結論
光るモノもあるため、今後の成長に期待したいが如何せん株価高すぎる。。同社に無茶な期待を押し付けた投資家は会社を責めず自重してほしい。
目次
前置き
eBASEは少し先に分析予定でしたが、今日凄く株価を下げていたので前倒しで体質分析します。
事業概要
まずはeBASEの事業についてです。
eBASEの事業は2つで、商品データベースソフトウェア「eBASE」の有償アップデートとIT開発アウトソーシングビジネスの「eBASE-PLUS」です。
「eBASE」は商品データベースにサプライヤーの情報を蓄積して、「eBASE」を導入してくれたバイヤーに商品を買って貰う仕組みです。要するに特定の製品の売買仲介システムかと。ビジネスの発想としては、かなりありがち感があります。流通の簡便化という意味では最強の小売りAmazon.comがありますから、同社に瞬殺されてしまうのではないか、と。
しかしよくよく考えてみると、流通と一口に言っても、実はAmazonとeBASEのビジネスは違います。Amazonのポジショニングは「小売」でeBASEは「卸売」です。「小売」は最終消費者に対して小口で不特定多数の人を相手にするのに対し、「卸売」はプロ同士の大口取引がメインで取引先の信用が重要になってきます。同じように商品の仲介というビジネスであっても、その性質やターゲットが違います。
私が以前分析した会社にも似たような事業をやっている会社がありました。
www.freelance-no-excelyasan.com
2391のプラネットで、同社は利益率が高い会社でした。
eBASEもそれなりに利益率が高い筈なので、この卸売を効率化するシステムを作るビジネスは、依然として市場のニーズが高いのだと推測されます。
捕捉:卸売りというビジネスについて
私たちは普段小売としか取引しないため、あまり卸売の必要性をあまり感じませんが、卸売というのは意外にしぶといビジネスです。私が大学生の時、流通論の教授がこんなことを言ってました。
「インターネットの黎明期、インターネットは将来的にはメーカーと消費者を一直線に結ぶ事になり、卸売は潰れる事になるだろう、という予想がされていた。しかし、インターネットがかなり普及した現在でも、当時思っていたほど卸売りが淘汰される事は無かった」
印象的な話だったので今でも覚えてます。
普通に考えると、メーカーから小売に直接流す事はマージンを抜かれない分安く仕入れができるので、金額的に見ればメーカーと小売の直取引がベストです。インターネットによって情報が共有されるようになれば、仲介するだけの卸売業者は淘汰されるように思います。
しかし、現実は違いました。
メーカー側からすると、大量の小売業者を相手にして自社商品を小ロットづつ捌くのはえらく骨が折れる作業ですし、小売業者からしても売れるかどうか分からない商品を大量に抱えるのは怖い。残念ながらこの2点の現実的課題をインターネットは解決できませんでした。
現在においてもこれらの問題を解決しているのが卸売業者です。卸売業者が2者の間を取り持ち、ある程度のロットでメーカーから購入して小売業者に安定的に小口で捌く事で、メーカーは生産に集中する事ができ、小売は在庫を抱えないように小ロットの注文ができることになります。
無論、行き過ぎた仲介は無くした方が良いとは思いますが、すべてを無くすというのもまた現実的に困難なのです。
eBASEのビジネスはこのメーカーと卸売(場合によっては小売)の仲介を行うシステム構築であり、最終消費者に対してモノを売る場所を提供するAmazon.comのビジネスとは根本的に違うものと考えられます。
一方、「eBASE-PLUS」はありがちなIT人材派遣会社といった印象です。人材派遣会社は元手もいらず始められるビジネスですから、元々システムの会社をしていれば副業として始めるのは簡単です。ただ、エンジニアはニーズこそ多いんですが給料が低くブラックな話が多い業界です。人の入れ替わりが激しい分派遣会社は多く、競争が激しいのであまり儲からない印象です。
事業の意図としては社員に様々な業界のアウトソーシングをさせる事で、「第二第三のeBASE」構築を模索する事にあるようですが、どこまで期待できるのかは未知数です。
セグメントの状況
eBASEは事業セグメントを「eBASE」と「eBASE-PLUS」の2つに分けてます。
eBASE事業:20.9億円(47.1%、利益率49.2%)
eBASE-PLUS事業:23.5億円(52.9%、利益率12.8%)
eBASE事業の利益率は凄いです。確かに一度構築してしまえば維持にそれほどコストがかからなそうなビジネスではありますが、それにしても高い。経理的に心配なのは、本来eBASE事業に負担させるべき費用まで間違ってeBASE-PLUS事業に負担させてないのだろうか、という。。冒頭のセグメント関係の所にeBASE-PLUS事業の中身に「eBASE」の受託開発があるんですよね。。
この費用ってちゃんとeBASE事業に乗せているのだろうか。。
ミスリードしないか不安。
セグメント別の利益率は信用せず会社全体で見た方が良いかもしれません。
業績推移
経常利益率の推移は19.3%⇒22.8%⇒25.5%⇒28.0%⇒30.0%
ここ5年で売上が伸びると共にぐんと利益率もあげてきています。
5年前の業績とセグメント別に比較してみると
eBASE事業:161.4%
eBASE-PLUS事業:103.5%
eBASE事業がかなり伸びている印象です。
一方で従業員数はそれほど増えていません。
売上が伸びてもイケイケドンドンで規模拡大に走らないのは好印象です。
事業内容を読む限り、eBASE事業はシステムさえある程度構築されれば、追加コストはそれほどかからないストック型ビジネスですから、従業員を増やしたり、固定資産を買わない限り、利益率は向上します。ここ5年の利益率向上はeBASE事業の伸びに対して追加コストを抑えた事によるものかと。これが経営者が意図的にやったものであれば、優れた企業体質と言えます。
経営方針
経営方針は結構練られている感があります。
企業における利益・継続・貢献の関係性を上手く語っており、事業展開方針を中長期利益最大化と定めています。これは企業活動においては当たり前の基本原則ではあるんですが、意外にブレやすいポイントです。中長期とは言いつつも目先の利益に惑うのが人の性です。迷った時にこうした原理原則を明言しておくことで、経営者は勿論、社員が仕事上の判断に惑う事が無くなります。
「この方針をすべての判断基準に置く」と明言しているあたり、「何故会社に方針が必要なのか」を理解して定義している感じがします。通り一辺倒な綺麗ごとを並べているわけじゃないのが伝わってきます。
ただ、個人的に好ましくないのはeBASE-PLUS事業に売上安定を目指している点です。役割を事業ごとに割り振るのは悪くない事だと思いますし、明言するのも必要な事です。ただ、どんな意図があって「売上の維持」が目標なのかは謎です。
私は企業の価値は「付加価値」にこそあると思います。
100円で買ってきたキャベツを100円で売れば売上は増えるでしょうが、それに一体何の意味があるのか。無駄に100円を失うリスクを増やすだけです。「売上の維持」というのは規模の維持であり、規模の維持は無駄に会社のリスクを増やすだけです。
目指すべき目標に据えるにはイマイチではないかと思います。
経営指標の設定も経常利益と売上を増やすという絶対値的指標で、若干荒い印象です。
方針の立て方は良いと思うので、そろそろ会社規模も成熟してくるため、次のステップを見据えてKPIをしっかり考えてはどうかと思いました。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローが安定しているのは良いとして、投資キャッシュフローの動きが荒いので内訳を見ると
定期預金や投資有価証券の売買です。
投資有価証券の償還と言えば満期保有目的債券でしょうから、それほど心配はいらないとは思いますが、一応確認。
ほぼ債券ですからそれほど心配する必要はないですが、債券にしては下落率が結構高い気が。。5%以上下がる事ってあるのか。。
ポートフォリオをこれだけ債券に振り分ける会社がベンチャー投資などに傾倒する可能性は低いと思うのでスルーします。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
手元資金は28.6億円(54.3%)で十分な額だと思います。
売掛金の額が9.7億円(18.3%)と結構大きいので一応滞留期間を見ると79日ほどです。ちょい長い気がしたので昨年も計算してみると91日ほどです。エラく動きますね。
システム開発なので入金まで時間がかかるのかもしれません。
これに関しては営業キャッシュフローが変な動きをしていないので、それほど問題は無いと思います。
負債、純資産を見てみます。
安定の無借金ですね。
自己資本比率もずっと高いですから、冒険して借金する気も毛頭ないのでしょう。
しかし自己資本比率がこれだけ高い中で、自己資本利益率が20%超えを続けているというのは実にご立派です。
従業員の状況
従業員の給与はあまり高くない印象です。親会社であるeBASE事業の平均年収が500万円弱ですから、eBASE-PLUS事業はこれよりも低いと考えるのが無難だと思います。
エンジニア系の職種は待遇のあまり良くない会社が多いですが、同社のような業績が良い会社までこういった給与だと、少々バランスを欠いているのではないかと思います。あと100万くらいあげられないものか。。
株主、社員、顧客の3方のステークホルダーに対して充実してこそeBASEがいう所の中長期的成長は達せられるのではないかと私は思います。
直近の割安性を見る
今回分析しようと思ったのはeBASEの株価が大きく下げた事によるものなので、ちょっと簡単に株価の割安性も見ておこうと思います。
株式の本質価値の算出方法は将来的な一株当たりフリーキャッシュフローを自分が欲しい利回りで現在価値に割り引く方法なんですが、一株当たりフリーキャッシュフロー(なんちゃって投資を除く)を出すのは面倒ですので、今回は簡単に一株当たり利益を現在価値に割り引いてみます。
(フリーキャッシュフローは粉飾とか突発事象が無ければ利益額に収束するので)
直近のeBASEの純利益は19.67円です。
成長とかは考えず、この利益がずっと続くと仮定します。
さらに、割引率は自身が欲しい投資利回りで、私なら20%欲しいんですが、今の市場環境だとそれは厳しいと思うので15%とします。
そうすると私が買うべきeBASE株の価格は19.67/0.15という事で131円ですね。
で、今の株価がこちら
【eBASE】[3835]株価/株式 日経会社情報DIGITAL | 日経電子版
たっかい。。
今回大きく下げたのは、昨年よりも一株当たり利益が16.3円に下がったからなわけですが。。
19.67円据え置きだったとしても高すぎでしょう。。
ちょっと今のIT系の株価は本当に私には怖くて手が出ません。。
こういう事言っているからいつまで経ってもGAFAとかを掴めないのでしょうが。。
まとめ
近く分析しようと思っていたeBASEが大きく値下がりして話題になっていたので、興味が出て分析してみました。個人的にいまいちな部分もあるのですが、経営者の見識に光る部分も感じられ、今後の成長に期待したい会社だと思いました。
ただ、今はどこの会社もそうですが期待が高すぎな気がします。市場は一体どれだけ会社が成長する事を織り込んでいるのやら。。
日銀の買いフォローがあるからとはいえ、ちょっと株価下げて欲しいです。
ちょっと日経平均を今の3分の1くらいにしてほしい。
コロナウイルスの企業収益へのダメージ、今後への後遺症を考えたら今の水準はおかしいと思うんですけど今の下げもいつまで続くやら。。ラリーゲームにも飽きました。。ここらで景気よく(悪く?)業績にあった大きな下げを期待します。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com