企業分析アナトールの株式投資

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【5357】ヨータイ~有価証券報告書の読み方~

結論

産業の性質上致し方ない面はあるにせよ、投資家にとっては魅力的とは言えない内容。資金効率の向上やイノベーションの推進など、体質の抜本的改革が望まれる。

 

目次

 

事業概要

まずはヨータイの事業についてです。

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ヨータイの事業は耐火物等の製造販売、および築炉工事(エンジニアリング)です。

とてもシンプルな事業内容です。

シンプルな事業モデルは稼ぎやすい反面、真似されやすく、競争が激化しやすいです。シェアが高ければ、かなり事業として有望ですが、事業のリスクを見てみると以下のような記述がありました。

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中々悲観的なご意見。圧倒的シェアを誇るとかそういう事業ではなさそうです。

一応シェアを調べてみましょう。

耐火物・材料業界のランキングと業績推移

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売上高は同業他社の中で1位2位に大きく離された3番手ですね。

この順番がそのままシェアなのかは分かりませんが、少なくとも突出した業績とは言い難いです。

GEの伝説的経営者ジャック・ウェルチはGEがFocusする事業を選別する時、「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」というルールを使っていたとされています。このルールは経営の神様、ドラッカーが提唱した理論に基づいているとされていますし、当ブログの経典の一つである「ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則」でも同様のことを説いてます。

この発想はどの企業も同業種の業界シェアで1位、2位を目指さなければならないわけではありません。

ここで重要なのは、自らが1位になれる分野、マーケットをきちんと理解し、持っているかどうかであるという点です。そういった分野がある会社は事実上の独占ができるため一般的に利益率が高く、高付加価値なビジネスを実現できます。

要は同業種の中の売上高の比較で3位だからダメ、というわけではなく、この分野であればどこにも負けない、というようなNo.1になれる部分があればよいわけです。

なので、ヨータイにも何かそういったコアとなるような分野はないかな、と探してみたのですが、正直あまりめぼしい特色のようなものは、少なくとも有報上には見当たりませんでした。

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ヨータイならでは、という特徴のある取り組みは見受けられないかな、と。

さらに言うと、耐火物は炉などに用いる部材。つまり売り先は鉄鋼会社など、熱を必要とする素材系が多くなると思われますが、鉄鋼業界をはじめ、素材関係事業は海外の人件費の安い会社が次々に参入しているため、近年かなり苦しい業績になっています。その業界を顧客とする耐火物という商材は、ただでさえ逆風ではないかと推測します。

 

セグメントの状況

先に記載の通りヨータイの事業は耐火物等の製造販売とエンジニアリングです。

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  • 耐火物等:190.9億円(81.0%、利益率18.9%)
  • エンジニアリング:44.7億円(19.0%、利益率15.7%)

セグメントを一応分けてますが、普通に考えたら耐火物のような特殊性の高い製品を扱う業者がメンテナンスや施工を一切行わないなんてことはあり得ないと思いますから、この二つの事業は不可分な気がします。

利益率はトータルで見ると、悪くはないが特別良いわけでもない、という所です。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は9.1%⇒15.1%⇒18.7%⇒15.5%⇒12.8% 

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2018年頃から業績が伸びて利益率も上がってます。

2021年に下がっているのはコロナ影響でしょう。

先日分析したカーボン系3社もそうでしたが、素材系の会社の場合、売上が市況に左右されます。先に書いた通り、特定の分野に特化する事によって独占している雰囲気もないとすれば、後は売上が落ち込んだとしても利益が出せる強靭なコスト体質を作る必要があります。が、利益率はここ5年の売上MAXでも18.7%、売上が下がると利益率の悪化も早いようです。強靭なコスト構造といえるほどのものもなさそうです。

かなり儲けにくい、厳しいビジネス環境ではないかな、と。

 

 

 

財務指標

ヨータイの指標は経常利益率の向上ですね。

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指標の選択としては間違ってはいない気がしますが、一体いくらが妥当だと思っているのかが見えません。また、具体的にどんな施策を行うのかがあまり伝わってこない書き方です。

 

 

 

キャッシュフロー

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FCFは基本的に問題ないのですが4年前だけ赤字です。

理由を確認します。

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唐突に売上債権と棚卸資産が増えてます。

売上債権にせよ棚卸資産にせよ、増えるのは危険な兆候です。

経営者の説明を引きます。

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中国の環境規制、ですか。

カーボンの黒鉛電極も中国の環境規制が理由で同時期でしたね。

同じ理由っぽいですね。

耐火レンガの価格急騰、主要産地の中国で環境規制、当面品薄は解消されそうにない状況、 - THINKING LIVE シンキングライブ

中国の動向は関連する業界に大きな影響があるようですね。

原材料の増、売上債権の増はこの原材料の品薄と耐火煉瓦の価格高騰によるもののようです。これに関しては超大国中国の匙加減なので、一時的にキャッシュフローが赤字になっても致し方ないかと。むしろこういった環境変化をある程度販売価格に転嫁できて売上を伸ばしているのは望ましいと思います。

(再現性があるとは言えないので企業体質的なプラス評価にはできませんが。。)

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が113.9億円(32.2%)とそれなりです。

売上債権は105.7億円(29.9%)で滞留期間は164日ほど。製造業向けの部材にしても結構長い印象です。過去の滞留期間を見てみてもどうもずっとそんな感じっぽいです。

2016年:166日

2017年:163日

2018年:173日

2019年:168日

2020年:158日

こういうのは業界次第なので、会社としては中々改善しにくい部分ではあると思いますが、滞留期間が長いと運転資金が多く必要になり、貸倒リスクも増えます。経営においてはバランスシートは可能な限り小さくする事が理想であり、何らかの方策を考えた方が良い気がします。

棚卸資産は58.5億円(16.5%)で棚卸回転期間は115日 。これも短くはないです。

ビジネス全般から見て、資金効率の良いビジネスとは言い難いのかな、と。

有形固定資産は50.9億円(14.4%)です。BS全体から見ると割合として少ないですが、これは売上債権や棚卸資産が多い事によって相対的に少なく見えるだけな気がします。運転資本を多く必要とするビジネスであることは変わりなさそうです。

一応主要な設備を確認します。

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本社が大阪で、岡山、大阪、岐阜に工場を持っているようです。

 

投資有価証券は21.2億円(6.0%)の内容は株式のようです。

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結構な含み益があるようですから、今後株式市場が暴落したとしても、突然P/Lに売却損が出るようなことはないかと。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債はゼロ。

純資産が290.3億円(82.0%)とかなりを占めてます。あれだけ運転資本を必要とする構造なのに有利子負債に頼らないで済むのは、長い歴史で積み重なった純資産の賜物です。ただ、それは同時に資金効率が悪い事を示唆してます。

以下は自己資本利益率

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耐火煉瓦の価格高騰を除くと低水準で推移しているものと推測されます。

同社のように基本的に利益の伸びしろが少ない会社が自己資本利益率を上げるには、自社株買いをするなり配当金を吐き出すなりして純資産を減らさなければなりませんが、同社のように運転資本を多く必要とする会社の場合、資産がお金として残っていないので、吐き出すのが難しかったりします。

先ずは資産リストをいかにして減らしてスリムな会社になるかが課題なのかな、と。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

メーカーとしては平均的な水準なのかな、と。

可もなく不可もなし、といった印象です。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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取締役の一人当たり平均は34.2百万円です。

ここまで会社の質的な各指標を見てきた中で、それほどマネジメントの質として傑出した部分があるようには見えませんでした。それを考えると従業員給与との差が若干大きい気がします。

 

 

大株主の状況

筆頭株主住友大阪セメントがいる以外は、特定の大株主が権力を握っている様子はないです。

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住友大阪セメントとはどういう関係なのかな、と沿革を見てみると、創業時の出資者のようです。

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現在の持ち株比率は16.48%と関連会社の形式基準である20%に満たない比率ですし、役員を見てみても、同社の出身者は社外監査役にお二人いるだけでした。

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となればガバナンス上の問題はさほどないのかな、と。

 

 

 

株主還元

株主還元は特に配当性向も書いてませんね。「堅実に」「安定した」配当を出す、と。

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そして、「堅実に」「安定した」配当というのが以下。

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確かに「堅実」で「安定」した低水準の配当です。

 

 

 

まとめ

カーボン系もそうでしたが、重工業系の会社の有価証券報告書を読んでいると、昔からのやり方(経営方針とかマネジメントとか)をずっと踏襲しているような印象が強いです。前例の踏襲は、ある意味最も効率的な手法と言えますが、事業環境が刻々と変化する現代にずっと続けていられるのかは微妙な気がします。

実際、同社の業績は基本的に横ばい、自己資本利益率、配当性向も低水準を続けています。これは投資家から見れば魅力はかなり薄いと言わざるを得ないと思います。こういった環境下で今後後進国が重工業に乗り出し、ライバル会社が増えた場合、生き残っていけるのかは疑問です。

これはいち企業の課題というより、産業全体のライフサイクルの話も絡んでいるため、いちマネジメントに解決を求めるのは酷かもですが、それでも役員として相応の報酬を貰っている以上、避けて通れない課題ではないかと。

現状ではあまり目立った対策は打てていない印象です。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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