結論
ところどころ事業としては良質な部分が見えるが、ガバナンスとして創業家の影響が拭えないのと、株主還元についてあまり深く考えていない印象を受ける。。
目次
事業概要
まずは和井田製作所の事業についてです。
和井田製作所の事業はCNC研削盤の開発、製造、販売及び修理です。
CNC研削盤って何だろう、と検索してみます。
先ずはCNCから。
生産工程における加工工程をコンピュータを利用して数値制御する方法で,従来の数値制御工作機械 (NC工作機械) より自動化のレベルを進めたもの。 NC工作機械は,加工品の形状,加工手順,使用工具等を一連の数値制御情報として入力すると,自動的に正確な加工を行うもので,多くの工場に導入されている。しかし,機械の特性に応じて数値制御情報を個々に作成しなければならない問題を残した。 CNCは数値制御情報のうち,工作機械に依存した部分を内蔵したコンピュータで自動プログラミングするため,補間演算,加工速度の制御,工具径の補正などが簡単に行える。 CNCは,その性格上ソフトワイヤード NCとも呼ばれている。
CNC研削盤
https://monoto.co.jp/grinding/
CNC研削盤は、研削加工で使われる工作機械です。
回転砥石による加工ワークの研削はもちろん、難削材の切断から鍛造品のバリ取りまで、はば広く使われています。一般的な工作機械にくらべて精度が高く、加工内容にあわせて30以上もの機種があります。最近では、自動サイクル運転・砥石交換システムを搭載したものや、マシニングセンタとの複合機など、さまざまな機種が開発され自動化が急速に進んでいます。
CNCというのはcomputerized numerical controlの略語で、工作機械全般に使用されている言葉のようです。
研削と聞くと、匠が一つ一つ感覚でやってるイメージですが、コンピューター制御に代わりつつあるという事かと。
事業のリスク
事業のリスクも見ていきます。
これはかなり良くできてると思います。
<経済や金融市場の動向に関するリスク>
(1)景気循環サイクル(製造業における設備投資動向の変動)
(2)為替レートの変動
<お客様に関するリスク>
(1)金型関連業界及び切削工具関連業界の設備投資動向
(2)海外需要の変動
<製造に関するリスク>
(1)部品調達に関するリスク
(2)製品品質に関するリスク
(3)人材確保、人材育成
<公的規制等に関するリスク>
(1)工作機械の輸出管理(外為法等規則)
(2)各国・各地域の公的規制、政策動向
<自然災害や突発的事象発生のリスク>
(1)自然災害、感染症等によるリスク
(2)紛争・テロ・政情不安等に関するリスク
<リスク管理体制>
項目が整理されていて非常に読みやすいですし、一つ一つのリスクをきちんと議論して対策を講じている感があります。こういう部分は、マネジメントが頭の整理ができているかどうかが見える気がします。これはかなりスマートなマネジメントの印象です。
工作機械の業界が景気動向に大いに影響される、というのはまさにその通りで、リーマンショック時には工作機械の会社が大赤字を出して話題になってました。私は就活の絡みで工作機械の森精機とかを見ていたのですが、凄い赤字を出していたのを見てエントリーシート出すのを止めた覚えがあります。工作機械の業界に波があるのは間違いないかと。
逆に言えばしっかりした財務体質を持っていてマネジメントが優秀であれば、買い場が到来する可能性が高いので、内容をしっかり見ておきたい所です。
セグメントの状況
和井田製作所は単一事業ですのでセグメント別はありません。
ただ、地域別売上があるのでこちらはチェックします。
日本:19.8億円(47.0%)
中国:11.3億円(26.8%)
アジア:8.5億円(20.3%)
その他:2.5億円(5.9%)
日本、中国を含むアジア圏がほとんどです。工作機械ですから製造業の集約しているアジア圏に偏るのはさもありなん、という感じです。
業績推移
利益率の推移は6.5%⇒14.7%⇒22.6%⇒22.3%⇒7.7%
たった5年で見ただけで、業界の変動の激しさが分かります。
直近の2021年はコロナ禍影響として除いても、売上は2017年の48.2億円から、2019年の87.6億円では181.7%と全く違います。業種として売上の変動が激しい分、マネジメントもある程度フレキシブルな生産体制を構築しているのではないかと。
また、コロナ禍で売上が2019年の半分以下になったというのに、経常黒字をキープできているというのは凄いと思います。
一応直近のPLを見てみますと売上減に伴い、売上原価と販売費および一般管理費を引き下げているようです。
売上原価の内訳を見ると、材料費は当然半減させ、労務費、経費もかなり絞っているのが分かります。
販売費および一般管理費を見ると
- 給与及び賞与:▲0.9億円
- 役員賞与:▲1.0億円
- 旅費交通費:▲0.7億円
- 研究開発費:▲0.4億円
といったところを削減してます。
従業員の給与及び賞与よりも役員賞与の削減額が大きいというのは好印象です。
従業員にとっての給与賞与は、役員にとっての給与賞与よりも遥かに切実な問題なのでそうそう削れません。一方で業績に責任を負うべき役員がこの業績を受けて役員賞与をほとんど返上しているのは、誠実な振る舞いかと思います。
財務指標
和井田製作所の掲げる指標は経常利益率だそうです。
売上高利益率は事業の安全性を見る意味では指標のチョイスは悪くないですが、具体的に何%なのかは書かれていない点は残念です。何%が目安なのかを設定しない限りは、意図も良く見えませんし、本気で達成を目指しているのかも怪しくなります。
キャッシュフロー
直近の営業キャッシュフローは流石にマイナスです。売上がほとんど半減しているのでここは仕方ない気がします。
ところで、これを見て感じるのは全体的に営業キャッシュフローに対して投資キャッシュフローが少ないです。まるでコンサル企業のような数値ですね。直近のキャッシュフロー計算書で内容を確認します。
営業活動CFがマイナスなのはただでさえ利益が減っている所に前年の法人税支払や債務支払が入ってきたことによるものです。業績が一気に悪化した企業にありがちな数値の流れで、ここは仕方ないと思います。
気になるのは投資CFの少なさです。製造業にしては投資額が相当少ないです。
設備の状況をチェックします。
資産の状況をざっと見て感じるのは機械装置及び運搬具の金額の少なさです。
開発~製造まで手掛ける工場にしては機械装置が少ない印象です。
耐用年数が短く維持のためにメンテナンス、投資し続けなければならないのが機械装置ですから、これが少ないのは資金繰りとしてメリットと言えます。
推測ですが、CNC研削盤は大型の機械装置などの設備投資の必要のない生産工程なのかもしれません。例えば一度図面を引いてしまえば後は部品を下請けに発注して組み上げれば完成というスタイルとかです。こういうスタイルだと必要なのは人件費のみなので、あまり継続的な設備投資は不要になるんじゃないかと。
この予想が正しければ、経営上有利なポイントです。
設備投資が少ないという事はそれだけ固定費も少なく済むので突発的な生産減に対して耐性を持てます。売上が減ればその分下請けへの発注を減らせばよいだけなので、少なくとも会社としての腹は傷みません。コロナ禍で売上があれだけ落ちたにも関わらず赤字にならなかったのは、この性質のお陰と考えれば辻褄もあうのかと。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が50.3億円(47.3%)と工場持ち製造業とは思えない水準です。
売上債権は10.6億円(10.0%)で滞留日数は92日。製造業相手であればこれくらいは違和感ないですし、売上が激減して滞留がこれであれば問題ない水準かと。
在庫は18.8億円(17.7%)、在庫滞留は262日。長いですね・・・。売上が激減したことで在庫が溜まったものと思われます。一応前年の在庫滞留日数を確認すると、168日でした。売上原価が減ったことで、在庫滞留が著しく伸びているのかと。
ただ、この辺りは今後の受注残を見ながら調整してくるのではないかと。
有形固定資産は19.8億円(18.6%)と工場にしてはかなり少ないです。内訳は先に見た通りほとんどは建物と土地の評価額です。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は15.0億円(14.1%)とそれなりに借りてます。これはちょっと意外です。フリーキャッシュフローは潤沢ですから、あまり借りる必要も感じません。一応経営者の方針を確認します。
資本コストを算出してメリットがあれば借入もする、という方針かと。実際同社は現金を十分な割合で抱えており、安全性は高いので銀行もいくらでも貸してくれそうですが・・・現金50億円持ってる会社が15億も借りるひつようあるのかな、と。ちょっと謎です。
従業員の状況、役員報酬
従業員の給与は5.9百万円と悪くはないですし、勤続年数が16.1年なら、そこまでおかしな会社ではないと思います。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役1人当たり平均15.3百万円ほどです。上場企業としては低水準ではありますが、従業員の給与水準や、2021年の業績を鑑みれば無難かと思います。
大株主の状況
過半数はいかないまでも、創業家としてかなりの発言権を持っているようです。
不公正な取引などが無いか確認します。
うーん。。創業家の方が報酬を受け取っているのですね。
これはあまり印象が良くないです。
ある程度支配権を持つ創業家の人間が、責任の伴わない地位でアドバイスの対価を受け取るというのは、あまり上場企業がやるべきでないと思います。いかに有意義なアドバイスで対価に見合う事をしていたとしても、そんなものは外部からは分かり得ないですから少数株主に対してフェアではありません。
というか、本当にフェアな報酬を考えるなら、和井田氏のアドバイスに対して利害関係のない会社が提示する報酬金額がフェアな金額だと思うんですけど、そんなフワフワした役職の方に、しかも明らかな成果とか見えない方に、普通の会社は14百万円なんて報酬ださないですよね。。
こういう部分を見てると、創業家の私的企業を脱し切れていないのかな、と思ってしまいます。
株主還元
明確な還元方針は無いようです。
実際の配当性向もあまり一貫性がない印象です。
おそらくは分子の配当金額を固定して、分母の純利益が変動した分だけ配当性向が乱れているのではないかと。
ROEも利益が増えた年は高いですがほとんどは低率で、資金効率が悪いです。
積極的に還元策について検討している雰囲気はありません。
まとめ
ところどころ事業としては良質な部分が見えるが、ガバナンスとして創業家の影響が拭えないのと、株主還元についてあまり深く考えていない印象を受ける。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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