企業分析アナトールの株式投資

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【2301】学情~有価証券報告書の読み方~

結論

業績、財務共に良し。ただ体質に疑問アリ。

 

目次

 

事業概要

先ずは学情の事業についてです。

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就職情報業界と聞くと、リクルートのように学生側にターゲットを合わせ、知名度で学生を引き寄せた上で企業とマッチングの場を用意して、企業からフィーを貰う、というのが私の中のイメージです。

一方、同社はターゲットを企業に絞り、企業側がどう学生にアプローチすれば採用に結び付くのか、という部分にフォーカスしている印象です。

採用というのは学生にとっても厳しいものですが、適切な採用を行う事は企業にとっても将来に関わる非常に難しい課題です。大手企業のように自前で自前で専門部署を抱える会社であれば、わざわざ支援などは不要でしょうが、規模の大きくない会社や自前で専門部署を持たない主義の会社ならば、こういったサービスを利用する事でコストを抑えつつ、それなりの成果を期待できるのかもしれません。

 

同社は就職情報事業の単一セグメントですのでセグメント情報はありません。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は22.5%⇒29.3%⇒27.0%⇒24.7%⇒28.9% 

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優秀な利益率です。

問題はこれがマネジメントがコミットした狙い通りの数値なのかどうかです。 

目標とする経営指標を見てみます。

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有報上は1,000億円企業くらいしか数値目標らしい目標が見当たりませんでした。

ある意味体質的にはノープランでこの業績をたたき出しているわけですから凄いと言えば凄いんですが、それは統制が取れていないという事ですから、体質的にはあまり宜しくありません。

 

一応中期経営計画を別途出しているという事なので見てみます。

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一応中期経営計画上は経常利益率の目標値を30%に設定しているのは良いと思うのですが、何故経営者はそれを有価証券報告書に書かないのか。。

それは、経営者が利益率を軽視し、注意が別の所にあるからだと考えます。

経営者の頭には、最初に「1,000億企業=時価総額1,000億企業?」が目標にあり、中期経営計画では、そこに至るまでのそれっぽい売上高と経常利益を持ってきているだけなのでは、と思われます。

 

ただ、もしそうであるなら、私はその目標の立て方は違うのではないかと思います。

そもそも時価総額は市場における人気指標であり、本質的に企業が追い求めるべきものではありません。企業は本来、創業者の理念・理想を最も効率的な形で実現するために存在するのであって、時価総額はその後をついて回る事後的な人気数値です。

それは正直企業が努力した所で、市況が悪ければ何十年も達成できない事もあれば、特に頑張らなくても、バブルによって簡単に達成できてしまうこともあります。しかし、そんなあやふやなものを会社として目標に掲げるのは不毛です。

 

時価総額についてはかつて時価総額が日本一になった事もある、キーエンス創業者の含蓄ある言葉を以前考察しているので参考ください。

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私が思うに、企業が追い求めるべきは、先ず創業者の理念理想の実現であり、次いで顧客に対する付加価値であり、最後に投資家への還元です。そしてそれらは漠然と追いかけていては手に入るものではなく、経営者が一つ一つ目指すべき数値目標を示し、クリアしていかなければ、会社はちょっとした状況変化で右往左往し、おかしな方向に進み出すものだと思います。

その点で、学情という会社は、目標設定が甘く、体質として弱いように感じられます。

 

 

 

キャッシュフロー

ビジネスは有形固定資産の不要なコンサル業が主力ですから、投資キャッシュアウトは多くないでしょうから、フリーキャッシュフローは原則黒字になるはずです。

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直近3年は黒字ですが、4、5年前は赤字です。理由を確認します。

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定期預金はまあ、余剰資金がありすぎるから仕方ない、なんちゃって投資で良いとして、投資有価証券は何なのか、と明細を見てみます。

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主に株式ではなく債券投資ですね。比較的保守的な運用だと思います。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産状況の確認です。

現預金、投資有価証券(ほぼ債券)が占める割合が73.1%ですから、資産が減損して純資産が棄損するリスクはかなり低いと思います。

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役員の状況

ありがちではありますが、社長の息子さんが副社長をされています。

ただ、この方の場合、世襲だから無能とは言い切れません。

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何故なら、同社の株式は一族で過半数を抱え込んでいるわけではありません。

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住所からして、おそらく株式会社アンビシャスという会社は中井氏の資産管理会社と推測されますが、それを含めても創業者一族の持ち分は20%弱と、独断専行できるレベルではありません。よって、創業者が露骨に愚かな行動をとった時の抑止力はある程度機能するものと推測されます。

 

ある程度の抑止力が働いた中での世襲ですし、中井大志氏のキャリア的にも露骨に贔屓されたキャリア、という風には見えません。若い副社長ではありますが、会社の規模を考えればそれくらいの出世は驚くほどのものではないと思います。

 

とはいえ私は実力如何に関わらず世襲はすべきでないと思います・・・本当に実力があったとしても周囲はそんな風には取らないですから、会社にとっても、他の社員にとっても、本人とっても不幸にしかならない気がします。

元々十分な才覚があるなら、自分で別途会社を設立する道もあるでしょうに・・・何故に子供に己の業を背負わせたがるのか。。私は息子にそんな事したくないです。。

一族経営をしたがる方々の心理は、小市民の私には理解できません。

 

 

 

従業員の状況

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会社の利益率の割に、従業員の給与は低い気がします。事業内容を見る限り性質的にはコンサル業のようですから、社員の力はサービスの品質に直結する筈です。給料が増えれば社員の仕事の質が上がる、というわけではありませんが、現状の給与水準で高利益率であっても、社員から搾取しているだけ、と言われても仕方ないと思います。

それはあまり質の良い利益とはいえません。

 

 

 

まとめ

利益率はかなり優秀ですし、財務的にもリスクは低いと思います。しかし、経営陣の示す方針内容や社員の給与水準を見る限り、体質としてあまり良くないように感じられます。会社の印象としては、経営者の曖昧な地に足のつかない方針に、下の人間(給与はあまり多くない)が必死に現実的な肉付けを行って中期経営計画を作り、実績をあげているのではないかと。

率直に言えばブラック体質ではないかと。。

同社は単なる数値結果としては優れているようには見えるのですが、会社を見る上で重要なのは、これから利益を生む体質かどうかです。

私はブラック体質の会社は、特にこれからの時代将来性が無いと思っているので、有望でない気がしました。

あまりに数値が良いので、絶対ダメ、とはいえませんが、小骨が喉につっかえている感じです。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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