の恩恵を受けて本格的に復活し、設備の更新と近代化、アメリカ式の品質管理、科学的管理法を導入し大幅な質的向上を果たした。また、連合国によって航空機の開発、生産が禁止された期間の影響で、航空機の開発に携わっていた技術者が自動車産業へ転職したことにより、航空機で使われていた技術や設計手法などが自動車の開発にも導入されたことも自動車産業の近代化の要因となった。

1952年に通産省はヨーロッパからの技術導入を進め、日産はオースチンと、いすゞヒルマンと、日野はルノーとそれぞれ技術提携することを選んだが、トヨタ自動車は純国産メーカーとして発展していった。1955年からの高度経済成長後、1958年にトヨタが乗用車専門の元町工場を建設し、1962年には日産が乗用車専門の追浜工場を建設。1966年に日産とプリンスの合併があり、同1966年にトヨタと日野、1967年にトヨタダイハツ、1968年には日産と富士重工業の業務提携が開始された。この時期に、自動車産業では生産管理技術の発展に伴い、トヨタ生産方式の根幹である「カンバン方式」「ジャストインタイム」「自動化」「QCサークル活動」などが導入されていく。

1970年代の日本の自動車産業は、1971年のマスキー法、1973年の第一次石油危機を技術力と合理化で乗り切り、対米貿易摩擦が激化した1980年代には、対米貿易摩擦回避のために海外生産を拡大させていく。1990年代には、新興国市場に備えて、中国やインドでの生産を拡大していった。

2000年代には、原油高と環境規制の強化によって、燃費性能に優れ、省エネの小型車に日本の自動車メーカーが競争力を強めて、2007年にはトヨタが「ビッグ3」の一角を占めるまでになった。

2017年時点で日本の自動車関連企業数は、完成車メーカーが16社、ユニット・機能部品・内外装品などを納める一次部品企業が約800社、単一部品・プレス・金型鋳鍛造品を一次部品企業に供給している二次部品企業が約4,000社、金属部品・樹脂部品を二次部品企業に供給している三次部品企業が約2万社あり、合計すると2万5000社から構成されている。自動車関連の従業員数は、関連部門を含めた人数で約532万人におよび、日本の全就業人口の8.7%、製造業人口の49.6%を占める巨大産業となっている。

アダム・スミスの分業論からすれば、1980年代の日本企業が全ての自動車を作って全ての国に供給するのが最も効率的(そして海運業はウハウハ)だったのかもしれませんが、そうは問屋(国家)が卸さない。一つの産業で膨大な雇用を生み出す自動車産業はどこの国も抱えておきたいビジネスです。

現在でも自動車産業は日本最大級の産業として強い影響力を持っていますが、1980年代に激化した貿易摩擦への批判を受けて自動車会社は輸出から現地生産へ転換してます。これ以降、自動車産業における海運のニーズは大幅に縮小されたのではないかと。

おそらくよほどのコア技術によるパーツを除き、日本の自動車産業は今後も地産地消、なるべくニーズのある場所の近くで生産するのが基本となり、後戻りはしないのではないかと。

となると商船三井にしてみれば、この自動車船は頑張って立て直すより、撤退したい分野なのではないかと。わざわざこの部分を切り取っているというのは、そういう意図もあるのかもしれません。

自動車船・フェリー船等はリストラクチャリングを検討した方が良い気がします。

なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note

 

次に、53.1%という驚異の爆益をたたき出しているコンテナ船です。

これは間違いなくバルチック海運指数の上昇が影響しているのだろうな、と。

わかりやすい用語集 解説:バルチック海運指数(ばるちっくかいうんしすう) | 三井住友DSアセットマネジメント

ロンドンにある「バルチック海運取引所(Baltic Exchange)」が算出・公表している外航不定期船(外航ばら積み船)の運賃の総合指数のこと。英語表記「Baltic Dry Index」の略で「BDI」とも呼ばれます。世界各国の海運会社やブローカーなどから運賃や用船料を聞き取って算出され、毎営業日のロンドン時間13時(日本時間22時、サマータイム期間中は21時)に公表されます。1985年1月4日を1000として算定しており、国際的な海上運賃の指標となっています。株式市場でも、不定期船を主力とする海運会社との株価連動性が高いうえ、世界経済や商品価格の先行指標とされていることもあり注目されています。

要するに荷運び運賃の価格で、物流が盛り上がっているほど上昇する指数です。

 

これが2020年の最安値からすると現在で8倍くらいに伸びてます。

BDIY 銘柄 - バルチック海運指数 名称 - Bloomberg Markets

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同じコストで単価だけ8倍になる勢いなら爆益になるのは当然です。

しかし、バルチック海運指数はいち海運業者がどうこうできる話ではないので、この爆益を企業の実力と見るべきではないです。本当の実力は、バルチック海運指数が低くてもどこまで食い下がれるか、という部分でしょうから、2019年くらいを見るべきかと。

以下が2019年。

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普通に赤字ですね。

下の項目に持分法投資損失が195.5億円あったようなので、もしかしたら突発要因を除けば黒字なのかもしれませんが、それでも微々たる利益率には違いありません。

爆益は正直バルチック海運指数の影響が大きそうです。

無論、バルチック海運指数が今後も上がり続ければ爆益は続くでしょうが・・・普通は価格が上がれば新規参入とか設備投資が増えて供給も増えるので、価格はいずれ戻ります。2019年の結果を見る限りでは、バルチック海運指数の影響が除かれたら再び低迷してしまうのではないか、と。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は1.7%⇒1.9%⇒3.1%⇒4.8%⇒13.5%

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これは厳しい・・・直近の利益率はバルチック海運指数の高騰によるものと考えると、それを除けば当ブログのリストラ対象になりかねない利益率水準です。

ただ、海運業に関しては他の業種と同じ基準で判断すべきでないです。

というのも、海運業というのは会計処理上、本質的でない(と私には思える)部分も売上に計上されている部分が多くあります。

それは借船料です。

海運業と聞くと自前の船でモノを運んでいると思われがちですが、自分で持っている船では全然足らず、借りて運搬をする事が多いようです。

以下は主要な設備の状況です。

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ここでいう保有船は自前の船のこと、傭船が借りている船らしいです。

第1回:海運業の特有のビジネスと会計の概要|海運業|EY新日本有限責任監査法人

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商船三井の船はほとんど傭船です。

つまり、運ぶ運賃の売上の中には、借船料の立替金が含まれている筈で、それが売上高を無駄に膨らませている筈です。

個別損益計算書を見ると、貨物運賃が3,549.9億円に対して借船料が3,466.9億円あります。単純計算で考えるなら、実に売上の97%が費用立替のような状態です。

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ビジネスの形態によって、売上の中には立替経費のようなものが含まれている事があります。これが含まれていると、売上が無駄に大きくなるため、会社の売上高利益率は非常に低く見えます。

過去に見た会社で言うと、明豊ファシリティワークスという会社などは立替分を計上する手法から、計上しないビジネスモデルへ舵切りしようとしてましたね。。

どんな業種でも大なり小なりこういった立替的性質の原価はあるのですが、海運業は特にこの立替原価の占める割合が大きいため、安易に他の業種と利益率の比較はすべきではないと思います。

ただ・・・「だから利益率が低くても良い」とも言いづらいんですよね。。

結局、売上高利益率が何故重要かと言えば、例えば景気後退によって売上が落ちた時、どこまで黒字に食い下がれるかの目安になるからです。立替的性質の原価は売上と連動する事が多い変動費なので、景気後退による影響を受けにくそうではありますが、ここまで規模が大きくなれば、売上の動きと完全一致する事はまずないです。薄い利益率はちょっとした状況変化で赤字に転落するリスクを孕んでいると考えるべきです。

海運業は全部そんな感じだから仕方ない、と言われても、投資家側にすればビジネスとしてのリスクが高いことに違いはありません。

投資の神様がバークシャー・ハザウェイの繊維業で舐めた辛酸を忘れてはならないと思います。業種の中でどれだけ優秀だったとしても、業種全体が事業として難しければあまり意味がないという。。

 

業績推移で注目するポイントとしては2018年-2019年で売上ががくっと落ちているのに利益はむしろ増傾向にある点。経営者の分析によるとコンテナ船セグメントが前年対比37%のようです。

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で、減収の理由を知りたいのでコンテナ船についての解説を見ると、どうも要領を得ない。

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この説明、前年対比37%のテンションじゃないですよね。何事もなかったかのような説明。想定を上回る水準、とか書いてますし。

ここからははっきり書いた部分が見つからないんで、会計知識を元にした推測です。

冒頭の持分法適用会社ONE社は2017年7月に川崎汽船株式会社、日本郵船株式会社と共に設立した定期「コンテナ船事業」統合会社です。

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2017年以降、商船三井はこのONE社にコンテナ事業を回しているのではないかと。

で、ここが会計のポイント。

売上など、全ての数値を合算する連結子会社と違い、持分法適用会社の損益は、自社の帳簿上は純利益しか反映されないので売上は発生しません。

つまり、2017年以降、商船三井はコンテナ事業をこのONE社に移管して売上を縮小し、ONE社の純利益の持ち分だけを自社の帳簿に計上する形になってきているのではないか、と。これなら、売上が落ちているにも関わらず、そんなに利益が減ってない理由が説明できます。

 

もしこの仮説が正しければ悪くない傾向とは思います。

売上というのは多ければ多い方が良いと思う人もいるようですが、売上と売上原価が比例して増えるビジネスの場合、この発想は誤りかと。一般的な売上原価の中には必ず固定費が存在します。つまり、売上が伸びれば伸びるだけ売上原価が増え、固定費の拡大に繋がるため、会社の体質的には弱くなるのです。

そのため、売上を圧縮して利益だけを配分してもらえる持分法適応会社にお願いするというのは、リスクヘッジ戦略としては妥当かと。

ただ、それを実施してなお、全社の利益率が一桁パーセントというのは、海運会社の難しさを感じさせます。

 

 

 

財務指標

同社グループの目標は経常利益1,300億円、ROE10%~12%、ネットギアリングレシオ1.0倍、3年間でのフリーCF1,000億円とのこと。

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ネットギアリングレシオというのは初耳なのでお勉強です。

ネットギアリング比率とは? | 証券取引用語集

無形資産を控除した株主資本および負債の合計金額に対する現金および現金等価物を控除した後の総負債の比率のこと。

うーん。。分かりにくいですが・・・要するにのれんのように形の無い無形固定資産を除いた総資産の中に占める、すぐには返済不可能な負債の割合という事ですかね。。

個人的には分母から無形固定資産を除くのは、賛成できません。無形であっても資産は資産であり、その増減には経営者が責任を負うべきです。(のれんとかは特に)そのあたりを無視するような指標の採用はいまいちかと。

他の指標については資本効率とキャッシュフロー、利益絶対額とある程度バランスは取れてます。強いて言えば付加価値率が無い事ですが、確かに先のような水準ではあまり出したくないというのは分かる気がします。

 

 

 

キャッシュフロー

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FCFが赤字の年が結構あります。財務CFでどうにか賄っている印象です。

というかこれだけの規模なら普通、営業CFはこんなに荒れないんですけどね。。キャッシュの流れが滞りやすい難しいビジネスである証拠です。

3年前に投資CFが多く出てますから一応見ておきます。

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投資有価証券への投資ですね。

これについては純粋な投資CFとは言い難いですが、とはいえこれだけキャッシュに余裕がない状況で良く投資有価証券を購入できるな、と。。

ちょっと保守的な私としては理解に苦しみます。

資金繰りもさぞ大変でしょうに。。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び同等物が862.3億円(4.1%)と、資産規模に比してかなり少な目です。

売上債権の金額は868.3億円(4.1%)で滞留は54日ほどです。意外に短いですね。

そしてなんといっても割合が大きいのは有形固定資産1兆994.6億円(52.5%)ですね。

そのうち56.9%が船舶です。先に見た通り、自前で持っている船舶よりも傭船の方がはるかに多いので、これらが売上に貢献しなくなるという事は考えにくいです。従い、減損のリスクは少ないように思いますが・・・これだけ巨額の資産だと、減損とかが無くとも維持管理にかかる経費も莫大になる気がします。バルチック海運指数の上昇などで価格転嫁できるなら良いですが、できなかった場合この経費は結構ボディブローのように効いてくるんじゃないかと。

固定資産というのは本当に割に合わない資産だと思うんですよね…。

あと、投資有価証券4,593.6億円(21.9%)も多いです。

そのうち、非連結子会社、関連会社の内訳が以下。

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事業説明の所でも記載がありますが、商船三井は110社の持分法適用関連会社があり、その分の投資有価証券を保有しています。

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一応、持分法を適用している会社ですから、損益も反映されているため、突然価値が減損するような可能性は低いとは思います。 

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は1兆782.3億円(51.4%)。凄い有利子負債額です。

それに対する純資産は6,412.4億円(30.6%)。しかもそのうち1,262.5億円(6.0%)は非支配株主持ち分、つまり連結した子会社のうち、自分たちの取り分ではない部分なので、実質負債のようなものです。純粋な純資産は5,149.9億円(24.6%)かと。

エラい財務レバレッジをかけている印象です。

財務レバレッジをかけると高収益の時はROEは飛躍的に向上しますが、例えば景気後退や原油価格の高騰など、マイナス環境になった時の損失インパクトも大きくなります。ROEを見てみると・・・

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意外にそうでもない。。

となると、これはおそらくビジネスの性質上の特性と考えるべきかと。

つまり資産規模を大きくしてもそれなりに安定した利益を維持でき、損失が生じてもある程度抑えることができるビジネスモデル、ということなのかな、と。

だからこそ、銀行も海運業者にこれだけの融資を許すのかな、と。。

 

ただ、どれだけ安定した利益があっても、これだけの資産規模、取引規模だと、ちょっとした変化で利益が水泡に帰す可能性がある事は忘れてはならないかと。

2018年頃に突然赤字に転落していますが、これは事業再編と書いてますが先のコンテナ事業を移す際に傭船契約などを破棄した事による損失のようです。

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何でも規模が大きくなると変化に際しての損失がデカくなりがちです。

これが本当に一時的なら良いですが、さらに過去を振り返ってみると、2013年、2016年にも大きめの特損が発生している模様。

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この1歩進んでたまに2歩下がってる感じはちょっと投資する気なくしますね。。

銀行からすれば、金利をちゃんと払ってくれて潰れさえしなければいいので、良いお得意先でしょうけど、投資家から見るとリスクばかり大きく、リターンの薄いビジネスとしか思えないです。

 

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

え!海運業ってこんなに給与良いんですか。。知らなかった。転職すっか。。

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こういう古くからある感じの業種で平均1千万円超えって中々見ないです。

勤続年数も結構長めですからある程度安定して勤められそうだし、なんか就職先としては凄く良さそうですね。労組もあるみたいだし。。


一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均68.2百万円ほどです。年収1千万円の社員が沢山いる会社ですから、平均額としては妥当な気がします。

ただ、会長である池田氏が1億超の報酬を受け取ってますから、会長への報酬が随分偏っている印象です。会長職というのは後見職ですから、実務を取り仕切る社長よりも報酬が低いのが一般的です。

会長が沢山もらっているというのは当ブログの基準ではマイナス印象です。

そして報酬諮問委員会には会長のお名前があるということは、自分で自分の報酬を高くしているという事に・・・。なんとうらやましい。

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過去からの利益推移やROE水準を鑑みるに、正直どうなんだろう、という感じです。

 

 

 

大株主の状況

特定の大株主はいないようです。

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株主還元

配当性向を20%と設定してます。

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ただでさえ純資産が少ないので、DOEベースではなく配当性向にするのは、ある意味正しいですが、決して高い配当性向ではないです。

元々のROEが低いため、そこからさらに20%となると、よほど安く株を買わなければ割に合わない益回りかと。

 

 

 

まとめ

現在商船三井は業績が物凄く伸びて、株価も急伸してます。

【商船三井】[9104]チャート | 日経電子版

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ただその業績は、明らかに昨年からのバルチック海運指数の上昇とリンクしており、経営努力によるものとは言い難いです。過去からの数値を追う限り、元々会社としての稼ぐ能力は決して高くありませんし、結構なリスクを持った財務状態が当たり前になっている感じです。

会社の方針としても社員、役員に対する報酬は手厚いようですが、顧客、株主に対しては手厚い感じはしません。業界がそういうものだから、と言ってしまえばそれまででしょうが、それなら猶の事、長期的な投資家は近寄るべき業界ではないと思います。

今後もバルチック海運指数が上がり続けるなら、良い投資先かもしれませんが、どうなるのかは誰にも分かりません。というか、それが予想できると思うなら自分で海運業を立ち上げた方が良いです。

商船三井も全体的な傾向として、コンテナ事業を関連会社に移すなど、規模の縮小、リスクの縮小に踏み出している感はありますが、まだ道半ばという印象で、安心できる投資先にはならない印象です。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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